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箱をあけよう  作者: ひろりん
第1章:船上編
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誤解しないでください。

ルディが収集してきた洗濯物は、昨日と同じ量。


二つの籠。

大きさは樽とほぼ同じくらい。


その中にくさーい洗濯物がわんさかです。


ルディによると、1週間着たきりの人が殆ど。

だそうだから、皆、自分が臭いので、

鼻が麻痺しているのかも。



「洗濯物を部屋に置いたから、繕っておいてね。」



さっき、ルディはそう言って出て行った。

今から、ロープの修復作業の手伝いがあるそうです。



本当にルディはよく働くね。



私も負けないように、働かなくてはね。

働かざるもの、食うべからずですよ。



とりあえず、

宝玉のこととか、

狸男のこととか、

考えるのやめよう。


今は、自分に出来る仕事をしなくてはね。


レヴィ船長に仕事をしたいって

私から言ったんだもの。


昨日のレヴィ船長の言葉を、表情を思い出すと、

胸の奥がほわほわあったかくなる。


うふふ。



自然に緩む顔が止められないし、

とめられない。


はっいけない。

仕事仕事。



籠から服をとりだして、

昨日、教わったとおりに、ほころびチェック。

並びに、刺繍の目印チェック。


一枚、一枚取り出して、調べていく。


二つ目の籠の中ほどに、キラッっと何かが光った。

明り取りの天窓から漏れる太陽の光に

反射したかんじ。




何だろう?




籠の中の服を掻き分けて、見つけた。


綺麗な青い石のペンダント。

周りは金細工かな。

手に持ってみると、重みがある。

ネックレス部分の皮ひもが切れた様で、

洗濯物の服の袖に絡みついていた。



誰のだろう?



綺麗だし、高級な感じ。

多分、なにかしらの間違いで、この籠に入ったんだよね。



レヴィ船長のかな?

後で、ルディが来たら、聞いてみよう。



そう思って、無くさないように、

部屋の一番高い棚の上に置いた。



籠の中の全部の服の、

綻びチェックが終わったので、

繕い物を始めましょう。



裁縫箱を部屋の中央に置いて、

昨日使った、木綿針と糸を取り出して、

針に糸を通す。



そして、


ジャーン。


本日、二つめの私の新兵器登場です。



指貫です。



繕い物を昨日した時に、服の生地がごついので、

なかなか針を服に刺すのに、力がいったのです。

その時に、確か、私の裁縫セットの中に

あったはず!と思って、探して、

今朝、ポケットの中に入れておいたのです。



これがあれば百人力です。



右手の親指と、左手の中指に装着して。


メイ、いきます。



やっぱり、指貫があると全然違います。


木綿針を差し込むときに、

指貫の部分で針の頭を押しながら

差し込んでいけます。

指が痛くありません。



思わず、鼻歌が出てきました。

調子に乗ってどんどん繕っていきます。



おおよそ、繕い物が終わりかけた時、ルディが帰ってきました。



「メイ、そろそろ繕い物は終わった?」



ルディが私の手元を覘きこんで、聞いてきた。



「はい、もうすぐ、終わる。」



あと、2枚ほどです。ちょっと待っててください。



糸の先を玉結びにして、小型のナイフで、糸を切る。



「お疲れ様、うん。綺麗に出来てるね。

 昨日より、早いみたい。

 ところで、その指につけたの、何?」



指貫知らないの?



