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箱をあけよう  作者: ひろりん
第6章:帰還編
182/240

私の手引書ですか?

芽衣子が気が付くと、そこはちょっと風変わりなお店としか言えない様な場所だった。

何故か芽衣子は、その店の中にぽつんと立っていた。


何度か目を何度も瞬かせて、

瞼の筋肉が痛くなったので思いっきり目を瞑ってからもう一度開ける。


そして、景色が先程から変わらないことを確認すると、

力が入ってがちがちに固まったままだった肩から力を抜いた。


そしてそのまま、芽衣子はゆっくりと周囲を見渡した。



12畳程の空間に、所せましとアンティークの雑貨やキラキラした布やリボン、

アクセサリー、鏡や電飾といった小物が、

同じくアンティーク調な白い丸テーブルに置かれている。


それらは、なんとなくだが細工が凝っていて、あまり安物に見えない。


白い丸テーブルに至っては優美なロココ調な流線型なデザインで、

いかにも手作りの一品物だろう柔らかい外観に滑らかな質感。

要所要所に金の装飾やきらきらしい石が埋め込まれきらびやかな外観をしていた。


はっきり言いましょう。

絶対、安物ではないですね。


落として壊して弁償になるとお財布が更に薄くなるのは確定なので、

ちょっとだけテーブルから後ずさり。


こつんと踵に何かが触れた。

振り返ると至近距離では測りきれないくらいに大きいな物がどーんとあった。


一歩右後ろに移動して、目線を下から上へ向けてやっとそのものが判明する。


そこには、何故?と首を傾げたくなるものが、

堂々と座っているのだ。


これはそう、巨大コアラの縫いぐるみだ。


何故、コアラ?


