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箱をあけよう  作者: ひろりん
第5章:遺跡編
125/240

森の小屋に着きました。

私達は、なんとか森番の小屋につきました。

ゼノさんの歌は正直拝聴したくないので、それはもう必死で目を開けてました。

目覚ましに、また歌を歌われては今度こそ魂が飛んでしまうかもしれませんからね。


森番の小屋は、小さな小さな丸太で出来た山小屋のようですが、

屋根もしっかりしてますし、部屋も設備も意外に整ってます。


小屋の側には井戸もあり、屋根もポンプも無いですが、

水桶に長いロープがついている物が井戸の近くに転がってました。

そのロープの先は地面に埋められた杭のようなものに括りつけられて、

水桶が、井戸の中に落ちてしまわないようにという気配りが見えますね。


滑車があれば楽な水汲みなのですが、今は、水桶を人力で運び上げるしかない。

ということで、水をくみ上げようとして居るのですが、

なかなか熟練の技が必要なようです。


中腰でロープを引き上げるんですが、井戸の石壁にこつんこつんとあたりながら

引き上げるのでその度に水が零れていくんです。


そうしてくみ上げた水は桶の中の3分の一くらいしか残っておらず、

なかなか溜まりません。


私の様子を見かねたカースが、代わりに水汲み上げ作業をしてくれました。

私と違ってあっという間に水が鍋一杯に溜まりました。

カースはやっぱり頼りになるお兄さんです。




小屋の中は基本寝泊りするだけのようです。

ベッドが2つと、小さなテーブルに椅子が2つ。

使われてない小さな暖炉と作りつけの棚が一つあるだけです。


料理とかは外、つまり野外料理ですね。

その為に小さいながらも立派な竈がありました。

竈つくりをしなくていいので、助かりました。


レナードさんの側にいましたから、大体の流れも作業もわかります。

で、初めて野外料理をしますが、レヴィ船長やカースはともかく、

トアルさんまで随分と手馴れています。


後で聞いてみたら、トアルさんもレイモンさんも、

子供の頃、セテナの森で野外生活をしたことがあるそうです。

今で言う、ボーイスカウトの一環と言うものでしょうか。



ゼノさんに到っては、さっさと薪集めにいきました。



ロイドさんが用意してくれた荷物の中に大鍋とフライパンが入ってましたので、

大鍋に水を注ぎ、多分牛さんであろう乾燥肉を入れました。


おお、お肉が浮かんで若布みたいにフヨフヨしてますね。

ビーフジャーキーって浮くんですね。

水分がないので当たり前かもしれませんが、

なんとなく牛って重たいイメージがあったし、

大きな塊だったので、ちょっとだけびっくりしました。


パンもまだそこまで硬くなってないので、

軽くあぶったら柔らかくなるはずです。


カースが腕まくりして、私の手伝いをしてくれるようなので、

竈に火をつけるのをお願いしました。


火打石を野外では火をつけるのに使うのですが、

コツがいるらしく、なかなか火がつかなかったのです。


これは要練習ですね。

この旅行中に練習したいと思います。


トアルさんとレヴィ船長は小屋の中を確かめた後、

馬車から馬を外して、馬に飼葉と水をあげてます。

そして、馬車の様子と点検をしているようです。


レイモンさんは、小屋の中のベッドに移動してぐっすりです。

すこしでもよくなるといいですね。




「何をつくるのですか?」とカースに尋ねられたので、

「レナードさん直伝のシチューと串焼きです」と答えました。


ちょこっとだけ、トムさんとオトルさん風ですけどね。

昼食なのに量が多いのは、ゼノさんに夕食は軽く済ますので、

昼は豪華にと言われたせいです。

皆の美味しいご飯の為、頑張らなくてはいけません。


我が師匠達の味に、一歩でも近づけるといいのですが。



ゼノさんが集めてくれた薪の一部に無事火がついたので、

大鍋の水の中でふやかしたお肉を取り出します。


取り出したお肉はベーコンの厚切りのようになってました。

さっきまで、あんなにひらひらだったのに。

ジャーキー恐るべし。


持ってきたまな板の上で、野菜とお肉を細く切っていきます。

男の人ばかりですからね、船にいたときのように、

一人につきお芋5個を想定して鬼のように包丁を振るいます。


大鍋が沸騰したら、野菜を投入しました。


レナードさんは大きな乱切りだったんですが、火が通りにくいので

ここは細切りにしました。


お肉は焚き火の上にフライパンをかざし、

ニンニク、胡椒、塩、レナードさんに以前にもらった調味料、魚醤をたらし、

お肉を軽く焦げ目がつくくらいに焼き上げます。


そのお肉も大鍋に移してからくつくつと煮ます。

浮いてくる灰汁は、カースに灰汁取り当番になってもらいました。

うん、カースよろしくね。


