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箱をあけよう  作者: ひろりん
第5章:遺跡編
150/240

ようやく到着しました。

「フィオンさん、本当の本当に、何も考えてなかったんですか?」


フィオンさんにぐっと詰め寄ると、フィオンさんは楽しそうに笑って肩をすくめた。


「ああ、だって考える必要ないからね。

 もともとのゼノ総長の計画でも君が扉を開ける手筈になっていた。

 そうだろ? ならば、問題など無い。違うかい?」


いや、問題は大有りですよ。

ここは、はっきり言っておく必要ありです。


確かに手早く言えばそうなんですが、それはカースとかレヴィ船長の、

まあゼノさん達も入れて、頭の良い方のサポートあってのみ有効だと思うんです。


光蛇は確かにいろいろ教えてくれておりますが、

それに応えるべき私は、決して有能からは程遠いのです。


大体、ココまでこれたのは殆どワグナーさんの地図と手引書、ゼノさんの経験、

レヴィ船長の機転と反射神経やカースの頭脳が生かされてこそなんですよ。


「私の知識なんて、ワグナーさんに比べたら微々たる物なのですよ。

 あてになるかなんて、わからないではないですか。」


古文漢文の成績は平均点。

五段階評価で3。

正確には2.5だと思うくらいにおまけされた3でした。

得意科目には決して分類できないくらいです。


がくりと肩を落とし、のの字を足で描きたくなりました。


勉強したことをきちんと記憶できる脳みその欠片がほしいと、

学生時代から何度も思いましたが、今になって同じような思いをするなんて、

人生は繰り返しの連続だと言ったのは誰だったか。


なんだか、遠い目をしそうになります。


しばらくして、フィオンさんは笑みをおさめて、真剣な顔で向き直り、

私の肩をがっしり掴んで目線をあわすようにやや中腰になる。


赤金の目が、じっと私の目を絡め取る様に見つめる。

その視線に釘付けにされたように、私の手足の動きが止まる。


「大丈夫さ。 メイ、君なら出来る。

 多分、君にゼノ総長が求めたのは、ワグナーのような知識などではないと思う。

 大体、そんなもので良いなら、事前に集められた学者達で事足りる。

 知識以上のものが必要だと考えたからだろう。」


知識以上のもの?


フィオンさんの目を覗き込むようにして真っ直ぐに視線を返す。

その赤金の瞳に、きょとんとした目の私が映る。


フィオンさんは、ちょっと苦笑して穏やかに微笑んだ。


「俺はゼノ総長ではないから、詳しくは解からない。

 だが、一つだけいえることがある。」


「それは、なんですか?」


首を傾げて続きの言葉を待っていると、フィオンさんがにっこりと笑った。


「下手な常識に囚われている学者達には決して解けないだろう。

 あれは確かに知識だけではどうしようもないと俺は推測する。

 ゼノ総長は君になら解けると望みを掛けた。

 君には出来ると確信できるだけの何かが君にあるからだ。

 今は、俺もそう思う。」


常識に囚われる?

私なら? 

