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箱をあけよう  作者: ひろりん
第2章:無人島編
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眼はいいんです。

さっきの白髪の男の子が教えてくれた

この黄色い花、どこに在るんだろう。


ここは、やっぱり、

この島を隅から隅まで歩いて探すしかない。

うん。


時間はあまりない。

花を見つけたとしても、セイレーンにあって、

何かわからないけど、なにかの輪ってのをどうにかしなくちゃいけないらしい。

考える時間すらないんだよ。


いや、考えてもわからないので、

考え放棄したってのが正解だけどね。

私は、基本、根性半分、体力半分の人生だからね。


そう、時間がないのに、はやく探さないといけないのに、

今、私は、動けません。



「メイ、聞いているのか?」


「なんで一人で行動するんですか。馬鹿メイ。」


「せめて、僕に何か言ってから、動いてよ。」


「犯人かもしれない奴に一人で会いにいくってアホだろ、メイ。」



うう、さっきから、4人に囲まれて、

説教され続けてます。

私は、勿論、正座して聞かせていただいてます。


その上、馬鹿だのアホだのってひどすぎる。

心にぐさぐさと突き刺さります。

繊細なガラスの神経を持っていたら、今頃、粉々です。


そりゃ、何か言ってから行くとかあの場合、

ルディやカースなら出来たと思うけど。

考える前に、体が動いたんだから、無理だと思うの。

私の場合。


でも、反論なんかすると、もっと説教が長くなる。

数多くの、私の人生の説教経験にもとづく結論である。

ここは、我慢我慢で。


ひたすら下を向いて、地面をじっと見つめて反省のポーズ。

猿だって反省しているように見えるんだから、

私だって大丈夫のはず。


延々と続く説教の嵐をようやく乗り切ったようです。

批判の声が聞こえなくなった。


顔をそっと上げると、レヴィ船長がじっと私を見てました。

緑の眼が私の心を見抜いたようです。

ぎょっとして、慌てて眼を逸らしてしまいました。

ああ、挙動不審。


頭の上から、レヴィ船長の大きなため息が聞こえた。

普段なら、セクシーとか思うとこだけど、

今は、後ろめたさで一杯です。


「まあ、説教はこのへんで止める。

 で、奴は何て言ったんだ。」


おお、説教タイムは終に終わる。


「満月までに見つけられないと、皆、砂になるって。」


そう、それは伝えておかないと。

皆の眼が驚きで見開かれる。


それから、このことも。


「セイレーンはこの花のある所にいるみたい。」


両手を開いて、黄色の花を4人に見せた。

この花について知っていることを教えてもらおう。


「これは、レーンの花ではないですか?」


レーンの花?



「特殊な地域の特殊な条件でしか咲かない花だ。

 月光草とも言われている。

 薬草としても珍重される。

 痛み止めとか、麻酔薬、睡眠薬の材料になる。

 この島に咲いているのか。」


へえ、薬の花なんだ。

どこにでもあるような花って思っていたよ。


「山間とか山間部、崖下とか

 まあ、山に咲く花だな。」


ふんふん。山の草花みたいなのね。


「月光草ってくらいだから、昼咲いてないのかな?」


ええ?そうなの?


「いや、咲いているが、月の満ち欠けに開花が制限される。」


月の満ち欠け?


