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箱をあけよう  作者: ひろりん
第5章:遺跡編
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珍客ですね。

暖かい温もりの中で、風が揺れた。

鼻をくすぐるような湿った冷たい風と身近にある暖かい空気が混じる。

むずむずしてくしゃみが出そうになるが、ぐっとそれを噛み殺した。

鼻の頭と前頭葉のあたりがツーンと痛む。


そして、一呼吸置くと、ぱちっと目を覚ましました。


もうじき朝ですね。

早寝早起きが常になっているので、朝のくる気配はなんとなくわかります。


ですが、今日の目覚めはいつもより早いようです。

たぶん、昼間にうつらうつらでも寝てしまったせいだと思います。

お昼寝すると、結果的にとっても早起きになるんです。私の場合。


目覚めがいいのが私の数少ない長所の一つなのですが、

今日は目を開けてすぐに、口から心臓が飛び出そうにびっくりしました。


眠った時、恥ずかしながらもレヴィ船長に冬山要領で暖を取ってもらったのですが、

起きたら正におしくら饅頭で、レヴィ船長とカースに両側から挟まれてます。


レヴィ船長に腰を抱えられ、カースに肩を抱えられ、

現在ロールキャベツ状態です。

ちなみにお肉は私ですね。二人に比べて体脂肪率高いですからね。

横腹のお肉はどうやっても取れませんし。

そこは甘んじて受け入れましょう。


二人の寝顔に至近距離で囲まれて、

血圧が最高速度でぐんぐんと上がっているのが解ります。


二人の逞しい腕に、男らしいがっしりとした筋肉。

さらりとした肌に香る男性的な匂い。

規則正しく上下する胸の動きと連動する呼吸という名の吐息。


私の正面にはレヴィ船長。後ろにはカース。

ちなみにカースは私の後ろ頭にしっかりと顔を押し付けている状態です。

昨夜は寒かったですからね。 カースも寒かったのでしょう。

ちなみに、私の体温は結構高い方ですから、

カースも冬山使用でしっかり暖をとれたと思います。


これは、緊急避難と同じ、救急措置です。

ですが、頭で解っていても、私、くらくらしてます。

だって、だって、二人とも寝ているだけなのに、なぜか色気発信しているんです。

私がいくら求めていても、いまだ手に入ってない色気成分が駄々漏れです。。


それを考えている内に、なんだか落ち込んできました。

男性の色気ですら、ここまでとは。

私には、永遠に色気の初期段階も到達できないかもしれません。


いろいろと、余計な事を考えながら気を紛らわそうとしたのですが、

限界です。 ついに、目が回り始めました。

ギブアップ寸前です。


こ、これは、乙女にはハードルが高すぎるのではないでしょうか。

気のせいでもなく、事実、鼻が痛くなってきました。

もしかしたら、鼻血でるかも。


駄目です。

二人が目覚めた時、鼻血を吹いている私の顔を見たら、

それはそれは、大笑いすることは間違いないでしょう。


優しい二人ですから、大笑いまではいかないかも知れませんが、

私が、嫌です。

ぼたぼたと鼻から血を流している朝の挨拶。

想像するのも、恥ずかしいです。


乙女の最低限の尊厳は守りたいと思うのです。

ということで、ここはおしくら饅頭からの脱出を試みたいと思います。


体をちょっとよじってカースの腕を外し、

自由になった手でレヴィ船長の腕を離しました。

ですが、こっちを離せばあっちが。

あっちを離せばこっちがと。


本当に、二人とも寝ているのでしょうか。

よっはっと、私は、終わりの無い攻防を幾度となく続けて、

やっと二人の腕の拘束から逃れることが出来ました。


やっと逃れて、ふうっと一汗かくと、

二人の口元が笑っていたような気がするのは気のせいですよね。


私が離れたとたん、二人は反対側にごろんと寝返りを討ちました。

あれでは寒いのではないでしょうか。


私の毛布をレヴィ船長に、床に落ちていた多分トアルさんの毛布をカースに掛けて、

馬車の枠に足をかけて、外に出ました。


ちなみに馬車の一番端にはレイモンさんが、大鼾をかきながら寝てます。



外は、まだ暗いですが、うっすら霧が出ています。


馬車のすぐ側には、焚き火がまだぱちぱちと音を立てて燃えてます。

