気に入ったようです。
運命って、ベートーベンだったっけ。
昔、音楽のテストでモーツアルトって書いて赤点取ったのは、苦い記憶だ。
横文字って覚えるの苦手なのよ。
まあ、他もそんなに変わりはないですが。
それで、考え付いたのがあだ名覚えや当て字覚えで、ベートーベンは、弁当弁って。
まあ、今はそんなことを考えている場合ではないかもしれません。
過去に現実逃避しても、今は変わりませんからね。
目の前の男の人は、どうやら私を知っているようです。
どちらさまでしょうか。
彼は、ゆっくりと帽子を取りました。
現れたのは、オレンジ色に輝く褐色の髪、
強い印象を残す赤金の瞳に、男らしく精悍な顔立ち。
100人の人に街頭アンケート取っても、99人までがハンサムと答えるかもしれません。
こんがりと日焼けした褐色の肌に、にっこりと笑う口元。
目つきのやや鋭い感じが苦手と感じる人も知れません。
鷹の目のように強い目が、ぶしつけに睨んでいるようにも見えます。
顔つきはどちらかと言うと角ばっているが、それは男らしさを強調している。
彼を動物で例えるならば、金の鬣を持つライオン。
彼の存在感は、半端なくありありです。
全体的にみても、バランスのいい筋肉のつき具合はレヴィ船長と負けてません。
ゆっくりと前に進める足は音をたてず、すべての動作が野生動物を思わせる。
確かにハンサムでいい男かもしれませんが、お城にも町にも船にもいませんでした。
こんな人が近くにいたら、とっくに噂になっているはずです。
もしや、神様関連かと疑いはしますが、まあ、それはないでしょう。
彼らは、そういった事で私やこちらの世界に干渉は出来ないって、
以前にいってたものね。
私はさっぱり思い出せません。
多分、私の記憶箪笥は仕舞い込むまでは早いのですが、
出すのはさび付いて困難を極めているようです。
再度、首を傾げました。
目の前の男は、一瞬動作が止まったと思ったら、くくくっと
含み笑いを始めました。
なんだか、感じ悪いですよ。
「貴方は、誰ですか。
何故、メイを知っているのですか?」
レヴィ船長とカースが、私の前にすっと立ちました。
「ああ、いや、失礼。
女性に忘れられるという経験は初めてなもので。
なるほど、これは面白い」
彼は、姿勢を正してカースやレヴィ船長の前に立つと、
右手をすっと差し出しました。
「始めまして、俺はフィオン。
今回、王城との取引に応じて選ばれた案内人だ」
レヴィ船長はその手を握り返して同じように挨拶した。
「俺は、レヴィウス、こっちはカース。
右にいるのがトアル、左にいるのがレイモンだ。
メイのことは、知っているようだな」
振り向くとトアルさんは、右側で投げナイフのようなものを構えており、
左側では、レイモンさんが縄のようなものを握り締めて立っている。
縄の先には、尖った鉈のようなものがついてます。
おお、なんだか初めて二人をちょっとだけかっこいいと思いました。
「高名なレヴィウス船長にお会いできて光栄ですね。
先ほども言いましたが、俺は案内人です。
今は、警戒する必要はありません」
フィオンは、レヴィ船長との握手を終えて、ゼノさんにちらりと視線を向けた。
視線を向けられたゼノさんは、頷いて私達に声を掛けた。
「おい、てめえら。何を勝手に喧嘩を吹っ掛けてるんだ。
こいつは、案内人だ。
忙しい時に、面倒な事を起こすな、馬鹿たれども」
ゼノさんは、知らない男の人二人と一緒に近づいてきた。
彼らは、私達と同じ普通の一般市民が着る普通の服を着てます。
しかし、案内人のフィオンさんが、余りに濃いお顔だった為、
彼らのお顔がとっても質素に見えてくるから不思議です。
