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箱をあけよう  作者: ひろりん
西大陸砂の国編
207/240

幸せと不安が交差する日。

新しい登場人物どんどん増えます。

「僕の精一杯で君を幸せにする。だから、結婚してくれ」

「はい」


ミラさんとヘクターさんは隙間もないくらいに抱き合って、

沢山の観衆の目も気にせずプロポーズ。

ミラさんの目じりからうれし涙がつうっと毀れた。


ドラマの純愛系ハッピーエンドのワンシーンみたいです。

なんだか二人の周りにスポットライトが当たっているように、

そこだけぽっかり空間が出来ている。



しばらくして周りを囲んでいた人々が大きな拍手をした。

私も、もちろん一緒に拍手です。


「よ、ご両人、幸せになんなよ」

「告白から一気にプロポーズなんて、素敵だわ」

「ミラ、本当によかったわね」

「おめでとう、二人とも」

「ヘクター、結婚式には呼んでくれよ」


全員から盛大な祝福を受けて、二人は初めてそこが公共の場だと気が付いたようです。


二人そろって顔どころか全身が一気に赤く染まりました。

そして、抱きしめあっていた体を慌てて放し、視線をあさっての方向にそらす。

だが、伸ばされた手だけはしっかりと繋がれていた。


恥ずかしくて仕方ないけど、想いが通じた今はもう離れたくない。

そんな様子は初々しさが全面に出た慣れない恋人同士にも見えて、

微笑ましく可愛らしい二人にみえた。


二人は頬を赤く染めたままお互いを見つめ、

ゆっくりと祝福の声を掛けてくる周囲に向かって微笑んだ。


「有難う、皆」

「あ、有難うございます」


幸せいっぱいの二人の笑顔に癒され、周囲に和やかなムードが広がった。

年かさの同僚や気のいい友人らは、

彼等を囲んでそれぞれに祝福の言葉を贈っていた。


幸せって、暖かくて心がほんのり明るくなって、本当にいい感じですよね。

今日は偶然とはいえ、ここにお使いに来て良かった。

ハッピーエンド映画を無料で見た気分です。

思いもよらないちょっとした幸運って、お得感満載な感じがします。

ここにお使いを命じてくれた老師様に、感謝したい気分になりました。


私が、ほうっと雰囲気に浸っていたら、人が増えてきた。


どこにそんなに沢山の人がいたのかと言うほどに、

店のどこ彼処から深緑のエプロンの職員が出てきて、

気が付けば、職員に取り囲まれていました。


人口密度か増えたせいか、ちょっと空気が暑苦しい。

深緑が階のスペースの半分以上占めていて、

本や展示物の間の空間が一段と狭く感じた。


其れゆえだろう。

人いきれに押されるように、客らしき人々が、

一人また一人と階段へ消えていった。


私も他の客と一緒にその場を後にすることにしました。

幸せな二人に祝福のエールを送ると、特にすることが無くなったからです。


お使いの本も手に入れたし、夕食の材料も買った。

あとは、何かしなくちゃいけないことあったかしら?


