水場を見つけました。
前にカース、後ろにレヴィ船長がいてくれて、
大変心強いんだけど、でも、真っ暗って嫌いなのよね。
カースの松明は周り1mくらいを照らしてくれるだけだし、
それにこの道、石畳が敷いてあるせいか、音が大変響く。
今、響いているのは、カースとレヴィ船長の足音。
私のはどちらかというと、ぺたぺた。
妖怪の足音みたい。
妖怪といえば、水場の妖怪に河童っていたよね。
水場の近くに行くと、引きずり込むんだっけ。
対処方法は頭のお皿をたたくこと。
叩いても割れないのかな。
そういえば、ルディに割れたお皿の再利用を聞こうと思ってたんだよね。
植木の鉢受けとかしてもいいのかなって。
「メイ、ぼーっとしていると転びますよ。」
はっ、なんでこんなこと考えてんだろ。
大体、さっきからずっと歩いているけど、上に上がったり、下に降りたり、
でも基本的に一本道。何もない。
なので、ちょっと緊張感薄れている。
普通、迷路っていったら、妨害ありの、
敵が出てきてとかあるもんじゃないの。
とっても拍子抜け。
ただひたすら道がある。
そろそろ歩き出して一時間くらいになる。
レヴィ船長は引き返すかどうか、考えているかもね。
後ろのレヴィ船長の顔をそっとうかがうと、
船長の手が私の頭の上で2、3回弾んだ。
それだけで、ちょっと嬉しくなって、
足元軽やかになる。
疲れもどこかに、体は跳びあがるはず。
気分は上向き眼も上向き。
人間上ばかり見ていてはいけません。
足元を見なければってよく学校の先生は言ってました。
「わぁ、とととと、あ。」
足元の石が割れていて、躓きました。
その時慌てて、前のカースの服の裾をつかんだため、
二次災害が起こりました。
結果、一緒に転倒し、松明の火が消えました。
松明は転がってどこかへ行ってしまったみたい。
真っ暗です。
カースは私の上に乗っているので、
私は今、かえるのようにつぶれています。
「メイ、カース、大丈夫か? 眼が慣れるまで動くなよ。」
レヴィ船長の冷静な声が聞こえました。
私の上からカースが私を潰さないようにそっと立ち上がりました。
「メイ、怪我はしてないですか? 立てますか?」
巻き添えにしたのに、心配してくれるなんて。
カースこそ怪我してないでしょうか。
「ごめんなさい、カース。私は大丈夫です。
カースは怪我してないですか?」
私の前に足があるのはなんとなく
わかったので、とりあえず、ぺたぺたとその足を触って
怪我の確認をしました。
だって、カースは後ろに倒れたんだよ。
いや、倒した本人が言うのもなんだけど。
「メイ、もういいですから、あんまりあちこち触らないでください。」
カースの声が心なしか上擦って聞こえる。
やっぱり、どこか怪我したんだろうか。
見えないってのは不便だね。
座り込んだまま、眼が暗闇に慣れるのを待つ。
転んだ松明がどこにあるのか解らないので、
まず、それを探さないとね。
そうしたら、私が座り込んでいる場所にちょっと違和感がありました。
ナンだろう。
もぞもぞして、お尻の下を触ると、コケが生えてました。
それも、りっぱなミズゴケです。
いままで歩いてきた石畳にミズゴケなんか
どこにも生えてなかった。
なんで?
