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箱をあけよう  作者: ひろりん
第5章:遺跡編
167/240

レグドールの里:運命の輪

大変お待たせいたしました。

本日より更新再開いたします。

体調を見ながらのゆっくり更新になりますので、

随時、更新予定を活動報告に入れていきます。

遺跡の方向から立て続けに大きな音がして大きく地面が揺れた。

ぐらぐらと足元すらおぼつかない状態で大地が上下左右に動いていた。



その地震の度合も今までになく大きなものだったが、

大灯篭のそばで実家から持っていた酒で酒盛りをしていた女達を、

更に驚かしたのは大灯篭の人為的な変化だった。


レミの入れた筒のようなものが、大灯篭の火の中ではじけて破裂音を周囲に響かせた。

大灯篭の屋根の石が割れるような勢いで明かりの火が燃え盛った。



ごうっと音を立てて燃える炎と共に、目を開けていられないほどの眩しい光が、

かっと周囲を照らし出す。その強烈な光は全ての闇を白く染め上げるほどに激しい。

その光は、真っ暗の夜空に太陽の光を投げかけるように、白い閃光を天に向けて放った。


「なにこれ、嫌、ま、眩しい。

 ちょっとレミ、あんた、何をしたのよ」


女達の手が、自身の目を庇う為、ねじ伏せていたレミの服から手を放した。

彼女らの手が緩んだ隙に伏せられていたレミは、後ろ手に彼女らの体を力いっぱい突き飛ばした。


痛む体を起こし里の入り口に向かって目をやると、里の大辻と道端のあちこちから、

ねずみ花火のようなシュルルルという音と、小さな閃光がバチバチと上がった。


小さな光たちを視線で辿ると、まっすぐ線を描くように里の入り口まで続いていた。

光が、真っ暗闇の道を照らしだし、床の石が白く光る。


じっと見ているだけなら狐火の行列のように幻想的な風景だ。

だが、今のレミには見とれている暇は全くなかった。


その明かりを追うように、髪の乱れもぼろぼろになった服も気にせず、

レミは里の入り口に向けて走った。


「レミ、待ちな、逃がしゃしないよ」 


背後から、金切り声をあげながら女達が追ってくる。

今にも追いつかれそうな気がして背後をちらりと振り返る。


彼女らの三日月型の口角が、ケタケタと笑う逆三日月の目が、

言い伝えに聞く気持ち悪い山姥の笑いにも見えた。


レミの背中に怯えと恐れの感情がずしっと重く圧し掛かる。

そのせいか、足がうまく前に出ない気がした。


いつもなら、大灯篭の大辻から里の入り口まであっという間。

子供のころから何度も通いなれた道筋だ。

なのに、今日に限ってその短い距離が10倍にも20倍にも感じた。


息が上がり足がもつれる。

揺れる大地の震動が、レミの足元を覚束なくさせるようにも感じた。

まっすぐ先に見えているはずの里の入り口が、落ちてきた汗で歪んで見える。



彼女らは先ほどの大きな音と光に一瞬気を取られ、揺れる大地に多々良を踏んだがそれだけだ。

悲壮な顔で逃げるレミを見逃しはしなかった。


里の入り口まであと少しの所で、後ろから伸びてきた手がレミの髪を掴んで無遠慮に引っ張った。

引っ張られたレミは、次いで足を引っ掻けられ転がされ、彼女らに取り囲まれた。


追いかける愉悦が益々の狂気を煽ったようで、床に転がったレミは背中を酷く足蹴にされていた。


咄嗟に目を瞑ったレミの耳が大地に強く押しつけられ、その胎動の音が地鳴りとなって届く。

その大きな音と取り囲む女どもの嘲笑が、捕まったレミに絶望感を植えつけた。


「捕まえたよ、レミ、さあ、何のつもりか吐いてもらうよ」

「厄介者のくせに、目障りなことばかりして、いいかげんにしな」

「お前みたいな役立たずは、迷惑極まりないね」


彼女らは、口ぐちにレミを蔑む罵詈雑言が浴びせる。

その瞳は至極嬉しそうに爛々と輝き、愉悦に顔が歪んでいた。


その背中に、先ほどまで彼女らと一緒に酒を飲んで泥酔していた女の金切り声が重なった。