頭の中で指折り数えるが、何かがひっかかる。

なんでしょうか。


階段の傍で足を止めて考えていたら、後ろの人が肩を叩いた。


「君、君、こんなところで立ち止まったら危ないよ」


ああ、そうですね。

その通りです。


「はい。すいません」


しっかり謝って背筋を伸ばした。

今は、考え無い方がいいでしょう。


とりあえず、頭の中から考え事を追い出して階段を降りて行った。


夕食の材料や分厚い本などのズシリと重い荷物を抱えているのに、

なんだか幸せ気分に充てられて足が軽く感じた。


私は、とんとんとんとリズムよく階段を下りていった。





********





さて、人間は幸せを素直に喜ぶ感情を持つと同時に、

やや斜めにとらえてしまう傾向がある。


斜めにとらえる人間という類は、

殆どがわが身との対比で一概に世をすねる、

または卑屈行動に走るのが世の常であった。


他人の幸福を目の前にちょっとした反発心。

それもまた自然な過程なのだろう。


幸福ムードに相反する輩が、部屋の片隅でとぐろを巻いていた。

座り込んで面白くなさそうに剥れている。


今、この部屋にいるのだから当然であるが、

それらは先程祝福の言葉を言ったばかりの、ヘクターの友人であり同僚であった。


「あ~あ~、いいよなあ、俺もミラちゃん狙ってたのに」

「そうだよ、ちくしょう羨ましいよ。

 ミラちゃん可愛いのにヘクターの☆★☆野郎め」


先程幸せなれよと言ったその舌の根が乾かぬうちに、そんな憎まれ口を呟く。

その口はタコのように尖っていた。


後ろに立っていた男が二人のタコ男の肩をがしっと両手で掴んだ。

類は友を呼ぶようだ。その男も同じ様にタコッパチな様相であった。

額にかかる髪毛はかなり薄い。新装タコに成る日は近いかもしれない。


「諸君、モテ男ヘクターにはいつか天罰が下る、いや、俺達が下す」

「そうだ、天罰だ。 結婚式にぱあっと邪魔するか」

「天罰賛成! 俺達が結婚していないのに何故年下のヘクターに嫁がくる」

「そうだそうだ、許せねえ。 俺のがヘクターよりよっぽどいい男だ」

「それは俺だって負けてねえ。思うにミラは見る目がねえ」


うんうん、そうだそうだと、3人揃って頷いている。

そして、結婚式に特に強い酒を持ち込んでヘクターを酔い潰そうと企画する。

初夜の邪魔計画。 ちょっとした意趣返しというか悪戯のつもりだろう。


「へへ、楽しみだぜ」

「ああ、いい気になるからだ、ヘクターのモテ野郎」

「泣きっ面をかきやがれってんだ」


男の友情というものは嫉妬が絡むとトイレの紙よりも軽いことがここで判明する。

口も軽けりゃ尻も軽い。考えも浅はかで軽すぎる。

紙より先にトイレに丸めて流したほうがいいに決まっている。


計画が綺麗にまとまったところで、彼等の話は世間話に切り替わる。


「ようお前さあ、昨日、酒場のルビィを落とすって言ってただろ」

「おいおい違うぜ。

 こいつは昨夜、落とすどころか酒の海にぷか~って浮かんだんだよ」

「浮かんだ? ああ、木端微塵に振られたか」

「はっ、ざまあねえ。お前は気が多すぎんだよ」

「そうねえ、それも一理あるわよねえ~」


男同士の遠慮のない雑な会話に、いつの間にか1人の美女が割り込んでいた。

どうやらこそこそ円陣を組んで話していた男同士の秘密の話が、

いつの間にか円陣の中に座っていた美女に聞かれてしまったようだ。


円陣が一瞬で割れ、全員がその美女から距離をとろうと腰を浮かした。


「ねえ~貴方達~随分楽しそうな話をしてるじゃない?」


すらっとした体躯に、メリハリの効いたダイナマイトボディ。

キラキラとした白金の長いうねる様な髪に、薄い灰青色の瞳。

真っ白のきめ細やかな肌にすっと伸びた鼻梁に熟した果実のような赤い唇。

目のふちを金のラメで綺麗に縁取り、ばさばさの長い睫がきらりと光る。

目じりにくっきりと浮かび上がる泣き黒子が色っぽい。


うふふと嬉しそうに笑う口から伸びたピンクの舌が赤い唇をなめた。

そして、しゃらんと音がして、目の前の男の顎がくいっと持ち上げられる。


女の細い指には銀糸フリルに水晶のビーズが大量についた黒の指手袋。


指手袋とは踊り子や楽器の演奏などで指を使う人が愛用する5本の指のみを覆う、

長い指サックの様な手袋だ。

手のひらと甲の部分には布地は無く指元関節のみを覆うものだ。

飾りとして、また機能性の一部として、

手首に光る銀のブレスレットから伸びる3本の細い銀鎖が指手袋を繋いでいる。


それらは、女性が手を動かす度にシャラシャラと軽快な音を立てるのだ。


顎を持ち上げられた男の顔が真っ赤に染まる。

圧倒的な色気を前に、男は目を白黒させるだけである。


「あ、あの、その、オレ、えっと」


茹で上がったように耳まで赤く染まった男は、

目を大きく開いて言葉にならない何かを口にしようと頑張っていた。


美女は妖艶に微笑み、もう一方の手でキラキラと光る豪奢な長い髪を肩からはらった。

しゃらりと揺れる銀装飾の大きな水晶の耳飾りがきらりと光った。

首回りから鎖骨辺りを覆う水晶と銀を象ったチョーカーがキンっと硬質な音をたてた。


男達の体が固まったように動かなくなった。

いや、あまりの出来事に脳が動く指令を受け取ってないのかもしれない。

頭は忙しなく動き思考回路が右往左往するが、当然纏まらない。


ゴージャスに着飾った美女が舌なめずりしながら目を細め、

目の前の男の唇を指の背でつうっと撫でた。


「うふふふ、友人の幸せに水を差すなんて無粋な事、

 私の部下であるこの書架市場の職員が、まさかするわけないわよねえ~」


赤かった男の顔が一瞬で青くなる。


「どうしてもっていうなら~止めないわよ。

 だってねえ~、うふふふ。 

 腐った男の自虐心 踏みにじって調教するのって、とっても楽しいのよねえ~

 ああ、ぞくぞくしちゃう」


その瞬間、全て聞かれたと悟った男どもの額に汗が流れ体に震えが走った。

暑くて汗が流れているわけじゃない。 これはもちろん冷や汗だ。


「ま、まさか、俺達は、ただ言ってみただけで、なあ」

「そ、そうですよ。もちろん俺達はそんなこと、なあ」

「じ、じ、冗談、全部、冗談です。サーリアさん」


何故、彼等はこうまで目の前の美女に震えているのか。

答は、すぐにやってきた。


「おや、サーリア司書長、帰ってきてたのかい?

