愉快な道行です。
馬車の轍の音がゴトゴト。
馬の足音はパカパカ。
街を出発して2日と半日、もうじきお昼になろうかという時間です。
街道沿いに走っていたときは足早で、馬車は快適に進んでいました。
街道は全て石畳で舗装されていましたから、遮るものの何もありませんし、
道行く人も沢山行き交います。
昨夜は、街道沿いにある宿屋に泊まりました。
宿屋はどうやらかなり込み合っているらしく、
ゼノさんのコネでやっと取れたのが2部屋。
私は、レヴィ船長とカースと一緒の部屋で3人部屋。
ゼノさんとトアルさんとレイモンさんが3人部屋となりました。
女の子が男性と一緒の部屋なんてっと、お兄ちゃんらしく
カースはいろいろ文句を言ってましたが、今更でしょう。
船の中に居た時は、一緒の部屋で何度も眠ったじゃないですかといったら、ゼノさん他2名がぎょっと驚いていました。
本当にもう、私相手に、何が起こるというのでしょうか。
色気の欠片も無い私に。
あ、自分で言ってみて、ちょっとだけ落ち込んだ。
うう、いいんだ。
いつかは、色気つくはずだもん。
市場のおばさん連中曰く、女性には色気がつくときが
必ず来るもんだって笑ってましたからね。
いつか必ずその時が来るはず。
多分、きっと、希望系。
落ち込みそうになったけど、カースから、
レイモンさんの具合が悪いので見てきてくれと言われて、
薬箱を持って隣のお部屋に行きました。
その間に、レヴィ船長とカースとゼノさんが話をするようです。
多分、難しい話なんでしょう。
まあ、私にも必要と思ったならば、カースかレヴィ船長が後ほど教えてくれるでしょう。
隣のお部屋のベッドの上には、気持ち悪そうな不機嫌な顔のレイモンさん。
微妙に青銅色の顔色が、奈良の大仏のようです。
顔はかなり怒ったような仁王仕様ですが。
そういえば、最初は一番はしゃいでいたはずなのに、
途中から黙って何も言わなくなったから、どうしたんだろうと思ってた。
どうやらレイモンさんは、馬車酔い? 乗り物酔いみたいです。
先程トイレであらかた吐いたレイモンさんは、
今はぐったりと目を瞑って気持ち悪さに苦しんでいるようです。
トアルさんと一緒に、セランの書き出した薬効注意書きを目を皿のようにして
読み、薬箱の中をあさりました。
昨日の夕方、街道をそれたところから、
道は一切舗装されていない田舎道に変わりました。
でこぼこ道を馬車が走るため、前後左右上下に一日中揺れてます。
ですから私のお尻の下には、私の服とかが入った麻袋が座布団代わりに敷かれてます。
一日中揺れるのは船で慣れているので、私は大丈夫でした。
意外なことに、一番頑丈そうなレイモンさんが覿面に乗り物酔い真っ最中です。
途中で止まるわけにも行かないので、只今、馬車の中でレイモンさんは、
毛布を厚く引いてつくった簡易ベッドの上で、真っ青な大仏となって唸ってます。
昨夜は、迷った挙句に気付け薬を薄めてレイモンさんに
飲ませたんです。案外効いたようでほっとしました。
乗り物酔いはかなり辛そうです。
私は、基本、どの乗り物酔いにもなったことが無いですね。
そういえば。
修学旅行や遠足で、山道をぐるぐる回るバスの中でも、
平気でポッキーを食べていたと思う。
ですので、どのぐらい辛いものか理解できないのですが、
真っ青な顔に脂汗が浮かび、かなり苦しそうです。
今回急いでいる道行なので、休憩は2時間おきに少しだけ。
昨夜のお宿から街にレイモンさんだけ帰るかとレヴィ船長は聞いたようですが、
レイモンさんは、断固拒否したそうです。
仲間を見捨てて自分の身を守るとかありえねえ。だそうです。
それを聞いたとき、おおさすが、男だねえと感心したんですが、
今の状態を見る限り、果たしてそれが正解だったのだろうかと本気で疑いたくなります。
休憩中に街端の葉っぱに蓬のような草を見つけました。
噛んでみると、味はあっさりミント味。
