ネックレスは完璧です。
私の斜め横にしゃがみこんだセイレーンは、
ぶちぶちっとものすごい勢いで、
レーンの花を摘んでいきます。
そのまま座り込んだので、金の綺麗な髪が地面に
触れてます。ああ、汚れちゃうよ。
せっかくの綺麗な髪が。
編みこみしたいかも。みつあみとかでもいいよね。
見ていると、手がわきわきしてくる。
でも、ぐっと我慢しなくてはいけないよね。
セイレーンの摘み方は、いささか乱暴なので、
花ビラがひらひらっと散っていきます。
あんなふうに摘んだら、
茎のとこがつかえないんじゃないかな?
まあ、これは勝負なのだから、口は出さない。
私の方はというと、なかなかに順調だ。
さっき、少しだけ思い出した。
茎を輪にして、次の花を差込み、
また次の花の茎を輪にしてを繰り返す。
ポイントは、輪の閉じる部分をきちんと引っ張っておき、
茎の端を次の輪の中に、花と一緒に差し込むこと。
うん。だんだん。調子が出てきたぞ。
手先の細かい事は得意なのです。
鼻歌まで出てきた。
歌詞とか題名は覚えてないけど、
確か、春の歌だったと思う。
ふんふんとハミングしながら、ネックレスを作っていく。
「ちょっと、気が散るじゃない。下手な鼻歌はやめてちょうだい。」
いらいらした様子でセイレーンが怒鳴る。
「いいじゃない。下手でも。気持ちいいから。」
へらっと笑って、怒鳴りをかわす。
金の眼がいらいらでキラキラと輝いている。
うーん。怒ってても可愛いね。
「下手なら、歌う価値はないわ。何を言ってるの。」
「そんなことないよ。 歌は聞かせる為だけにあるんじゃないよ。
自分の気持ちを表すために歌ってもいいんだよ。」
だって、カラオケって気持ちいいものね。
「駄目よ。出来損ないの歌は聞いてて見苦しいもの。」
セイレーンの声がだんだん小さくなっていき、
俯いてしまった。
うーん。そんなに、私の鼻歌は音痴だったかな。
いままで、音痴とか言われたことないんだけど。
「誰が出来損ないって決めるの?
自分は違うって認めなければいいと思うよ。」
セイレーンは俯いたままだ。
「それに、歌は誰がどう歌っても、歌よ。
誰のために歌っても、自分の為に歌っても、歌だわ。
そりゃ、自分でも明らかにうまいとは思わないけど、
下手でも、気持ちよく歌えれば、それでいいのよ。」
じゃなきゃ、一人カラオケなんて出来ないしね。
「皆は、私を出来損ないって言ったわ。
だから、聞き苦しいんだって。」
ぼそぼそと小さい声で、セイレーンが言った。
へえ? でも、セイレーンの歌ってあれだよね。
夜に聞こえていたあの寝ちゃう歌。
綺麗だと思ったけどねえ。
プロからみたら違うのかな。
うん? 皆?
「皆って? ここに他の人がいるの?」
「違う。私が生まれた場所。」
生まれた場所?この島じゃないの?
首を傾げていたら、セイレーンが頭を上げた。
真っ直ぐに私の目を見る。
「貴方、セイレーンって何だと思う?」
金色の目が猫の目のように縦に光って見える。
その眼を見たとたんに、眼の前に薄い白いスクリーンが
降りたみたいに景色がぼやけて見えた。
「セイレーンって貴方の名前じゃないの?」
「は? 私の名前なんて無いわよ。
そうじゃなくて、私みたいな存在をどう思うかって聞いてるのよ。」
「どうって、可愛いなあって思う。
後、その髪、みつあみしたいなあって思ってる。」
セイレーンの瞼がぱちぱちと瞬きする。
うん?眼の前の景色が元にもどった。
なんだかおかしな感覚。
一瞬、私の頭に靄が掛かったような、喉がつまったような。
今は、なんとも無い。
セイレーンの顔が真っ赤になる。
おお、耳まで赤い。
「ばっ馬鹿なこと言わないで。騙されないんだから。」
馬鹿なこと?
その髪を編みたいって言ったこと?
だって、普通、思うよね。
そんな長い綺麗な髪が、無造作にあったら、編むでしょう。
金の髪って日本人には憧れだしね。
「騙してないよ、本気だよ。
金の髪、綺麗だし、編んでもいい?」
両手から、レーンの花のネックレスを離し、手をわきわきして見せる。
「だっ駄目に決まってるでしょう。 勝負途中なのよ。」
なんだ、駄目か。
でも、勝負途中なら駄目ってことは、済んだらいいってこと?
「わかった。勝負の後なら、いいね。覚悟してね。」
きらっと眼を光らす感じで、セイレーンを見据えた。
セイレーンは後ずさりしながら、あうあうって言ってる。
顔はまだ赤いままだ。
よし、頑張るぞ。
勝利の果てには金の三つ編み、編みこみでもいいなあ。
「変な子。」
セイレーンがぼそっとつぶやいた。
その言葉には棘は無い。
私達は日が暮れる間際まで、ネックレスを作り続けた。
だって、セイレーンが負けたって認めないんだもん。
何個も作るうちに、
明らかに職人の域に達しているような
私のレーンの花のネックレス。
多分、手の大きさもあるんだと思うけど、
レーンの花はちょっと
シロツメクサよりも花弁が大きい。
だから、セイレーンの小さな手だと、なかなか難しいのかも。
半分、涙目になりながら、
「明日は負けないんだから。覚えてらっしゃい。」
そういい捨てて、花畑から去っていった。
ああ、私の三つ編みが。
お腹がすいてきた。
もうじき月が昇る。
また、夜がやってくる。
レヴィ船長やカースは元気かな。
皆寝ちゃって、寂しくないかな。
突然いなくなった私を、探しているかも知れない。
今日一日、しっかりセイレーンと遊んじゃったけど、
はっきり言って、何をどうすればいいのかわからない。
それに、満月の刻限まで、余裕など無いことは、わかってる。
でも、セイレーンを助けてくれってあのおじいさんも言ったの。
シャチ達や白い髪の男の子と同じように。
多分、今の状態はセイレーン自身にもよくないはず。
助けてあげなきゃいけないはず。
きっとそう。
でも、本人が助けてっていってくれないと
何をどう助けて良いのかわからない。
なら、どうする?
本当に苦しんでいるなら、心の中の声を聞きたい。
あんな小さな子が、苦しむなんて間違ってる。
声を聞かせて欲しいなら、声を聞ける関係になればいい。
やっぱり、悩みを打ち明けあうって言ったら、友達だよね。
うん。友達になったら、手をつないで、
三つ編みし放題。
ではなくて、友達になりたいんだ。
友人をつくるコツは、突撃あるのみ。
小さい頃に幼稚園の先生に教わった。
待ってたって、求めているものは手に入らない。
友達を作りたければ、アタックあるのみだ。
眠り続けている船員の皆、レヴィ船長。カース。セラン。ルディ。
セイレーンを助けて、皆も元に戻すからね。
明日もがんばるよ。