その上、そのコアラは、なぜかお相撲さんの金看板の化粧まわしをしている。

その化粧まわしは、金銀の刺繍が入った昇り竜だ。


おお、なかなか渋い趣味ですね。

お相撲はテレビでしか見たことないですが、

あれもまあ男性の世界って感じですよね。

いぶし銀ってものでしょうか。


うふふふ、じっと見ると刺繍の上り竜はカッコいいです。

あんな刺繍に挑戦してみたいですね。


以前に王城でマーサさんが、淑女のたしなみの技として刺繍があると言っていた。

昔は、危険に立ち向かう愛する人の無事を祈る為に、

愛する人や大事な人の服や持ち物に刺繍を入れたらしい。

主に襟元とか、服の裾、そして袖口にポイントのように入れるのが主流だとか。


いい話ですよね。

いつかしてみたいと思っていたんです。

でもあの上り竜って難易度高いと思います。

下手な人がすると鯉のぼりにしか見えないかもしれません。

これは練習が必要ですね。


となると初心者練習用に、幾つか小さなパーツに分けて刺繍してみようかしら。

見えるところの刺繍はハードルが高いから、やっぱり靴下かな。

見えないお洒落ってものですね。


靴下のワンポイントはカースやレヴィ船長は怒るかもしれないから、

セランの靴下から練習代わりに始めようかな。


で、上達したらレヴィ船長の服の裾や襟にこっそり入れるのです。

上り竜、いいね。 うーん、カッコいい。


そしてとても上手になったなら、旗とかに刺繍してみたいです。


うふふふ、なんとなく、野望が膨らみますね。


ちなみに子コアラは黒のまわしです。 修行中というものですね。


あ、話題が逸れました。


でも一般的に言って、こういう店ならテディベアとかではないのかしら。


いや、まずお店としてどうなのかと問うべきかもしれない。


だって、部屋の半分は巨大コアラ達に占拠されているのだ。


ちなみにコアラの内訳は、親コアラが一匹、子コアラが二匹である。

親の高さは2m強あるだろうか。

私の身長を遥かに凌駕している。

こんな巨大コアラ、可愛いと言うより怖くないですか。



……。



いやいやいや、個人の趣味にはとやかく言うべきではない。

この店の主人の好みがコアラなのだろう、熊ではなくて。


そうそう、コアラ。 いいではないですか。

ユーカリ食べて健康的だし。

有名なスナック菓子もあることだし。

どこかのコマーシャルでもシャバダバ歌っているではないか。


ちょっと投げやり気味だが、その趣味を否定したわけではないですよ。

そして、その横綱コアラの横には、ところどころに配置された金魚鉢。



ラムネの瓶が何故か金魚鉢に突き刺さる様に埋まっていた。

それも、ぎっしりと。


ちなみに中は空です。



……。



金魚の代わりにラムネの瓶ですか。

うんうん、豪快ですね。アートってものかな。

私には美的センスは全くないけどね。

どうせならラムネの中身が飲みたかったとは思っても言いませんよ。



そして、ノスタルジックな雰囲気の色あせた笠を持つ背の高いランプが、

ぼんやりとした光を放っていた。


だが、笠について揺れているボンボンはヒヨコ。


黄色のヒヨコが、一匹二匹三匹四匹、数えたら目がちかちかしそうです。


これは、どう突っ込んでいいのか解りません。

私はまだまだ修行が足らないようです。

横綱には程遠いと言う事でしょう。


いや、頭を切り替えねば、淑女の道も一歩からが合言葉ですよ。


マーサさんのように、にこやかに笑って流せるスキルをいつか手に入れたいものです。



さて、気を取り直して考えたいと思います。


今更ですが、ここは一体どこなんでしょうか。

なんとなくだが、雑貨屋とアンティークショップを足して二で割った感じだ。


で、どうして私はここにいるんでしょうか。

まずは、憶えていることの復習をしたいと思います。


確か、結婚式があって、忙しくてお昼が食べれなくて、

服がなくなって、春のコートをやっと着れて、

神社から帰るときにお腹が鳴ったのよね。


それで紅白饅頭食べようと、出した箱は水色塗箱で怪しいって思ったのに、

裏に書いて無くて、ほっとして開けたら煙がでて、熨斗紙が舞って字が見えて、

やっぱりそれが、玉手箱で……。


うん?


なんで私はここにいるんでしょうか。

玉手箱を開けたんだから、当然ここは異世界だよね。


以前は海の上だったけど、今回はお店ですか?


私は大抵は宝珠の近くに出現すると以前に春海が言っていたような気がする。

とすると、この部屋のどこかに宝珠の持ち主がいるのだろうか。


きょろきょろ見渡したけど誰もいない。

いるのは私とコアラたちだけだ。


もしかして、この机の上のきらきらしいものが宝玉なのかしら。

でも宝玉って人魂のような形してたような気がするんだよね。

あえて形を取るなら勾玉のようだと思うの。


漠然とだが、こんなに硬くきらきらしい宝石っぽいものではない気がする。


ここには誰もいないし宝珠もない。


ではなぜ私はここにいるのか。

頭を限界まで捻るがさっぱりだ。


実は私が無意識にコアラを求めていたとか。


いや、無いな。

私にはコアラに対する愛はこれっぽっちもない。

私の友人はお菓子のコアラの眉を探す運試しをしていた記憶はあるが、

あれは所詮消え物だ。


消え物はお腹に入るからこそ愛しいのだ。


まあそれはともかく、コアラはもとより雑貨に至っては、

最近の貧乏が輪をかけて100円ショップ購入常連だ。


確かに可愛くておしゃれで高価な物は正直心惹かれるが、

窓の向こうで眺めているだけでも十分乙女心は満足できる。


というか、こんなきらきらしい乙女チック万歳な空間は、

ちょっと敷居が高くて近寄った経験はさっぱりない。


キラキラ達も私みたいな貧乏人に買われて擦り切れるまで酷使されるより、

宝石箱に大事に仕舞ってくれる人に買われる方が幸せに違いない。


そうだそのとおりだと、腕を組みながらうんうんと頷く。




ちりんと甲高い風鈴の音がした。

音の出所は、店の入り口付近に七夕飾りの様にぶら下っている沢山の江戸風鈴だろう。


赤や青などの色彩豊かな絵が、お椀型のガラスに可愛いく描かれている。


風鈴といえば窓なのに、この部屋には窓が無い。

その上、風が吹いているわけでもないのに、なぜ鳴るんだろうか。


疑問が頭に過ったが、ごとりと頭上から音がして咄嗟に上を見上げた。


大きな吹き抜けに天井が全く見えない。

視界には動く者は何もない。


気のせいだったようだ。

見えないものを見ようと上に目を凝らすと首が痛くなってきた。


首が痛みを訴える前に、目線は正面に戻す。

部屋の壁は、かなりスカスカな棚だ。


こんなに何もなくて客はくるのかとちょっと頭によぎる。


壁際の棚に並んでいるのは明らかに本ではない。

本ならば、厚みで棚が埋まりやすいだろうが、

一つ一つの薄さが1cm位までしかない。


一つを手に取ってみると、プラスチックのコーティングが綺麗に全面を覆っている。

表表紙に描かれてあるのは、どこかの誰かの外国人。

髪がちりちりパーマなのに白人で、マイクをもって明らかに熱唱している写真だ。


これはレコードだ。

最近ではレコードなんてお店じゃあ見かけない。

映っている顔は外人の様なので輸入盤というものだろうか。



「ねえ、ちょっと」


そういえば、某昔アイドルのレコードが高値で取引されているって聞いた。

これは、レア価値の物を集めたショップと言うものではないでしょうか。


「あんたさあ、こっちに気が付いてるでしょう」


うーん、それなら、ここにあるもの全て高価買取とかの札がつくかもしれないよね。

だったら、触ると危険とかのぼりでも立てておいてくれないだろうか。

よろめいてガシャンとかになったら、

私の繊細な心臓がきゅっと驚いて寿命が短くなってしまうに違いない。


「僕、言っておくけど気が短いんだよね。

 頭単細胞かつ平凡で特徴もない馬鹿女の妄想に付き合っていられるほど、

 僕は暇じゃないんだ。

 あと10秒以内にその現実逃避をやめないと、頭の上にあるもの落とすから」


あ、あるものってなんですか?

