迷子になりそうです。
朝です。
正確には、もうじき朝です。
昨夜、早く寝たので、早く目が覚めたのでしょう。
でも、なんだか寝た感じがしない。
疲れが取れていない感はない。
でも、なんだか、頭の中がもやもやして、
すっきりしない。
何だかなぁ。
とりあえず、起きよう。
そう思って、よいせっと、掛け声を掛けて
起き上がった時、左手に何が握っているのに、気づきました。
手が、がちがちにこわばっています。
昨日夜に何か?
そう思って、手のひらを開くと、
直径2cm大の白い玉があった。
玉を見たとたん、芽衣子の頭の中で、昨夜の夢の出来事が
スライドショーのようにコマ割になって展開された。
寝起きで混乱しているせいか、コマの順番が前後しているような気がする。
えーと、あれは夢であって、夢じゃないってことだよね。
とりあえず、落ち着こう。
深呼吸、深呼吸。
……過呼吸。ちょっとむせた。
頭を整理する必要がある。
だが、混乱しているうちに朝が来そうだった。
着替えて厨房に行かなくては。
セランが髪を括っている、皮紐が机の上に何本かあったので、一本失敬して、
白い玉の上部の出っ張りの穴に紐を通して首からさげた。
これだけは、なくしちゃいけない。
それだけは、はっきり覚えてる。
ぶるりと首を振った。
まずは、急いで厨房に行こう。
厨房についたのは、丁度太陽が昇りはじめる時だった。
一番のりかとおもったら、ラルクさんが、来ていた。
「おはようございます。 ラルクさん。 今日、僕、何する?」
ラルクさんは、おはようの挨拶に軽く頷き、
厨房奥に位置する石釜に手をあてた。
「まずは、この石釜の火をいれる。
ここに、昨日の晩に残していた、火種がある。
これで、オーブンの中の薪に火をつける」
石釜のそばに、30cm四方の石の火鉢みたいなものが
あって、中には、まだ暖かい炭があった。
「つけ方はわかるか?」
メイはわからないと首をふると、ラルクさんは丁寧に教えてくれた。
まず、壁際に詰まれた薪を5本ほど取り、釜の中の手前部分に適当に組んでおく。
薪の皮の乾いた部分をぺロッと剥ぎ、火鉢の火に近づけて火をつける。
その木切れを、組んでいた薪の中央部に置き、ゆっくり息を吹きかける。
そうすると、組んだ薪に燃え移る。
燃え始めた薪を長い木の棒のようなもので、奥の方に移動させる。
あとは熱くなるまで、蓋をする。
余熱で焼く、登り窯みたいなものかな。
薪オーブンなんて、日本では出会う機会なかったものね。
ラルクさんの流れるような手作業につい見ほれていた。
「おい、ちゃんと聞いてるか?
明日から、メイは朝きたら、釜に一番に火をいれる。いいか?」
よし、それが私の仕事ですね。
「はい。わかった」
次に、ラルクさんは、机の下から山盛りのジャガイモの籠を取り出して、
机の上においた。
「今から、ジャガイモの皮剥きをしてくれ。
急げ。今日の朝食に使う」
了解です。
昨日と同じように、籠を部屋の端に引きずっていき、
いすの上に座って、くるくるとジャガイモの皮をむいでいく。
こういった単純作業の時は、考え事するのにぴったりなんだよね。
よし、芋は手に任せて、私は出来る限りで夢を思い出してみようと思います。
ジャガイモの皮をするすると慣れた手つきで剥きながら、
昨日の夢の狸男が登場するスライドショーの順番を頭の中で入れ替えていった。
思い出した重要だと思われるパーツは8つ。
1、ここは私の世界じゃない。
2、箱に中には5つの宝玉があった。それを集めないと、帰れない。
3、集めるために必要なものは、白い玉。
4、宝玉は人の心の中にある。
5、宝玉入りの人には、待ってると会えるらしいし、その人に近づくと、玉があつくなる?
