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箱をあけよう  作者: ひろりん
第5章:遺跡編
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教えて貰いたいと思います。

朝起きて相変わらずの変な部屋に、思わず体を思わず傾げてしまいそうになります。

何しろ、平坦で無いとなんとなく落ち着かないのです。

胃が斜めになっている感じがしています。


その上、私の目の中の光蛇は、斜めに一本の線となっているように見えます。

蛇も多分、斜め酔いしているのではないでしょうか。

昨日から全然動きません。


蛇の部屋ではうねうねと元気に動いていたのですが。


「この部屋をみても解かると思うが、平行感覚を鈍らすような造りに出来ている。

 それをあえて直進することで鍵が開くんだ。」


とのことでした。

私には、さっぱり意味が解かりません。

しかし、そこはさすがのカースが説明してくれました。


「つまり、斜めの床に対しての平行ではなく、本来の平行に進むと言う事ですね。」


なるほど。


「でも、それってどうすればいいのですか?」


言うは簡単ですが、実行するのは難しいと思われます。

だって、足元は既に斜めですので真っ直ぐというと無理ではないでしょうか。


なにしろ、入ってきたばかりならいざ知らず、

一夜明けた今となっては、どこに向かって歩けばいいのかさっぱり解かりません。


「足元を見てみろ。 うっすらと幾つもの線が入っているのがわかるか?」


ゼノさんに言われて足元の床をじっとみると、

ナスカの地上絵みたいに、沢山の線がうっすらと見えます。

その線は、壁から壁にむかって描かれていますが、誰が描いたのでしょうね。


「このうちのどれかが本当の平行だ。

 順番に一つずつ確かめればいい。」


「この線は、ワグナーが描いたのでしょうか。」


カースの言葉に、ゼノさんが首を振ります。


「いいや。これは俺達が描いたんだ。

 47本目でやっと並行にたどり着いた。

 ありゃあ大変だった。

 俺達は測量技術とか持っていなかったからな。

 ハインツとロイドがロープを張って一本ずつ検証していったんだ。」


へえ。

あ、ということは光蛇さんの線は、平行線ですか。

おお、斜め酔いではなかったんですね。


でも始点はどっちなのかしら。

光蛇は全く動きません。

うーん、サービス向上を目指して欲しいですね。


でもどちらにせよ、この線をどちらかに向けて歩いていけばいいんですね。

わかりました。


ゼノさんにお知らせしようと顔を上げたら、

レヴィ船長もカースもゼノさんも、線を順番にたどっているところでした。


これは各自でたどりついて見ましょうということですね。

そうですね、せっかく5人いるのですから、

それぞれが試してみるのが一番早いのでしょう。


どれかが正解だとわかっているので、ちょっと気が楽ですね。


「メイちゃん、どれか一本選んで歩いてみてくれ。」


ゼノさんに言われて、戸惑うことなく光蛇の載っている線を選びました。


近くまで寄って光蛇を上がら見下ろすと、床にはうっすらと線が入ってました。

これが47本目の線ということですね。


平均台の上を歩くように、真っ直ぐに線から外れないように歩きます。

後ろから前に、前から後ろに。

光蛇の線の上を往復するように歩きました。


フフフ、簡単ではないですか。

光蛇さん、真っ直ぐ歩くだけなら楽勝です。

こんなことなら、いつでもどんどこいですよ。


端までたどり着くと、カコンという音が響きました。


そうすると、天井の中心部から一本の杭のようなものが出てきました。


「おっ、メイちゃんのが当りだな。 

 出てきた出てきた。これが鍵だ。

 この鍵を押すと4隅の何処かに道が出来る。

 道が開いている時間は1分だ。

 見つけたら真っ直ぐに道に入れ。

 戸惑う時間はない。合図をしたら、すぐに走れ、いいな。」


1分ですか。

み、短いですね。


この部屋の広さは12畳くらいだけど、床が斜めになっているため、