その横には、トアルさんが毛布を肩から掛けた状態で座ってました。


そして、焚き火からちょっと離れた場所の木の幹にももたれかかるようにして

眠っているゼノさんがいました。


もしかして、ゼノさんは寒い中、ずっとここで寝ていたのでしょうか。

レヴィ船長やカースは寒がりだけど、ゼノさんは寒いの平気なのでしょうか。


この世界には、ホッカイロってないものねえ。

温石はあるけど、お腹や背中に入れるには、重いしかさばります。


「やあ、メイさん、随分早いね。」


トアルさんに話しかけられたので、早速朝の挨拶です。


「はい。お早うございます。

 トアルさん、火の番ご苦労様です。」


私は女の子だからということで火の番を除外されたので、

しっかりと睡眠を取れましたが、皆さんは順番に起きていたようです。

本当にご苦労様です。


トアルさんは、焚き火の前で地面に片膝たてた感じで座ってます。


挨拶を返したら、冷たい風が横から吹き、ぶるっと体全体が震えました。

どうやら、自然に呼ばれているようです。

お花摘みに行きたいと思います。



「トアルさん、私、ちょっとそこまで行ってきます。

 えーと、遠くに行きませんから。」


その言い方で察してくれたのでしょう。

トアルさんは、笑って見送ってくれました。


段々と、霧は濃くなってきてます。

これは、朝が近いと言う事でしょう。

ですが、見えないからといって、近場でなんかいたしませんとも。


森の木をちょっとだけ分け入って、

草と石の間を掻き分けて、焚き火が見えるぎりぎりのところまで来て、

やっと目的を達しました。


ふうっと一息を付いて立ち上がると、前方の方で何かが光りました。

首をかしげて、ふと雑草をかきわけると、木の根と石が絡み合い、

足元が小石でごろごろしている場所にでました。


霧に紛れて見える範囲内でしたが、大小さまざまな大きさの石が、

ごろごろと転がってます。


ちろちろと水が流れる音がしました。

小川らしいものは無いので、一体どこからと思って見渡していると、

木の根と石組みの間から、本当に細い、小指一本分位の水流が流れ出ていました。



近くで水源を確認しようと足を前に踏み出したら、足元の小石を蹴ってしまいました。

小石は、びっくりするほど勢いよく飛んでいきました。

これがゴルフボールなら、ナイスショットって掛け声が飛ぶくらいですね。


どこかで、ゴンっと音がしました。

何かに当たったようです。

ちょうど水源のあたりですね。

石の飛んでいった先をに足を向けました。


あの石は一体どこに飛んでいったのか。

ゴンという音が、ちょっとだけ気になりました。


そうしたら、その石が落ちた先で、

丸い石の上でくたっとなって倒れている、

茶色の小さな、本当に小さな猿を見つけました。


猿の行き倒れでしょうか。

猿は丁度、体を器用に捻った感じで倒れてました。

形でいうと、上半身が下向き、下半身は斜めと言った感じです。

左手がダイイングメッセージを書いているような格好ですね。


側に、カランと小石が転がりました。

見覚えがあるようなないような。


……えーと。

もしかして、もしかしなくても、私の蹴った石でしょうか。


私の蹴った石。

そして、転がっている猿。


ごくりと唾を飲み込みます。


私、殺人、いや、殺猿事件起こしちゃった。

いや、待て待って。

落ち着け、私。


よく見ると、猿の左手がぴくぴくと動いてます。


猿は、これは、多分、生きてますよね。

猿の後頭部の上部分に大きな赤いたんこぶがぷくっと脹れてます。

が、なんだか胸が上下しているように見えます。

指を背中にあててみると、確かに呼吸してました。


ああ、よかった生きてる。


水を手のひらで掬い、猿の口元というか、頭ですね。

そこに水を数滴たらしました。


勿論、水は猿の頭にぽとぽとと落ちていきます。

猿は、それで意識が微妙に戻ったらしく、うなされるような感じで

仰向けになりました。


その時に、勢いあまって再度、自分で自分の頭を石に打ち付けたのです。

あっと思ったのですが、私には止めることが出来ませんでした。


二次災害に、声が出ないくらい痛みを覚えたのだと思います。

頭を小さな両手で押さえて苦しんでもだえている猿に声を掛けました。


「えーと、猿さん、大丈夫ですか。」


