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箱をあけよう  作者: ひろりん
第2章:無人島編
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目覚めない訳を知りました。

朝になりました。

朝日が昇るのが今日ほど待ち遠しいのは

はじめてです。



水平線が明るくなってきて、島の影がうっすらと横に伸び

皆の顔が日の光に照らされて、はっきりとした陰影を示す。


一晩中、起きていました。

眠かったのは不安でどこか行ったみたい。


水場の探索で体は疲れていたけど、

神経がぴりぴりしているみたいで、

嫌に眼が冴えてる。


朝になったので、手分けして、皆を起こしに行った。


結果、起きてきたのは半数。

残りの半分はつねっても、叩いても、転がしても

どうやっても起きなかった。


その上、とても幸せそうな顔でぐうぐう寝ている。


いびきをかいている人はうるさかったので鼻をつまむと、

しばらく苦しんでいたが、プスーと音がして、

口で息しはじめたみたい。 静かな寝息になった。


半分だけでも、起きてくれたのにはほっとした。

レナードさんやラルクさん、マートルとかも起きてきてくれた。


ああ、助かった。

ご飯なしだったら、お腹すきすぎで、死んでしまいます。


とりあえず、寝ている人は船の中に運び、

起きてきた人に何があったのか聞くことにした。


でも、起きてきた人は皆、何があったのかわからない様子だ。

寝る前に特に変わった様子はなかった。

変なものを食べたり飲んだりもしていない。

おかしな匂いとかもしなかった。


ただ、ひとつ、同じだったのは、いい夢をみたってこと。


レナードさんは国に残してきた娘さんと孫の夢をみた。

孫っていたんだ。

レナードさん、いくつなんでしょう。


ラルクさんは覚えてないけど、いい夢だったような気がするって。


マートルは彼女の夢をみたって。


いろんな人に聞いてみた。

夢の内容は違うけれど、幸せな夢だったそうです。


私達は起きていたから、いい夢にみなかったってことかしら。


起きてこない人たちは幸せな夢から目覚めたくないのかもしれません。


起きている人を集めて、広場でこれからのことについて、

レヴィ船長から話がありました。


これからこの現象の原因を探るが、夜は眠らないように昼間に交代で眠ること。

それから、この島でとれた食材などに手を出さないこと。

一人では行動せず、何人かで組んで行動すること。


島をでてしまおうって提案もあったけど、

半分の船員が寝てしまっている状態では、船の運航が危険だ。

それに、この島を離れたとして、彼らが絶対起きるとはかぎらない。


そして、最大の理由、

この島を囲っている海流。

私達の船が呼び寄せられたように、

島から中に入るようになっているが、出るようにはなってない。

海流に逆らって進むには、漕ぎ手と風が必要だ。

今はその両方ともが無い。


一見、のどかで平和な島。

でも、なにかがあるんだ。

心の中にもやもやしたものが積もっていく。


「メイ、こっちに来い。昨日あった子供の事を詳しく話してくれ。」


レヴィ船長に呼ばれた。


バルトさんやアントンさんもいた。

皆に注目されたけど、詳しくって、

レヴィ船長に話したこと以外にはない。


「男の子、ルディくらいか、もっと小さい。白い髪に青い眼。

 満月までにセイレーンって人を見つけないとこの島出られないって

 言ってた。」


「満月までってことは、昨日が満月だから次の満月まで、あと20日程だな。

 そいつがなにかしやがったのか、自然の流れでこの島にいると

 寝ちまうのか解らないが、原因があるってことだな。」


バルトさんがいつもの大きな声をひそめて

低い声で、言った。


後、20日。


「とりあえず、夜、寝ないことで、これ以上の被害が拡大するのは

 防げるはずです。 今、起きている人材で原因を探すしかありません。」


そうだね。

今、出来ることを考えなきゃいけない。


私に出来ること。

セイレーンを探して、輪をなんとかすればいいんだったよね。

あれ? 違ったかな。


どこにいったら会える?


さっきの湖にいったらあの男の子出てくるのかな。

どこにいるのか聞いたら、教えてくれる?