そう思ってそのままお尻を上げて、コケが生えているところを手探りで
つたっていくと、壁がありました。
でも、この壁と床の石畳の間にコケがびっしり生えてました。
ずっと指で伝ってみると1メートル位、
コケの終わりの部分の壁をぺたぺた触っていると、
壁の一部にやっぱりコケが真っ直ぐ縦に生えていました。
縦のコケの近くに顔を近づけると、そこからかすかに風が漏れてました。
「メイ、何してる。松明に火をつけるぞ。眼を瞑れ。」
私がごそごそしているうちに、カースとレヴィ船長は転がった松明を
見つけたみたいです。火打石を打つ音がしました。私は急いで眼を瞑りました。
ぼっと火が燈ります。
眼を鳴らすためぱちぱちと瞼を動かします。
ちょっと眼が乾燥気味です。
じわっと涙が出てきました。
「眼を傷めたのですか? 痛みますか?」
あわてた様子のカースが私の顔をのぞきこんでくる。
いきなり至近距離です。
カースの綺麗顔のドアップはびっくりします。
「痛くないです。大丈夫です、カース。」
にこっと笑います。
それから、忘れないうちに、二人に伝えなければ。
「ここに、別の入り口があるみたいです。」
レヴィ船長が松明を持ってきて、カースと二人で私の触っていた壁を
じっくりと見て頷いた。
「お手柄だ。メイ。」
レヴィ船長は私を自分の体の後ろに下がらせ、
カースは私の肩をしっかりと後ろから支えてくれていました。
「開くぞ。」
壁付近を押したり引いたりしていた船長の前の壁が
奥にずっと動きました。
それから、中心を基点に大きな音を立てながら
壁が廻りました。
忍者屋敷の回転扉のようです。
そこは、高さが今まで歩いていた通路の半分くらいしかなく、
子供が一人通れるかどうかくらいの階段が下に伸びてました。
入り口から階段の下を覘いてみる。
下は相変わらず真っ暗です。
でも、一つ違うこと。
水の音がはっきりします。川の流れている音です。
潮の匂いはまったくしません。
だから、海に繋がっているわけではないみたい。
それに、下の方がやや明るいみたいで
ぼうっとした明かりがあるのが見えました。
もしかしたら、この下、外に繋がっているのかもしれない。
ここは無人島らしいけど、湖とかがあってもおかしくないくらいに
植物が茂っている。それも、熱帯植物ではないので、
スコールとかでまかなっているわけではない。
だから、どこかに大きな地下水脈が在るのかもしれないって
レヴィ船長とカースは思っていたみたい。
なら、ここが水源かも知れないんですね。
でも、問題はこの階段の狭さです。
私なら多分問題なくいけると思うのだけども、
行っても良いかな?
「レヴィ船長、私、階段下りてみてくる。 大丈夫。無理しないです。」
二人は眉をひそめていたけど、結局は頷いてくれた。
でも、運動神経については信用してくれてないみたい。
お腹に命綱のロープを巻かれました。
松明は持っていかないことになりました。
だって中腰で階段おりながらでは危ないからね。
それに下の方に行けば行く程明るくなっていきました。
階段は途中で右にぐっと曲がっていましたが
急な階段ではないため、結構楽です。
50段くらい降りたころ、下に着きました。
「うわぁ。綺麗。」
思わず大きな声が出ました。
着いた先には大きな湖が広がっていました。
地底湖です。
広い地底湖の中心に満月が映っていました。
水面の満月がきらきら光って岩盤を照らしていました。
その光がまた反射して、周りは光であふれていました。
よく見ると岩盤は私達の船を止めたとこの岩盤と同じのようです。
地底湖の上を見ると岩盤と木の根が生い茂っていますが、
向こう岸の部分はそのまま外へと繋がっているようです。
水の音は地底湖から川のスロープがいくつも
流れている音でした。
「君は誰?どうしてここにいるの?」
うっとりと湖を眺めていると、声が後ろからしました。
ひょ。
飛び上がりそうなぐらいびっくりしました。
後ろを振り返ると、男の子がいました。
ルディよりもっと小さい。
白の髪に青い眼の男の子。
彼と眼が合ったとたん、胸の白い玉が熱を持ち始めました。
その青い眼は今までに見たこともないくらいに
悲しそうな眼をしてました。
泣きそうで泣けない。
そんな第一印象の男の子。
「私は、メイよ。貴方を助けたいの。」
とっさにでた言葉。
でも、なぜかそれが一番必要な言葉だと確信していた。
眼を逸らさず、じっと彼の意思を探す。
彼は髪をかき上げながら、ため息をついた。
そして、しっかりと私の目を見返して言った。
「メイ、夢はいざない。セイレーンを探して。
次の満月が来るまでに。 そうしないと、誰一人この島からでられない。」
また、訳わからないことを。
「上に船長達がいるの。伝えるから、一緒に行こう。
訳を話せばたぶん船に乗せてくれると思うの。」
彼は首をふって断った。
「僕は行けないんだ。でも、君ならセイレーンを見つけて、
彼女の心を輪からはずしてくれるかもしれない。」
輪ってなんの輪なの?
「神様の加護者が来てくれるのを、ずっと待ってたんだ。」
やっぱりシャチ達が言ってた助ける人ってこの子だったんだ。
それにもう一人いるの?セイレーンって?
「次の満月までだよ。 メイ。 忘れないで。」
そういってすぅっと消えた。
ええ、消えたんです。
幽霊のように。
走っていったとかではなくて。
「ふぎゃーーーーー。」
「メイ、なにかあったのか?」
レヴィ船長の声が聞こえました。
涙目になりました、幽霊は嫌いなんです。
でも、幽霊がとかいったら、神様の加護者の説明を
しなくちゃいけない。
とりあえず、頭を整理してから、かいつまんで
話、できるかなあ。