 今回は早いお帰りだったね。

 どのくらい蹴っ飛ばしてきたのかい?」


やってきた婆は、この書架市場全体を束ねる総括総長である。

齢70にして女性だてらにこのマッカラ王国書架市場の長を務めるヤリ手婆だ。

生きる生き字引と呼ばれるこの書架市場の柱であった。


「ノルバ総括総長、ただ今帰りましたわ~

 うふふ~そうねえ、半泣きはもう飽きたから~

 キツメに絞めて~靴をなめさせてあげようかなってとこかしら~」


そしてこのサーリアは、若くして司書長を務める自他ともに認めるどSな鬼畜である。


誰よりも優秀で頭の回転が速く弁も立つ。

そして、若くてゴージャスな目を惹く美人。

並み居る競争相手を押しのけ、

ノルバ総長の一言で2年前強引に選ばれた司書長である。


司書長拝命後はサーリアは聊か強引な手法で書架市場の改革を行った。


それまで、学者肌の職員が多かった書架市場の会計は火の車だった。

高価な貴重本や絶対数が少ない古書が紛失することも多々あり、

管理の杜撰さに加え、賄賂やゆすりなどの悪行が堂々と横行していたのである。


彼女は証拠を犯人に突きつけて脅したのである。

いや、脅しなどど可愛い物ではない。


金儲けや犯罪を施行していた不埒者を笑顔でどん底まで突き落とし、

演説爽やかに急所をこれでもかと抉り、塩を塗った後炙って切り刻み更に炙る。

後は真っ黒消し炭が残るだけだ。


料理の話であれば、手間かけすぎで食べられないのでは、との一言ですむが、

扱う素材は人間の精神である。

それも彼女は執拗にねっちりねっちり弄るのが大好物であった。


彼女の大好物は犯罪者であり、特に、気に入らない人間に対しての扱いは、

口に出せない程に熱意を持って勧められたのだった。


その結果として、書架市場に掬っていた賄賂や貴重本の横流しなど、

影で悪行を重ねていた幾人かの職員は自ら警邏に出頭し、

頼むから書架市場のサーリアの前に連れて行かないでくれと哀願したのは、

大変有名な話だ。


書架市場が一新されたのは彼女の手腕である。

それは、誰しもが認める功績だ。

わずか任期二年で書架市場に巣食う悪を根絶したのである。


だが、もう一つの困った結果もあった。


彼女の反対勢力は刃向う気力も切り取られ、完膚無きままに捻じり潰されたが、

掴まった使える彼等の部下であったり、

不遇に足掻きながらも仕方なく下っ端だった者が、

彼女を我が女王様と崇めて、忠実な僕として仕えている現状があった。


彼女が高笑いし悪巧みに微笑む度に彼女に傾倒する人間が増えていった。

その上、彼女は鞭を愛用品として常に携帯している。


サーリア曰く、これ、いろいろ便利なのよねえ~の一言であったが、

それがどういう意味での便利なのかは、誰もあえて聞かなかった。


その一連の事実から、彼女は、

『男を夜な夜な鞭でひっぱたき高笑いしている美女』

との噂が広がっていた。


どこまでウソかホントかは解らないが、

事実、筋骨たくましいごつい男達が頬を染めて、

朝方彼女の家から出てくるのを何人もの職員が目撃していた。


彼等は体に包帯を巻き付け痛みを抱えながらも、

へへへと薄気味悪く笑って満足そうに彼女の家から出てくるのである。


変態の道に落ちるのも信者になるのも遠慮したい。

職員一同の心の声がそう告げていた。


そもそもサーリア司書長は、ノルバ婆さんが育てたようなものなのだ。


決めたことに一切の妥協を許さない鉄壁の女総括総長ノルバ。

しかし、その決定権はノルバ婆さんが決めたルールにしたがって施行されるため、

世間一般常識との隔たりはかなり深い。


書架市場の改革を担う為に、3年前に王立研究所から大抜擢された女傑である。

書架市場の総括総長になる前は王立学問所顧問、マッカラ王立学園理事長、

王立研究所事務長と歴任して見事な手腕を振るった。


そんなノルバ婆さんが育てたサーリア司書長はノルバに輪をかけた様に、

傍若無人で唯我独尊を貫いている。

この二人のコンビに、今やこの書架市場でだれも逆らう者はいなかった。



「おやそうかい。だが、程々にしてやんな。

 いつも言ってるだろ。調教は、飴と鞭の割合が大変なんだ。

 使い物にならなくなって取り替えられたら、面倒じゃないか」


そしてこの総括のノルバ婆さん。

当然だが、サーリアの能力を心から信頼しかなりの仕事を任せていた。