真っ直ぐに走れません。


一つに到っては坂を登るような感じですよ。


私の反射神経からいって3分は必要だと思うのですが、

無理ですよね。


眉を下げて困った顔をしていたら、レヴィ船長がすっと私の側に来て、

ぎゅっと手を握ってくれました。


「心配するな。俺がついている。」


その言葉に、笑顔に、ほっと安心しました。

レヴィ船長達の反射神経ならば安心確実設計です。


カースも、私の頭をゆっくりと撫でてくれました。


「私達には、1分あれば余裕です。」


その自信満々な言葉は、さすがお兄様、心強いです。



私もしっかりと手を握り返します。


「はい。よろしくお願いします。」


全員が部屋の中央に集まって、4隅を警戒します。


中央で、カミーユさんがゼノさんの補助をするため中腰になり、

正面で足台にする為に両手を組んでました。

ゼノさんとカミーユさんの連携で、ゼノさんは難なく跳び、

天井の鍵を勢いよく押し込みました。


ガコと音がして鍵が押し込まれ、同時にゴトンと音がしました。


「こっちだ。」


レヴィ船長の声と同時にぐいっと手が引っ張られて、

右奥隅へと体が走り始めました。


右奥の隅がへこみ、人一人が通れるくらいの細い道が現れてました。

レヴィ船長、私、カース、ゼノさん、カミーユさんの順番で道をくぐりました。


カミーユさんが入ったとたんにガコンと音がして後ろを振り向いたら、

すでに入ってきた入口はありませんでした。


これは、私一人だと確実に通れてません。

この遺跡を作った人は本当に気が短いのだと思います。

私ならカップ麺の法則で3分設定にするところですもの。


ほうっと息をつくと、ゼノさんの手元で揺れていた松明の火がとたんに消えました。

次いでカミーユさんが持っていた松明も消えました。


「あ、あれ、火が。」


ここはどこだろうと確認もしていない内に、

目の前が真っ暗になりました。

なんとなく洞窟のような暗い色の石壁を見た気がしたのですが、

道の先も足元も、真っ暗でさっぱりわかりません。


人間、不意に真っ暗になると何も見え無くなるものです。

突然の暗闇にパニックを起こしそうになります。


「どうしたのですか? なぜ消えたのです。」


カースの戸惑った声が私の後ろから聞こえました。


「いや、わからん。 なんで消えたんだ?

 おい、カミーユ、火打石で松明に火をつけろ。」


ゼノさんの困惑した声が聞こえます。


「総長、荷物から出しますから、ちょっと待ってください。」


カミーユさんがごそごそとしている声が聞こえます。

カチカチと火打石が打ち付けられる音はするのですが、

さっぱり火はつきません。


「総長、駄目です。 火がつきません。」

「おい、火かつかなきゃ前が見えねえだろうが、俺に貸してみろ。」


3人の慌てたような声が聞こえます。

私がさほど慌てなかったのは、左手に繋がれたレヴィ船長の右手の存在と、

目の中の光蛇くんが健在だからです。


光蛇は私の足元から、真っ直ぐ前に体を伸ばしてます。

周りを照らしているわけではないので、私の周りは暗いままですが、

光があるって違いますよね。



「メイ、大丈夫か。」


レヴィ船長が暗闇を警戒するように、私の手を引っ張って、

その腕にぎゅっと抱きかかえられました。

レヴィ船長の香りが、鼻にふわっと入ってきます。


「はい。」


レヴィ船長の質問に、私は落ち着いて返事を返します。

暖かな体温と落ち着いたレヴィ船長の声に、ほっとします。


私の様子を確認した後、レヴィ船長も、

緊張した様子ながら暗闇の中を伺っている様子です。



ですが、3人はますますパニックを起こしているようです。


「おい、なんで火かつかない。この火打石壊れてんのか?」

「いえ、先ほどまでは何の問題も無かったはずです。」

「それより松明自体が問題なのでは。」


そんな3人を止めるべく、レヴィ船長が軽く指笛をフュっと吹きました。

甲高い指笛に、3人の騒動がピタっと静まりました。


「落ち着け、多分火はつかない。

 カース、覚えてないか。以前にあっただろう。

 海上に湧く湯気を。」


海の湯気?