バターを溶かし、フライパンで小麦粉を炒め、色が変わったところで、

大鍋のお湯少量と持ってきたミルクを少しずつ注いで溶かし合わせていきます。


綺麗に粉玉が無くなったら、大鍋に移します。

そしてお玉でぐるぐると混ぜて全体に伸ばします。


味見して、うん。


お城で食べたトムさんのクリームシチューのちょっぴりレナードさん版オトルさん風味です。

つまりごちゃ混ぜですね。

私の気分的に、いいとこの寄せ集めだと思ってください。



ミルクを投入し、程よく野菜に味がしみこむまで、

カースに底が焦げ付かないように混ぜてもらいました。


これって意外に重労働なんですよ。


船に居た時にレナードさんとラルクさんのお手伝いで混ぜた時、

大鍋がこんなにも筋肉痛の元になるなんてはじめて知ったんですよ。

カースのお陰で大変助かりました。


私は次に、多分鳥肉と推定玉ねぎとおおよそ茄子なのかピーマンなのかと悩むような

野菜を切って鉄串に挿しました。


鉄串は長いので、一人3本の計算です。


お肉には乾燥ハーブを砕いたものをしっかりと刷り込みます。

これで、すこしは生臭さが消えるのでレイモンさんも食べれるかもしれません。


鉄串を焚き火のすぐ近くに斜めに刺してから、

お酒と魚醤と豆油と薬味を混ぜたものをスプーンで鉄串に懸けます。

ぐるぐると焚き火を回るように歩いてあぶっていきます。


この作業って目が回るわと思っていたら、レヴィ船長が、細い鉄鎖と木切れを利用して、

火の上に簡易網を置いてくれたので、随分楽になりました。


レヴィ船長、有難うございます。

この網があると串に満遍なくたれが掛かります。

その上、歩かなくてすみます。


お鍋からはくつくつと音がして、シチューのふわんとしたいい匂いがあたりに充満します。

ジュージューを音を立てて焼けている串は、香ばしい香りと湯気で鼻をくすぐり、

食欲を増進させ、お腹を鳴らしてます。


ああ、いい匂い。

心ゆくまで味わって、お腹に入れるのが本当に楽しみです。


つくり始めて大体一時間ほどで、完成しました。

今、時間で言うと三時のオヤツ時ですね。

皆さん、お腹ぺこぺこだと思います。

遅くなって申し訳ないことをしました。


レナードさんのように手際よく出来なかったのが、時間が掛かった敗因ですね。

ですが、空腹は最大の調味料というのは正にあたりでした。

焚き火の側で皆で食べたシチューも、串も、大変喜んでいただけました。


レナードさんの言った通り、一人につき芋5個は当りでした。

それでも串は三本では足りなかったようで、

私のをゼノさんとレイモンさんに一本ずつあげました。


「しかしなんだな。

 メイちゃん、料理できたんだな。それも旨い」


関心したように話すゼノさんの言葉に嬉しくなって、

私の串を一本あげたわけではありませんよ。


「ああ、俺のカミさんの料理より旨え。

 メイちゃんを嫁にもらう奴は、最高に幸せ者かもしれねえ」


レイモンさんの言葉にもう一本、串をあげました。

本当に二人ともお世辞が上手ですね。


そんな感じで私の2本の串は二人のお腹に無事納まったのです。

綺麗に食べてくれて、お世辞を聞けて、串も私も大満足です。



レイモンさんは、薬が効いたのと一時間ぐっすり眠ったのがよかったのか、

食欲も元気も戻ってきているようです。


ああ、よかった。


私が2本の串を二人にあげたのをみてカースが自分のを譲ろうとしてくれましたが、

本当に一本で十分だったので、カースには心配しないでと言いました。


だって、串、日本の焼き鳥サイズでいったらほぼ5倍の長さですよ。

お肉だって、食べた感じは鶏だけど大きさはかなり大きい。

俗に言う、ガチョウサイズですよ。それを2羽分使いました。

まあ、ガチョウも鳥ですけどね。



生焼けがあったら、食中毒とか大変だと思ってしっかり焼いた為、

ちょっと私の顔と手は、すすで黒くなってしまいましたが、

そんなことが気にならないくらいに、皆様、凄く嬉しい食べっぷりでした。


ああ、いい仕事しました。






「メイ、顔を拭きましょう。こちらを向いてください」


カースが濡れた手ぬぐいで顔をぐいぐいと拭いてくれました。

優しい顔がふわっと笑って、美人なカースの顔に思わず見とれます。

私が美人なカースに見とれている間に、すす黒い顔は拭き終わったようです。


「よし。綺麗になりましたよ」


満足そうに微笑むと私の頭を撫でてくれました。

本当に優しいお兄さんです。


カースは私の痒いところに手が届くとはいいすぎですが、

王城から帰ってから、やけに私の世話を側で焼いてくれるんです。


その為、私は随分助かってはいるのですが、カースは自分の仕事もあるのに、

大変そうでした。本当に申し訳ないです。


洗濯物とかを取り込んでいたら、すぐに駆けつけて手伝ってくれるし、

掃除をしていたら、バケツとかを運んでくれたりと、

なんだか、本当に至れり尽くせり?