いえ、決して不細工とか変な顔とかではないんですよ。
単品だと割合評価が高いハンサムさんだと思います。
どちらかというとさわやか系かな。
しかし、比べる対象のランクが高すぎました。
とっても残念な結果です。
「ゼノ総長、僕達は喧嘩はしていませんよ。
唯の挨拶です。それより、そちらのお二人は貴方の部下ですか?」
トアルさんの質問で、はっと我に返りました。
ハンサムランキングに難癖をつけている場合ではないですね。
「ああ、カミーユに、エリオットだ。
これから、彼らが連絡係として動くことになる」
よろしくと頭を下げた彼らは、踵をカチッとあわせて左胸の前に右手を乗せ、
軽く頭を下げる軍部の礼を見せた。
やっぱり部下というからには、軍人なんですね。
私達もしっかりとお辞儀をします。
皆は軽く会釈、私は外での挨拶、目上の人用その2です。
両手をお腹の前で合わせて、軽く膝を折って目を伏せての挨拶です。
ふふふ、マーサさんに鍛えられ私の会得した挨拶は実に20種類以上ありますからね。お茶の子さいさいですよ。どんとこい。
ご飯が足りなくなったら、彼らに頼むということですよね。
連絡役ってそういうことも含めてだよね。
だったら、きちんと挨拶しないといけません。
「よし、急げ、日が暮れる。
この道を進むと馬車を隠す場所がある。
そこから馬に乗り換えて、更に場所を移動する。
着いたらそこで、今夜は休んで、明日早朝から移動する」
ゼノさんの指差した後方にさっき来た道とは違う道があった。
私達の立ち位置からみて、先程来た道が左側の道なら、今から行く道は右側の道。
先ほどまでの道が比較的大きく開けているのに比べて、
新たな道は低木がうっそうと茂り、
道もあるのかないのか解らないくらいの雑草が伸びている。
大きな夕日を一瞬だけ振り返り、深呼吸した後、馬車に向かった。
馬車に乗り込み、ゼノさん達の後をついていくと、
多分獣道としか思えない道がつながっていた。
馬車は草に車輪を絡まれて随分と前に進むのが困難そうだ。
馬車を引く馬さんも、体にまとわりつく伸びた背の高い雑草が鬱陶しいみたいで、ぶるるると鼻を随分ならしている。
道が本当に狭くなったところで、左手に大きめな窪みが出来ていた。
馬を馬車から外し、そこに、乗ってきた馬車を隠した。
シダのような茂みと大きなヤツデのような葉が馬車の姿を見事に隠してくれた。
各自で荷物を持ち、馬に重い荷物を括りつけ、その背に乗った。
馬は街から乗ってきた馬3頭と、新しい馬3頭で、計6頭。
トアルさんとカースが1頭にのり、
レイモンさんが1頭、レヴィ船長が1頭に、
カミーユさんとエリオットが1頭に、ゼノさん1頭、フィオンさん1頭で
計6頭です。
これは、単純に重さ計算ですね。
レイモンさんは、体つきも仏像のようですから、多分2人は無理だという判断でしょう。
私は馬に乗れないので、誰かに乗せてもらうか、歩くかしかありません。
私はどこにと考える間もなく、レヴィ船長にぐいっと引っ張りあげられました。
「メイは、俺のそばに」
はい。馬に乗せてくださって有難うございます。
レヴィ船長の逞しい大きな手のひらが私のお腹に回ります。
いや、ちょっとそこはお肉が、と思うのですが、
あえて黙り込みました。いえ、黙るしかありません。
私のお肉も問題ですが、今は、すっぽりレヴィ船長の腕の中です。
レヴィ船長の顔が私の頭の上で、私の背中はぴったりとレヴィ船長の胸に支えられてます。
暖かいですね。じゃない。
少しでも離れると、馬のゆれで左右上下に体が揺れます。
口を開くと歯が噛み合いません。
舌を噛みそうだというのは、こんな時に使う言葉でしょう。
