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箱をあけよう  作者: ひろりん
第1章:船上編
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目が覚めました。

ポロンポロンと弦を弾く音がした。


以前に夢で同じ曲を誰かが弾いてくれた。


思い出した。

この曲。


シューマンのトロイメライだ。

小さい頃、よく子守唄に

母が口ずさんでいた曲。


懐かしい。


目を閉じたまま、旋律に耳を傾けていたら、

以前の夢と同じように誰かが

私の頭とお腹の下辺りに触れた。



暖かなぽわっとした気配が

触られている部分から広がっていった。


体の痛みが薄くなっていった。

今度は目を開けようとしなかった。


なんとなく開けなくてもいいと思っていた。










セランに肩を揺すられて、

目が覚めました。


このソファ木造りのくせに

寝心地良かったです。

体も、朝よりずいぶん楽になりました。

なんとなく、動きが軽いです。

ですが、起きたらもう夕焼けの空でした。


ガーン。


お昼ごはん、食べ損ねました。



ベットの方を見ると、カースは良く寝てました。


そうそう、カースの容態をしっかり

報告しなくちゃね。


「カース、昼、発熱、出た。」

 


セランは真剣な顔で、カースの診察をしていった。

それが、一通り済むと、

髭をさすりながら、にかっと笑って

褒めてくれた。


「薬は飲んだみたいだな。 ご苦労だったな、メイ。」



「はい、カース、薬、飲んだ。」



飲んだというか、飲ませたというか。

乙女として、正直には言いづらい。

ちょっと下向いて、指でのの字を書いてみる。



カースの様子も落ち着いてきてるので、

夕食に行って来いって言われて、

セランとカースの看病を交代して、

食堂に向かった。



今日の夕食はなんだろうな?


そうだ、カースはごはん

食べられるのかな?