つい考え事にふけりました。すいません。

だから落とさないでください。


というかいつの間に貴方そこに居たんですか?

気配というか存在感が全くなかったです。

多分、お店の人ですね。 ああ、びっくりしました。


しかし、今のは結構な攻撃力でした。


頭単細胞って、平凡って、特徴もない馬鹿女って。

う、単体でも否定できなくて凹むのに、

3つコンボって、穴掘って埋まれってことでしょうか。


「ああ、やっとこっち向いた。

 まったくアホの相手は手間がかかるね。

 穴掘って埋まるのはあんたの勝手だけど、僕の用が終わってからにしなよ。

 それにしても、やっぱりこの手引書間違ってるじゃないか」


手引書?

その微妙に薄っぺらいその本のことですか?


「そう、素直で正直で愛らしいって嘘ばっかりだ」


ええ!

なんですかそれ?

その薄い冊子に私の褒め言葉が書いてあるのですか?


「これは竜宮の宮の管理者からの手引書の一つだよ。

 これは、あんたに関する特別事項明記書。

 えーと、書いたのは春海って書いてあるね」


春海?


なんと!

あの春海が私のことを大絶賛です。

思ってもみませんでした。

私の中で春海の好感度がかなり上昇しましたよ。

明日からは友達っていってもいいかも。


あ、もしかして春海とお知り合いですか?


「うん、まあ、あったのは一回だけだけどね。

 僕は天空の宮からの管理者だよ。

 このたび、この境界狭間の空間を引き継いだんだ。

 竜宮の宮の責任者たちは任期満了の為、目出度く竜宮の宮に帰ったよ。

 その際に、以前の管理者から、あんたの手引書を一緒に渡されたんだ」


境界狭間の空間って、この店?


「そう、あんたも何度かここに来たことあるはずだよ。

 その時は多分、地味な爺趣味満載の部屋だったと思うけど」


そういわれてみれば竜宮堂古書店と空間的には似てる作りかも。

でも、爺趣味っていわないよね。

私的には、全体的に落ち着いた雰囲気だった気がする。

あれはあれでシックで大人っぽいカフェっぽい本屋でしたよ。


「色とか、装飾とか地味だよ。

 僕の好みじゃないね」


そうですか、つまりこの店の内装は貴方の趣味だと。

……個人の趣味にとやかく言うのは淑女の礼に反しますからね。言いませんよ。


うーん、でも任期満了ということは、春海は転勤族だったのですね。

サラリーマン人生というやつですね。


転勤先はどちらなのでしょうか。

いつかまたお会いできるといいですね。

まだ一緒に食べたいおやつも沢山あったのですよ。

ちょっと残念ですが、いつか会えるときの楽しみにしましょうか。



「その転勤なんとかは僕は知らないけど、

 僕は、10日前にここに着任したんだよ。

 天の神が、この僕に、直々に指名されたんだ。

 あんたは知らないとおもうけど、これはとっても名誉なことさ。

 天空の宮で、天神にもっとも信頼されている証だよ。

 まあ、あと同僚が3人ほどいるけど」


そうですか、お役目ご苦労様です。


「うむ。殊勝な態度はなかなか良い」


それで、早速ですかお聞きしたいのですがよろしいでしょうか。


「なんだ? 気が向いたら答えてやってもいいぞ」


貴方、神社の下の旅館で新米料理人Aをしてませんでしたか?