お尻の下には私の毛布が敷いてありますが、
お尻に全体重が乗っかっているのは、間違いありません。
毛布のお陰でお尻はすれないですが、私の安定感のなさは
転がるこけしそのものでしょう。
それに馬って、案外、体が太いんですよ。
股関節が、ぐぎって開きっぱなしになりそうです。
私が今頼れるのは、レヴィ船長の左手と背中のみです。
なるべくレヴィ船長に負担が少なくなるように、
背中をまっすぐに伸ばして、馬の背中に手を置いていたら、
レヴィ船長に笑われました。
「俺に寄り掛かれ。そっちのほうが安定するし、俺もいい」
は、そうなのですね。
馬初心者の考えなどあてになりませんからね。
私が寄り掛かるほうが楽だとレヴィ船長が言うなら、そうなのでしょう。
ちょっとだけ顔が赤くなりますが、これは移動手段ですからね。
私だけが意識して真っ赤になってたらもっと恥ずかしいです。
体の力を抜いて、ふうっと背中をレヴィ船長の胸に預けました。
頭の上からレヴィ船長のかすかな笑いが聞こえました。
「なんですか?」
なにかどこかおかしかったでしょうか。
斜めに見上げると、レヴィ船長の嬉しそうで楽しそうなお顔がありました。
「いや、なんでもない」
なんでもないというお顔ではありませんが、
私の顔が変な顔だったとか、つむじの具合が笑えたとか言われたら悲しいので、
ここは聞き返さないことにしておきます。
レヴィ船長の楽しそうな顔が見れて、私も嬉しいからいいんです。
馬1頭がようやく通れる道を進みます。
くねくねと折れ曲がった道や、倒木を避けるようにして
おおよそ1時間くらい進んだと思います。
夕日は、すっかりと落ちたようだ。
先ほどの崖の先でみた斜めにグラデーションっぽく染めた空は、
今は群青色に染まっている。
低木が姿を消して、大きめな若木が周囲を固める。
若木の枝は空を覆うほどに伸び、その葉は大部分の太陽の光を遮るが、
空はかろうじて見える。
皆無言で前だけをみて進んでいくと、人口的に造られたであろう開けた場所に出た。
人の手によって刈り取られた雑草と、切り倒された切り株。
その場所だけはぽっかりと空が見える。
ここから見えないが、多分中天近くなると見えるであろう
三日月の光で、空に近い木の天辺付近の葉は、白く光っていた。
「ここは、この3人が用意した場所だ。
今夜は安心していい」
ゼノさんの言葉で、ちょっと一息つきました。
安心って良い言葉ですね。
「メイちゃん、ご飯の支度をしてくれるか?
明日は朝用意が出来ないと思うから、
明日の朝食と昼食の分も軽く用意しておいてくれ。
カミーユとエリオットとフィオンが手伝うからよろしく頼む。
レヴィウス達はこっちにこい。
詳しいことを説明する」
カースは、私が知らない人たちに囲まれるのを不服のようで、
眉を顰めていました。
「カース、大丈夫ですよ。
こんなに狭い場所では、何事も起こりません。
それに、この子もついていますし」
私は、お猿さんの入っている右ポケットを軽く押さえました。
「へんへんやい。 おいらに任してよし。」
いや、任さないけどね。なにその掛け声は。
「なにかあったらすぐに声をあげるんですよ。いいですね」
心配性ですね。カースお兄様は。
にっこり笑って、カースの背中を押し出しました。
「さて、夕食の用意だね。
俺達は何を用意したら良いかな」
私のすぐ後ろから声がして、ぎょっとびっくりしました。
はい、夕食の準備ですね。
それは良いですが、いきなりすぐ近くで脅かすのは止めてください。
心臓が止まったらどうするんですか。
「ええっと、竈を作る石と、薪を拾ってきてください。
それから、馬に括りつけた荷物を降ろしてくださいますか?
