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箱をあけよう  作者: ひろりん
第2章:無人島編
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再戦です。

朝日が昇りました。


昨夜は床に毛布を引いて寝ました。

ハンモックより寝心地はよくないけど、外で寝るのよりは

安心感がある。


ベットはやっぱり老人優先だし。


セイレーンは帰ってきませんでした。

ここで暮らしているのではないようです。


朝ごはんは昨日からずっと同じメニューです。

机の上に、私の分だけ用意されてました。

椅子をひいて座り、両手を合わせて、いただきます。


朝ごはんのスープにパンを浸しながら、思いました。


わかっているんですよ。

食べられるだけでありがたいって。


でもでも、ああ、レナードさんのご飯が恋しいです。

世界中の人に言ってやりたいくらいに、ご飯が美味しいのです。

あれを食べていると、自炊なんてとてもとても、出来ないです。


硬パンのかけらをゆっくりと咀嚼して飲み込む。

お腹にずしって溜まる感じがして、満腹感がある。


朝食の椅子から立ち上がり、膝の上のパンくずを手で払う。

もちろん、口の周りも持っていた手ぬぐいで拭きます。


よし、今日は何をしようかな。


「行ってきます。」


ゆり椅子に座っているおじいさんに声を掛けました。

今日は朝から、おじいさんは一言も喋りません。

今も返事はありません。


顔を覗き込んでも、表情は変わりません。

真っ白なお髭と長い白い髪が顔の大半をしめているので、

眼が開かないと怒っているのか、そうでないのかとかがわかりません。


きびすを返して、足を外に向けると

かすかな寝息が聞こえてきました。

寝ちゃったようです。


起こさないようにそおっと扉を閉めました。


黄色のレーンの花畑の中央には花が一輪もありません。

そこだけ緑の絨毯になってます。

昨日、たくさんネックレスを作ったからね。


今日は花冠を作ろうかと思ったけど、

この様子だと、レーンの花がなくなってしまうかもしれないね。

うーん。どうしよう。


「今日こそは、負けないわよ。」


私の後ろにセイレーンが腕組をして立っていました。


「今日はネックレス作りはやめよう。お花がなくなっちゃうよ。」


うん。他の遊びをしよう。

お花は薬の成分になるくらいに大切なものだし、

取り尽してなくなってしまうのは困るだろう。


「え? やめちゃうの?」

セイレーンはさっきまで意気揚々と持ち上げていた肩をかくんと下げる。

顔がしごく残念そうだ。


「うん。今日はけんけん鬼をしよう。」


あれなら、二人で出来るし、楽しいよね。


「何、それ?」


知らない? うーん。こちらの世界ではメジャーではないのか。

幼稚園とか小学校ではよくやったんだけどね。


「ジャンケンは知ってる?」


セイレーンは首をかしげる。

そうか、そこからか。


「ジャンケンは簡単な勝敗をつける一番早い方法だよ。

 手の形で3つの形のうちどれかを出して、

 強い形を出した方の勝ち。」


石の上に小石で絵を描く。

円になるようにパーとグーとチョキを1つずつ描いて矢印で向きを描く。


「これがパー、パーはグーには強いけど、チョキには弱いの。

 こんな風にそれぞれが強いものと弱いものが相互にあるの。」


「ふうん。単純な人間が考える遊びね。」


言ったな!私はジャンケンには強いんだよ。


「合図をしたら、決めた形を前に示して、勝ち負けを決めるのよ。」


「合図?」


「じゃんけんぽん。」


「変なの。」


「まあ、いいじゃない。試しにしてみよう。それ、じゃんけんぽい。」


あたふたしながら、セイレーンはパーを出した、私はもちろんチョキだ。


ふっ勝った。


「なっ、えっ、突然のこの勝負は無効よ。」


「いいけど。ならもう一回するよ。いい?」


セイレーンは深呼吸して、頷いた。


「それ、じゃんけんぽい。」


今度は、セイレーンはグーで私はパー。

もちろん、私の勝ちだ。

子供の頃からジャンケンで負けたことがめったに無い。

ひそかな自慢だったりする。

でも、母には勝った事なかったなあ。


セイレーンは自分の出した拳を見つめ、プルプルと肩を震わせていた。

随分、悔しそうだ。

でも、けんけん鬼はこれからだよ。


「このジャンケンはこれからするゲームの基本。

 いまから、このレーンの花の周りに円を描いていくの。

 このくらいの円を描いて。ほら、手伝って。」


小石をセイレーンに渡して、私は直径30cmくらいの円を

レーンの花畑を囲むように描いていった。