「うふふ、解ってますわ~

 ちゃあんと、飴も与えてきましたもの~

 きっちり一歩手前で止めて、

 逃げないように鎖に繋いてエサを上げてきましたの~

 根回しはばっちりですわ~証拠も残してませんし~」


会話を聞いている職員達の背筋がぞくぞくした。

人間なら、誰に何をいつどこでどうやってと聞きたい好奇心はある。

だが、好奇心は猫をも殺すのだ。

ここに働いている人間でそれを知らない奴はいない。


以前、彼女の傍を興味本位で嗅ぎまわっていた職員は、

ある日ある時、行方不明になり、やっと帰ってきたら茫然自失。

誰が何を聞こうと狂った様に頭をかきむしりながらも無言を貫いた。


今、その職員は立派に道を外れ、女王様の立派な僕となっている。

彼の現在の座右の銘は『女王様に踏まれたい』である。

もちろん彼はマッチョ信者と一緒の朝の女王様参拝には欠かさず行っている。

頬を染め嬉しそうに笑う姿はくねくねと不気味であった。


序に彼は、彼女が行く所ならどこにでもついていく。

本人曰く、女王様の足踏み台として必要とされているらしい。


「ふん。証拠を残してくるなんぞ素人もいいとこさ。

 それは心配してなかったがね。

 それで例のあれは手に入れられたのかい?」


「いいえ~でも確実な伝手は手に入れましたわ~

 近々遠くの友人が持って訪れてくれるのですって。

 丁度知らせが届きましたの。 だから~

 もったいないけどお仕置きは先送りしましたの~

 せっかく、楽しそうなセットを手に入れたのに、試せなくて残念ですわ~」


全ての職員が、心の中で耳を閉じた。

聞いてない聞こえてない聞いちゃいけないと呪文を唱える。

そして心の底から願う。


頼むから公共の場でそんな話をしないでくれと。

巻き込まれて僕の仲間入りはしたくなかった。


もちろん、目の前で震えている3人の男性職員もである。

頭の中に浮かんでいるのは、

『平凡でもいい、普通の幸せが欲しい』のフレーズであった。



男たちは、ずるずると壁際を擦る様に逃げようとした。

だが、サーリアの顔がくるりと振り向いた。

まるで人形の首がぐるっと回転したようにである。


その目は、新しいおもちゃを試したいと期待に満ち溢れていた。

もちろん試す相手はそこにいる3人だ。


「ひぃ」

「か、勘弁してください」

「す、すいませんでした」


ガタガタと振るえて泣き始めた男達に、

更にサーリアは赤い唇を三日月型にしてにやりと笑った。

今の男達は、ホラーハウスに取り残され、ボス降臨に怯え死を待つ捕虜同然であった。


サーリアが何か言う前に、ノルバ婆さんがため息をついた。


「およし、サーリア。

 もうじき棚卸だっていうのに、貴重な男手を損ねるんじゃないよ。

 どうしてもやりたきゃ棚卸の後にしな」


一応止める言葉を吐くが、微妙である。


「そ、そんな、ノルバ総長」

「嫌だ、お願いです。助けてください」

「もうしません。ごめんなさい。許してください」


三人が泣きながら土下座した。


「そうねえ~ノルバ婆さんがそこまで言うなら、今回は見逃してあ・げ・る。

 でも~次はないから。

 忘れたらあんた達は一生涯、干からびるまで私の下僕よ~」


楽しみだわ~と高笑いしているサーリアを前に、ノルバ婆さんが、

鬱陶しそうに持っていた杖を三人に向けて振った。


「早く持ち場に戻らんと、ひん剥いて皿に乗せて差し出すぞ」


その言葉に、ひいっと叫びながら男たちは逃げて行った。

三人が逃げた後、そこには誰も残っていなかった。

あれほど沢山の人が集まっていたのに、蜘蛛の子を散らすように居なくなった。


残ったのは部屋の隅に居るヘクターとミラだけである。

ヘクターとミラは神妙な顔つきで、

じっと彼らの会話が終わるのを待っているように見えた。


だが、ノルバ婆さんは二人を無視したまま、サーリアと話を続ける。


ノルバ婆さんが、サーリアに小さな紙を渡した。

それを受け取ったサーリアの眉が険しく寄る。


「これ、ほんとなの?」


「ああ、そうらしい」


「そう」


しばらく目を閉じた後紙を豊かな胸元にしまい、

サーリアはパンパンパンと手を叩いた。


「全員~注目~本日中に明日の通常業務も全部終わらせてね~

 予定を繰り上げ、明日朝一番で書庫の棚卸を前倒しで行うわよ~

 棚卸関連書類および決算書は今週末までね~」

 