ジャニ顔の態度も動作も大きい子供。

あの時はまっしろな白い三角筋を頭にしてたから気が付かなかったけど、

三角巾の中の髪は綺麗な金髪。 プリンになってないとこを見ると多分地毛。

目鼻立ちは整っているけど、横柄な言動で思わず目が一瞬点になった記憶は新しい。


うん、まちがいない。


「うん? なんだ、今、気づいたのか。やはり鈍いな」


う、鈍いって、子供に言われた。


「煩い、子供っていうな。僕は実際は子供じゃない。

 こちらの世界の力場が強すぎて本来の力が阻害されてるため、

 このような子供の体型しかとれないだけだ」


そうですか。

でも、春海はきちんと大人でしたけど。


「あ、あれは、その、こちらの世界に慣れている結果としてだなあ、

 まあ、つまり、そうであったと……」


ああ、なるほど。

春海の方が力量は上であったと。


「う、煩い。解っているなら言葉に出すな。黙っていろ。

 だから平凡顔の地味女なんだ」


あのですね、ここでは、私の言葉は今頭に考えていることが、

そのまま垂れ流し状態なんですよ。

だから、言葉に出しているわけではないんです。

解りましたか? 新人さん。 

管理人見習い頑張ってくださいね。


「くぅ~だから、子ども扱いするなといっているだろうが」


目の前の彼は足と手を同時に動かして顔を顰めて抗議する。


いや、無理だから。

今の貴方は子供が地団駄踏んでいる様にしか見えない。


「もういい!お前なんか知らないよ。バカトンマアホ女!」


はあ、完全に子供モードですね。

自分が大人だと言うのなら、きちんとお仕事モードに入りましょうよ。


「くっ……そうだな。 

 仕事を投げては子供といわれても反論できない。

 よし、仕事だ仕事。  

 えーっと、手引書1と2は終わったから、

 次は、3の説明と4の手続きと5の実行だな」


素直ですね。子供は素直が一番です。


で、本当に何ですか、その手引書。

私に対する美辞麗句だけではないですよね。


「ああ、これはあんたに対しての手引書だよ。

 この僕が、引き継ぎでとても忙しい中なのに、

 この手引書をきちんと読んだおかげで、

 今、あんたが、無事に、ここに居られるんだから、僕に感謝したらいいよ」


私に対する手引書?

なんだか危険人物取扱書みたいな括りですね。


「自覚無いわけ? いい加減にしないと頭の上にやっぱり落とすよ。

 だってあんた、僕の助言も説明も何も聞かずに箱開けたよね。

 前の時と同じことをするって、やっぱり馬鹿じゃないか」


え?

せ、説明って、お弁当が危ないから転ばない様にゆっくり行けっていう、

旅館の台所で言われたあの言葉ですか?


「それもだけど、違うよ。 

 箱の包み紙に綺麗なカードを付けてたでしょ。

 あれが、招待状だったんだよ。

 このカードを持って指定の場所に来るようにって書いてあったんだ。


 普通、箱開ける前にカードがついていたら先に読むよね。

 それもあんなにこの僕が苦労して美々しく包んだのに、

 あのカードだって、使うのがもったいないくらいのとっておきだったのに。

 あんたさあ、感動に言葉もないくらい素晴らしかったとか言えないわけ?」


あ、あれ、貴方が包んだんだ~器用だね~

あれは確かに綺麗だったね。

うん、認めるよ。


もっと極めればデパートのサービスカウンター職種が得られるかもしれませんよ。

僕の将来は安泰だね。


それにしてもカードですか。

確かについてたね。

てっきり花嫁さんのお礼状だと思っていたよ。

だって、あの箱の中身は紅白饅頭だと思っていたんですもの。



「あのカードを開いたら、この場所への案内と指定日時がかいてあったんだよ。

 前みたいじゃなくて、きちんと手順を踏んでから、

 あんたと一緒に世界の選択をする手筈になってたんだ。

 僕なりの気遣いってやつだよ。 素晴らしいだろ。

 

 なのにあんたときたら、ことごとく僕の折角の気遣いを無駄にして、

 本当に腹立たしいことこの上ないよ。

 あのままだと、あんたを見つけるのに世界中を探し回るとこだったんだよ。

 そうなったら、僕が困るじゃないか。

 本当にもう、ちょっとは無い脳みそを使うことを考えろよ。

 まあ、今回は、前任者からの手引書で問答無用に箱開封の時に

 呼び込むようにって言伝があったから何とかなったけど」


そうですか。

だから、今回は海遭難ではなかったのですね。


それにしても弾丸トークですね。

息継ぎしてないけど大丈夫ですか? 

あまりに早口過ぎて、話が私の頭からぽろぽろ毀れてます。


でも、まあなんとなくわかりました。

実際ほっとしました。

海水につかるとこの借り物の巫女服ぼろぼろになりそうですし、

クリーニング代金が半端なく上に伸びそうだ。


有難うございます。

財布の恩人と言うものですね。とっても感謝しましょう。


「え? ま、まあ、いいけど。 これも僕の仕事だし。

 で、でさ、あんたの場合は本当は竜宮の宮の管轄だったんだけど、

 期限切れで僕に引き継がれたんだ。

 ねえ、解ってる? 期限切れだよ。 

 何度も言うけどあんたのせいで期限切れになったんだよ。

 ちゃんと理解してよ。で、しっかり反省してよ。

 あんたのせいで力が妨害されて届かなかったんだから」


ええ?

私のせいって私が何をしたというのですか。


「僕達の力を阻害する媒体を君が常に身に着けていたからだよ」


媒体?

何?


「えーと、なんて言ったっけ? 

 ああ、そうそう、御守りだよ。 

 あんなもの持ってたら僕達の世界の力なんて届くわけないでしょう。 

 解ってんのちょっと」


は?お守りですか?

で、でも肌守りはともかく、大願成就は竜宮堂古書店が見つかりますようにって、

念を送っていたんだけど。


「はあ? 何言ってんの?

 明らかに大願成就の意味間違ってるだろ。

 大願成就とは、その人に神が相応しいと決めた運命が叶うよう力を送る媒体だよ。

 基本、人間の運命を叶える力はその人間自体に備わっているんだ。

 それを怠けて神に縋ろうって考えがおこがましい。

 御守りは、神の願いを叶える為に人の運命の一端を担う神の力の一部なんだから」


うん?

そんな難しいことをさらっと言われても。

ねえ、それって私のお願いが叶うとかではないの?