確信する何かって、どういうことだろう。


首の傾げ具合が更に下を向く。

もしかして、聞き間違いとかでしょうか。


何かって、もしかしたら拙い私の古文漢文で何とかなるのでしょうか。

脳みそにひっかかっているわずかなラッキーにあたるとか。


それとも神様の守護者能力に期待してということなのかしら。

このことは照とお猿しか知らないのだけど、

なんとなく、勘の良い人はわかるのかもしれない。


希望要望過多のような気がしますが、フィオンさんやゼノさんが、

私に一縷の希望をかけてくれていることはなんとなく理解しました。


それに、何事も最初から諦めていたらどうにもなりません。

やるだけやるさっ頑張ろうって甲子園のポスターに描いてあった、

あの心意気を見習おうではありませんか。


私も甲子園球児に負けません。

握りこぶしを作り、ぐっと腰で力を入れます。


「そうですよね。 私、頑張ることにします。

 フィオンさん、励ましてくださって有難うございます。

 アニエスさんにも約束しちゃったことですし、

 レヴィ船長やカースに会いたいから、頑張ります。」


フィオンさんが、ちょっとだけむっとした表情を見せる。

なんだか拗ねた子供のような顔だ。


でも、その表情は一瞬で消えて、やや意地悪そうな表情に取って代わられる。


「そうだな。 まず、問題の扉の前に案内しよう。

 こんな場所で押し問答していても始まらない。」


私が頷くと、フィオンさんから左手がすっと差し出されました。


これは、なんでしょうとじっと見ていたら、

苛憑きながら伸ばされた左手が私の右手をあっという間に握りました。


そのままぐいっと引っ張られて、体が出口へ方向転換しました。


今すぐ出発ということですね。

それには依存はないのですが、突然の行動に転びそうになります。


足をもつらせながらも引っ張られるようにして部屋を出ました。


その部屋から出たら、そこは細い路地のようなつくりの廊下らしき場所。

先ほどの部屋と同じく、光も差さない四方が洞窟のような岩壁。

違うのは岩壁の色。

茶けた色の壁ではなく、灰色に近い黒が混じった白っぽい岩壁。

それに、どこからとも無く流れてくる風がやけに冷たい。


所々にポツリポツリとある松明の光が、祭りの牡丹灯篭のように、

暗闇の中を道順に沿って等間隔に照らしてます。


フィオンさんは、左手に私の手、右手に小さなランプを持って歩いてます。

小さなランプでは、フィオンさんの足元がちらっと見える程度の明かりです。

1メートルどころか30cm先ほどしか照らしません。

それなのに、フィオンさんはまるで危なげない様子で、すたすたと歩いていきます。


私は、右手を掴まれていますので、半分引きずられるように歩いてます。


足の長さが違うので、フィオンさんはすたすた普通、私駆け足。

身長が明らかに違いますから、人種も足長人種ではないですし、仕方ないんですよ。

でも、すこしだけゆっくり歩いてくれるといいのにと思います。


それに、高さは十分にあるのですが、横幅は人一人か二人がぎりぎりの幅です。

そこを、手を繋いだままだとちょっとだけ狭い。

手を離してくれるともっと楽に歩けるのですが。



「あの、フィオンさん、子供ではないので手を繋がなくても転びませんよ。

 方向音痴ではないので、迷子にもならないですし。」


とりあえず手を離してもらうために、息をやや弾ませながら声を掛けると、

フィオンさんはピタっとその場所で急に止まりました。


「ああ、早く歩きすぎたか、すまない。

 それとも体が疲れたか? 俺が抱いて連れて行こうか?」


は?なんでそうなるんですか。


「私は大丈夫です。それに、狭いところで何を言ってるんですか。

 普通に手を離して一列で行けばいいですよね。」


口を尖らすように提案すると、フィオンさんは、

半目になりながら、私の顔をじっと意地悪そうに見つめた。


「手を離していいと思う? ここには罠が無いとでも思うのかい?

 見えてないだけで、沢山あるしいるんだよ。勿論。」


ランプの小さな光がフィオンさんの顔を下から照らして、

まるでホラー映画のハイライトのようにみえる。

ちょっと不気味です。


「た、沢山って、な、なあにがあるんですかしら?」


ちょっと怖くなって後ろに下がろうとすると、手を更に引っ張られる。

ホラーハウスのミイラに引っ張られている気分です。


「落とし穴に、矢掛け、槍山、嵩落し、それに、蜂玉や、虫毛玉もあったな。

 今は手を繋いでいるから罠にかからないけど、万が一、君一人になっちゃった時、

 一人で歩く自信あるのかい?」


落とし穴はともかく、なんだか物騒な単語が出てきたような気がします。

意味が解からなくてよかったと思う反面、それがなんだか気になって、

おどおどと下出になりながら質問した。


「あ、あの、蜂玉、虫毛玉ってなんですか?」


とりあえず、最後に聞こえた単語を二つ上げる。

フィオンさんは、にやりと口角を上げて笑う。


「蜂の巣の塊に、ムカデなどの大きな毒虫の巣だよ。

 下手な場所を踏むと降ってくるぞ。」


蜂? ムカデ?


背中といわず、全身に悪寒が走りました。

そんなものに襲われたら、顔とか足とか刺されてぼこぼこになりますよ。

いや、それ以前に頭の上から降ってくるとか気持ち悪いです。


甲花虫が落ちてきた時のように落ちてくるんだろうか。

私は、そっとポケットに手をやり、お猿の安否を手で確認する。


手に感じるのはお猿の規則正しい寝息。

ちょっとほっとしました。


しかし、蜂やムカデの塊がどてっと降ってきた場合、お猿にはどうしようもないわけで。

そうしたら、蜂とムカデまみれになるのは決定?


