表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱をあけよう  作者: ひろりん
第5章:遺跡編
116/240

もっと勉強しておくんでした。

こ、これは、多分、おそらく、日本語ですよね。


羊皮紙に黒い木炭のようなもので書かれている地図に記された文字も、

本の所々に書かれた文章も、間違いなく日本語でしょう。


地図の右上らしきところにあるのは、

日本地図でもよく見かける東西南北を示すマークです。


それに森林を示すマークもセテナの森と思われる所にある。

小さい時、社会のテストで呪文のように覚えたものがいまここに。


まあ、解るのはそれだけですが、

見ていると、なんとなく建物っぽい内部の地図と、

道路地図のようなくねくねと曲がっている地図がぼろぼろの羊皮紙に書かれている。


ところどころの赤い点が、部分茶色に変色して一部黒ずんでいる。

その黒ずみは、羊皮紙の退行具合を侵食している虫にも見える。

多分乾燥によってぼろぼろに腐食した一部は、既に内容理解不能だ。


そして、本は分厚い聖書くらいの太さで、背表紙、表紙共に白く変色していて、

繋ぎ目の部分は破れかけ、生地の糸が数本繋がっているだけの状態だ。

中の紙は、これは植物の繊維を伸して作ったものらしく、

ごわごわしていて茶色く変色していた。


開けてみると、一ページ目はこちらの言葉が書き連ねてあり、

2ページ以降は、誰かの筆跡が書きなぐるように記されている。


そして、所々に大きく書き残されているのは、

ミミズの這ったような、ひらがな??

それに、多分、漢字、それも、旧漢字って物です。


……部分、読めることは読めますが、

さっぱり意味が解りません。


それに、これは毛筆での筆跡を辿っていたのでしょうか、見事にくねくねです。

しかも、達筆らしき筆遣いに漢字とかな文字の組み合わせを写し取った感じだ。

そして、漢詩というのか所々に漢字まみれの文章っぽい絵が並んでます。


その隣の列にはこちらの文字が翻訳のように書き記されています。

結構、乱筆乱文でこちらもさっぱりわからない。

これを見る限り、カースの字とか、ネイシスさんの字のほうが随分読みやすく綺麗だ。

ボールペン字とか習って欲しい、この筆者。


はあ、漢文とか古文なんて高校卒業以来です。

特に、毛書体の文献を見ることは無かった。

そんな私には、途轍もなく高いハードルだと思います。


だけれど、久しぶりに見て触れて、

日本語だと思ったからには、なにかしら読んでみたい。


うーん。

一番なんとなくわかりそうなものはっと。


ぱらぱらと捲った真ん中辺りに一枚の栞が挟んでありました。

栞は綺麗に糸で縁取りされ、昔は綺麗な赤であったであろう、

赤茶けたリボンのような紐がついていた。


くるりと裏返してみると、綺麗な日本語。

インクのにじみも無く、歪みも無い文章です。



「飛ぶ鳥の明日香の里を置きて去なば

 君があたりは見えずかもあらむ」



これって、昔の歌っていうものだよね。

その横の漢字はだれそれがどこで読んだかの注意書きだったような。


でも、こうゆうのって、よく万葉集とか、

古今和歌集に載っていた気がなんとなくする。


だって、5・7・5・7・7っぽいよね。


意味はなんとなく解るような解らないような。

誰の歌とかも解らなければ、内容もさっぱりですよ。


日本語で書かれてあることがわかっても、

昔の日本人の言葉なんて、意味不明です。

私、もっと勉強しておけばよかったなあ。


ふうっとため息をついて、栞を元の位置に挟み、

本を閉じ顔を上げると、皆の視線が私に向いてました。


え?何ですか?