もし、スープか何か食べれるようなら

部屋に持って帰ろうっと。



朝よりもずいぶん体の動きが楽だ。

やっぱり、人間は睡眠と食事をきちんとをとると

元気になるんだよね。



カースもレナードさんの美味しいご飯を

食べたらあっという間に元気になるに違いない。







私が、スキップをしそうな勢いで

食堂へいそいそ行っている間に

カースの意識が戻った。



「お、カース、目が覚めたか。

 気分はどうだ? 」


セランが診察するために、

カースの腕を取り、脈を診ていた。


カースはまだ、意識がぼやけているみたいで

返事は曖昧な物言いが多いようだ。


「薬も飲んでるし、熱も下がってる。

 傷も化膿してない。このまま、経過がよければ、

 2,3日で動けるようになるだろう。」


カースがセランの言葉に首をかしげている。


「薬? 飲んだ記憶は無いが。」


「飲んだから、熱が下がっているんだろうが。

 昼間、発熱したから、薬を飲んで、

 今、小康状態だ。」


「そうか。」



カースはまだ寝とぼけているようだ。

いつもの鋭いつっこみがない。


「メイに感謝しろよ。 お前が熱を出して、

 苦しんでいる時に、ずっと側で看病してたんだからな。」


メイの名前をだした時、

何か反応するかと思ったが、

カースの反応は鈍かった。


カースはメイに強い猜疑心を持っていた。

それこそ、可笑しなくらいだったはず。


「そうか、彼女が。」



何を考えているのか、わからない表情だ。


セランは髭をさすりながら、

じっとカースの表情を観察していた。



カースは年相応の顔をすることは

めったにない。

はじめてセランに会ったときも

ずいぶんすかした奴だった。


一緒に船に乗って航海するようになって

性根はいい奴だってのは解ったが、

警戒心が強い、決して、他人とは馴れ合わない。

それがセランの知るカースだった。



だが、今のカースはいつものカースと

何かが違った。

雰囲気に違和感があるのだ。


まあ、熱で前後不覚になっちまったって言う事では

ないと思うが……



戸口が軽くノックされた。


「メイ、カースの様子はどうだ?」


レヴィウス船長が入ってきた。


俺の顔を見て、目が覚めているカースの状態に

気づいたみたいで、カースの側にやってきた。



会話の邪魔をしないように

飾り棚の側の壁に寄りかかった。




「目が覚めたのか。カース。もう大分いいのか?」


カースは無言で頷いた。


「あれから、丸2日は経ってる。

 何が自分に起こったのか、覚えているか?」


カースは痛まない左手を軸に

体を起こして、しばらく考えていた。


「誰かに危ないといわれて、振り返ったらローブの索具が

 飛んできて当たった。海に落ちるかと思ったところで、

 何かに跳ね飛ばされて、転がったとこまでは記憶がある。」


レヴィウスはカースの言葉を聞きながら、

今のカースの状態は正常だと判断した。

だから、真実を伝えることにした。



「メイだ。」



「はい?」



レヴィウスは顔を上げたカースに目を合わせて

再度伝えた。


「お前に危険を知らせ、海に落ちるとこだったお前を

 体を張ってたすけたのはメイだ。」



カースの目が大きく開かれる。


「何度も引きずりこもうとする大波から

 体を張って、お前を守ったのもメイだ。」



カースの表情が困惑と驚きで固まっていた。



「何故? そこまで…」



レヴィウスはふっと笑い、

至極嬉しそうな表情で答えた。



「さあな? 本人に聞いてみろ。」



カースの表情に戸惑いと迷いが浮かんだ。



彼らの会話をじっと聞いていたセランは

なんとなく、もう一押しカースの背中を押してみたくなった。


「多分、なにも考えてないんじゃないか。

 メイはあきれるほど単純だからな。」


そういって飾り棚の上にあった

カースのペンダントをベットの上に投げた。


ベットの上に無事落ちたペンダントには

カースが見たことの無い美しい紐がついていた。



ペンダントを左手で取り上げ、

紐を持ち上げてしげしげと観察していた

カースの口から、小さなため息が漏れた。



「これは、メイが? 」



「多分、そうだろ。 昼間ここにいたのはメイ一人だ。

 それに、これ、ものすごく手間がかかる代物だぞ。」



その紐を一緒に見ていた船長の顔が

誇らしげに笑った。


「メイは手先が器用だからな。

 細かな作業も得意なんだろう。」


どうやら、船長もメイを気に入っているようだ。



カースの手に握りこまれたペンダントの紐と、

カースの表情を見比べてみる。



カースは大きくため息をつき、

セランに尋ねた。



「今、メイはどこに?」



「ああ、食事に行ってる。

 体の軋みも大分和らいだみたいだ。

 夕食って言ったら、嬉しそうに駆けていった。」



船長が眉をひそめて

セランに訊ねる。


「もう、軋みが取れたのか?

 ずいぶんと治りが早いな。」


肩をすくめて答える。


「若いからな。 それに、思ったより症状が

 軽かったのかもしれん。

 どっちにしろ、軋みは3日目が一番酷い。

 明日になれば、もっとわかるさ。」



カースは、他人ごとのように語るセランの口調にむっとした。



「食事が終わったら、この部屋に帰ってくる。

 その時に聞いてみればいい。

 起こしてやるから、もう少し寝てろ。」


レヴィウスはそういって、カースに手を貸して

ベットに再度横たわらせた。



カースは目を閉じて、今、聞いた話と

自身の記憶との認識のすり合わせを始めた。



覚えていることは本当に

断片だけだったが、

レヴィウスの言葉でいくつかの

パズルのピースが埋まった感があった。


同時に、どうしてだか、

メイに以前から感じていた不信感や

猜疑心。

それが、綺麗になくなっていることに

至極驚いていた。



彼女と、メイと話をしたい。


カースは痛切にそう願った。


 







食堂に入ると、ルディが相変わらず忙しげに

働いていた。

船員達はお酒を飲みながら

美味しそうな夕食を食べていた。



この匂い、そそるわー。



香ばしい香りとふわっと鼻腔をくすぐる

スープの匂い。



相変わらず、レナードさん達の料理は最高です。



すぐに私に気がついたルディが食事の皿を

一番奥の机に置いて、私を案内してくれた。



今日の料理はキャセロールと、豆とトマトの

ミネストローネ、いり豆の練りこんだパン。


くぅー


五臓六腑に染み渡ります。


塩加減が絶妙です。

お肉と野菜のコンビネーションが

豆パンと大変にマッチ。


美味しすぎます。

師匠!



少しずつ食べ、豆の一粒まで

美味しくいただき、大変満足しました。



ゆっくり、食堂の窓口に近寄って、

窓口から、レナードさんに挨拶した。


「レナードさん。ラルクさん、マートル。 

 ご飯、美味しかった。」



キラキラしたつぶらな瞳でレナードさんは

嬉しそうに豪快に笑ってくれた。


ラルクさんはそっとうなずいてそのまま作業中。


マートルは、と顔をみたら

視線がぴたっと止まった。


インド人マートルではなくて、

角刈りマートルになっていました。


ちなみに手ぬぐいは三角巾のラルクさんと

同じ様にしている。



あんなに髪切るの嫌がっていたのに。

どういった心境の変化だろう。



髪の毛が料理に入ったのなら

問答無用でつるつるのはずだし。



首をかしげていると、レナードさんが声を掛けてきた。


「もう、調子はいいのか?」


嬉しくなって笑顔で答える。



「はい。ご飯、美味しい、すぐ、怪我、治る。」



レナードさんの手が豪快に私の頭をぐしゃぐしゃにした。。



「そうか、そうか。嬉しいこと言ってくれる。」



そうだ、怪我で思い出した。

聞いてみなくちゃ。



「カース、ご飯、運ぶ?」



「おっカースの目が覚めたのか。

 今、用意してやる。

 怪我人には、スープとパンでいいだろ。」


パンは豆パンではなくて

いつもの漬けるとふにゃふにゃになる

硬パン。

スープは小さな片手鍋に入れてくれた。


スプーンとパンをポケットの中のハンカチで包み、

ポケットに入れた。

そして、皿を鍋の上に蓋のように乗せた。

そして、皿がずれないように、

手ぬぐいできゅっとしばる。



よし、準備完了。



ルディが私の体調を気遣って、

自分が持っていくといってくれたが、

大変忙しそうだったので、

大丈夫だから、ゆっくりいくからと言って断った。



転ばないように、ゆっくりゆっくり。

スープが冷めないように、

両手でかかえるようにして、

壁際に沿って上がっていった。





どうにかカースの部屋まで

帰ってきたので、鍋を胸に抱きかかえ、

軽く部屋のドアをノックする。




「はい、どうぞ。」



カースの声がした。





目が覚めたんだ。



ゆっくりとドアを開けて、

胸に抱えていた鍋を両手で

持ち直し、カースのベットの側に寄っていった。






 


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