「湯気ですか? しかし、ここは海ではありませんよ。」


「この匂いと息苦しさ、突然火が消える状況に覚えがあるだろう。」


言われて見れば、息苦しいような気がしますし、

周りに充満する匂いは温泉臭に近い臭い匂いです。


唯さえも臭い服を着ているのに、更に臭くなるようです。


「イヤイ、臭いー。」


お猿が私のポケットから、うめき声を上げました。

猿は人間よりも臭覚が優れているので大変でしょう。


「とりあえず、しばらく目を慣らせ。 

 そうしたら、移動する。

 この先は確かさそりの部屋だったな。」


レヴィ船長の言葉で、ゼノさんも我に返ったようで、

3人のやっと落ち着いたような返事が聞こえた。


「あ、ああ、そうだな。」

「はい、わかりました。」

「本当ですね。あの時の匂いと状況が酷似してます。」


カースの言葉にゼノさんが質問しました。


「この匂いの原因はなんだ。

 前に来た時はこんな匂いはしなかった。」


「解かりません。 

 ですが、以前の航海で偶然通った処の匂いと確かに似てます。

 あれは海の上でしたが。」


海の上かあ。

そういえば、以前にテレビでみたなあ。


「それは、多分海底火山ですよ、カース。」


「火山? 海の下に?」


「はい、海の底の山が活動しているんです。

 海の中でその熱が一部流出して海水が沸いているんです。

 いずれ、何千年か先にその場所に島が隆起するかもしれません。」


「へえ、メイちゃんは博学だなあ。

 え、てことはここも火山なのか?」


ゼノさんの声に首を振って答えます。


「いいえ、ここは多分温泉鉱脈が地下にあるんだと思います。

 足元の床の一部がどこか割れていて、

 そこからこの匂いが噴出しているのではないかと思います。」


多分、火がつかないのは二酸化炭素が大量に流出している為だったと思う。


あ、てことはこの遺跡は温泉湧き水ありということになるのでしょうか。

いずれ、レグドールの里、温泉ツアーとか温泉街とか、

観光地になるかもしれませんね。


そうしたら温泉饅頭が名産になるかもしれません。


「ふうん。なあ、メイちゃんの母親は本当に言語学者だったのか?

 俺は今まで、そんな話は聞いたことがないぞ。」


ゼノさんの質問には笑って答えるしかありません。


「それが、どうしてそうなるとかの詳しいことは私は知りません。

 でも、母は言ってました。 これは、自然界の恵みなんだと。」


そう、温泉旅行で温泉卵を食べながら説明してくれた。

温泉卵は確かに美味しかった。


「こんなに臭いのに、恵みとはな。」


そう、この臭みはしかたないんですよ。

でも温泉ですからね、温泉卵の為、諦めてください。


そんな話をしていたら、目が慣れてきたようです。

全員の影や輪郭が薄っすらですが見えてきました。


「その話はもういい。 そろそろ目が慣れただろう。

 前に進むぞ。 開けた場所に出たら多分松明は使えるようになる。」


レヴィ船長の言葉で、全員がその足を前に向けて一歩一歩進みはじめました。

光蛇の指す道なりに。


くねくねと人一人がやっと通れるほど細い道を、足元に気をつけながら進みます。


先頭にゼノさん、カース、そしてレヴィ船長に私、カミーユさんで

前に進んでいき、10分ほど歩いた場所で、大きな空間のある部屋に出ました。


その場で、カミーユさんが火打石を打ちつけ松明に火をつけました。

ぼっと明るい光がつき、暗闇に慣れた目が眩しさにかすみます。


その場所は、圧倒するほどに砂の部屋。

部屋のどこもかしこも砂です。


そして、小さな砂の渦が処狭しと巻いてます。


その渦の真ん中で嬉しそうに尻尾を振っているのはもしかしなくても、

さそりですよね。

さそりって黒いえびみたいなものだと思っていましたが、

実は色んな色があるんですね。


赤黒い殻を持つさそりや、群青色に近い甲殻をもつもの。

緑の黒っぽいものから、辛子色をやや暗くしたものまで。

結構カラフル。


ですので、そのシッポの先が尖ってますが、くるくると廻すように振られる尻尾は、

旗を振っているようにも見えます。


ちょっとだけ微笑ましいですね。

毒があると考えなければですが。


ゼノさんがその様子を見ながら苦々しげに呟いた。


「ここが、さそりの部屋だ。

 以前は、この部屋までしかこれなかった。」


つまり、ゼノさんはこの部屋の攻略方法は知らないと。


「ワグナーの書に頼るしかないですね。」


ここは、光蛇くんの出番ではないでしょうか。

さあ、行き先を示してください。


私の考えに応えるように光蛇が動きました。


右端の小さな渦。

それに被さるようにぐるぐるとトグロを巻く様に渦を巻きます。


勿論、その中心には一段と大きな黒いさそりがいます。

威嚇するようにキラーンと光る尾をこちらに向けて、ゆらゆら揺らしてます。

その威力は想像するだけに恐ろしそうです。


これは、どうしろというのですか。

さそりを叩けというのでしょうか。


何度も目を瞬かせますが、光蛇はその渦から動きません。


あんなさそりを相手にするなんて、0.1秒で瞬殺されます。


さっきは簡単ではないのとか、楽勝だとか思って御免なさい。


いくら光蛇でも、人間を超えた行動を勧めるのは無茶だと思います。

私はか弱いのです。


これはぜひ、ワグナーさんに無難な道を教えてもらうことにしたいと思います。


 


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