猿は大きな目に一杯涙を浮かべたまま、怒鳴りました。


「やい。痛がってるのが見えないのか、この唐変木娘。」


これは、びっくりしました。

猿が、話しました。

ええ、猿が、話したんです。


鳥の会話がわかるのは慣れましたが、猿は初めてです。

それも、他の動物達に比べて猿の会話は文章がかなり繋がってます。

なにしろ、人類の祖と猿の祖は一緒ですからね。

そんなこともあるのかもしれません。


「えーと、猿さん、頭痛いんですよね。 冷やした方がいいですよね。」


手ぬぐいを取り出そうとして、ポケットを探ると、

昨日縫っていた花びら型の小さな布が出てきました。

それを水で濡らして、瘤にあてるように後頭部にそっと置くと、

ひったくるようにそれを取られました。


だけど、猿はそのままそっぽを向いてしまいました。

なにが、気に入らないんでしょうか。


はっ、気づきました。

私が石を蹴ったんですから、気に障るのは当然ですよね。


私の存在をまるっと無視してます。

これは、関わるなということでしょうか。

背中に声を掛けるなという紙が貼ってあるような拒絶です。

猿にも立派にプライバシーを守りたい時があるのかもしれません。


石が当たっちゃって、本当に御免なさい。

猿さん、早く治るといいですね。

瘤とか打撲はあとが痛いんです。

特に二度討ちは、腫れが微妙に引きません。

身にしみて解ってますよ。


お大事にして下さい。




焚き火を目印に、真っ直ぐに皆の所に戻りました。

もどったら、先程と同じくトアルさんが先程と同じ姿勢で、

焚き火の側で小さな枝を折って火にくべていました。


「お帰り。 遅いから、迷子になったかと思ったよ。

 ああ、朝食の用意にはまだ早いよね。

 そうだ、メイさんに聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


トアルさんは自分の横に座るように視線を動かしてきます。

私も焚き火を囲むようにトアルさんの側に座りました。


「はい。」


馬車の中でレヴィ船長やカースの子供時代の話とか聞かせてもらいましたから、

これはお返しですね。いいですよ。

私にわかることなんて、トアルさんたちに比べたら梅干サイズかもしれませんが、

覚えている範囲で二人のことをお話しようではありませんか。


「先日、アトス信教関連で大きな裁判があったのを知っているよね。

 その時の誘拐騒ぎでの証言台に立った城勤めの侍女って、

 もしかして、メイさんのことかい。」


あれ?

レヴィ船長やカースのことじゃないの?

ああ、そうだ。

二人のことについて話を聞きたがっていたのはゼノさんでした。


でも、あの裁判の時、新聞の私の名前と人相書き(劇画風お岩顔)が載ったのに、

トアルさんは、知らなかったんでしょうか。


「はい。」


「いやあ、新聞に描かれている人物画が、かなりちょっとだったから。

 そうかあ、傷や腫れが治まったら、きちんと可愛い女の子の顔だね。

 顔に傷が残らなくてよかったね。」


そうですね。

お岩な顔が治って本当によかったです。


「はい。ほっとしてます。」


トアルさんが、くいっと眼鏡を持ち上げて、ペンを片手に質問をしてきました。


「お城で勤めているのは、どうして?」


トアルさんが、いつの間にかMY手帳を持って取材状態になってます。

別に隠しているわけではないので、話してもいいと思います。


「正確には、裁判が無事終わるまでのお城勤めの約束でした。

 裁判が終わりましたから、今はお城には勤めていません。」


うん。危ない奴らから身を守る為といわれて王城に移動したんだった。


「へえ。期間限定だったんだ。

 でも、あんなに怪我したってことは、王城の警備とかに問題があったと思わない?」


へ? 警備ですか?

いや、あれは不可抗力でしょう。

首を振って、反論しました。


「いいえ。 王城ではいつも軍部の方が警護についてくれて、

 毎日、本当に安心していられました。

 あれは、警護が入れない場所での、不幸な事故が重なった結果です。」


塔の中は、ステファンさんは入ってこられなかったもの。

あの鍵が問題でしたし。



「その立て篭もり事件だけど、王妃の自作自演という意見もあるんだよね。

 その件についても、君の意見を聞きたい。」


王妃様の自作自演?