「これ、繕い物、指、痛くない。」



最後の一枚を手にとって、針を指貫で押すようにして刺しているのを

ルディに見せる。



「ふーん、そういえば、以前、近所のおばさんがそんな風なの

 指にしているの見たことがあるよ。

 それって、裁縫の時に、使うんだね。」



やっぱり、指貫あったんだ。

非力な女の人の必要アイテムだよね。



裾のほころびと肩のほころびを繕って、玉止めして、糸を切った。


よし、終わりました。



「終わったよ、ルディ。」



「じゃあ、上で洗濯、始めようか。」



籠の中に全部の服を放り込んで、

ルディが籠を持ち上げようとした時、

籠に入っていたペンダントのことを思い出した。



「待って、ルディ。籠の中、入ってた。」



急いで、棚の上のペンダントを取ってきて、ルディに見せた。



「ペンダント? 籠の中に入ってたの? 何で?」



ルディが首をかしげながら、私の顔を見て尋ねる。



わからないので、首を振った。



「ルディ、誰の、知ってる?」



ルディも首を振った。



「あとで、船長の所にもって行こう。」



そういって、裁縫箱の中に入れた。








バタン。



大きく戸口のドアが開いた。



そのとき、私の首から掛けている白い玉が、熱くなった。

感覚としては、お鍋の端を触ってアチッてなる感じ。



えっこれって、もしかして、例のアレ?



ドアの方を向いた。



「お前達、俺の部屋に入ったのか?」



黒い髪がちょっと乱れている。

なんだか、口調がちょっとあわてている感じがした。


眉間に縦一文字のしわがくっきり刻まれている。


いじわるカース副船長だ。



えっ




カース?



いきなり入ってきて詰問するカースに

ルディも私もびっくり。



「さっき、洗物を取りに僕が部屋に入りました。」



ルディがそういうと、たたみかける様にカースが言った。



「こいつを俺の部屋にいれてないだろうな。

 あの部屋には、大事なものが沢山置いてあるんだ。」



とっても、失礼な男だ。

カチンってきた。



「メイは厨房にいたので、僕だけですよ。何かあったんですか?」



ルディが、私をなだめるように、

私の手を軽く握ってくれた。



カースは、ルディの質問にちょっと、目を泳がせた。



「ちょっと、探しているものが見つからないだけだ。

 知らないなら、それでいい。」



探し物? カースが?



その時、ぱっと頭の中にあのペンダントが浮かんだ。

もしかして…



裁縫箱をあけて、あのペンダントを取り出した。



「探し物、これ?」



カースは私の手の中のペンダントを見るなり、

ひったくるように私の手から奪い取った。



「これだ! お前が盗んだのか。泥棒め。」



カースが私を凄く恐ろしい目で睨む。

そして、襟元がぐっと引き寄せられ、

私は、襟首を絞められた。



その目や言葉にショックを覚えたが、

急いで、否定するために首を振った。



「洗濯籠、服の中、入ってた。誰、知らない。私、取ってない。」



苦しい、離して。



「おまえじゃないなら、何で裁縫箱にこれが入っているんだ。」




どんどん、首が絞まってくる。


頭が混乱する。


目の前にカースの憎しみがこもった目。




「カースさん、そのペンダントは、僕が裁縫箱に入れたんです。

 洗濯籠の服にからまって入っていたと、メイから

 さっき相談されたので、あとで船長に聞こうと思っていたんです。

 手を離してください。

 メイが死んでしまいます。」



ルディが、私の首を絞めているカースの手を押さえて、

あわてて説明する。



カースの手が緩んだ。



とたんに、空気が外から中に入ってくる。

気管が開放された。

急いで、息を吸い込んだため、咳き込む。

咳といっしょに、涙が出てきた。



息をするのが苦しい。

のどが痛い。



「ルディ!かばうのか! この泥棒を!」



ルディは私とカースの間に立ちふさがった。



「本当のことです。

 メイは泥棒ではありません。

 貴方の誤解です。」



ルディとカースがにらみ合っていた。


私は、痛むのどと胸を押さえて、

目を閉じて、床にうずくまっていた。







私の肩に、誰かの手が触れた。






「静まれ。カース。お前らしくない。

 ルディは嘘を言ってない。 

 冷静になって、考えればわかるだろう。」



テノールのはっきりとした、

凛としたくぎれの良い美声。



この声はレヴィ船長?



頭の中にレヴィ船長の姿がふっと浮かんで、

目をこじ開けるようにして、

やっと目を開けたら、

とたんに眩暈がして、

頭がガンガンした。



レヴィ船長の姿がゆがむ。

すがるように、

その姿が消えないように、必死で、言葉をつむぐ。



「レヴィ船長、私、違う。 信じて。」




かすれた声。

おばあさんの声みたい。



そう思ったのを最後に、意識を失った。






































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