「満月の日は満開で新月の日は枯れているか、

 蕾にもどる。」


えーと、それはつまり。


「新月の日に近くなると見つけづらくなる。」


がーん。

ただ歩いて探す私の計画だと、見つからない可能性が高いと

いうことですね。

新月の日に歩いても見つからない。


ああ、難易度が上がった。


「明日の朝、何人が目覚めるかわからないが、

 起きた人で組を作って、咲く条件に近い場所を優先的に探すことにする。」


レヴィ船長。

そうですよね。

人海戦術でも使わないと間に合わない。


「メイ、皆で、探しましょう。」


カースの手が肩に置かれ、優しく微笑んだ。


「はい。カース、レヴィ船長、セラン、ルディ、有難う。」


散々怒られたけど、やっぱり皆、優しいなあ。


そうだね。皆で探せばみつかるよね。


私もにっこりと全開笑顔。








朝日が昇りました。

昨日と同じく、4人で起こしていきます。


本日目覚めることが出来たのは、

昨日のさらに半分でした。

つまり、船の船員の三分の二が眠っていることになる。


レナードさんとラルクさんは寝覚めてくれたけど、

マートルは眠り続けている。


マートルの頭、落としちゃったのよね。

そのせいで、寝てるとかじゃありませんように。




レナードさんとラルクさんと一緒にご飯の支度。

人数がぐんと減ったので、量は少なめ。


ソテーしたハムに炒めた玉ねぎを卵で

オムレツのように包み、

それを、薄いパンで巻く。


ブリトーのようですが、

噛むたびにハムの肉汁と玉ねぎの甘味が

卵と絡んで、口のなかでひろがります。

それに、ラルクさん特製のソース。

それがピリ唐で、かつ、甘味のある

絶妙なアクセントをつけてます。


レナードさん、ラルクさん。


私は、明日もこの料理を食べるために、

絶対、セイレーンをすぐに見つけます。

ええ、見つけてみせますとも。


ぐっと手を握り込みながら、決意を新たにします。




食事の後片付けをして終わった頃、

先発隊が出発した。


私は3番目の組と一緒に探すことになっている。

三番目にはルディもいるし、アントンさんの部下のコリンやゾルダックも一緒。



最初の日に、いくつか作っていた地図の

怪しそうなところに印がしてある。


全部で数えると26箇所。

結構ある。


でも、この島の植物の状態を見れば、

もしかして、山間部とかでなく、

普通の場所にあるのかもしれない。


それに、足元を気にして探すって

思っていたより、大変。

なかなか、前に進まない。


夕方になり、皆、夕食の時には

かなり口数が少なく、

また、暗い雰囲気。


今日一日だけで、26箇所の半分を廻ったけど、

黄色の花の生息地は見つからなかった。


気が重くなる。

空気が辛い。


だって、明日には、今、起きている人達の

何人かは、目覚められないかもしれない。

それが、自分かもって思ったら、暗くなるってモンだよ。


レヴィ船長は詳しいことは私達5人とバルトさん以外には教えてない。

この現状を打破するためにはあの花が必要だと

伝えただけだった。

薬としての効能を必要としていると思っているみたい。



カースいわく、下手に本当のことを知ったら、

無謀なことをしようとする船員たちが出るかもしれない。

本当のことは解決してから気が向いたら話します。って。


それに、次の満月には皆、砂になっちゃうよ。なんて

言っちゃったらパニックが起きるだろう。


ここはひとつ、黙っているということで。


「どうした、メイ。おかしな顔してるぞ。」


コリンが私の顔を覗き込む。

ああ、正直な顔の筋肉がにくい。





「そろそろ、時間だな。」


誰かが、ぽつっとつぶやいた。

全員の頬の筋肉に力が入る。

絶対に眠りたくない。そんな気持ちが見え隠れする。



月が中天に昇った。

昨日よりすこし、かけている月。


見上げていると、また、あの歌声が聞こえてきた。

今日で3日目。

だんだん、焦燥感に押されるようになってきた。


拳を握り締め、奥歯にぎっと力を入れる。

皆、それそれの精一杯で眠らない努力をしていた。


それでも、その努力は徒労に終わる。

この歌声は呪いだ。

防ぐことなど出来はしない。


昨日と同じく、私達5人以外がどんどん倒れていく。

横で倒れ、眠りにつくラルクさんやコリン達を

どうすることもできない空しさが一杯になる。



それでも、声の出所を探そうと、

私は一生懸命、あちこちに眼をさまよわせる。

何も見つけられない。

何も出来ない。

悔しさで息を呑む。


ほぼ全員が眠りについた。


「昨日と同じだ。」


セランがつぶやいた。

声には悔しさがあふれている。


広場には眠りについた船員達の寝息。

それにかすかな風に木々がそよぐ音。



私はすうっと息を吸い、高台を見上げた。

駄目だ。 落ち込んじゃ駄目。

私に出来ることをするんだ。



歌が終わらないうちに、昨日と同じように

湖に行くことにしよう。


また、怒られてはいけないので、レヴィ船長に許可をとる。


「レヴィ船長。私、湖のところに行ってきます。

 また、あの子に会えるかもしれない。」


カースとルディがついてくるって言ってくれたけど、

断った。


「多分、あの子は私の前にしか現れない。」


なんとなくだけど、これは確信。


レヴィ船長はじっと私の目を見て、頷いた。

「わかった。だが、高台までは一緒に行く。いいな。」


セランとルディは他の船員の側にいることになって、

カースとレヴィ船長と一緒に高台にあがる。


そこから、二人と分かれて湖の方に降りようとしていたら、

右目の端になにか光るものが映った。


うん?


高台からみて、中央左手よりの大地に広場。

右手に大きな岩場が、左手は砂浜だ。


右手の岩場の陰に月の光があたってきらきらしている。

岩にあたって反射しているんだろうかと

思ったが、反射の仕方がちょっとおかしい。


反射光が動いている。

風はそよいでいるが、風の動きでは

岩の光は動かない。


ならば、反射しているものはなんだろう?


眼をこらして高台ぎりぎりのところで右手の岩場を

ながめたが、よくわからない。


「メイ、危ないですよ。何をしているんですか?」


カースに抱きとめられた。

カースを振り仰ぎ、二人にわかるように、岩場の方を指差しした。


「あそこ、光が変だと思わないカース?」


二人ともじっと私の指差す方向をみてくれた。

そして、二人でお互い頷きあった。


ちょっと、二人で簡潔してないで、教えてください。


レヴィ船長の手が私の頭を撫でた。


「よくやった。メイ。あれが、レーン、月光草だ。」






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