いやあ、むりむりでしょう。

あの王妃様ですよ。


「まったく無理です。 

 王妃様は、そういった演技力皆無です。

 綺麗だから、女優さんを思い浮かべるのかもしれませんが、

 実は、かなりぶきっちょさんなんです。

 その上、対人恐怖症気味ですので、顔が人形のようにパキッと固まります。」


「へえ。なら、やっぱり無理かあ。」


トアルさんは、へちょんと肩を落としました。


「王妃様の記事を書いているのですか?」


「いや、まあ、あの時は、随分部数を伸ばしたからねえ。

 そういった噂もあるところにはあるんだ。

 火の無いところには煙は立たないっていうし。」


トアルさんは、地面の落ちていた小枝を拾い、地面にミミズの絵を描いてます。


「トアルさん。 それ、微妙に違いますよ。

 火を燻らせるから、煙が立つんです。

 余計なことをしなければ、煙は出ません。」


燻製肉は、煙で燻すから手間が掛かるんです。

あれ?ちょっと違った?


トアルさんは、口を歪めてもっと沢山のミミズを地面に作ってます。


「は。 メイちゃんの言うとおりだな。

 トアル坊主。お前達記者は、燻しすぎだ。

 物事は、思っているものよりは単純なもんだぞ。」


ゼノさんが、いつの間にか起きてきていて、私達の側にどかっと座りました。


「お早うございます。 ゼノさん。

 夜は寒かったでしょう。 お疲れ様です。

 今、暖かい飲み物をつくりますね。」


鍋セットを取りに、馬車にいこうとしたら、ゼノさんに止められた。


「それは嬉しいね。 よろしく頼むよ。

 でも、メイちゃん、裁判の証言台に立ったこと、あまり言うもんじゃないよ。

 あの裁判で有罪になった奴の人数はかなり多い。

 逆恨みってこともある。 聞かれたからって答えなくていい。」


逆恨みかあ。

理不尽な恨みつらみって、まあ、どうしようもないものね。


「はあ、ゼノ総長やっぱり起きてたんですか。

 なら、その関連の質問はここまでだなあ。」


トアルさんは、手帳とペンを胸のポケットにしまいました。


「悪いな。仕事熱心なのは、悪かあねえが、メイちゃんの素顔がばれると、

 危険度が増す。 そうなれば、お前、レヴィウスとカースに殺されるぞ。」


殺すって、大げさな。


「まあそうですね。

 それなら、別の質問にしようかな。

 メイちゃん、これはポピーやデリアからの質問でもあるんだけど、

 ずばり、男性の好みは?」


はい?


「お、そういう話なら、俺も聞きたいねえ。

 メイちゃん、どうなの。

 メイちゃんくらいの女の子の好みってどんなのかな。

 俺とかどう?」


はあ、ゼノさんは奥さんいるじゃないですか。

何聞いてるんですか。


がっくり肩を落として答えました。


「既婚者は論外です。」


トアルさんが、面白そうに笑います。


「ゼノ総長とメイちゃんだと幾らなんでも無理でしょう。

 年が離れすぎてますよ。」


「ふん。若さ以上の男の魅力って言うのが、

 メイちゃんにはまだわからないだけさ。」


男の魅力ですか。

男の色気なら、さっき二人分体感いたしましたが。


「で、どうなの。

 どんな人が好きとかあるの?

 初恋の人とか。」


えーと。

考えたこと……あるようなないような。

初恋という言葉に胸がちょっとだけズキンと疼きました。


顔を微妙に引きつらせながら、とりあえず答えます。


「どんな人と言われても、答えに困ります。」


私の引きつった顔に、ゼノさんは眉を顰めましたが、

トアルさんは、気にせず話を進めます。


「ほら、若い女の子からよく言うでしょう。

 お金持ちがいいとか、顔が素敵とか、頭がいいとか、優しいとか

 必要要素っていうのかなあ。」


ああ、そういえば大学でもそんなこと話をしていた人いたっけ。

私は、バイトが忙しくて彼らと関わらなかったから、

女の子話題から外れていたような気がします。


「さあ、私はどうもそういった話は疎くってわかりません。

 初恋は、小さな頃だったと思うのでよく覚えていません。

 確かにお金があるに越したことはありませんが、

 必要以上に欲しいとは思いません。

 顔も性格も、多分決まった好みというのは無いです。

 しいて言うならば、好きになった人が好みということでしょうか。」


頭の片隅に、なにかかちりちりと音を立てます。

思い出してはいけない。

そんな声が何処かでしています。


「誰でもいいってことか?」


ゼノさんの顔が怒ったように歪んでます。

でも、私は嘘をつけませんし、仕方ありません。


「違います。そういうことではないんです。

 私は、私の心で好きを決めるんです。

 条件で人を好きにはなれません。」


うん。

正直にいうとそういうことだ。


レヴィ船長がたとえレイモンさんやポルクお爺ちゃんみたいだとしても、

多分私は、好きになっていたと思う。


「何をもって好きになるかはわかりません。

 ただ、好きだなあって心で感じて、少しずつずっと降り積もっていくのが、

 私の好きです。」

 