「神域で働いていたくせに何で知らないんだよ。

 神の御心に叶う為の運命を引き寄せる力に決まってるだろ。

 何で御神が小さなゴミみたいな存在に気を留めないといけないわけ。

 神の力は、常に世界の為にあるんだ。

 たった1人の人間の為に神が力を振るうって考えは傲慢だろ」



つまりお願いは神様が気に入らないと叶えられないってことですか。

なんと、初めて知った。

お賽銭に500円奮発したのに。


「あんたの場合は特に阻害されたんだよ。

 折角帰ってきた魂を異世界にやるのは気に入らなかったんだろ。

 神があんたを異世界にやるのを望まないから、

 御守りの効力は俺達の存在を見えなくしたんだ」


そ、そんな。

私のあの何々ならぬ苦労が、お守りのせいでぽしゃっていたと。

くっ、盲点でした。


「あんたも気に入られたもんだね。

 平々凡々の単純馬鹿女のくせに、御神に交渉のテーブルにつかせたんだから」


交渉ってなんですか?

私、なんとなくですが心がとても疲れちゃったんですけど。

話は明日とかでは駄目ですか?


「しっかり聞けって言ってるだろ。何度も言わせないでよ。

 つまり、簡単に言うと、

 完全にあんたを元の世界から切り離さないことを条件に、

 あんたが僕達の世界に移住する許可が下りたということだよ。」

 


許可?誰の?


「あんたの世界の御神だよ」


え? 私が異世界に行くのにも許可がいるの?

以前聞いた話だと、問答無用で異世界に行って帰れないって。

帰るには白玉で宝玉集めしないといけないって聞いたけど。


「そうだよ。

 今までは、あんたのところの神様は何人異世界に落ちようが、

 帰ってこなかろうが、契約通りなら何も文句を言うことも、

 こんな風に力を使って阻害することもなかったんだ。

 だけど、あんたが自力で帰ってきたことで歓心を持ったらしいね。

 あんたに対する権利を要求してきたんだ」


け、権利って、私は私のものじゃないの?

え~と、もしかして……


「当り前だろう。

 世界に所属する以上どこまで行っても全ての生命は神の所有物だよ。

 そんなの常識だろ。 何言っちゃってんの?」


う。

そうでしたか、知らないとはいえ、私は私のものではなかったんですね。


「うん。そう。

 だからね、幾つかの契約があんたに関してのみ書き換えられたんだ。

 僕が伝えるのはその書き換え部分」


はあ、契約ですか。

何でしょうか。

私にもわかる様に簡単に説明してください。


「1.神の加護を持つ守護者として世界に散らばっている宝玉集めを続けること。

 2.宝玉集めが終わったら、その都度里帰りするがきちんと帰ってくること。

 3.人生の終焉を終えたら、その魂はもとの世界に帰属すること。

 4.出来た願玉はその時の管理者の宮の責任管理とすること。

 5.あんたの生命においての理は運命の神が責任もって管理すること」


え。

つまり、私はこれからもずっと神様の守護者なの?


「そ。 これは決定事項だから。

 ちなみに、あんたに拒否権なんて最初からあるわけないから」


そ、そうですか。

やっぱり拒否権はないんですね。

ちょっとがっくりします。


あ、でも、里帰りってまたこちらの世界に帰ってこれるの?


「うん。前みたいに飛んで帰ってくるようになるけどね。

 よかったね。 願玉完成ごとに帰れるよ。


 本来は、こちらに来た異世界人は世界を選んだ時に記憶も段々と風化すようになり、

 時間もこちらの世界に合わせるように年を取るんだけど、あんたは例外。

 今回は仮移住って形になるから、元の世界の記憶も消去しないし、

 体に感じる時間も、普通に成長速度からやや遅いくらいになるはずだよ。

 まあ、しわくちゃになって、横にだけ伸びるかもって感じだけどね」


ふうん。

よくわからないけど、たまに里帰り出来るならいいか。

弟の顔も見たいしね。



「これからのあんたの寿命は、僕達の世界の運命の神様の管理になるからね。

 あんた、この世界の人類史上最高齢の長生き婆になること決定だから」


つまりポルクお爺ちゃんのように長生きすると言うことですね。

いいですね。金さん銀さんのように100才生きるは平和的ですよ。


でも、婆っていうな。子供のくせに言葉使いが悪いです。

女性は何歳になっても素敵な淑女なのですよ。


「だから、子供って言うな。

 ああ、もう、横から口挟まないでよ。

 言うことが頭から抜けたらどうするんだよ。

 

 えーと、どこまで話したっけ?

 ああ、そうか。

 そういう理由があってさ、今回あんたの守護が増えたんだ」


そういうってどういうの? 増える?


「そう、以前の4つ柱の神様達の加護に加え、運命の神様、豊穣神様、

 死の神様、セルジュ様があんたの加護に名乗りを上げたんだ。

 今までにない8神の加護だよ。

 その上、この優秀な僕があんたのサポート役に選ばれたんだから、

 あんたは光栄に思うべきだね。拝んでもいいよ」


はあ、そうなんですか。

あ、でも運命の神とか豊穣神とか、カッコいい名前ですね。

4つ柱の神様の他にもいらっしゃったんですね。

もしかして、八百万いるとか?