これって、乗り物酔いにも聞くのだろうか。
それとも、さっぱりしたレモンとかの柑橘系の水とかの方がいいのかなあ。
でも、フルーツって、持ってきていないと思う。
手ぬぐいを濡らしてレイモンさんの額と首筋に置き、
3倍くらいに薄めた気付け薬と
ミントのような蓬のような葉を砕いて水に浮かべてレイモンさんに飲んでもらいました。
薬の効果があったのか、今レイモンさんは、
すうすうと寝息を立てて寝ています。
レイモンさんの様子を時折みていたカースとトアルさんは、
ほっとした顔をしてました。
麗らかな、のどかな田園風景がずっと続いてます。
ぼこぼこ道をそのまま走っているのですが、回り周辺は素朴な田舎道。
まだ緑の稲穂をもつ麦畑が道脇からぶわっと広がっているのです。
ここは、国の所有する穀物畑だそうです。
そして今、通っているのは正式には農道街道だそうです。
農作物搬入の為に作られた道で、農業に携わる人以外には
めったにこの道を使わないんだそうです。
馬車の一番後ろで麦畑を見ていたら、なんだか平和だなあって
思わずうとうととしてきました。
チュンチュンと麦を狙う鳥達が、上空で囀っています。
こうも何もすることがなく、また風景が変わらないので、
なんだか気が抜けた感じですね。
馬車を見渡すと、御者台には先ほどレヴィ船長と交代したカースが座ってます。
中に戻ったレヴィ船長は、あの例の本を引っ張り出して難しい顔で読んでます。
トアルさんは、昨日はよく眠れなかったのでしょうか。
目の下に大きな隈が出来てます。
今は、私と同じく、こっくりこっくりと船を漕いでます。
ゼノさんは、街を出てすぐに、カースの怒りをかってしまい、
大人しく馬にのって先導してます。
怒りの原因は、ゼノさんの口、つまりおしゃべりでした。
なにしろ街を出たとたんに、私やトアルさん、レイモンさん相手に
いろいろ話を振ってくるんです。
乗っていた馬で馬車の後ろに来たかと思うと、
子供のような顔で楽しそうに目を光らせながら、こそこそカースに聞こえないように、
私達に話しかけてきました。
「メイちゃん、カースとレヴィウスの子供の頃の恥ずかしい話とか聞きたいよね。
その代わりに、船の中での恥ずかしい話を俺に教えてくれや。
やっぱり、旅は暴露話が一番盛り上がるってもんだろ」
えーと、船の中での恥ずかしい話って、特に無いと思うのですが、
レヴィ船長やカースの子供時代っていうのは、ちょっと気になりますよね。
「トアルさんとレイモンさんは、レヴィ船長やカースと幼馴染なんですよね」
近くに座っていたトアルさんに目を向けると、トアルさんは眼鏡の淵を布で拭きながら
嬉しそうにそうそうと頷いてます。
「そうだよ。 俺達は7つの時から15まで同じ学校に通ってたからね」
へえ。 それじゃあ、二人の子供の頃ってどんなだったんだろ。
「そうそう、こいつ等6人で、それはもういろいろと街の中で大騒ぎしたもんさ。
子供の内は馬鹿をするもんだけどよ、こいつ等の馬鹿は、半端なく大きくなるんだ。
気がつきゃ、街中大騒ぎで、警邏や軍や国の役人まで出張ってくる。
親の俺はポルク爺に嫌味を言われた上に負け続きで、すってんてんの丸裸だ。
その上、後片付けが忙しくなって昼寝をおちおちしてられねえ。
それなのに、街中じゃあ、こいつ等をヒーローみたいに崇めている奴らがいるって
知ってるか? 俺が昼寝もできずロイドとポルク爺にこき使われているってのに」
すってんてんって、何を賭けてたんですか?
不公平だと口を尖らせて文句をいうゼノさんは、憎まれ口を言いながらも、
ちょっと目尻が下がってますよ。
「それは、しょうがないですよ、ゼノ総長。
レヴィウスを筆頭に、コナーとディコンを加えた俺達6人は、
一度だって対抗戦で負けたこと無かったんです。
4年間負けなし連勝した記録は、いままでにない偉大な戦績ですからね」
対抗戦?