「子供が、私の子供がいないわ。

 カーサ、貴方の所もよ。

 祭りが始まってから一度帰って寝かしつけた上の子供も、

 最初から置いてきた下の子供もどこにも居ない」


酒が入っていたのもあり、楽しそうにレミを嬲っていた女達の手がピタリと止まる。

レミの足付近を押さえつけていたカーサと呼ばれた女が、顔色を変えて家へと走った。

そして、その後を追うように、幾人かの女達が各々の家へと姿を消した。


「レミの家の老人達はいるのかい。

 誰か確かめてきて」


レミは逃げようと体を捩じるが、残っていた幾人かがレミの背中と首を押さえつけた。

苦しみと痛みと息苦しさで、レミの息が詰まってぐうっとくぐもる様な声が出た。


レミの家へと走った女と、各々の家に走った彼女らは、

しばらくして息を切らせて帰ってきた。

女達のその手には、料理をするときにしか使わないはずの包丁を持っていた。


「レミの家にいるはずの老人は一人もいないよ。

 寝室も、納戸もどこにも人っ子一人いやしない。

 納屋から轍の跡と沢山の足跡が残ってた。

 どこかに皆で一斉に移動したみたいだよ」


レミの家から帰ってきた女は息せき切って皆に報告する。

女達の気配が、重い殺意を伴ったものに変化しレミに襲いかかろうとしていた。


「レミ、お前だね。

 この間から、こそこそ何かをしていたのは知っていたけど、

 こんな馬鹿なことをしでかすなんて、この屑が。

 今まで育ててやった恩を忘れて仇を返すなんて。

 私の子をどこにやったのよ。

 言いなさい、どこにいるのか言うのよ。

 今すぐ返しなさいよ。 返さないとお前の顔を切り刻むわ」


レミは襟首を掴まれ、体を仰向けに変えさせられた。

そして、がくがくと揺さぶりながら首を絞められた。


冷たい刃が頬に当てられる感触に体がこわばり、瞼が痙攣しそうになった。

レミは瞑った目を開けると、般若のように怒った女が包丁をレミの顔に押し付けていた。


彼女は、レミが姉のように慕っていた女であった。

祖母を慕い、レミをなにかと気にかけてくれていた優しいしっかり者。

争いごとがあっても、決して感情を表に出すことはなく、

理知的に相手を説いて解決する尊敬する女性だった。


レミの目から涙があふれて頬を伝った。


「カミレン姉さん。本当にもとに戻らないの。

 私の知っている姉さんは、決してこんなことをする人じゃなかった。

 どうして、どうしてこんなことになっちゃったの」


包丁を持つカミレンの手がぴくっと止まる。 

レミの言葉と涙に、頭の中で何かが触れたのか、一瞬不思議そうな顔で首を傾ける。


「カミレン、何してるんだい。

 早く、その子をこらしめてやんな」


周囲からカミレンを援護するかのような野次が飛ぶ。


「争うには理由がある。その理由を聞いてから判断するのが私流。

 いつもそういっていたよね。

 カミレン姉さん、もうあの時の優しいカミレン姉さんは戻らないの?」


レミのぽろぽろと毀れる涙が、必死の慟哭がカミレンの手を止めた。


「あ、う、うう、あぁあ」


唐突に、カミレンの頭の中で何かが騒ぎ立てて大きな頭痛を引き起こした。

カミレンは、襲ってくる痛みを抑えるように頭を両手で抱きかかえた。

その手からは、力なく包丁の柄が落ちた。



その時、背後から黒い影が動き、女達の首筋に次々と衝撃を与えていった。

レミに馬乗りになっていたカミレンも含めレミ以外の女達が、意識を失い倒れた。


その突然の変化にびっくりしていると、ビン底メガネに、茶色の長い髪を一つに縛った、

白い肌の男がレミに手を差し伸べていた。


「御嬢さん、もう大丈夫ですよ。

 さあ、手に掴まって、立てますか?」


その顔を、というより、そのメガネを付けていたイルドゥクの男を、

何度か遺跡の学者達への食事を運ぶ際に見かけていたから知っていた。


こちらの警戒心も猜疑心も全くひるむことなく、にこにこと笑いながら、

食事を受け取り、序にありがとうとお礼を言われたことがあるからだ。