ぐるぐる考えていた。

考えながらお芋の皮をむいていたら、

手を切った。結構深い。


私としたことが、手を切るなんて。

献血以外に血を流すなんてもったいない。

ジュースもでないのに。

カットバンが確かかばんにあったはず。

船から取ってこようかな。


「メイ、怪我したの?見せて。」

ルディが私の指をとって、ぱくって口にいれた。


ああ、動物のお母さんが怪我した子供の傷口に唾液をつけて

手当てするやつですね。


でも、ルディの舌が指の傷を舐めていて、

それが変な感じです。

ぴりぴりした痛みの中で、じわっとなにかが浸透していくような。

ルディの舌が指の傷以外も舐めているようで、

指の付け根の辺りまで口に入ってます。

痛い以外の変な感覚がします。


ラルクさんが私達の後ろにいつの間にか立ってた。


「怪我をした指を出せ。血をとめる。」


ルディの口から指をさっととりだしたら、ラルクさんが

水の入った水筒から水をかけ、血でにじんできた傷口に胡椒の粉を

山盛りにかけてくれた。

もちろん、胡椒は高いので、指の下には鍋がセットされている。


「このまま包帯で縛っておけ。直に傷はふさがる。」


「胡椒は傷薬になるんですか?」


「違う、胡椒は血止めだ。血をそこで固めて、止める。」


へえ。

今度から、胡椒のビンをかばんに入れて持ち歩こうかな。


「ありがとう。ラルクさん。」


ラルクさんは頷いて、ご飯の支度に戻る。

側にいたルディが手ぬぐいのようなものを

切って包帯を巻いてくれた。


かいがいしいとはこの事だよ。

本当に働き者のいい子だよ、ルディは。

弟にしたい候補ナンバーワンに違いないよ。


「ありがとう、ルディ。」


感謝の気持ちを込めてにこっと笑った。

ルディは苦笑したような顔。


うう、お世話かけてます。





昼間から寝て、夕方に起きた。


起きてすぐに、セランが教えてくれた。

私が寝ている間に、何人かで、

昨日私達が通った道をあがって確かめたことを聞いた。


誰もいなかったし、変わった事もなかったって。


もしかしたら他にも道があるかもって

レヴィ船長たちが思って探したけど、

他の出口は見つからなかった。




なんとなく、予感がする。


あの男の子は私の前だけしか出てこない。

セイレーンは私にしか見つけられない。


これって神様の守護者って看板効果だと思う。


私自身はなんの力も無いんだけどね。


でも、一人で行動することは禁止されているし、

どうしたら良いのだろう。






夜が来て、昨日の晩とはうって変わって、

皆、警戒心でぴりぴりしながら、

焚き火の前とかに陣取って

各々仕事とか何かをしていた。


ちなみにレナードさんとラルクさんに何してるのか

聞いたら、明日の食事の献立と

新しいメニューの開発について、話し合っていた。

聞いていたら、口の中の唾液が凄いことになりそうなので、

途中でセランの側に移動した。


皆、問題の時間に近づいてくるにしたがって

言葉が少なくなっていった。

焚き火のぱちぱちと燃える音だけがやけに耳に届く。






少し欠けているけど、月が中天に昇ったとき、

声がした。





歌声だ。

これは、昨日の晩、かすかに聞こえたような気がした歌声。

細い一人の人が歌う旋律。

どこの音楽かは解らないが、誰かが歌っている。


カースが言った言葉。

歌で誘って人を食べるセイレーン。


本当にそうなの?