「ああ、そうだったな。
今の貴族連中のお坊ちゃまは不甲斐ない奴ばかりだからなあ。
俺が、居た時はどっちの学校も雄叫びを上げてたもんだったのによう」
ゼノさんの子供時代は雄叫び?
ターザン?
ゼノさんで思い浮かべると、何故だか腰巻を身につけたターザンしか思いつかない。
いやいや、今はレヴィ船長とカースの子供時代の話だから、ターザンは除外で。
「サットンにも骨のある奴はいましたよ。
ただ、俺達は奴らに無いものが沢山あった。
だから、俺達が勝ち続けられた。 そういうことです」
トアルさんの顔は随分と誇らしげだ。
「骨のある奴? いたか?」
ゼノさんは首をかしげている。
ということは、対抗戦には必ず見に来てたんですね。
「ほら、16の年から、貴方の下の軍部に居るはずですよ。
サットンの生徒会長だった、レオン・バーモントです。
時折、一緒に飲みに行くんです。
貴方の熱烈なファンですよね」
トアルさんは眼鏡をはずして、眼鏡に息を吹きかける。
ゼノさんは、うーんと首を捻ったままだ。
レオンさんとやら、かわいそうに、ゼノさんに知られても無いようです。
「軍部は人数が多いですからね。
今は、部隊長補佐になっているはずですが」
それで思い出したようで、ゼノさんが手を叩いた。
「ああ、あの暑苦しい熱血スポーツマンか。
アイツは、どうも苦手なんだよなぁ」
ゼノさんは、頭を軽く引っかきながら、
苦い薬を噛み潰したような顔をする。
「レオンは思い込みが激しいですからね」
トアルさんがちょっと苦笑しながら、眼鏡を装着する。
「なんだ、多分、まあ、いい奴だろうさ。なにしろ、俺のファンなんだからな。
それに、お前の言うとおり、アイツに骨はあるんだろう。
実力も無けりゃ部隊長補佐には上がれないからな。
だが、アイツはお前らに負け続きだったんだろう?」
「ですから、個人個人の実力で来るならば、僕よりもレオンやその取り巻きの方が
よっぽど強かったんです。 だけど、僕達にはレヴィウスがいてカースがいた。
そして、俺達6人の意思は、言葉に出さなくてもお互い通じ合えた。
それが、最高の連携をうみ、勝機と運を掴みとることが出来たんです」
そうだね。
連携プレーって団体競技には欠かせない要因ですよね。
ALL FOR ONE、ONE FOR ALL。
昔、ラグビー部顧問だった先生が、体育祭で暑苦しく叫んでいたのを思い出した。
そうか、子供時代はレヴィ船長もカースも熱血だったのか。
夕日に向かって走るとか?
うーん。青春だねえ。
「アイツにはお前達のような仲間が居なかったってことか」
「ええ、俺達のような最高の仲間をもてなかったってことです」
トアルさんは、すごく得意げに胸をはって告げます。
小さな馬車の中での会話ですからね。
カースもレヴィ船長も聞こえているんでしょうが、何もいいません。
ということは、レヴィ船長もカースも同じ意見だということですね。
いいですね、男の友情。
ちょっとあこがれます。
「俺は、俺達は、レヴィウスとカースの仲間になれて、本当に運がいいんです。
これだけは、神に感謝したいくらいですよ。ゼノ総長にもね」
ゼノさんが首を傾げます。
「俺に?」
「ええ、本来なら貴方の息子であるレヴィウスがガバナーに、
一般市民の学校に通うことが、おかしいんです。
もし一歩間違えていれば、サットンに通っていたかもしれない。
そうしたら、俺達は仲間ではなかったでしょう。
レヴィウスがいたから、カースがいて、そして、俺達が仲間になれたんです」
トアルさんが本当に嬉しそうに微笑んでます。
それに答えるゼノさんは、目尻に皺を寄せて嬉しそうに笑ってました。
「俺じゃない。 レヴィウスの意志だ。
そして、それこそがお前達の運命だったということだろう」
ゼノさんてば、口ではいろいろ言いながら、
実は、嬉しくて自慢したくて仕方ない子煩悩親父なのですね。
それにしても、レヴィ船長もカースも今と変わらず素敵だったんですね。
いいなあ、 近くで私も見たかった。
「トアルさん、運を引き寄せるのも実力ですよ。
そして、実力は、思いによって強化されるものです。
貴方が、最高の仲間の一員でありたいと努力してるからの今だと思います。
貴方もレヴィ船長も、カースもレイモンさんも、素敵な友達で仲間ですね。
それって、人生で最高の宝物だと思います。
ねえ、ゼノさんもそう思いませんか?