あと、雑草も籠一杯で刈ってきてください。」
「それなら、カミーユは薪を、エリオットは籠一杯の雑草を、
俺は竈用の石を拾ってこよう。すぐ戻るよ。」
フィオンの言葉に二人も了承して、皆がバラバラに散った。
随分人の扱いに慣れているようだし、二人もフィオンに対して何も言わない。
フィオンさんは、軍部の人ってわけじゃないんだよね。
ぽつんと一人になって、そんなことを考えていたら、下から声がした。
「おうい、神様の守護者、おいらソーセージが食べたいよい。
ソーセージを山にしてくれよし」
いや、それは多分無理。
はっと我に返りました。
急いで夕食のしたくをしなくてはいけません。
昼間が質素でしたので、多分皆さんはお腹がすいていると思います。
えーと、人数は3人分増えるんですよね。
3人とも立派な体格でしたので、ここは6人前追加と
考えたほうが良いかもしれません。
まずは、馬に括りつけた荷物を先にエリオットさんが降ろしてくれましたので、
道具と食材を出したいと思います。
大きな鍋に水袋から水を入れて、多分豚さんと思われる干し肉を入れます。
それに、小鯵くらいの大きさの魚の干物を10匹分も一緒に漬けこみます。
蓋をして、次は野菜を切ります。
葉野菜は全部なくなっていたので、残るは根野菜と干し野菜のみ。
野菜は推定ジャガイモに、多分かぼちゃ、おそらく玉ねぎ、そして人参もどき。
かぼちゃと玉ねぎは、ごろごろと大きめに、人参は銀杏切りに切っていきます。
船の中で切った野菜の量に比べれば、このくらい軽いものです。
ジャガイモは芽の部分だけ取り除いて塩水に浸しておきます。
かぼちゃの種は取り出して塩を振っておきます。
勿論、無駄にしませんよ。
野菜がきり終わったら、鍋の中から蘇ったお肉やお魚たちを取り出して、
鰹節と干しトマトを削って入れます。
お魚は小さく刻み、塩コショウと小麦粉と水、香辛料を振って練りこみます。
練って粘り気が出てきたら、鉄の串の周りを覆うように貼り付けました。
10本の鉄串を使いました。
あとは、明日の仕込みです。
小麦粉と水と塩と油を一緒にこねて、酵母の種を入れて置いておきます。
その時に、酵母の種を入れないものも別ににつくりました。
これは、後でお鍋に入れます。
そこまで用意したら、三人が帰ってきたので、
カミーユさんには火を起こすのをお願いしました。
馬車から持ってきた灰が入った石の箱を渡しました。
エリオットさんとフィオンさんには、一緒に竈の製作をお願いしました。
以前に造った通りに、穴を掘ってその穴を囲むようにコの字に石を組みます。
フィオンさんが持ってきてくれた石は、平たく大きめの石が多かったので、
以前に無人島で作った竈よりは簡単に組めました。
掘った土は石の間を埋めるように隙間に埋めて、一番上に竈用に持ってきた
10本の鉄串を天辺に乗せて完成です。
二人ともてきぱきとしてくれたので、本当に早かったです。
火が入ったら、お鍋を竈に乗せます。
その中にかぼちゃを入れて小さく刻んだ豚肉、人参、玉ねぎを入れます。
お湯がぐらぐらと沸くと、トマトとかぼちゃの香りがプーンと漂います。
その中に軽く香辛料を幾つかと塩を一つまみ入れました。
焚き火の上に先日レヴィ船長が作ってくれた簡易網を載せて、
枝で固定して、その上で魚のつみれの串を焼きます。
小さい鍋に、甘い特製たれをかけます。