「あんたの所の世界みたいに力が有り余っている世界だけだよ。

 そんなバカげた数の神だなんて」


そうですか。

ちょっと物騒な名前の神様も居ましたけど、それは置いといて。

えーと、その加護をもっているとどうなるの?


「運命の神は、君の寿命を管理するから、手の平の運命線がはっきりするかな。

 死の神は、死ぬ時に楽に死させてくれる。

 豊穣神は新しい神だからそんなに力はないけど、天気予報くらいかな。

 セルジュ神は、この世界の創造の神だよ。

 こちらは4つ柱よりもっと昔からおられる神様で、宝玉製作責任者だ。 

 神の魂を世界に定着させるために眠りにずっとついておられたのに、

 たまたま起きた時に名乗りを上げられたんだ。

 で、その後すぐにまた眠りについたから、特に加護の効果はないかも」


あの、つまりは、簡潔に言うと?


「ほっとくと寿命が尽きるまで多分死なない頑丈なしわくちゃ婆に成れて、

 死ぬときはぽくっと楽に死ねるってこと」


び、微妙です。

はっきり言って。

だって、多分とかほっとくととか言っちゃってるし。


つまり、今までの4つ柱の神様の死なない保障と、

新しい神様の死ぬ時保障というものですか。


なんだか保険会社よりもぼったくりな商品だと思うのは私だけでしょうか。


手のひらの運命線って、運命の神様は手のひら占いに凝っているでしょうか。

創造の神とかって、立派なお名前なのに名前だけだなんて。

それに豊穣神の天気予報ってなに?

私にお天気おねえさんになれというのでしょうか。


「まあ、それぞれの加護に応じた何かの特典が、おそらくあると思うよ」


実に大雑把に纏めましたね。

管理者として、それでいいのですか。


「し、仕方ないだろう。

 いままでにこんなに沢山の加護が与えられた人間なんていないんだから」


ふうん。


まあ、いっか。

異世界にいる条件が前と同じ宝玉探しって言うのが顔が引きつりそうだけど、

考えてみれば集まってくるのは仕方ないもんね。


本当は、宝玉集めなんてもう二度とするつもりもなかったけど、

それをしないとこの世界に居られないなら仕方ないよね。


この世界にいる序に宝玉探し。

序のおまけで時々里帰り出来るなら言うことないし。


宝玉が集まることで、神様も世界も皆も幸せになれるんなら、

私が異世界に移住することに意味があるってもんだわ。


それに、こんな私でも頼られるっていい気分ですよね。


そう考えたら、なんだか頭の霧がぱあっと晴れた感じですよ。


ええ、いいでしょう。

神様の守護者続けますよ。


あ、でも、あんまり痛くない方がいいですので、

揉め事とか事件とかはなるべくない方向で、

出来ればお手柔らかにしていただけると有難いのですが。


「そんなの知らないよ。

 大体、以前に宝玉集めていた他の異世界人を僕は知っているけど、

 あんたみたいにいろいろ災難に巻き込まれる人間なんていなかったよ」


え?

で、でも、実際に…。


「うん? ああ、そうか。 

 災難はあんたが呼んでいるのか。

 なら、あんたの責任だろ。仕方ないなんだから諦めたら?」


がーん。

私? 私が呼んでいるの?


あ、そういえば達也も私のこと問題児みたいに言っていたような気がする。

それでは、全ての原因は白い球ではなくて私にあったと。


くう、この場合、恨みつらみならぬ愚痴をいう相手は、

鏡に映った私自身になると言う事でしょうか。


なんだか納得できるような納得したくないような気分です。


「で、前任者によるとあんたは僕達にご馳走してくれるはずなんだけど」

 

は?

ご馳走?


ああ、そういえば、春海の時はコーヒーとかクッキーとか。

でも、あれは春海が出したんだよ。

私じゃないよ。


「この空間は、あんたが思い浮かべたものが再現できるんだよ。

 さあさあ、考えて。 あまり時間がないんだから」


え? 