声の出所を探そうと周りを見渡したら、

起きていたはずの人が何人か、かくんと糸が切れたように

倒れてしまった。


マートルもラルクさんもレナードさんもアントンさんも

倒れた。皆、次々と倒れていく。


マートルを抱き起こすと、にやにやと笑っていた。


いや、気持ち悪い。

思わず、手をぱっと離す。


ゴンってへんな音がしたけど、たんこぶ出来てるかも。

えーと、知らないことにしよう。


他の人も皆、幸せそうな顔で寝ている。


起きているのは昨日と同じメンバーだけ。

セランとルディ、カースにレヴィ船長に私。


船長たちはなにが起こっているのか把握しようと

周りを警戒している。


歌声はまだまだ続いている。

声に強弱がない、でも旋律は高かったり低かったりと、

波がある変わった曲調。

高い声で、淡々と歌い続けている。


「この歌、どこから聞こえるんだろう。ルディわかる?」


「メイ、何か聞こえるの?僕には何も聞こえないけど。」


ルディは自分の耳に手をあてて、何かを聞くようなしぐさをしたけど、

何も聞こえなかったみたい。


オカシイ。

細い声だけど、高く、しっかりとした音色、確かに聞こえるよ。


船長やカースをみても聞こえている様子はない。


私だけに聞こえているってこと?




私はなんとなく確信した。

この歌声が原因だ。


そして、カースが言っていた、

セイレーンは歌で人を誘って食べるって。

今、寝ている人たちには歌声が届いて、

眠ってしまったって事だよね。


食べに来ないのは、私達5人が起きているせい?


でも、船長達には聞こえてない。

どうしてだろう。

歌声が聞こえる人と聞こえない人の違いはあるの?



その時、ふと視線を感じた。上だ。


くるっと体の向きをかえて、見上げたら、高台にあの男の子がいた。

真っ白い髪が月の光に光って、透き通って見える。


反射的に、足が高台に向かって走っていった。


後ろから、レヴィ船長やカース、ルディの声がしたけど、

今は行かなければいけない。そう感じた。


息を切らせて、湖へをたどり着くと、

彼がいた。



私を待っていたんだ。何かを伝えるために。


彼の側に走っていくと、湖面を指差した。


湖の湖面に映像がぼうっと映る。


そこには、年老いた老人が寝ていた。

年は80歳だろうか。

サンタクロースのように長い真っ白な髭に、白い髪。

その横で、少女が歌ってた。

少女は10歳くらいだろうか。

さっきの声の持ち主だった。


「彼女がセイレーン。彼女は、彼の命を繋ぎ止めるために歌ってる。」


えーと、人を食べるのじゃなくて、助けてるの?

それにあのおじいちゃんは誰。


「彼の寿命は尽きている。 それをとどめるために

 多くの人の生気をセイレーンが必要としてる。」


「皆が寝ているのはそのせいなの?」


彼は無表情のまま、頷いた。


「次の満月の夜までにセイレーンを止められなければ、

 今寝ている人は皆、生気を吸い取られ、砂に変わる。」


砂?

死体も残らないってこと。

骨まで食べちゃうの?

なんてエコ。じゃなくて、大変だ。


「セイレーンはどこにいるの。」


少年の姿が消え始めた。

ああ、まだ肝心な答えを聞いてない。

行かないで。お願い。


「どうやって探したらいいの?教えて!」


「黄色い花をたどって……」


彼の姿がどんどん薄くなる。

心が焦る。

手のひらに汗がにじむ。


皆、砂になるの?

この島に生き物がいないのはそのせい?

レナードさんやラルクさん、アントンさんや船の皆。

骨も残らず、存在さえ残らなくなる。

そんなことって酷すぎる。


その時、どこからか、メイの頭の上に

1輪の黄色い小さな花が降ってきた。

黄色い花は5枚の花びら、これといって特徴のない普通の花。


これのこと?


花を手にとって確認しようとしたが、彼の姿はもうなかった。



多分、この花のあるとこにセイレーンがいるって言うことよね。



バタバタと走ってこちらにくる足音が聞こえる。

レヴィ船長やカースの姿が

月明かりの逆光で黒く長い影をつれていた。


花を潰さないように。

この花が今、ある唯一の手がかり。


両手で包みこみ、湖の空間から出た。

湖面の映像が消えていたが、セイレーンの歌声は続いている。


淡々と歌い続けている声が、今は死を呼ぶ恐ろしい

レクイエムに聴こえる。


負けちゃ駄目。

下を向いては駄目。


まだ大丈夫。


私にはやるべきことがある。




















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