思わず気持ち悪さに吐き気が襲いそうになって、うっと詰まると

呼吸困難になり大粒の涙が目にたまりました。


フィオンさんの手をギュッと握り返して、決意を新たにお願いしました。


「フィオンさん、仲良く手を繋いで参りましょう。

 手を決して離しませんから、よろしくお願いいたします。」


フィオンさんは、いつの間にか暗闇の中に反面の顔を隠すように横を向いていましたが、

見えている半分の耳は、微妙に赤い気がします。

もう蜂に噛まれたのでしょうか。それとも蚊に噛まれたとか。


「あ、ああ。」


小さい返事でしたが了承いただけたようです。

罠にかからないのは一番ですからね。

ほっと一安心です。さあ、参りましょう。


「フィオンさん、行きましょうか。」


フィオンさんに笑いかけながら号令を掛けると、手が不意に離されました。

そして、ぐいっと引っ張られて気がつけばフィオンさんの脇の下です。

正確には、私の腰をフィオンさんが抱え込むような形になってます。


「後ろだと何かあったとき対応し辛い。

 コレならば、抱えて走れる。 

 安全面重視だから、特に問題ないだろう。」


そう言いながら、フィオンさんは私の髪に顎を乗せました。

そういえばセランとかもよく私の頭に顎を乗せて休憩していた気がする。

高さ的に丁度良い位置なのかもしれません。


しかし、私を抱えてですか?

私は決して軽くないですよ。

腰を痛めてしまうのではないでしょうか。


ですが、この体勢ならば罠も回避でき、

結果、蜂もムカデも襲ってこないというのですね。


「そうですか。 危険地帯ですものね。

 安全を守る為ならば、仕方ないですよね。」


この旅行から無事帰ったら、フィオンさんに

腰痛対策ベルトのようなものを見つけてあげよう。

市場に確か似たようなものが売ってあった気がする。


フィオンさんとお互いの意思疎通ありのように、

晴れやかな笑顔で満足そうに笑いあいました。


フィオンさんは私の髪を撫で付けるように撫で、

真剣な顔つきで私の頭上できっぱりと言いました。


「メイ、君は俺が守る。

 誰にも、何にも、神や悪魔でさえも邪魔はさせない。」

  

守るって、それは虫や罠からですよね。

それは勿論お願いします。出来れば罠に引っかからない方向で。


フィオンさんは、私の頭に何やら息を吹きかけています。

ちょっとくすぐったいですよ。


しかし、神や悪魔って、どうして出てきたのかしら。

そこまで考えて、私の脳裏にポルクお爺ちゃんの顔がポンと浮かびました。


ああ、そうでした。

ポルクお爺ちゃんから頼まれたんでしたよね。

それにしても大げさな宣言ですね。


そういえば、アニエスさんもいちいち高笑いするとか、動作が大げさでした。

この里の人たちはジェスチャーも含め大げさが標準装備でしょうか。


そう思っていると、私のポケットの中からお猿が顔を出しました。


「おいらーも、守り守る守ればヨイヤ。」


うん?

ちょっと寝ぼけているようです。

目をごしごしと擦っていてかなり眠そうです。


寝息がポケットから時折聞こえていたので、問題ないとは思っていたのですが、

起きてくるとちょっとほっとしますね。


「フィオンさん、本当に、いろいろ有難うございます。

 お猿もそろそろ目を覚ましたみたいですし、 

 私も、ご迷惑にならないように頑張ります。」


お猿の頭をそっと撫でながら、フィオンさんにお礼を言いました。

先ほどまできりっとした真剣っぽい顔をしていたフィオンさんは、

お猿の顔をじっと見つめたかと思うと、いきなり大きなため息をつきました。


「はあ、なんだ。 もう、護衛その3が目を覚ましたのか。」


そのため息はなんだか残念そうに聞こえます。

ああ、そうでした。お猿はその3でしたね。

フィオンさん一人に負担を掛けずに済む可能性が、

ちょびっとだけあるようなないような。

そうなると、先ほどのため息は安堵のため息と言う事ですね。


「はい。 お猿も大丈夫みたいです。

 では、フィオンさん、行きましょうか。」


「神様の守護者、おいらも行くまくかない。」

 

