嫌な事聞きました。
カースはあれから、また軽い発熱を何度かおこしたが、
今は、落ち着いてきた。
だんだん回復してきているようです。
仲直りできたおかげで、
カースの私に対する反応は、とっても素直。
薬も声を掛けると、飲んでくれるし。
少しずつ増やしているごはんの量も
大体、完食できている。
今日で5日目になる。
そろそろカースの看病も終わりだ。
この部屋で過ごす、カースとの時間は
思ってたより楽しかった。
カースはしっかり教えますって言って、
スパルタ教師か?って思ってたけど、
口で言ってるより実際はかなり優しい。
その上、けっこう世話好き、仕事好き。
自分のことはかなり無頓着のくせに。
今、カースの体の調子がよい時に、
この世界の話し方や書き方を教えてもらっている。
カースの教え方はとても解りやすいし、
お馬鹿な私でも、あきれずに、
何度も、根気良く教えてくれる。
その上、レヴィ船長に頼まれた仕事とか
航海日誌とか、航路の計算とか、
とにかく、おとなしく寝てない。
おかげで、薬の時間とか
食事の時間、睡眠時間とか
私が目の前に持ってくるまで、
ずっと仕事している。
私の勉強まで面倒見てくれて。
無理するから熱がぶりかえしたりして
当初の予定の3日より2日多く看病が延長に
なりました。
仕事の手を抜かず、かといって
私の世話もしっかりやってくれる。
ちょっと手が掛かるとこが可愛いとこかな。
綺麗で、頭良くて、優しくて
妹として、自慢したくなるだろうね。
もし、カースが私の兄ならば、
妹はかなりブラコンになるに違いない。
事実、カースは私を妹と思って
接してますって言ってました。
そして、私は、こんなお兄ちゃん
がいたらいいなって思ったりなんかして。
ブラコン発動しそうです。
それに、熱でうなされていた時、
カースに口移しで薬のませたんだよね。
薬とカースで思い出した出来事に
一人顔を赤くしたり、青くしたりしていたら、
カースに、お前も熱が出たかと心配された。
うう、乙女心って理解されないよね。
まあ、あのことは口がさけても
本人には言えないよね。
それから、びっくりしたこと。
あの、例の、白い玉です。
私の首に掛かったままのあの玉の事です。
気がついた時には白い玉の一部が青く染まってました。
そういえば、カースのペンダント見つけた事件の時に
なんとなく熱くなったような気がしてた。
でも、いろいろあって、すっかり忘れてました。
5つの宝玉のひとつは、カースが持ってたんですね。
カースの心の中の何かが
満たされたって事だよね。
何かってわからないけど、カースが幸せになるのなら
別に詮索しなくてもいいかな。
カースも私も、どっちもいいことあったって事でしょう。
ともかく、私はカースと仲直りが出来、
とてもいい兄妹関係を築いています。
「メイ、にやけた顔を何とかして、
綴りの間違いを直しなさい。」
ええ、多分。
「はやく、自慢の妹に相当するものになってくださいね。」
きっと。 ちょっと折れそうですが…
明日から、また、厨房です。
楽しみです。
別に、勉強から開放されて
喜んでいるわけではありませんよ。
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「芽衣子さん。おめでとう。一つ達成だね。」
気がついたら、私は、本に囲まれた本屋の中。
これは夢の中ですね。また、干渉されているのか。
でも、以前は結構歩いた記憶が在るのに、今回はない。
いつここに来たの、私?
「ああ、面倒だから、そのまま呼び寄せちゃった。」
おい。
立ち話も何だからといってクッションの良い椅子を
すすめられた。彼も机をはさんだ真向かいに座る。
「それより、こんなに早く集めちゃうなんて、
びっくりだよ。」
そうなのよね。
カースが持ってるなんて、知らなかったから、
余計にびっくりした。
「まあ、一つ目は君の近くにあるのは判ってたんだけどね。」
え? 聞いたっけ?
「いいや、言ってないね。」
この狸め!
「違うよ。春海、春ちゃんです。」
その綺麗な名前、似合ってないから。
「それより、コーヒーどうぞ。 芽衣子さんの好きなブレンドだよ。」
あら、良い匂い。
これは、コロンピアスプリィム浪川ブレンド。飲みたかったんだよね。
机の上にほかほかと湯気を立てた美味しそうなコーヒーに
美味しそうなバターたっぷりのクッキーにチョコチップクッキー。
芽衣子の怒りはすぐに消えた。
「君があの海に落ち、あの船に拾われたのは偶然。
だけど、宝玉が、あちらの世界の強い力を持つ君に
ひきつけられるのは必然だよ。」
うーん。美味しい。
久しぶりだといつもの味よりももっと美味しい気がする。
それに、このクッキーとコーヒーの組み合わせが最高にいいのよ。
「聞いてないよね。 でも、2つ目はちょっと大変かも。」
何かいやな事聞いた。
「大体の場所はわかるんだけど、教えて先入観もっても
芽衣子さん、器用の性格ではないからね。」
貶されている気がします。
「褒めてるんだよ。今回なんて、力技に近いよね。」
でも、今回、私、何かした感じないんだけど。
達成感とかぜんぜんないんだよね。
「何かは心に積もるものだからね。
一つ目の宝玉の場合は親愛。
無償の愛情を信じ求め、与える心。」
へえ。
「解ってないよね。」
うん。
でも、カースが幸せならいいなって思ってる。
「単純だね。 そこがいいとこなんだけどね。」
さっきから、褒められてる気がしない。
「ところで、芽衣子さん、幽霊は好きですか?」
幽霊?ゾンビとか、吸血鬼?
いやだよ。ホラーって基本嫌いなんだよ。
怖いし、汚いし、痛そうだし。
「そう、頑張ってね。」
何を? いやです。拒否します。逃げます。
「無理でしょ。それに、加護がちょっとだけ使えるかもだし。」
カモメと話せるスキルは幽霊に役に立つの?
「役に立たないだろうね。だから、頑張ってね。
あ、一応、お祈りしとくから。」
そういって、狸の姿がまたもやうっすら消えていった。
にこやかな笑顔が憎らしい。
ああ、クッキーまだ半分しか食べてないのに。
起きた時、やっぱり手に持っていた食べかけのクッキーは
跡形も無かった。