でも時折、一人でも大丈夫だよって言ったら、泣きそうな顔をするんです。

その顔をみたら、私が王城の裁判騒ぎで怪我をしたのが、

かなりの心配をかけたんだなあと実感したんです。


何しろ見る人全てが驚くお岩な顔でしたからね。

その顔を見るたびにカースを傷つけていたのかもしれません。

こればっかりは、早く治してくれなかった神様に文句をいいたい気分になりました。


ですので、今はカースのお世話に甘えている状態です。


「カース、有難う」


拭いた後の手ぬぐいは本当に真っ黒だったので、ちょっとびっくりしました。


「どういたしまして。

 そのままでは、どこかの浮浪児のようですからね」


浮浪児って、私は子供ではないですよ。

最後のその一言が無ければ、素直にお礼だけで済むのに。

まあ、カースが元気になるならいいです。

顔も綺麗になったし、有難うございます。


ですが、甘えに慣れすぎると、

カースの側から本当に離れられなくなるかもしれません。

心をぎゅっと、どこかで引き締めないといけないでしょうね。

そう思いながらも、カースの側は居心地がいいのです。

困ったことです。



「メイ、その手を見せろ。やけどしてる」


焚き火で串をあぶる時、跳んできた油でちょっと手に

やけどをしてしまったのですが、

レヴィ船長が、薬箱から軟膏を出してきて塗ってくれました。


レヴィ船長の大きな手が暖かくて、優しく触れるその手が嬉しくて、

私のことを気にかけてくれたのがくすぐったくて。

大げさに私の顔が緩むのは、しかたないですよね。


にへっと笑っていたら、レヴィ船長が私の手を持ち上げて、

巻かれた包帯の上からキスしてくれました。


「はやく治るおまじないだ」


ふにゃ~、おまじない効力抜群ですね。

こんなおまじないなら、どんとこいですよ。

やけどの痛みもなんのそのです。





ともかく、我が師匠達、私は無事に作り終えましたよ。

勿論、カースや皆さんのお手伝いがあってこその料理でしたが。


レナードさん、トムさん、オトルさん、3人の我が師匠。

美味しいものを食べさせてくれて本当に有難う。


普通に考えて20人前くらいあった大鍋のシチューが空っぽになった時、

嬉しくて感無量でした。


食べるのもいいけど、美味しいものをつくるのもいい手ごたえです。

目の前でがつがつと食べているゼノさんやレイモンさんを見る限り、

欠食児童に食べ物を与えてる感が少しだけしますが、

レヴィ船長やカースやトアルさんに、旨い、と褒められました。


嬉しいですね。

顔が緩んでとまりませんよ。



「メイちゃんくらいの腕があれば、いつでも嫁に行けるな」


ゼノさん、褒めてくれてももう何も出ませんよ。

差し出してくる手を前に、本当にありませんからねと言い張った。



ゼノさんは、口の中の物が入ったまま話すので、カースから怒られています。


その上、ゼノさんの口の横はお肉のたれで汚れてます。

子供のようですね。

私はちょっと笑って、手ぬぐいを濡らして拭いてあげました。


レヴィ船長からは冷たい目で見られて、ゼノさんはちょっと大人しくなりました。

自慢の息子に見られてますよ。

父として威厳を見せないとね、ゼノさん。



「メイ、食べないと、冷めてしまいますよ」


カースの言葉で慌てて、私もシチューとパンを口に入れ、

串の肉を一つずつ外しながら、パンに挟み食べていると、

ゼノさんに、それも旨そうだと言われ、パンを再度焼くことになりました。