カミーユさんに、たれを少しずつかけてもらいます。
甘辛い匂いが充満して、鼻をくすぐります。
甘辛醤油が好きな私としては、たまらない匂いです。
このたれは五平餅のたれによく似てますが、もどきです。
魚醤に酒と甘味、それにちょっとピリ辛要素を足しているんです。
レナードさんのたれに、ちょっと私工夫が入ってます。
エリオットさんにはパンを火であぶってもらいました。
鍋が煮立ち、人参もかぼちゃも煮えたら、練ってあった小麦の酵母なし塊を
親指大に千切り、手のひらで伸ばして、うどん短め位の太さにして鍋の中に落としました。
これは、うどんもどきです。
パンが少ないので考えました。
フィオンさんに焦げ付かないように混ぜてもらい、
私は焚き火の網の上で、かぼちゃの種をフライパンで炒ります。
竈から鍋を石の上に降ろして、竈の中に大きめの葉っぱで包んだジャガイモを
ころころと転がしました。丁度12,3個のジャガイモです。
エリオットさんにこれは何に使うのかと聞かれたので、
これは、明日用ですと答えました。
大体の料理が出来上がったところで、レヴィ船長達が帰ってきてくれたので皆でご飯です。
焚き火を囲んで、かぼちゃと干しトマトそぼろ風の煮込みうどん入りと
魚つみれの五平餅もどきを皆で食べました
これは、レナードさんの料理と私のうどんの合作です。
初めて食べたカミーユさんとエリオットさんは、絶賛してくれましたし、
フィオンさんは、目を丸くしたまま驚いていました。
「こんな味は初めて食べた。うん。旨いし癖になる味だ。
無駄が無い上に早いし腹に溜まる。 これはいい」
フィオンさん、大絶賛です。
えっへん。 私の師匠は凄いんですよ。
さあ、みんなでレナードさんの料理の信者になりましょう。
「ああ、酒があれば言う事無いんだか、今は無理だ。
事が終わったら、酒を買ってきて料理に花をそえることにしよう」
フィオンさんは、料理に食べながらしみじみと言います。
うん?帰り?
帰りは材料を殆ど食べつくしている予定ですので、こんなに豪華なものは
多分出来ませんよ。
「案内人は、事が終わったら王城からの報酬で、
ご自分で好きなだけ、お酒と料理を買ってきて堪能してください」
カースの眉間に皺がよってます。
これは、なにか怒っている顔です。
何を怒っているのでしょうか。
フィオンさんは、カースの言葉におこることもなく、じっと私の顔を見てます。
うん?口の周りに何かついてますか?
五平餅もどきの甘辛たれとか。
口の周りを手ぬぐいで拭きました。
「ところで、メイ、俺のことを思い出したかい?」
ああ、そのことですか。
「いいえ。フィオンさんの勘違いではないですか?」
私は平凡な顔立ちですから、他の誰かと間違えたのではないでしょうか。
「へえ、そう。 なら、ヒントをあげよう。
最初の出会いは、神様のお膝元だよ」
フィオンさんは、にやりと不敵な笑いを浮かべました。
神様?
どれの神様?
「神様ですか? えーと私の信仰心はあまり熱くないのです」
うう、なぞなぞは得意ではないのですよ。
助けてもらうべく頭のよいカースに助けてメッセージを視線で送りました。
「メイが関わった神といえば、アトス信教でしょうか。
そのお膝元といえば、隣国のアトス神皇国と教会ですね」
教会?
入ったのは一度だけ。
むりやり連れてこられた闇市の場所が教会だった。
うん? 闇市?