沢山、レヴィ船長の素敵な子供時代が聞けて嬉しいですね。
ゼノさんの自慢の息子ですものね。
素敵でカッコいい息子を持てて、父親として本当に幸せですね」
にこにこ笑いながら私はゼノさんに話しかける。
子煩悩ゼノさんの顔はにやけた親父顔だ。
「うん? あたりまえだろ。
レヴィウスは俺と妻の最高傑作だからな。自慢に決まってる。
俺の息子は世界一だからな。
あれ? なんで俺こんなこと話してるんだ?
いや、やっぱり、メイちゃんは調子が狂うな。
あー、まてまて、話を戻すぞ。
あいつらの弱みとか恥ずかしい話とか可笑しい話を聞くはずが、
何でこんなことに。
このままでは、ポルク爺とルドルフに高笑いされる」
ゼノさんの声は段々と小さくなり、
最後のほうはぶつぶつと呪文のように小声で呟いてます。
私は聞かなかった振りをするのですが、
一人聞きとがめた者がおりました。
カースです。
カースの逆鱗に触れそうなゼノさんの呟きは、どうやらカースに聞こえていたようです。
背後から忍び寄る冷気に、たらりと冷や汗が流れます。
レヴィ船長やカースの恥ずかしい話。
その内容には、私だってとっても興味深々ですが、
私の背後からの冷たい視線に、私の心が今にも凍りそうです。
その結果、カースの雷が落ち、
こちらから話しかけた時以外話しかけるなと言われてしまったんですね。
だから、ゼノさんはしぶしぶ黙って一番前で先導してます。
今は落ち着いた行程のなか、静かに過ごしてます。
馬車の中の音は、レヴィ船長の本のページを捲る音。
車輪の揺れる音と、馬の足音、二人の寝息。
ああ、平穏ですよね。
ですが、その平穏は、今、ことごとく破られています。
カースは話しかけるなと言った手前、無視を決め込んでいるけど、
眉間の皺が、深い縦皺に何本もなってます。
このままだと、額がシマウマのような模様になりそうですよ。
トアルさんとレイモンさんは、とっくに目を覚まして両手で耳を塞いでます。
レヴィ船長は、耳の中に栓をしてますね。
私達が眠り出したのを横目で見ていたゼノさんが、
目覚まし代わりに歌ってくれたのですが、
これがまた、びっくりするほど、音痴です。
街中でもはやっている歌とか、時々吟遊詩人が街角で歌っているのを
聞いていたので、ゼノさんの歌っていた曲の原型は解ってます。
と、いうか、歌詞を頭の中で繋げてやっと解ったという感じですね。
原曲は、収穫を祝う歌だったと思う。
正に、牧歌的で風景にぴったりですが、
ゼノさんの歌声では、バッタですらひっくり返るでしょう。
ゼノさんの歌、それは壊滅的に破壊光線でした。
あたりを囀っていた鳥達は、一斉に居なくなってしまいました。
遠めで見えた麦畑で働いていた人たちも、我先にと方向転換しました。
例えて言うならそれはまさしく騒音。
音楽のCDを早まわしして、更に傷をつけたらこのくらいの音程になるだろうか。
いや、それよりももっと酷い。
カラオケでよく音痴だと大学の講師を囃し立てたことがあったが、
彼はゼノさんに比べたら音痴のおの字も当てはまらないくらいに微々たる者かもしれない。
人間の声でここまでの破壊騒音が作り出せるものなのか。
私は、耳を押さえても入り込んでくる強力なその威力に涙が出そうだった。
それなのに、本人は誠に気持ちよく伸び伸びと
ゆったりと歌うことを満喫されてます。
両手なんか広げちゃって、某オペラ歌手のようですよ。
歌は壊滅的ですが。
そんなゼノさんに先導されて続く私達は、
正に蒼白になってます。
音痴グループ聖歌隊とか思われたら立ち直れないかも。