現にいまの緊迫した状態の中でも、いつもと変わらない笑みを浮かべていた。


「あ、はい、あ、ありがとうございます」


涙をぬぐって彼の手を取って立たせてもらうと、その手は思っていたよりもごつくて大きかった。

実に、学者らしからぬ戦う男性の手であった。


彼は、レミの手を取ると、そのまま里の入り口まで引っ張って連れて行く。

丁寧だが、いささか強引な程の力でレミの背を押すようにある場所まで連れて行った。


「あ、あの、一体どこまで」


混乱するレミの手を握りしめたまま、男はレミの頬に指を沿わした。


「顔と首、それに足と膝から血が出ています。

 軽い応急処置しかできませんが、手当をさせていただけませんか」


男の指には、うっすらとレミの流した血が滲んでいた。

そこで初めてレミは自分の頬に傷が出来ていることを判別した。


困ったような顔をする彼に、レミは無意識のままこくりと頷いていた。


「ああ、よかった。 もうすぐそこです。

 うら若い女性の顔に傷など残ったら大変ですしね」


混乱する意識の中で、山間を抜けて目的の場所にたどり着くと、

そこにはイルドゥクの軍人たちと見たことのある学者達がいた。


彼に連れられて中央の薪と簡易テントのそばまで行くと、 

見覚えのある学者の老人達が、すぐに彼のそばに近寄ってきた。


「ミ、ミオッシュ君、大丈夫なのかね。

 その子はどうしてここに? その怪我は?」


白髭が顔の半分以上を覆っている老人の学者が、彼の背後から恐る恐る窺う。

声をかけられて初めてレミは、彼の名前がミオッシュだということを知った。


「彼女は、我々を逃がす為にいろいろと尽力してくださっていたのですよ。

 あの光の合図と明かりは我々が頼んだことですが、

 見張りや里の大半の住人の泥酔も貴方の仕事ですね。

 お蔭で楽に脱出できました。

 学者達は、無事全員そろって遺跡の外に出て、我らの仲間に無事保護されました。

 有難うございます。 

 ですが、先ほどの女性達の凶行は、そのことがばれて追われたということですね」


立て続けに話す彼の言葉に、口を挟める者も居ず、

レミはこっくりとただうなずくだけだった。


「なんと、ミオッシュ君、それでは彼女は我等の恩人ではないか。

 有難う御嬢さん。我々はなんとお礼を言っていいのだろうか」


後ろをついてきていた学者達から、口ぐちにお礼の言葉が聞こえてきた。

レミは、彼らの感謝の言葉をまっすぐに受け取ることが出来なかった。


それは、レグドールとしての意識教育の一環でもあったのだが、

彼らをさらってきて仕事を強要していた事実を知っていたからでもあった。


レミが実際に手を下し命令したわけではない。

だが、知っていて放置し、更にイルドゥクだからとの理由付けで自らを正当化していた。


それに彼らを結果的に逃がす助けをすることになっただけで、

彼女の本来の目的は、闇の影に里の洗脳されていない老人と子供を保護してもらう為だ。


その為に頼まれた交換条件。

自分の為にしたことだ。


その行動に対し、感謝の意を述べられる。

実に利己的で欺瞞に満ちた自分を殊更に理解し、そして恥じていた。


それなのに、彼らは私にお礼の言葉の述べてくれる。


「い、いいえ。お礼の言葉など私に言わないでください。

 私には分不相応な言葉です」


あわてて顔をそむけ俯く彼女に、ミオッシュはにっこりと笑った。


「貴方の勇気ある行動のお蔭で多くの命が救われたのです。

 ほら、見えますか?」


ミオッシュの指さす方向にはレミが灯した大灯篭の眩しい光と、

それに連なるようにまっすぐに伸びる光の線がくっきりと闇の中光っていた。


その闇の通路の中に、沢山の人間が軍人に抱えられるようにして、

足早にこちらに向かってきていた。


「彼らは、レグドールの祭りの生贄にされるべく掴まっていた奴隷たちです。

 貴方と貴方の協力者のお蔭で、ほぼ半数の人間が遺跡から脱出できるようです」


半数?