もしかして、このペースでいくと、帰りのパンはなくなるのではないでしょうか。そんな嫌な予感がしてます。





食事が無事に終わり、皆で手分けした後片付けも無事終了し、

やれやれと肩の荷を降ろしたところで、

カースが野外で作る紅茶の入れ方を教えてくれました。


子鍋に水を沸騰させて直接その中に茶葉をぶち込むという、

豪快な手法でしたが、色が出たら鍋の中の茶葉が落ちないように、

鍋蓋で茶葉を押さえながら、カップの中に紅茶を注いでいくのです。


そうして入れられた紅茶は、なかなかにワイルドな味でした。

味が濃いのでミルクの残りを少しだけ足してミルクティーにして飲むと、

ちょっとだけまろやかなお味になって、ほっと一息です。

皆も欲しいといったので、皆のカップにもミルクを入れて、

全てのミルクが空になりました。


お菓子が欲しい気がするのですが、ここは我慢ですね。






紅茶を飲みながら、ゼノさんから皆にこれからのことについての

話がありました。


焚き火を囲んで、真剣に話を聞きます。


「いいか、明日、早朝から日暮れまで馬車を走らせたら

 セテナの森の端まで行けるはずだ。

 ちょっと強行軍になるが、まあ我慢しろ。

 その端に俺の部下と、案内人を一人用意している」


案内人?


「俺は、里と遺跡までは問題ないが、

 遺跡の中についちゃあ、それこそ上っ面だけしかわからないからな。

 俺の知り合いを通して協力を頼んだ案内人だ」


ほうほう。


「遺跡の中に入れば、レグドールの奴らに見つかるのではないですか?」


うん。カースの言う通りですよ。

そういえば、お祭りがあるんですよね。


「ああ、勿論、正面からは入らねえ。

 遺跡にはあちこちの隠れた出入り口があるんだ。

 だからこそ、あちこちの学者が気がついたら入り込んだってことになるんだがな」


へえ、忍者のからくり屋敷みたいなのかな。


「その入り口は問題ないのか」


レヴィ船長の言葉にゼノさんはしっかりと頷く。


「ああ、問題ない。

 あれは、俺が若いころに一攫千金を狙ってあけた入り口だ。

 だから誰も知らん」


ゼノさん。

一体貴方は何をしていたんですか。


「ゼノ総長、若いころにあけたって、ワグナーと同じく宝探しですか?」


トアルさんが手帳片手に、ゼノさんに質問してます。

そういえばトアルさんの職業は新聞記者でしたね。

でも、それって記事に乗せてもいいものなのだろうか。


「ああ、さっぱり見つからなかったがな。

 見つけたのは、土の人形みたいな欠片と鏡の欠片くらいだったか。

 あれは、骨折り損のくたびれ儲けだった」


ゼノさんは昔を思い出して、疲れたようにため息をつきました。


「そんな草臥れたものに、コナーたちが夢中になる気持ちがわからん。

 大きな鋳造船とか、ウインチの運ぶ大型碇のほうが、

 俺にはよっぽどカッコいいと思うんだが」


レイモンさんは、そういえば船大工だと言っていた。

大型帆船とかカッコいいものね。

レイモンさんの言葉には、ちょっとだけ同感です。


「人によって夢中になるものは違っていて当然ですよ。

 だからこそあらゆる分野での文化の発展があるのですから」


そうですね。そのとおりです。


「まあ、男のロマンはそれこそ数えきれないくらいあるってことだ。

 そのなかで宝探しは究極だぞ」


ゼノさん、なんか話がずれてきてます。


「ロマンか、まあ、仕方ないね」

「ああ、仕方ないな」


レイモンさん、トアルさん、それで納得出来るんですか?