ああああああ、思い出した。
「思い出しました。 引越し上手な真っ黒服のお兄さん」
ぶっ。
フィオンは、思わず噴出した。
そのまま、ぶはっと笑い、こらえきれないように口元を押さえて笑い続けている。
先程までの不敵な笑いとは、余りにも違う。
「メイ、引越しとは何のことです」
カースの言葉に、そういえばカースに話してなかったことを思い出した。
彼の事は、オーロフさんにしか言ってない。
なぜなら、オーロフさん以外に話してはいけないといわれ、約束したからだ。
ここで、私から話すと、約束を破ることになる。
どういって説明しよう。
悩んでいたら、フィオンが笑いながら説明を変わってくれた。
ちなみにその目尻には涙が浮かんでいる。
涙が出るほど笑わなくてもいいのではないでしょうか。
私は、変なことは言ってないよね。
「俺が闇の影なのは、知っているだろう。
その仕事関連で、荷物を大量に運んでいた場所で出会ったんだ」
そうでした。
その素早さと確実さは目を見張るものでした。
その荷物が何か考えなかったらですが。
素晴らしい引越し屋さんになれると断言したい仕事振りでした。
「荷物とはなんですか」
「闇市の荷物さ。それ以上は言わなくてもわかるだろ」
フィオンはようやく笑いを収め、にやりと笑いながら返答を返してます。
カースも、レヴィ船長もその返答にちょっとびっくりしたようです。
あ、そういえば、彼が手首の縄を切ってくれたんでした。
もし、彼が縄を切ってくれなくて、オーロフさんが来なかったら、
あのボスによって私はどこかに連れて行かれたかもしれません。
ちょっとしつこい、いえ、執念深い男でしたし。
「そういえば、お礼を言うのを忘れていました。
見逃してくれてありがとうございました」
私は、ぺこりと頭を下げました。
ええ、そうです。
あの時思ったのです。闇市で割符があわなくても、
本当に悪いずるい奴なら私達をそのまま放置とかにするはずが無いのです。
フィオンさんは、縄まで切って、自由にしてくれました。
あれは、隙をみて逃げろと言う事だと思いました。
「はは、その反応は予測してなかったな。
お礼はもう貰っているから言わなくて良いよ。
うん。 ますます、いいね」
フィオンさんは、にこやかに笑いながら、じっと私を見つめてきます。
ああ、私の手元のお皿を見ているのかもしれません。
どうやら、ご飯が大変気に入ったようです。
レナードさん、私は着々と信者を増やしてますよ。
「この料理はオトルさんのお店でも食べられますよ。本当に美味しいんですよ」
レナードさんの屋台料理い感銘を受けたオトルさんが、
レナードさんの味付け風料理を最近になって出すようになったのです。
いつか、フィオンさんもこの料理を食べに街の広場の店に行ってください。
レナードさんが船に乗っていていない時は、オトルさんのお店があります。
絶対、後悔しない味ですよ、こちらも。
私の膝の上、つまり下から甲高い声が私の思考を破りました。
「やい、神様の守護者、もっと串くれやい。
それに、黄色は甘くて旨いよし」
お猿は私の膝の上で、たれでべたべたになった手で、
かぼちゃと五平餅つみれを頬張ってます。
お猿は串のつみれとかぼちゃが気に入ったようです。
小さな口がもぐもぐと咀嚼するのは、可愛いですね。
ふーん、お猿は猫舌ではないようです。
「うむ、はむ、苦い野菜は神様の守護者が食べるよし」
好き嫌いがありすぎです。
野生の猿らしくなんでも食べようよ。
ワイルドライフを見習ってよ、お猿。
レヴィウスとカースは、フィオンをじっと見据えるように睨んでいた。
フィオンは二人の視線をわかっていながらも、メイを見つめ続けていた。
その様子をみて、ゼノは肩をすくめた。
フィオンのことは以前から知っているが、あのような顔は見たことが無かった。
お気に入りのおもちゃを見つけた子供のような顔だ。
どうやら、フィオンはメイのことがかなり気に入ったようだ。
メイは、お猿の相手にかかりきりになり、全くフィオンの視線にも、
フィオンを睨むレヴィウスとカースの視線の意味にも気がついていない。
その様子に、ゼノはちょっとだけ笑った。
そして、心の中でエールを息子達に送った。
先を越されるなよと。
彼は誰か、予測していた方々に答え出ましたでしょうか。