その言葉に、恐る恐る顔を上げると、ミオッシュは首をゆっくり振った。


「彼らの半分はすでに死亡していました。

 彼らの命運はここでこと切れていたのでしょう」


その言葉は、レミに驚愕と共に、ああやっぱりと諦めに似た意識を呼び起こした。

レミの顔が泣きそうに歪むが、泣いてはいけないとぐっと堪えた。


彼らを死に追いやったのは、自分達の里の住人。

つまり、自分も同罪なのだから。

泣く資格など、持ってはいないのだから。


レミが甘い考えを持っていたから、ここまでひどいことになったのだ。

彼らが死ぬ運命に導いたのは彼女かもしれないからだ。


レミの友人も、闇の影の者達も言った。

甘えすぎだと。他人に自分の人生の責任を押し付けていたつけが回ってきたのだ。


誰かが何とかしてくれると放っておいた結果、里の住人は薬による人格障害をおこしている。

その他にもいろんな弊害を引き起こすかもしれない。


祖母に言われた時、会合でおかしいと感じたとき、

すぐに行動していれば、ここまでひどいことにならなかったはずだと、

闇の影の長は暗に述べていた。


つまり、レミの行動一つで、今のこの状態を回避できたかもしれないということだ。

その機会を、チャンスをつぶしたのはレミなのだと。


レミのもっとも大切で守りたかったものは、レミ自身が壊したのだ。


もう、レミは甘えてはいけない。甘えることは許されない。


ここでなくことは、自分を正当化すること。

だから、泣けなかった。


そして、レミはわかっていた。

自分だけがここに残された理由を。


女達に襲われた時、里に散らばっていたはずの闇の影が誰も助けてくれなかったわけも。


今、ここに、レミの救出した子供たちも老人の姿もない。

無事に闇の影に保護されたのだろう。


里の住人は朝になれば、全員目を覚まして、

やってくるイルドゥクの軍隊に捕縛されるだろうと、祖母も言っていた。


そして、掴まった彼らの憎しみの先は、裏切ったレミに向かうだろうとも。

示唆した闇の影ではなく、レミ単体に矛先が向くのだ。


それを承知ですべて背負ってレミは決めたのだ。

戦争を起こさないために、少しでも多くの里の住人の命を救うために。


裏切り者


それがこれからのレミの総称となるであろうことをレミは知っていた。

これは、甘えきって人の人生を摘み取ってしまったレミの罰。


闇の影の首領が示したレミの覚悟とは、レミが自ら罪の重荷を背負うということ。


続々と抱えられやってくるやつれた様子の人達。

ぼんやりと光る道の明かりが、彼らのその様子に哀れさを相乗させる。

  