「メイ、 お前、今、自分が何を口走ったか覚えているか?」


隣のセランが私の顔をぐいっと両手ではさんで、私の顔の向きを変えました。

目の前のセランの顔は、いつになく真剣です。


髭があり、わりにハンサムなセランはちょっと渋い親父系です。

あ、ちょっと睫毛長いかも。

いいなあ、羨ましい。


その両手に挟み込まれた私は、現在たこ顔です。

なんだか締まりませんね。


「にゃんでふゅか?」


お客様の前ですよと抗議したいので、セラン、離して下さい。

私は、顔に力を入れるべく歯を食い縛りますが、

セランの手は一層力を込めて押しつぶしてます。



「セラン、手を離せ。」



レヴィ船長がとめてくれて、私のたこ顔が元の丸みを取り戻しました。


ふう。

あ、私も本を手離せばよかったんですよね。

両手で本を持っているから、抵抗できなかったんです。



「セラン、いきなりメイに何をするんですか。」


カースが私の代わりに抗議してくれます。

それにしても、セランはいきなりどうしたんでしょうか。




「メイさん、君、もしかして古代文字ロハニが読めるの?」


トアルさんが、身を乗り出すようにして、私に迫ってくる。


「え? いえ、ロハニってなんですか?」


うーん、ロハニって言葉の意味すら、わかりませんよ。

私が首をかしげて、なんていったらいいのか考えていると。


「だって、今、すらすらと話しただろ。

 あれはロハニを読んだとしか見えなかったよ。」


唾を思いっきり飛ばしながら、机の半分まで身を乗り出してくる。

トアルさんの目がらんらんと光って、ちょっと怖い。


思わず、椅子を後ろに引いて避けてしまうのはしょうがないでしょう。


「トアル、落ち着け。座れ。」


レヴィ船長の言葉に、はっと我に帰ったトアルさんが、

こほんっと軽い咳をして、あらためて深く自分の椅子に座りなおした。


「メイは、まだこの国の言葉に慣れてないんですよ。

 だから、難しい言葉は解らないのです。」


カースがトアルさんに説明をしてくれました。

そうです。ロハニってなんなのですか?

説明プリーズ。



「メイ。ロハニと言うのは、以前に滅んだ文明の文字のことです。

 この文字は、原住民ヤトーネの祖と言われる文明の文字だと思われます。」


う、ヤトーネってのもわからない。

でも、ここで聞くと話を折ってしまう。

我慢我慢。


「以前に、この国は歴史が浅いと言ったのを覚えていますか?」


カースに尋ねられ、首を傾げる。

本当は、なんとなくうろ覚えで憶えてますが、

ここで頷けるほど、記憶鮮明なわけじゃない。


カースの眉間にびしっと縦筋が入った。


あれ、私、地雷踏んだ?



「メイ、貴方の頭はざるなんですか?

 それも、網の目が粗過ぎです。

 

 ……はあ、まあ、怒るのは後にして、簡単に説明します。

 遥か昔に栄えた古代文明ヤトッシュが存在したと言われるのが、3000年前です。

 

 その文明はかつて無いほどに隆盛を誇り、大陸全土を網羅し、

 神の加護によって、この世の春を体現したと言われています。」


ほうほう。


「ですが、行き過ぎた文明に人は奢り、傲慢にも神になろうとした。

 神は人に失望し、見限って眠りについた。

 

 太陽が陰り、闇が支配し、大地は凍え、海は濁り、

 病魔が蔓延し、生物が死に始めた。

 

 その崩壊は苛烈を極め、大地は裂け、大陸は二つに割れた。

 山は雄たけびを上げ、大地の生物は全て火の濁流に飲み込まれた。

 