男の人の考えることはやっぱりわかりませんね。

だけど、宝探しってフレーズには惹かれます。


「話を戻せ。それで案内人は遺跡に詳しいのか」


レヴィ船長の言葉で話が元に戻りましたよ。

さすがですね。


「ああ、同じレグドールだからな」


その言葉にカースが目を剥きます。

そして厳しい声で詰問しました。


「どう言う事です。説明してください」


「遺跡で崩落事故があったのは、知ってるか?」


トアルさんが、うんうんと頷いてます。

有名な事件だったとかなのかしら。


「そういや、カレンから聞いたな。

 酒場で酒のつまみやったら話してたぞ」


レイモンさんが、何かを思い出したように斜め上を見ながらいいました。

カレンさん、情報屋さんにしては口軽すぎませんか?


「これは、カレンも知らないことだ。

 あの落盤で遺跡の更に下の地下層が見つかったらしい。

 遺跡上層部の大概の間取りはわかるが、

 新しく見つかった地下は俺にはわからん」


ああ、そうですね。

新発見の部類ですからね。


「それで、信用できるのですか?」


信用?


「ああ、奴らは契約者は裏切らないからな」


契約者?

レヴィ船長もカースも難しい顔をしてますよ。


「闇の影か」


闇の影?

どこかで聞いたような……


「犯罪集団でしょう。 そんな奴を信用していいのですか?」


犯罪集団?


「ああ、奴にいたっては問題ないだろう。

 奴は一度出した言葉と契約は裏切らない。

 闇の影は犯罪組織でもあるが、その規律はかなり厳しい。

 契約と信義を重んじる戒律は、天晴れとしかいいようがないからな」


犯罪者の仁義ってやつですか?

ヤクザの渡世の義理人情って感じかな。


「ゼノ総長、国は闇の影を容認していると言う事でしょうか」


トアルさん、口調が新聞記者になってます。


「そうじゃない。おい、これは記事にするなよ。

 国が栄えるにしたがって闇は大きくなる。

 その闇が統制がとれた組織であることは、国にとっても話が早い。

 それだけだ。表と裏で比重が取れていることが望ましい国家だからな。 

 バラバラな悪辣な犯罪者は、表でも裏でもはじき出される。

 現に、奴らは警邏に捕らえられて法の裁きを受けてるだろ」


ゼノさん、考えてないようで考えているんですね。

一瞬、背中に王様が見えましたよ。

やっぱり軍部総長の肩書きは伊達ではないんですね。


「まあ、これは王とか爺とかそのあたりの言葉だけどよ。

 俺だって、生きていれば苦水を飲むくらいの経験が多々ある。

 苦渋の選択をするうえで、一番犠牲の少ない方法を選ぶ時だってあるさ」


そうですね。

我慢しなくてはいけないことだってありますよね。

就職試験の面接で、理不尽な質問に何度涙を呑んだことか。

大人になって、にっこり笑う裏で、何度、踵のヒールを床に叩きつけるように床を踏み鳴らして帰ったことか。


なんとなく違う感がありますが、

大人になるって苦いものだって表現はあってるよね。


「今回の案内人がその選択肢というわけですか?」


ああ、そうでした。

話が反れましたね。


「ああ、地下の最下層は奴が調べて、俺達を案内することになってる。

 で、お前達のもつワグナーの書とメイちゃんがここで重要になる」


私?


「最下層は、罠が多いらしい。祭りをする関係上でかなり取り除いたが、一番厄介で肝心なところが手付かずで、仕方ないからその手前で儀式をすることにしたらしい」


罠ですか?