レヴィ船長は知っていたのか、すぐに耳栓をして平然としていましたが、
ゼノさんを止める気は無いようです。
御者台にいるカースの皺はピキピキと音を立てて、今にも切れそうです。
トアルさんとレイモンさんは、カースの皺とゼノさんの歌に、
半分魂が飛びかけてます。レイモンさんに到っては白め剥いてますよ。
この窮地に動けるのは私だけということですね。
カースに動くな会話するなと怒られましたが、
これは行動範囲内でしょう。
私は、とりあえず御者台に出て、ゼノさんに大きな声を掛けました。
「ゼノさん。もうそろそろ歌は止めませんか。
大きな声で、疲れたでしょう。
私達の目も覚めましたから、もう目覚ましの曲は結構ですよ」
正確には、その歌を歌うのは止めてくださいの意味ですが。
だって、終わるの待っていたら当分終わらないでしょうから。
この曲、豊穣の喜びを祝う歌で、4部作なんですよ。
さっきの歌詞から、一部だと見当つけましたから、
あと3部残ってます。
ほっといたら、まだまだ続いちゃうんですね。
ゼノさんは、にこやかに笑いながら返答してくれました。
「いやいや、街中ではなかなか大声で歌えないから、気持ちいいんだよ。
日頃から部下に怒鳴っているから、大声を出すのはなれているんだ。
退屈つぶしとストレス発散で両得だから、気にしないでいいぞ」
いえ、お願いですから気にしてください。
私が声を掛けたことが切欠で、ゼノさんの歌が止まり、
意識を戻したトアルさんが私の言葉の後を引き継いで攻勢に入ります。
「ゼノ総長。 歌はまた今度、また今度でお願いします。
そろそろお昼ですので、何処か落ち着ける場所を探したいのですが」
そうですよね。
朝ごはんは、早朝に馬車の中でつまんだパンとチーズだけでしたので、
私もお腹減ってきてますよ。
「ああ、あと半刻で農道を抜けて、セテナの森に入る。
獣道しかないが、入ってすぐのところに、森番の使う小屋がある。
その付近で飯の用意をしよう」
そういうと、また歌う為に大きく息を吸い込みました。
私達は、心の中でひいいっと悲鳴をあげています。
本を閉じたレヴィ船長は助け船を出してくれました。
「勝手に使って良いのか?
国の張番の使う小屋だろう」
うん?張り番?
「いいんだよ。
国の物ってことは、国民が使ってもいいってことだ。
文句言われたら、俺が許可するし、問題ない」
はっはっはっと豪快に胸をはって笑うゼノさんは、
本当に明るい人ですね。
「獣道は馬車は使えるのか?」
あれ?
使えないの?
「ああ、セテナの森の境界点まではわりに広いから問題ないだろ。
谷付近になると、とたんに道が危なくなるから、残りは馬だな。
一応、セテナの森と谷の境界あたりに、馬車を隠せる場所がある。
そこから、遺跡までは徒歩で半日、馬だと2刻ほどだ」
馬。
馬に乗ったこと、ないですよ私。
乗馬なんて高尚な趣味もってないですし。
ということは、私は徒歩ですかね。
半日ですか、ちょっときついけど、頑張りましょう。
レヴィ船長が、真面目な道筋とかの話を持って言ってくれたお陰で、
歌の恐怖体験再発は防げたようです。
カースも途中で話しに加わって、真面目に暇つぶしができたようで、
歌無しで、森の小屋まで無事たどり着けました。
ロイドさんが、あの時言っていたゼノさんの口と性格に気をつければって、
歌も込みの問題だったんですね。
それなら、そうといってくれてもいいのにねえ。
ゼノさんに暇を与えたら、あの歌が飛び出してくる。
これは旅の間のちょっとしたトラウマになりそうです。