キッキーとお猿の元気が声がして、フィオンさんが改めて歩き始めました。




*******




フィオンさんは私が居た時よりも歩幅大きくざかざかと歩き、

あっという間に細い通路を抜けました。


罠を引き当てて、上から何か降ってくるかもと警戒していただけに、

何事も無くほっとしました。


途中でこの里の他の人にも3人ほどすれ違いました。

皆さん年はばらばらでしたが、一様にフィオンさんに向けて頭を下げていくのです。

それに、抱えられている私をみて不思議な顔をしてました。


それに関しても、フィオンさんは気にするなとしか言いません。

ちなみに、その気にするなというのは私に向けて言われた言葉ではありません。

すれ違った人たちに向けてです。


罠が沢山あるはずの通路に、結構沢山の人が歩いているんですね。

皆さん、随分な反射神経と記憶力をお持ちなのでしょう。



それとも罠のある場所は抜けたのでしょうか。

フィオンさんがなにも言わないので、そのままです。

私は楽なのですが、フィオンさんの腰が心配です。




さて、抜けた先には見覚えのある、埴輪達。


口が大きく開いてあり、近くで見てもやっぱり埴輪。

土偶もどきは、目が潰れていてやっぱり土偶です。


それらが不規則にずらずらとゾンビのように並んでました。

でも、それがゾンビとか呪いの人形に見えるのは条件があるのですよ。


まず、暗闇です。

そして、どこからとも無くすすり泣く声。

なぜか、埴輪達だけならば感じられない沢山の人の気配がします。

それも、力のない幽霊のようなかすかな存在感の気配です。


丑三つ時でどろどろと効果音が鳴ったならば、

確実に耳を塞いだまま念仏唱えて逃げ出します状態です。


フィオンさんの服をしっかりと掴んだまま、恐る恐る尋ねました。


「フ、フィオンさん、この埴輪は泣くんですか?」


「埴輪? ああ、いや、この土人形が泣いているのではないよ。

 この土人形の下に水路のような細く狭い空間があるんだ。

 そこに今、集められた奴隷達が入れられているんだよ。

 この声は、彼らの鳴き声だろう。」


この下に通路があるんですね。

それでそこに人が居て、泣いていると。

幽霊の正体見たり枯れ尾花ですよって、なんでそんなところにいれているんですか。


「泣き声だろうって、そんな簡単に。」


くってかかろうとすると、フィオンさんの赤金の目がきらっと厳しく光りました。


「落ち着け。 メイ、君の一番にすることはなんだ。

 一時の感情に流されて、優先順位を間違えるな。

 メイ、君があの扉を開けることが君のすること。

 いち早く開ければ、多分彼らにとっての救いもあるはずだ。」


低い声で私の感情を嗜めるように言われて落ち着きました。


はい、そうでした。


私のすべき事をまずしないと、あれもこれもと欲張ってはいけません。


レヴィ船長とカース達の無事が一番。

そして、序に捕まっている奴隷さんたちの救出も出来ればいいなくらいに考えていないと、

どつぼに填まってしまうでしょう。


「はい、そうでした。

 すいません。フィオンさん。

 扉のある場所に早く連れて行ってください。」


しくしくとすすり泣く鳴き声を後ろに逃げるように、

その場を後にしました。


100人からいる奴隷さんたちのすすり泣く声は、

遺跡の壁に反射して私の耳にいつまでもついてまわる。

耳を塞ぎたくても、塞いではいけない。


なんとなくそんな想いがずんと圧し掛かってきて、

鼻先がつんと痛くなりました。



「私、……頑張りますから。」


私は、決して彼らには届かないくらいに小さな声でぼそりと呟きました。


フィオンさんは私を殆ど抱えるようにして、

足早にその場を走って通り過ぎました


そして、すすり泣く声が聞こえなくなった時、

小さな亀裂のような場所に素人が作ったのかとさえ思われるほど、

不恰好な石段がありました。


そこをとんとんと降りていくと、小さな茶室のにじり口のような扉がありました。


「メイ、ここだ。 問題の扉はこれだ。」


フィオンさんに誘導されて見せられた先には、

やはり達筆な毛書体の日本語らしきものがありました。


フィオンのいう蜂やムカデの罠はとっくに解除済みです。

でないと里の住人は通れませんから。

解かってないのは、メイだけです。

甲花虫が降ってきたのがトラウマ気味になっているようです。

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