 わずかに生き残った子孫が、船で1000日彷徨って、

 冷めた大地に新たな国を建設した。」


解らない言葉は沢山ですが、なんとなく、創世神話のようですね。

聖書にあるノアの箱舟とかなんとか。


「その時の子孫達が、自分達の過去を戒める為、

 また、神に許しを得る為に神殿をあちこちに立てたのです。

 その一つが、ファブリアド遺跡になります。

 多くの国の歴史家や考古学者や探検家が、古代遺跡の遺物や痕跡を求めて、

 世界各国を渡り歩いてます。

 それらの遺跡に書かれてある文字がロハニになります。」


へえ、遺跡って古代エジプトみたいな感じなのかしら。

と言う事は、ロハニってエジプトでいう象形文字だよね。


そういえば、国議会の正面はパルテノン神殿風だったような。

ならば、ギリシャ文字でもおかしくないよね。

なのに、なんで日本語なんだろう。



「ですけれど、ロハニの解読は難関を極めています。」


ふうん。

象形文字の解読はロゼッタストーンだったっけ。

あれが発掘されやっと解り始めたって教科書に書いてあった気がする。


それならば、この遺跡もなにか遺物がでれば、

解読できるんじゃないかな。


カースの言葉に補足するように、トアルさんが言葉を続ける。 


「冒険家ワグナーは、その研究の第一人者であったと知られている。

 これは彼の貴重な手記で、コナーのような歴史学者ならば、

 喉から手が出るほどに欲しいものだろうね。」


コナーって、ウィケナさんの旦那様だったよね。


「だから、石版一つでコナーの馬鹿は遺跡に行っちまった。

 本当に、昔から、夢中になると止まらねえ、しょうがねえ野郎だ。」


レイモンさんがぼそっとつぶやいた。

それに対して隣の奥さんのデリアさんが面白そうに反論する。

 

「あら、貴方も兄さんと同じじゃない。

 船のことになると何日も寝ないで嬉しそうに作業してるでしょ。

 私を一人置き去りにして。」


兄さん?


私が首を傾げると、隣のウィケナさんがうっすらと笑いながら答えた。


「コナーはデリアの兄なのよ。

 デリア、男の人が仕事に夢中になるのは、仕方ないことよ。」


ああ、そうなんですか。


ということは、皆親戚っていうくくりですか。

仲良しですね。

いいことです。



「途中で話を混ぜかえさないで下さい。いいですか。

 このヤトッシュの文化と遺跡を受け継いで、

 我々の居るこの地に、ヤトーネが独自の文化を築き上げ暮らしていました。

 彼らは、海のイルドゥクと森と谷のイグドゥールと呼ばれています。

 ですが、我々の祖先がこの地にたどり着き、イルドゥクの一族と血が混ざった結果、

 イルベリー国が建国されたのです。」


ふんふん。


「イグドゥールは混血を嫌い、彼らは我々とはすべてに相反し、結果争いになりました。

 争いは200年ほど続きましたが、彼らは負け、

 遺跡近くのタシオスの谷の一部の枯谷に一族を移し、

 レグドールと呼び名を変え今も暮らしてます。」


なるほど、敗者には辛い歴史というものですね。


頷いていたら、紅茶を飲み終えたウィケナさんとデリアさんが、

どうらやお替りを欲しているようです。

ちらちらとワゴンの方を見てます。


カースにちょっとことわってから椅子を立ち、ワゴンで新しい紅茶を作る。

新しい茶葉に入れ替えて、ポコポコとお湯をポットに入れて、蒸らします。


私の手の空いたのを見計らって、トアルさんが話しを続けました。


「レグドールは、ヤトッシュを独自の観点で解読し、ヤトーネの力を使うと、

 以前に読んだワグナーの書に書いてあったんだよ。

 だから、コナーは、以前からレグドールの文献の研究しているんだ。」


へえ。

勉強家ですねえ。


でも、今の説明でなんとなくわかった。

ヤトーネっていうのは、昔の文明で生きていた人達って事だね。


「レグドールはヤトーネの力を使うと、

 どうしてワグナーさんは解ったんでしょう。」


私の首の傾げ具合45度くらい。


その疑問にちょっと苦笑しながら、トアルさんが話しを続ける。


「さあ、わからないね。

 ワグナーは戦後すぐに生まれた人物だ。 

 もしかしたら、その力の片鱗を見たのかもしれない。

 

 でも、ヤトーネの力と彼らが戦いの際に使っていた神の力は同じであると、

 ワグナーは名言している。

 その力がなんらかの不具合で失われたから、彼らは負けたというのが

 ワグナーの説だ。」


神の力ねえ。

天空の神様の雷とかかなあ。

神頼みとかするのかしら。

雨乞いみたいに、どんどこどんと。



「ロハニを解読できる可能性かあるとしたら、

 レグドールの文化しか他に無いとワグナーは断言したんだ。

 だから、多くの歴史家達が彼らの秘密を探る為に枯谷を訪れる。」


そうなのですね。

だから、コナーさんはそこに行っていると言う事ですね。


ぶすっと脹れた顔のレイモンさんが、ぼそっとつぶやく。


「あの一族は危ないってのわかっているくせに、

 学者って奴は、本当に、どうしようもねえ。

 大体、昔の文明なんかを解明したって何になるってんだ。」


危ない?