あまり頭を使った罠は、正直、得意ではないのですが。


「古代文字の記述を読み解いていけば、

 奴らが手に入れたい物がその奥にあるってことだ。

 祭りの儀式の前に、俺達がそれをかっぱらうか、壊す」


かっぱらうって、ゼノさん、泥棒さんですか。


「案内人に最終的にかっぱらわれるのでは?」


カースはまだ疑っているようです。


「そうなれば、潰す」


あの、潰すって……何を?

レイモンさんが、ぐいっと体を乗り出して、ゼノさんに詰め寄りました。


「おい、国の仕事はアンタの仕事だ。

 俺達の目的はコナーとディコンだ。

 そっちを探さないと本末転倒だろ」


そういえばそうですね。

レイモンさんの言うとおりです。

 

「ああ、その件だけどな。一人の行方はわかったぞ」


一人?


「調べた調査結果では、ディコンはレグドールに捕まっているらしい。

 コナーはわからんがな」


あれ?一緒じゃあなかったんでしょうか。


「どこまで知っている」


レヴィ船長は、目を細めて声を一段低くしてゼノさんを睨みつけました。


「おい、さっきこの知らせは届いたばかりだ。

 そんな目で睨むな。怖いだろ。

 この小屋周りにレグドールの里に潜り込ませている奴との連絡箱があるんだ。

 どこにあるかは言えんが、それによると、

 レグドールの里の地下壕の中のどれかに入れられているらしい。

 祭りには多分、他の人間と同様に生贄用に引っ張り出されるはずだ」


それを聞いたとたん、トアルさんたちの顔が真っ青になった。

トアルさんは、慌てて持っていたノートを閉じると、さっと立ち上がった。


「居場所がわかっているなら、遺跡なんかに行かないで助けに行こう」

「おお、夜中とかに忍び込んで、見張りを倒して牢を破れば」


「駄目だ。その場所は里の中心部で見張りも四六時中ついてる。

 仮に、お前達だけで乗り込んで、ディコンを連れ出したとする。

 ディコンはコナーを探しにきたんだろう。

 里の奴らにディコンがコナーの消息を尋ねた可能性は高い。

 もし、コナーが別の場所で監禁されていたら、

 ディコンが逃げたとわかったと同時に、確実にコナーはその場で殺される。

 いいか、レグドールの里の奴らを甘く見るな。

 あいつらは俺達を憎むことが生きる糧になっているんだ。

 殺すことなど、なんとも思わん。

 むしろ、ディコンの方が殺されない可能性の方が高い。

 この意味がわかるな」


このゼノさんの言葉にトアルさんとレイモンさんは、ゴクリと唾を飲み込んだ。


友人が、自分達の軽率な行動が原因で殺される。

想像するだけに嫌な感じだ。


「そんなレグドールの奴らが案内なんて、ありえないんじゃねえか?」


レイモンさんは、かすれたような声を押し出し、ゼノさんに再度尋ねた。


「レグドールは今、2つの集団で意見が割れている。

 一つは闇の影の組織。

 こっちは祭りを反対している。

 もう一つは里の狂信者達。

 祭りを計画実行している者達だ」


へえ、二大派閥ですか。


「だから、問題ないというのですか?」


カースの眉間の皺が一段と縦に入ります。

どうしても解せないという感じですね。


「何故、闇の影は祭りに反対する」


レヴィ船長も眉を顰めてゼノさんに尋ねた。


「解らん。 気になるなら、明日直接聞いてみろ。

 だが、今回は、奴らから持ちかけられた話でもあるからな。

 利害が一致したということだろう。

 奴らにとっても祭りは是非とも中止したいということだろう」


え、お祭り中止?


「ぜひ、そうなって欲しいものですね」


カースがため息を小さくつきました。


「物騒な祭りになりそうだからね」


トアルさんも、同じくため息をつきます。


ため息は幸せが逃げていくって何かの歌であったような気がする。

なんだっけ?

まあ、いいか。

それより、お祭りが物騒って何でだろう。


物騒?お祭りに?喧嘩とかかなあ。

お祭り騒ぎで喧嘩騒動。

そういえばよく地元で聞いたなあ。

でも喧嘩とか大きくなったら、お土産買うどころではないかも。


ゴメンネ。ポルクお爺ちゃん。

きらきらお面は購入できないかもしれません。




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