だけどそれより今は、消えてしまった命を悼む方が先だろうと、

意識を強引に切り替える。


じっとこちらを見つめるミオッシュに、泣きそうな顔で微笑んだ。


「……忘れません。決して。

 私には無くした命を背負うことは出来ないけれど、憶えています。

 生きている限り彼等の冥福を祈ります」


ミオッシュや、背後で興味深げに見ていた学者たちが、優しい目つきでレミを迎えた。

彼女のこれから背負う未来は、険しいものとなるだろうと、ミオッシュですら解っていた。


だが、自分ですべての罪を背負おうとする彼女に、

そこに居た誰しもが無限の痛みと癒しを感じていた。



暗闇が東の空から少しずつ薄れていく。


もうじき、この場所に朝が来ようとしていた。

大勢の運命を決める朝が。


レミの目の前には、次々と増えていく助け出された奴隷たち。

彼らは一様に、ひどく衰弱していた。

彼らの目は助け出されてなお、空ろで所在なさそうに視線は宙を彷徨っている。


その内の一人が誰もいない虚空に向けて必死で手を伸ばしていた。

折角助け出されたのに、彼らの命の灯はこと切れようとしていた。


レミは、まっすぐに背を伸ばして、息を大きく吸い込み吐き出した。

自らの運命を受け入れた彼女の瞳には、もはや迷いはなかった。



「私は、もう逃げない」


そう自分自身に言い聞かせるように呟かれた言葉は、

傍にいた数人にのみ聞き取れるくらいの小さな小さな声。



彼女は迷うことなく倒れている彼に歩み寄り、

震えながら宙を彷徨う彼の手を、両手で優しく包み込んだ。


そして、耳元に寄って、小さく一言二言と言葉を落とした。


手を取られた者は、暖かな手の感触とかけられた言葉に涙をこぼしながら、

自分の名前と最後に言い残したかったことを彼女に告げて最後の息を引き取った。


死にゆく者のそばで付き従うのは、どんな人間でも畏怖するものだ。

死は、いづれ誰の上にも平等に訪れるもの。

解っていても、生に執着する者が死を本能から忌避するのは当然なのだ。


だが、彼女はあえて彼らの手を取り、その最後を次々と看取っていった。

助け出された奴隷67人の内の18人がその夜に命の火を消した。


彼女に手を取られて死にゆく彼らは、最後に安堵の笑みを顔に載せて旅立った。


彼女の凛とした横顔は神々しく、気高い、そして慈悲深い女神のように見え、

ミオッシュやその場にいた大勢の人間の目を捉えて離さなかった。


朝が来る。




**********








レグドールの巫女姫、裏切りの聖母、死出の寿ぎ。


後に多くの忌み名と共に求められ支持され畏怖された巫女姫の誕生であった。

彼女は、レグドールの里が解体されたのち、数々の死にゆく人々の心の拠所となる。


数多くの人々の最後の声を聴く為に、死にゆく人達のそばに立つ。

悲しみや悔恨、怨嗟、執着、心残りや言葉に出来ない抱えていた想い。

さまざまな想いを彼女に告げ、握られた彼女の手に、

心の重荷の半分を残して死者は無事旅立つ。


聖職者や医者のような命に係わる職業のものでも顔を背ける死に水を、

彼女は幾度もその手で掬い上げた。


それが、死に面した人々やその家族にとってどれだけ救いになったことか。

その安らいだ顔を見れば解るだろう。



多くの人に安らぎの死を迎えさせ、臆することなく生きた彼女の人生は、

それに相対するように、常に悲しみと苦しみに満ちていた。

それが、自らの贖罪であるかのように、彼女はあえて苦しい道を選び取る。




その彼女の傍らに、ビン底メガネの男が常にそばにいて、

彼女の心を支えたことが史実でも知られている。 






******





運命の神にして死と再生をつかさどる神が選び、力と使命を与えた魂。

天命を携えて送り込んだレミの魂が、ようやく運命の軌道に乗った。


彼女に与えた使命は、死を前にして歪む魂の修正だ。


死は恐怖、そして安らぎ。


安らぎを得る前に恐怖や心に残る負の感情に囚われた死した魂は、

輪廻の輪に入ることは出来ない。

生に執着しつつ輪にはじかれた哀れな魂は、負の存在となり暗い世界を漂う。

その結果、多くの魂が邪気に成り果て、世界を澱ませる。


すでに世界の澱みは蓄積され、これ以上増えることは望ましくなかった。


だから、一番邪気の強い人間の魂に使命を与えたのだ。

神は、世界は、レミの魂が目覚め、使命を全うしてくれることを心から欲していた。



だが、彼女が生まれてから何度もその魂に、神が呼びかけたが、

彼女は使命にも力にも気づかなかった。


魂は苦しい運命を避け、簡単で傍観する道を歩いていた。

このままでは、魂は何もできずにその人生を終えるだろうと思われた。


人の世に干渉できない神が、何度もはがゆく臍をかんだのは当然だろう。


だが、芽衣子という異分子が現れたことで、

レミの取り巻く環境が、運命に導かれるように変化した。


芽衣子の存在が、水に映る波紋のように影響を強く及ぼしていた。


闇の影の男と出会い、芽衣子が関わったところから歯車は回り始め、

その結果として、闇の影がレミの立場を明確に示唆する結果となった。


闇の影の首領である男の芽衣子にであったことで得た心の変化も、

レミの運命を決める一端を担ったのだ。


遠い場所からハラハラしながら見守っていた死と再生をつかさどる神は、

そのことに大きな安堵のため息をついた。


そして、レミの運命の輪を動かしてくれた芽衣子に、

芽衣子をこの世界に迎え、守護する4つ柱の神々に感謝の意を示すのだった。

 

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