それって、どういう危ないでしょうか。


「レグドールは、現在犯罪組織と化しているというのが、一般説です。

 ですから、彼ら一族の縄張りに入ると酷い目にあうらしいと言われています。」


犯罪?


「人身売買などの闇組織です。」


思わず、ぎょっとたじろいだ。

あのねちっこい人身売買のボスのような人間が、団体一塊になってるのでしょうか。

それはちょっと嫌ですね。



「レイモン、それは、男のロマンって奴だよ。

 で、本当に話を戻すけど、メイさん、どうして、ロハニが読めるの?」


トアルさんが、にこにこと笑いながら、私をじっと見つめました。


そんなこと言われても、私にも何がなんだかさっぱりです。

大体、3000年前になんで日本語があるんですか。

私の方が聞きたいですよ。


「えーっと。さあ、なんででしょう。」


とりあえず、お茶が蒸れたみたいなので、皆の間をポットと手ぬぐいをもって、

紅茶のお替りを注いで廻ることにしました。


そうしたら、トアルさんの視線はセランの方に方向転換しました。


「メイさんは、顔立ちとか見た限りではレグドールというわけではないよね。

 それならば、セラン先生、この子の母親がレグドール混じりとかなのかな。」


おお、矛先がセランに向いた。


「いいや。 この子の母親は、俺の母国で言語学者だったんだ。

 だから、子供の頃から母親の仕事を見て覚えたんじゃないか?」


セラン、奥さんが学者さんだったの?

医者と学者の夫婦。

なんとなく、最強?


「お前達が知っているかわからんが、

 俺の国にも遺跡があってな、イリアッド遺跡だ。

 ロハニの研究をしていたと思う。」


セランが髭をさすりながら、遠い目をしていた。


「ふうん、セラン先生の国は研究が進んでいるんだね。

 それに、子供がすらすらと覚えるほどの結果を出したなんて凄い人だね。」


トアルさんの追撃は止まらない。

次々にセランに質問する。

私は、背中に汗がひやひやしている。

今、私に質問されたら、直ちに謝ってしまうかもしれない。



「いや、彼女は独自の研究をして国に睨まれて干された。

 彼女の研究は評価されてないし、それが正しいかも解らない。

 それにもう、死んでしまってなにも残ってないんだ。」


セランの顔は苦しそうに歪んでいる。


妻は死んだという言葉で、トアルさんの追及が鈍る。


ああ、レヴィ船長のお友達はやっぱりいい人ですね。


私は、お茶を無事全員に注いで廻って、自分の椅子に改めて座る。



レヴィ船長が、机の上を人差し指でコンコンっと叩いた。

皆の視線がそこに集中する。


「コナーの話にもどそう。」


レヴィ船長の言葉で、話が切り替わる。


「ああ、まあ、そうだね。

 コナーは多分遺跡に行って、遺跡の罠に掛かるか、

 レグドールに捕まったんだと思う。

 彼らは遺跡を神聖化しているからね。」


「多分、ディコンはコナーを助けようとしているから帰れないってのが、

 俺の意見だ。 それに。ウィケナの言う祭りというのも気に掛かる。」


お祭り?