そ、そんなこと急に言われても。


美味しいもの美味しいもの。


あ、食べそびれた紅白饅頭。それに濃茶。


芽衣子の頭に浮かんだものが、ぽんぽんとテーブルの上に現れる。


おお、こんな風になっていたのですね。

なんだ、春海に頼んで出してもらっていたのではなくて、

私の想像の産物だったなんて。


ああ、とっても会いたかったわ紅白饅頭。

もっとたくさんでないかしら紅白饅頭。


そう考えれば、紅白饅頭が机の上で細胞分裂しながら数をぽこぽこ増やしていた。

やったー増えたー。


「ちょっと、どうして饅頭なんだよ。

 あんたの世界にはもっと美味しいもの溢れてるはずだろう」


どうしてと言われても、そんなの私にもわかりませんよ。


彼は、テーブル横の子コアラのお膝の上に乗っかる様に座った。

なるほど、コアラはソファなのですね。


芽衣子も正面の親コアラのソファにゆっくりと座った。

うん、なかなかな座り心地です。


そして、机の上の湯呑を右手に取って、左手で饅頭をさっさと口に入れた。


だって、さっき時間が無いってこの子が言ってましたからね。

私の目が覚める前に紅白饅頭両方ともお腹に収めるのです。

食べずに去る愚行は二度と犯しませんよ。


くうぅ、美味しい。

やっぱり、絶品です。



さあ、貴方も遠慮せずに食べたらいいですよ。

ここの紅白饅頭は絶品なのです。

老舗和菓子の粋を極めた一品なのです。

見かけも可愛く優しいピンクと白。

天辺には祝い事の金粉がきらきらです。


餡子はこしあんなのに、自然な甘みの豆の味がしっかりと残っており、

かつ口当たり滑らかな餡は舌の上でとろける様に甘味を残すのです。

そして、饅頭の皮は蒸し生地の柔らかさを残したままなのにかすかすしておらず、

生地はしっとり表面は艶艶ぽふん。

はむっと食べた時のもちもち感は、最高なのです。


そんじゃそこらの菓子屋では太刀打ちできない代物なのです。


「……そこまで言うなら食べてやってもいい」


はい、せひ和菓子の美味しさにはまってください。

ビバ和菓子ですよ。

 

芽衣子が紅白両方を無事に食べ終えてお茶を飲み、ほうっと一息。

目の前の僕は、気が付けばばくばくと怒涛の勢いで食べている。


その顔は美味しさに輝いていると言っていい。


ふふ、僕に気に入ってもらえてよかったです。

次回会えるときは洋菓子に出来るよう気を付けるようにしておきますね。


子供は美味しいもの食べて、大きくならないといけないからね。


「だから、僕は子供じゃないて言ってるだろ。

 それに、僕のことを、僕って呼ぶな。

 僕の名前は晴嵐だ。 せ・い・ら・ん」


ああ、はい。

晴嵐ですね。

私は芽衣子です。

これからよろしくお願いします。


とりあえず、挨拶は必要ですねとばかりに、

座ったままですがしっかりとお辞儀をしておく。


晴嵐は、口に入った饅頭をしっかり飲み込んでから、

天井を一瞬見上げ、そしてぴっと背を伸ばした。

顔はしっかり大人モードの真剣顔です。


そして、私の目のまえにずいっと手を差し出した。


私が首を傾げていると、怒鳴られた。


「早く、手を出してよ。

 饅頭が食べられないじゃないか」


ああ、はい。


芽衣子が慌てて出した手のひらの上に置かれたものは、あの白い球。

しかし、以前と違うのはすでに2色の色がついてます。


色は赤と黒ですね。

うん?


は、もしかして。


芽衣子が慌てて自身の胸を見下ろすと、買ったばかりのDカップ下着の間に、

確実な隙間という名の空間が出来ていました。


ガーン。


正にショックです。


玉手箱に驚いた時よりももっと大きな衝撃です。

床に手をついて、くっと悔しさに臍をかみます。


「何。 何打ちひしがれてんの?

 やったねって、飛び上がって喜んでいいんじゃない?


 2つの宝玉があんたの身に仮に入っていたんだから、

 それがここに無事に回収されたんだよ。

 これであと3つだろ。


 ああ、よく見るとこの宝玉に力があまりないからあと4つ必要かもしれないな。 

 他の異世界人のペースだとたっぷり10年はかかるけど、

 あんたならなんとかなるだろ。 多分ね。 まあ頑張って」



ううう、せっかく新しく下着新調したばかりなのに。


なんとなくですが解ってましたよ。

私の胸が大きくなったのは宝玉のおかげなのだろうって。


いや、もともと無いものだと諦めるしかないと解っているのですが、

無くしたものの大きさに涙が毀れそうです。


「その球の説明はもういいよね。

 じゃあ、時間がないから送るよ。

 あ、出現場所の希望はある? 

 あっても今のここから送れる場所は限られているから聞けないけどね。

 まあ、僕は優秀だから、一応宝珠の近くに落とすから頑張って。

 じゃあ、いってらっしゃい」


晴嵐は、右手に饅頭を持ったまま、左手を私の前でかろやかに振った。


そうしたら、晴嵐の姿が、きらきらしい雑貨屋さんが、

目の前から段々と薄れて消えていった。


これは、私の目が覚める前兆ですね。

つまり異世界レッツゴー?