職員全体が少しざわめく。


「明日?」

「今日中に全部?」

「棚卸は来週のはずじゃあなかったのか」

「今週末までに決算書提出?出来るわけないじゃない」

「馬鹿、出来ないなんて言ったらどんな目に会うか解らないぞ」

「じゃあ今晩は残業か。朝までには、まあ、終わらないだろうな」

「お前今晩だけで済むのか?俺は今週末まで寝る暇ない」


ところどころで小さな不平不満が上がるが、にっこりと笑ったサーリアの笑顔の前に、

全員が凍りついた。


「出来ない人は~もちろん、お・し・お・き・よ~

 うふふふ、腕が鳴るわ~お試しセットが待ってるわよ~」


どこかでひぃと悲鳴が上がった。


どこか他人事のようにはあっと小さなため息をついていた女性群も、

サーリアの次の言葉で固まる。


「このお試しセット、女性用もあるのよ~

 随分親切だと思わない~?」


女性達も、ぐっと喉が詰る様な声が上がりそうになるのを抑え込む。


ノルバ婆さんが杖で適当な本棚をココンと鳴らして注意を惹いてから、

ドンと大きく床を叩いた。


「くっちゃべっている暇があるなら、仕事しな!

 間に合わない奴は、容赦なくサーリアのおもちゃになるんだね。

 ああ、その場合は給料ナシでもれなく首が飛ぶっておまけがつくがね」


全員がひぇぇぇぇと心の中で泣いた。


「で~も~、優秀な人はボーナス追加なんかあっちゃったりするかも~

 そ・れ・に・3連泊の休暇なんかの許可がもれなく降りるかも~」


さっきまで青白かった顔がぱあっと明るくなった。


「え?ホントですか?」

「やった~ボーナスに休暇。うわあ、どうしよう、何買おう」

「連泊の休暇って何年ぶりだろ。 田舎に帰れるな」

「来月、創生祭があるだろ。 それに向けて連泊で休みとりたいわ」

「うちの両親も神殿の祭りに行きたいって言ってたから、

 子供たち連れて行こうかしら」


口々に明るい未来を想像し、口に出し始めた。

もう誰も理不尽な計画変更に文句を言うものはいない。


サーリアがにっこり笑って両手を広げた。

「さあ~皆さん~頑張ってお仕事しましょうね~」


全員が明るい未来だけを視界に入れて死にもの狂いで頑張ることになった。

正に飴と鞭である。

甘い飴は痛い鞭の効果を最大限に生かすのである。


見事な手腕だ。

誰しもが思ったに違いない。


サーリアは漸く部屋の隅にずっと立っていた二人に視線を向けた。

視線が向けられると二人はそろって頭を深く下げて謝った。


「お騒がせして、本当に申し訳ありません」

「本当にすいませんでした」


二人にサーリアが向ける目は、やや冷たい。


「本当にねえ~就業中だっていうのに、いちゃいちゃいちゃいちゃ。

 仕事を舐めているのかしらねえ~」


ヘクターとミラは頭を上げられない。


「まあいいわ~でも罰は必要よ、覚悟してね~

 いい~よく聞いてね~

 今週中に~これから先二週間分の業務をすべて終えてね~

 棚卸を前倒しにしたので頑張れば可能でしょう~」


ヘクターとミラが、びっくりして顔を上げて声を上げた。


「今週中に先二週間分!?」

「えええ?! わ、私はともかくヘクターはたださえも忙しいんです。

 そ、そんな、せめてもう少し」


ミラの口をヘクターの手が止めた。


「いえ、それは僕がすべきことです。

 もちろん問題ありません。今週中ですね。承りました」


「そ、それなら、ヘクター、私も何か手伝いを」


サーリアがにっこり笑ってミラに微笑んだ。


「ミ~ラ~、貴方~人のこと言えないでしょう~

 聞いてた?棚卸明日なのよ~2階の決算書作成担当は誰だったかしら~

 貴方達、お互い寝る間もないと思いなさいね~

 これが~貴方達二人に~神聖なる仕事場で仕事をないがしろにした罰」


ミラの顔色がさあっと青くなる。


「け、決算書、あと一週間で?通常なら一ヶ月以上かかるのに。

 し、死んじゃうかも」


がくりと肩を落としたミラの肩をそっとヘクターが支えた。


「で、ねえ~さっき言ったこと聞いてたかしら~

 ちょっとしたボーナスとお休みがあるかもって言ったでしょう~」


二人は、はっと目が覚めたような顔でサーリアを見つめた。


「一週間後に業務をすべて終えたら、二人は7日間の謹慎ね~

 それと~連泊の休暇を合わせて申請したら、10日は休める筈よ~

 その間に、二人そろって~式を挙げるなり~ 新居を探すなり~

 まあ、好きすればいいわよ~」


それを聞いた二人は、一瞬自分の耳を疑ったが、

サーリアが返す微笑と頷きに、二人の顔がぱあっと明るくなった。


「あ、有難うございます。頑張ります」

「感謝いたします、司書長」

 