レヴィ船長が、眉を軽く顰めてウィケナさんをちらっと見る。


「ウィケナ。祭りの内容は知らないのか?」


ウィケナさんは、悲しそうに目を伏せて首を振る。

その手は、大きくなっている腹部に伸び、ゆっくりとさすっていた。

お腹の様子はぽっこりしているが、まだ臨月というほどではなさそうだ。



「そうか、ディコンは知っていたと思うか?」


「いいえ。

 兄も私も子供の頃に村を追われたから。

 皆も知っているでしょう。

 私達は半端物で、一族からも疎外されていたの。」


ウィケナさんの顔は寂しそうに微笑んでいた。

苛められたりして、悲しいことだったのかな。


でも、妊婦さんが、そんな悲しい顔をしちゃいけない。

お腹をさすっている様子から、痛みがあるのかもしれない。


不安で揺れていたら、お腹の赤ちゃんに影響が出るかもしれない。



「ウィケナさんとお兄さんは、この町に来たから

 レヴィ船長やカースや皆と友達になれたんですね。

 本当に、幸運ですね。」


にっこり笑ってウィケナさんを見るとウィケナさんの目が瞬いた。


「……ええ、そう、そうなの。

 ああ、私、幸運、だったのね。 

 だって、あそこにいた時よりもずっと幸せだって思えるもの。」


ウィケナさんはほうっと息を吐き、顔から悲しい微笑みが消えた。

お腹をさする手が止まった。


「ウィケナ、私も貴方とお友達になれて、凄く幸運だったと思ってるわよ。

 勿論、兄さんもね。」


隣のデリアさんと一緒に腕を組んで抱き合った。

二人とも、ふふふっとお互いにわかっているように笑いあっていた。


友の友情フォーエバーですね。





「レヴィウス、捜索にメイさんを連れて行けないか?」


何かを考え込んでいたレイモンさんが唐突に話を切り出した。


「おい、危険なところに俺の娘を連れて行くな。」


セランの言葉が飛ぶ。


「そうです、メイは戦力には到底なりえませんよ。」


カースの援護射撃ですね。


ですが、トアルさんが反撃援護します。


「あの遺跡には沢山の仕掛けがあり、

 それが捜査を難攻させているもっとも大きな要因だ。

 もしかしたら、コナーやディコンはその仕掛けに引っかかっているのかもしれない。

 多分、その遺跡の地図とワグナーの手記である程度は進めるだろう。

 だけど、歴史学者でもない俺達は、肝心のロハニが読めない。」


そんなこと言われても、あまり当てにされると困るのですが。

古文漢文の勉強をもっと頭に残るくらいにしておくんでした。

今になってすごっく後悔雨あられです。



「メイを連れて行く必要があると、お前達は言うんだな。」


レヴィ船長がトアルさんとレイモンさんを順番に見つめる。

彼らは、真剣な顔で大きく頷いた。


「おい、レヴィウス、ちょっと待て。

 メイは、やっと危険な場所から帰ってきたばかりなんだぞ。

 今度は、訳のわからない人探し兼宝探しに、メイを引っ張り出そうっていうのか。

 俺は、今回は認めんぞ。」


セランは、ぐいっと私の肩を掴みぐりぐりと頭を強く撫でた。


「父親として承諾できるか。」


親狼が子供を守るように私を抱きしめ、皆の顔を睨みつける。


トアルさんとレイモンさんが、困ったように口をゆがめた。


レヴィ船長が、片手を挙げてその微妙な空気を破った。


「セラン、その件は後で話そう。

 トアル、レイモン、とにかく3日後だ。

 全てを決める。いいな。」


レヴィ船長の言葉に、二人は深く頷いた。

そして、紅茶のカップを持ち上げて、ずずずっと程よく冷めた紅茶を飲み始めた。



なんだか空気密度が薄い気がします。

その状態に耐えられなくなったのか、デリアさんが甲高い声で話をふった。


「ねえ、この紅茶、美味しいわね。

 こんなに上手に紅茶を入れられるし、礼儀作法も完璧。

 メイちゃん、小さいのに偉いわねえ。」


ウィケナさんが、それに味方して声を弾ませる。


「そうそう、小さいのにロハニまで読めるなんて凄いわ。

 それに優しいし、心配りもできる。

 お母様はとってもいい教育をなさったのね。

 セラン先生も鼻が高いでしょう。」


あ、デリアさん、ウィケナさん、小さいって言っちゃうんですね。


「デリア、メイは17になる。」


「「「「ええええええ??」」」」


レヴィ船長の言葉に4人が一斉に声をあげる。

そんなに意外ですか?


実は既に22過ぎてますが。

まあ、誰も信じてくれませんけどね。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