慌てて出現場所の希望を叫びました。


「か、海上遭難は嫌です~」



叫び終わった時、芽衣子の意識はぷつりと切れたように暗転した。 






*********






芽衣子を送り出した後、晴嵐はくるっと上に振り仰いだ。


「おい、本当に会わなくて良かったのか?」


吹き抜けの天井から茶色の髪の青年が降りてきた。

青年はテーブルの前にそっと音も立てず降り立った。


「ええ。 もう、私は管理者ではないですからね。

 彼女の新たなる旅立ちを見送れただけで満足です」


そういって、春海は芽衣子が先程まで座っていたソファを嬉しそうに見た。


「貴方の感性と彼女の感性がまじりあった結果がこの縫いぐるみですか。

 随分と、賑やかになりましたね」


「僕は普通の可愛いキラキラな椅子セットを希望してたんだよ。

 これは絶対にあの子のせいだからね」


そういって晴嵐が指さしたのはコアラがしている横綱まわしである。

コアラが違うとは言わないところが正直だ。

新しい管理者は若いだけあって感情がわかりやすく、底が見えやすい。


「私は、もう管理者ではありません。

 ですが、この世界の彼女の最初の友人であると、自分では思っています。

 今の管理者でない私は彼女の様子を常に窺うことはできません。残念です。

 貴方に、そんな私からの忠告であり、お願いがあります。

 彼女から決して目を離さない様にしてください。

 守護や加護があっても、いついかなる時でも死にかけるのはよくあることですので」


「ああ、そういえば、

 彼女、5つの宝珠を集めるのに、何度も癒しを受けているんだったな。

 わかった。気を付ける様にしよう」


新しい管理者は年若く心許無い。

だが、春海にはどうしようもないのだ。

管理者という立場を神々に取り上げられたのだから。

 

「あとそれから、彼女にはこのたびの急な管理者交代の本当の理由は、

 問われても言わない様にしてくださいね」


「うん? 

 3つ柱の神様が願玉欲しさにもめて竜宮の宮に押しかけた結果こうなったって、

 言ったらまずいのか?」


晴嵐の饅頭を食べる口がぴたっと止まった。


晴嵐は春海の意とすることを全く理解しておらず、

首をひねって春海の顔を見返した。


「当り前でしょう。

 彼女がこの世界を望んだとはいえ、本当なら守護者である必要も、

 宝玉を集めて願玉を作らないといけない必要はなかったのです。

 だって、彼女は彼女の世界に帰る意志はなかったのですから。

 帰るための願玉などや里帰りなんて、彼女には必要なかった。

 あちらの神の要求は、彼女の魂の管理と回収。それだけです。

 あとの条件は皆こちらの4つ柱の神が付けたものでしょう」


「それのどこがまずいんだ?」


この若い管理者は人間の心をいうものをまだ理解していない。

これからの芽衣子の苦労を思うとため息が出そうだ。


「しなくていいことを強制することに対して、人間は反抗心を持つものです。

 芽衣子さんだって、例外ではありません。

 里帰りしなくていいのであれば、宝玉を集める必要なんて全くないと気が付けば、

 普通なら反抗し抗議し、撤回を求める物です。

 

 ……いえ、芽衣子さんですからね。 

 後で気がついても気にしないかもしれません。

 

 ともかく、よりよい相互関係を保つために、

 遺恨を残すような言葉は慎むべきでしょう」


年若い管理者の晴嵐は、春海の言うことになる程そういうものかと頷いた。

そして、饅頭を食べる為に口を再開し始めた。


「ふうん。 貴方は人間のことに詳しいのだな。

 僕は貴方の言うことは半分も理解できないが、

 貴方がそういうのならば、気を付けて接するようにしよう」


その柔軟な姿勢は天の神の信頼を得た特筆すべき点であろう。

まだまだ不安は尽きないけれど、芽衣子を通して人間世界を見ているうちに、

多分、この若い管理者も人間と言うものを知ることになるだろう。


そして、新たに箱を開けた異世界人と相対することで、

何故、彼女の魂を神が欲するのか解るはずだ。


真っ白な、何者にも染まらない眩しい光のような魂。

神々のような永遠の命を持つものでは決してありえない美しい魂の響き。

生きることに対しての貪欲さだけでは決して持てぬ力強い輝き。


その眩しさに多くの神々が魅せられた。

春海もまた芽衣子の輝きに惹かれた一人である。


先程の彼女の思考から、

春海を友人として親しく思っている気持ちが聞こえてきた。


自分も友人として彼女に何ができるのか、

これからじっくり考えよう。

そして、いつかあった時に先ほど言えなかった言葉をいうのだ。


「芽衣子さん。

 お帰りなさい。」


春海は芽衣子がいた場所のコアラソファを見ながら、ぼそっと呟いた。



「折角だから、貴方も一つどうだ」


晴嵐は、食べる口を止めず春海に子コアラのソファを勧めた。


春海は子コアラソファに座り、紅白饅頭を一つ手に取り、ぱくりと齧り付いた。


「旨い!」


「だろ? 和菓子って馬鹿にしてはいけないものだといってたが、

 これは確かに納得できる味だ」


山盛になっていた紅白饅頭はこうして二人によって食べつくされた。

晴嵐は、同僚の3人にかなり愚痴を聞かされるのは後のことだ。

 

 



新しい管理者出現です。

序に神様増えます。

しかし、加護は相変わらずしょぼいです。


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