それを聞いていた幾人かの職員が、心の中で喝采を送った。


たとえ、どS鬼畜で無茶な事ばかりいうあんな人でも、

本当は自分たちのことをちゃんと考えてくれる上司なのだ。多分。


鞭の後にはちゃんと嬉しいご褒美がある。

今回の罰は、それ以上に大きなご褒美を二人に与えることだろう。


二人は嬉しそうな顔でさっさと仕事場に戻っていった。

その瞳は未来を夢見る力強い輝きを放っていた。


一生ついていきますとまでは絶対、口が裂けても言わないが、

この人の下でそこそこ真面目に働くのはそんなに悪くない。

ヘクターもミラも、その場にいる職員達も皆そう思っていた。


そして、お仕置きされない内に、

皆一斉に自分の仕事に熱をいれて取り組んだ。 





******






バタバタと急ぎ仕事をする職員達の様子を確認したのち、

サーリア司書長とノルバ婆さんは二人で5階奥の司書長室に入っていった。


中に入ると、机の上を片付けていた秘書のカーラーンが振り返った。


彼は、ノルバ婆さんの目線の指示を受け取り、

ぺこりと二人にお辞儀して黙って出て行った。


茶髪のふわふわの髪は後ろで小さく束ねられ、長い前髪が目を覆い隠している。

その為、カーラーンの顔の表情が解りにくい。


パッと見た印象は若いが、青年にしては低い地声と、

存在感を隠すように静かな佇まいに、年齢不詳な印象を与える不思議な青年だ。


カーラーンは真面目で堅物だが、実直で大人しく頭のいい優秀な青年だ。

彼は、学園生であった時に、とある事件に巻き込まれ借金まみれになった両親が死に、

また身に覚えのない罪を被され殺されるはずだった被害者となったが、

サーリアに救われて、残った借金も肩代わりしてもらって無事卒業し、

現在サーリアの傍で秘書として働いている逸材だ。


最初は借金を返済するまでサーリアの傍で働くと言ったのだが、

借金を返済してもなお、ずっとサーリアの傍で働きますと言って聞かない。


優しい心の広いいい男の分類に最近育ってきたところだ。

そんな彼は大変気配り上手で仕事も早い。

サーリアもノルバ婆も大変お気に入りの青年である。


楡の木を使った大きなソファに二人は向かい合って座った。


深緑のベルベットが張られたクッションの良く効いたソファに、

楡を磨いた濃い木目調の落ち着いた長机は趣があり、

部屋全体にシックで落ち着いた印象を与えていた。


「それにしても、ヘクターとミラがねえ~

 まあ、時間の問題だと思っていたけど、あんな立派な告白。

 予想もしていなかっただけにびっくりしましたわ」


サーリアは、先程までと違い語尾を間延びさせることを止めていた。

本当はこちらが彼女の本当の口調なのかもしれない。


しばらく対面に座って足をさすっているノルバ婆さんを伺っていたが、

サーリアは茶を入れる為に立ちあがった。


3年前、ノルバ婆さんは事故に会い、右膝から下がなくなった。

右のひざ下にあるのは義足である。

マッカラ王国が誇る最新式の義足だが、まだいろいろ改良の必要があるようだ。

義足との付け根が痛いのか、ノルバ婆さんはよく右の足をさする様になった。


だが、気の強いノルバ婆さんは体を気遣われるのを酷く嫌がる。

だから、サーリアは何も言わなかった。


「ああ、あの奥手のヘクターが、ああまで大胆に告白するとは、

 どこの誰も思わなかっただろうさ」


部屋右隅のスツールの上には茶器セットが常時置いてある。

温石は湯差しにセットされていて、すでに湯は沸いていた。

流石、カーラーンは気が利く男である。


「そうよねえ。私もあと半年はもじもじやっていると思ったわ」


サーリアが茶葉を持つと、ポットの中にすでに茶葉が入っており、

ポットの横には暖められている2客のティーセットが鎮座していた。


「まあ、もともとヘクターはあれでいて気骨ある性根だ。

 旨くいけばいずれ化けるとは思っていたが、予想外に早そうだ。

 いいことさ。だが、今回の一件は予想外の後押しがあったせいさ」


サーリアは沸いたお湯をポットに注ぎ、

傍に置かれていた砂時計をくるりと回した。


「予想外の後押し?」


ドアがココンコンコンとノックされた。

これは先程出て行ったカーラーンの合図である。


「お入り」


ノルバ婆さんが足をさすっていた手を留め、ドアに向かって言った。

かちゃりと音がしてカーラーンが数枚の書類を持って現れた。


「持ってきたかい?」


「はい。こちらに」


カーラーンはサーリアに書類を手渡し、サーリアはソファに腰かけた。

それをざっと読んだサーリアは首を傾げた。


「何よこれ」


砂時計の砂はすでに落ち切っている。

カーラーンは濃くなりすぎた紅茶の中に湯を足し、カップの中のお湯を盥に捨て、

コポコポとカップに紅茶を注いだ。

そして、片方だけミルクを数滴たらす。


「ヘクターの後押しの正体さ。面白いだろ。

 砂の一族のヤトが絡んでいるだけでもけったいなのに、

 雨呼びの巫女以上の占術師との噂が1日で掛けまわった。

 おそらく、ヤトのくそ爺が何か企んでいるとは思うが、

 あの変人頑固老師まで絡んでくる」


カーラーンの手により、二人の目の前に、

美味しそうに香る紅茶のカップがそっと置かれた。

サーリアの目の前にはミルク入りの紅茶である。


「目的は何?」


「さあねえ。ヤト爺に聞いてもアイツは答えまいよ。

 だが、その子の力、もしかするともしかするかもしれん。

 今の雨呼びはヤト爺の妹だ。

 お前も知っておろう、あ奴は化け物だ」


サーリアは湯気を立たせている紅茶のカップを持って、

乳白色が混ざった琥珀色の紅茶の表面をふうっと息を吹きかけた。


サーリアは猫舌である。

それゆえ、カーラーンがいれてくれる紅茶は全て冷たいミルクが数滴入る。


「美味しいわ、カーラーン。

 で、貴方はどう見る?」


サーリアの質問にカーラーンは、にっこり笑って答えた。


「今朝から街の人間を幾つか使いましたが、

 占術師としてはなかなかのようです。割合にして8割ほどです。

 明らかに力が及ばぬ場合には、首をしっかり振りましたし、

 答が期待にそぐわない場合には答えないそうです」


ノルバ婆さんはずずずっと紅茶を飲む。


「占者のう。新しい化け物をヤトが連れてきたと言う事か。

 だが、何のためにここに連れてきたのか」


「さすがにそれは解りません。

 ヤト様は酒場でもめったなことでは本音を話しません。

 ご存じの通り、探りを入れてもすぐにばれます」


カーラーンの眉がすっと下がる。

すでに試してみて失敗したとその顔が告げていた。


「そう、他は?」


サーリアも幾分冷めた紅茶をちょっと舐めた。

だがまだ、少し熱い。


「その娘、西大陸の言葉が片言だとの報告がありました。

 東大陸の言葉をヘクターと流暢に話していたと報告が上がっています。

 顔立ちやこの事を考慮してみても、砂の一族ではないと思われます」


二人が首を傾げた。


「ヤトが自ら動くのに、砂の一族でないと?