ちらっとセイレーンを見ると、一生懸命に円を反対側から描いている。


一周したところで、小石から手を離し、膝と手を叩く。


「よし、いまから説明するね。

 まず、スタートは一緒、ここから。」


一番手前の円を指す。


「ジャンケンして、勝ったほうが、この円を文字の数だけ進めるの。」


「文字?」


「そう、パーだったら、パイナップルとか、グーだったら、グリコ、チョキだったら、チョコレート。」


「なんなの、それ。知らないものばかりよ。 他のものにしなさいよ。」


「なら、パーで始まる言葉は?」


「パーね、パルスドース。甘い御菓子よ。」


甘い御菓子? あるの? この世界にもあるんだね。

まあ、そこまで、甘いもの好きなわけじゃないけど、甘いものは疲れたときにいい。


「グーとチョキは?」


「グーはグアバ、チョキはチョリナント。 両方とも、甘い果物。」


果実はいいよね。

私的にはリンゴとかオレンジがあるといいなあ。


「なら、それでいいや。ジャンケンして、勝ったほうが、その数だけ円を進められるの。

 三周し終わったほうが勝ちだよ。 では、はじめるよ。いい?」




何度も、何度も勝負したけど、私の圧勝です。

ふっ。ジャンケン初心者に私がそう簡単に負けるはずがないのです。


セイレーンはがくっとレーンの花畑に崩れて、私の方を涙を浮かべて睨んでます。

うんうん。くやしいんだよね。

簡単な遊びほど、ごまかしがきかないからね。

勝ち負けがはっきりとわかるんだよ。


「貴方みたいな人間に負けるなんて。 やっぱり私が出来損ないだからなの。」


レーンの花の上のぽたぽたと涙が落ちていきます。

どうやら、悔しさから、自己嫌悪まで飛び火しちゃったみたい。


「違うよ。これは、運と経験からくる実力の差だよ。

 昨日も言ったけど、セイレーンはセイレーンだよ。

 誰に言われても、私は違うって言ってればそれでいいと思うよ。」


「でも、私はなにもかもが中途半端なのよ。大人体をとることも出来ないし、

 歌で人を操ることも出来ない。 水の操りも他のセイレーン達に比べたら

 大人と子供ぐらいの差があるの。」


セイレーンの下に踏まれているレーンの花が涙でぐっしょりです。


「成長速度はそれぞれだよ。比べちゃいけないよ。

 それに、皆には出来なくてセイレーンには出来ることあると思うよ。」


「わかったようなこと言わないで。 私に出来ることってナンなのよ。」


「レーンの花のネックレス。昨日最後につくったもの、綺麗に出来てたでしょ。」


「あんなもの、誰だって作れるわ。」


「セイレーンが一生懸命何度も何度もやり直して作ったネックレスだよ。

 他の人が同じように出来るわけ無いじゃない。

 皆が出来ていることは、今のセイレーンには出来ないかもしれないけど、

 いつかは出来るようになる。一回で出来ないなら、何度でもすればいい。

 それが成長するってことだと私は思う。」


「皆は生まれてすぐに出来たのよ。」


私は、セイレーンの顔をじっと見つめながら、話を続ける。


「簡単に出来ることと、それを極めることは別物だよ。

 簡単に出来たものはすぐに壊れる。

 でも、苦労して何度もやり直し作ったものは簡単には壊れない。

 セイレーンは成長速度が皆に比べて遅いかもしれない。

 でもそれは、きっと他の人よりすばらしい能力を磨き上げるための

 準備期間を与えられているってことだよ。

 あきらめなければ、きっと皆より大きくなれるよ。」


あっ身長は別としてね。


いつの間にか、セイレーンの涙は止まってた。

私の顔をじっとみている。


「変の子ね。貴方。でも、ありがとう。」


はにかむようにして笑った。


なごやかな雰囲気。

私もセイレーンに微笑み返す。


私も、人は人って思っていても、比べちゃう気持ちよくわかる。

でも、私は私。自分に出来ることを見つけていこう。

そう思ってないと、人生楽しくないじゃない。

そう達観したのは、中学生の時。

人生はじめて褒められた。

「君にしか出来ないよ。」その言葉が嬉しかった。

ささいな事で褒められたのはわかってた。

でも、母にいつも、自分らしさを見つけなさいって言われていたことが

初めて理解できた瞬間だった。


なつかしいなあ。

お母さん、元気だろうか。


その時、セイレーンの顔が驚愕に凍りついた。


「なんで? どうして? 嘘よ。 約束したのに。」


えっ? 何? いきなりどうしたの?


セイレーンはきびすを返して、小屋にむかって走っていった。

急いで後を追いかけた。








 








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