カッコいい人は素敵って思うけど、好きな人とは違うもの。

アイドルにあこがれている感じだよね。


「へえ、なら好きな人いるの?」


「はい。」


あ、反射的に答えてしまいました。

答えてから、少しずつ顔が真っ赤になっていきます。


「何の話をしている。」


後ろにいつの間にかレヴィ船長が立ってました。

振り向いて、レヴィ船長の顔を見たとたん、

頭からボンと湯気が立ったようです。

私は、今、耳の先まで茹でた蛸のように赤くなってます。


「ああ、えっと、その、なんでもないんです。」


最後の方は、凄く小さな声になりました。


「なあるほどねえ。 そっかそっか。」

「そうだね。物凄くわかったよ。」


二人は何かを納得できたようです。

私は、なんだか恥ずかしくてレヴィ船長の顔が見れません。


だって、私ごときが、レヴィ船長を好きなんて。

月とすっぽん、提灯と釣鐘、猫に小判なんです。


解ってます。ええ、こころから。

ぜんぜん釣り合ってないんです。


レヴィ船長の横に並べるなら、スーパーモデルのような美人か、

知的美人って感じの出来る女の人を並べたほうが見目にもいいに決まってます。


私とレヴィ船長では、カッコいい西洋の人形の横に、

へちゃむくれのこけし人形を並べるようなものなんです。


あ、自分で言ってて、あまりのその通りなので、涙が出そうです。


誰にも迷惑かけてないし、いいじゃないですか。

好きになっちゃったものは、好きになっちゃったんです。



私の後ろに立っていたレヴィ船長がかがみこんできて、

下を向いて体育座りをしている私の体をそっと後ろから抱きしめました。


「メイ、おはよう。」


びっくりして顔を上げると、物凄く間近にレヴィ船長の全開の笑顔があり、

額に唇が軽く押し付けられました。


これは、朝の挨拶、西洋風ですか。

それとも冬山使用でまだ寝ぼけていらっしゃるとか。

どちらでもいいです。


神様、レヴィ船長、寝ぼけてくれてありがとう。

落ち込み回復全開です。

今日は、とってもラッキーな一日になりそうです。


「あーあ、胸焼けがしてきたような気がするな。」

「いや、でも、微妙に通じてないような気がするんですが。」


二人はなにかごにょごにょと言ってますが、

小さい声で言われても聞こえませんよ。


ちょっとはにかんだまま、笑顔で朝の挨拶を返します。


「お早うございます、レヴィ船長。」


「ああ、ところでメイ、俺も聞いていいか?」


勿論、なんなりと。


「そいつは、どうしたんだ?」



は?そいつとはどいつ?

後ろを振り返っても、横をみても、上を向いても誰も居ません。


「右のポケット。」


ポケット?


反射的に、右のポケットを叩きました。


「むぎゅ。やめ、なにすんだ!」


この甲高い声は、先程聞いたような聞かなかったような。

そうっと声の主がいる右ポケットを見下ろすと、

いつの間にか、私の上着の右ポケットにちょんと猿が入ってました。


え、いつの間に。

猿さん、貴方は忍者猿ですか。


「メイちゃん。それは、非常食か?」


え?

ゼノさん、非常食って。


「ゼノ総長、こんなに小さいと食べる所ありません。

 だから、非常食ではないですね。

 出汁はとれそうですが。」


トアルさん、出汁って、調味料ってことですか。

鰹節があるので、もう出汁はいりませんよ。

ここは、普通の考え方でいきませんか。



「おうい、人間、おいらは旨くねえぞ。」



猿も、恐怖を感じているようです。

ポケットの中で更に小さく縮みました。

これは、捕食者への恐怖ですね。


ゼノさんもトアルさんも多分お腹が減っているのでしょう。

ここは、ちょっと早いけど朝食の準備に取り掛かりたいと思います。


ポケットの中の珍客は、考えるのが面倒なので、とりあえずそのままと言う事で。

問題の先送りは日本人の美徳ですしね。


ため息を一つつき、お鍋セットと食事の材料と取りにいきます。

朝食は何にしようかな。

卵があるので、それで何か簡単につくろうと思います。



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