 あ奴自ら娘と一緒に食材市場で仲良く買い物しておったのだぞ。

 ありえん。あ奴は一族のことしか考えない一族至上主義者だ。

 一族の利に叶うこと以外は手も足も動かさん。」


「あの方はなんと?」


サーリアはもう一度息を吹きかけ紅茶を冷ます。


「昨夜、伝書梟を飛ばしたが、返事はまだ届かん。

 あの方から使者が来るのは早くて1週間後、待ち遠しいの」


ノルバ婆さんは、はあっと小さくため息をついた。

少なくなった紅茶がカップの中で波紋を作った。


「ねえ、その力、こっちに取り込めないかしら。

 いろいろと役に立ちそうでしょう」


サーリアの言葉にノルバ婆さんが顔を顰めた。


「サーリア、もう時間があまりない。

 余計なことに首を突っ込むと足元をすくわれるぞ」


「……そうね」


サーリアがグイッと紅茶を飲みほし、カーラーンにカップを渡した。


「美味しかったわ。もう一杯いただけるかしら、カーラーン。

 今度はもっと熱いのがいいわね」


空のカップを受け取ったカーラーンはにっこり笑って言った。

猫舌のサーリアが求める物は、紅茶ではない違うもの。


「はい、サーリア様、貴方のお望みのままに」


「やれやれ。大事にするんじゃないよ」


ノルバ婆さんは、ぐいっと自分の冷めた紅茶を煽って、

小さく肩をすくめた。






********




やっと外に出れて、メイは解放感のままに体をうーんと伸ばしていた。


なんだか幸せっていいなあ。

結婚かあ、いいなあ。


幸せそうに抱きしめあっていた二人がちょっとだけ羨ましい。


青い空をふっと仰ぐ。


この空が続くどこかにレヴィ船長がいる。


赤褐色の髪に美しい緑の瞳。

塩の香りがする日に焼けた肌に大きな手。

暖かい逞しい腕に、どくどくと早いリズムで鳴る心臓の音。

メイと呼んでくれる耳に優しく響くテノールの声。


私が、レヴィ船長に会えるまでどのくらいかかるのだろうか。

あんな風に抱きしめてもらえるまで、どのくらいかかるのか。


考え始めたら気が遠くなりそうだ。


遺跡で別れてしまってからもう数か月になる。

西大陸でしっかり働いてイルベリー国に、レヴィ船長の元に帰る決意は変わらない。

でも、ふとした拍子にとてつもない不安襲われる。


私は絶対に忘れないと誓ったけど、相手に強要することは出来ない。

まして、私は別れ際にレヴィ船長に言い捨ての様に約束を押し付けた。

返事はもちろんもらってない。


頑張って3000クレス稼ぐには早くて3年。


三年は長い。


その間に、彼の横には私の知らない誰かが居るかもしれない。

その時私は、素直に祝福の言葉を述べられるだろうか。


それを想像したら、ずきっと心が痛んだ。


この世界に戻ることを決意した一番の理由はレヴィ船長がいるから。

もちろん、カースやセランとの約束もあったが、

彼の傍で生きたいと願ったからこの世界に帰ってきたのだ。


夢の中でレヴィ船長と約束したが、それは所詮夢だ。

夢は見ている本人の願望を含むと聞いた。

つまり、現実には大抵が反映されない。


つまり、私の恋に何一つ保障はないのだ。


だけど、失恋したら私はこの世界で立っていられるだろうか。

なんとなく気分がどんどん落ちていく。


自問自答して落ち込んでいたら、空にトンビが飛んだ。


ピーロロロロロ、ピー(キモチイイ、ヨイテンキ~)


何かが頭の中にふっと消えて、はっと何かに気が付いた。

その何かは自分でもよくわからない。


だが、私は頭をぶんぶん振った。

そして顔を上げた。


駄目だ。

頭を切り替えろ。


もしもを考えて落ち込むのは、まだ早い。

もしもの考えは私を弱くする。