6、願いをかなえて、宝玉を回収。五個回収したら、玉はアシカショーのボールみたいになる。
7、こちらの世界の偉い神様から、死なない加護をもらった。
8、狸男がたまには、助けてくれるらしい。
最後のひとつがむかつくが、
まあ、助けてもらえるなら、いいことにしよう。
そうこう考えていると、
籠のなかのジャガイモは、全部剥き終わっていた。
剥き終わったジャガイモを渡すために顔を上げたら、いつの間にきたのか、
レナードさんとマートルが厨房で料理を始めてた。
あ、挨拶してない。
「おはようございます、レナードさん。おはよう、マートル」
「おう、おはよう。皮むき終わったようだな。 こっちにくれ」
レナードさんの方にジャガイモを持っていく。
「おはよう、えらく真剣に皮剥きしてるから声掛けられなかったよ」
えーと、皮剥きに集中してたわけじゃないんだけど…
まぁ、いいか。
次に、ラルクさんは昨日の野菜の皮などをいれた野菜くずをいれた籠と、
何も入ってない小さな籠をひとつ、私に渡した。
「家畜のえさだ。 持って行って、ルディに渡してこい」
なるほど、これは豚さんたちのご飯になるのですね。
「それで、ルディを手伝って卵をもってこい。
帰ってきたら、昨日と同じに皿洗いと厨房の後片付けだ」
よし、今日も頑張って卵を拾ってきます。
野菜くずをいれた籠をもって家畜部屋に歩いていった。
今日も牛さんたちは元気でしょうか。
******
家畜小屋にいくと、ルディはもうあらかた家畜の世話を終えて、牛の乳搾りをしていた。
「おはよう、ルディ」
「おはよう、メイ。今日は厨房でしょ。どうしたの?」
乳搾りの手を止めて、ルディが聞いてきたので、
「ラルクさん、これ、家畜小屋、卵、いる、持っていく」
そういって、野菜くずの入った籠をずいっと目の前にだした。
「ああ、なるほど。 その籠の中身は、奥にある箱だよ。
昨日、家畜のえさをいれていた箱の中に移して。
卵はまだひろってないから、メイよろしくね」
そういって、ルディはまた乳搾りにもどった。
そっか、このまま食べないんだ。
他のエサと一緒に混ぜてあげるんだね。
野菜くずを奥の木箱に中に移し、小さな籠をもって鶏の囲いの中にはいって、卵を拾っていった。
今日は、25個もありました。優秀ですね。
卵を抱え、ほくほくとした顔でルディのそばにくると、
ちょうどルディも乳搾りがおわり、2つのミルク缶が一杯になっていた。
二つのミルク缶を上手に、竿の前と後ろに掛けて持ち上げる。
あれ、結構重そうです。私は一つを持ち上げる事も出来ないかも。うん、無理。
やっぱり、ルディは男の子なんだよね。
「じゃあ、メイ、厨房にいこうか」
「うん、いこう」
この船は全体で甲板まで5層構造になっている。
1番下の5層目は船底のバラスト石。
船のバランスを取るための重し、みたいなものが敷き詰めてる。
4層目は家畜部屋に、倉庫。貿易船だから、交易の荷物とか食料とか。
ちなみに厨房の石釜や、レンガ造りの竈は5層目から石やレンガを
下済みに敷き詰めて、3層目まで、突き抜けた感じだ。
3層目は、厨房と食堂、船員達の部屋。
2層目は同じく船員達の部屋に、火薬庫、武器庫、
大砲も船から、先を突き出すようにして並べられている。
1層目は副船長と甲板長の部屋と作業部屋、医務室もここ。
そして、甲板。
甲板上部の船尾寄りには、船長の部屋と会議室。
驚くことに、
この船の中央から船尾にかけてだけでこの構造。
大きいのだよ。
この船。
中にいる分には、正確な大きさがわからないのだけど、
移動距離ってけっこうある。
二人で、厨房に行くまでの間に、今日の予定について、
あれこれとルディに聞いてみることにした。
「メイ、部屋を移ることは聞いてるよね。
あの繕い物や洗濯物を広げていたあの小部屋。
小さいから二人が精一杯だと思うけど、
まあ、片付ければ、ハンモックをかけて寝れると思うよ」
「うん。いつ、片付け?」
「お昼の厨房の仕事がおわってから、部屋の片づけをしようか」
この船の中に私の部屋ができるのです。
まあルディを二人でだけども、
ちょっと、わくわくします。楽しみですね。
お部屋を片付けたら、あの狸男が言ってたことを、もう一度ちゃんと思い出して、はじめなくては。
そう思ってから、
何を?
宝探し。
と自問自答する。
そう、宝探しですよ。
ここは、異世界。帰る為には宝探しです。
まずは目星を見つけなければね。楽しくなってきました。