私は、何も確めていない。

レヴィ船長の気持ちも、あの時の約束も、何一つ知った訳じゃない。


未来は諦めたらそこで終わりだ。

先は長いのだ。立ち止まって悩んでいる場合ではない。 


もしもは、私の不安。

不安に振り回されたら、本当のことが見えなくなる。


空をぐるっと見渡したら、背の高い賢者の塔が北に見えた。

筍のようにのびた塔。


筍の塔の存在が私の心を叱咤する。


ここで頑張るって決めたでしょう。

逢いたいって気持ちは変わらないって信じたでしょう。

信じることを疑わないって決めたはずでしょう。


先が解らなくて不安になっても、足元を見てから空を見上げよう。

そうすると、ほら、思い出す。


今は、私は私に出来ることをする。

それだけをきっちりと頭に叩き込む。


今出来ること、しなくてはいけないことはなんだと、

しっかり考える。


まずはメイドのお仕事よね。

お洗濯も終わったし、夕飯の買い物、お使いも済んだ。

あとは、あ、思い出した。

そういえばアマーリエのお仕事もあった。


あれはねえ、はあ、どうしたらいいんだろう。

皆目わからない。

スパイ業務はやっぱり無理でしたって、言った方がいいのかしら。


そう思っていたら、書架市場一階の書籍コーナーで、

話している人達の声が聞こえてきた。


「おや、もうこんな時間だよ。

 好きなことを話していると、本当に時間が立つのが早いよ」


丸い顔のコロぽっくるのような顔の緑のエプロンをした職員が言った。


「そうだねえ。私もいつもそう思うよ。

 さて、私はそろそろ王立学問所に帰るよ。

 がみがみ教頭が鬼の首を取ったみたいに遅くなるとすぐ怒鳴り上げるからね」


人のよさそうなソラマメの様な丸みを帯びた顔の男が、

頭に乗っていた小さな布の帽子を持ち上げて、書架市場の友人に会釈していた。


彼は王立学問所に帰るようです。


これはチャンスです。


「あ、あの、私も王立学問所に連れて行っていただけませんか?」


私は、初対面のオジサンに縋る様に目を向けた。


「はあ? 君、誰だい?

 どこかで君に会ったことあったかい?

 いや、はっきり言うけど初対面だよね。」


そうですね、初対面です。


「はい。私はこの町に来たばかりで道がわかりません。

 ですが王立学問所に用があるのです。

 お願いします。 学問所まで連れて行ってください」


もちろん嘘は言ってません。

私にはサイラスさんを探すと言うアマーリエに頼まれた用があるのです。


ソラマメさんはじろじろと私を見ていたが、私は視線を逸らしません。


「ふうん、なら、一緒に行くかい?」


優しいソラマメ顔のオジサンはにっこり笑って一緒にいこうと言ってくれた。

なんて優しい人なんでしょう。


「はい。有難うございます」


王立学問所にとりあえず行けるようです。

まずは行ってみてそれから考えましょう。


私は、ここで、私に出来ることを始めるのです。



********


 



メイは気が付かなかったが、書架市場で過ごした時間中に、

メイの服のポケットに布にくるまれて入っていた白い球に変化があった。


書架市場に入ってからずっと、願玉は点滅するように熱を放っていた。

近くに宝珠を持つ相手が居るのである。


だが、残念なことに、適当な皮ひもが無かった為、

願玉を首から下げていないメイは、当然のごとくに熱も光も感知せず、

その兆候に全く気がつかなかった。


その様子を空の上で見て、「なんでだよっ」と頭を抱えたのは晴嵐だった。



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