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箱をあけよう  作者: ひろりん
第5章:遺跡編
113/240

やっとお迎えです。

夜明けです。

朝もやに朝日の光の筋が差し込み、どんどんと周りが明るくなっていきます。

本日は、雲ひとつ無い晴天となりそうな空です。

洗濯指数100%ですね。


窓から聞こえるのは、今日も今日とて、すさまじいまでの鳥の朝の挨拶です。


鳥さん達、よくもまあ、毎日毎日同じような話を続けて話せるんですね。

旦那がどうの、子供はどうのと、えさの質が落ちただの。

まったくもって関心しちゃいますよ。



まあ、すべての会話を強制的に聞かされている身としては、

話の内容は朝一番のテレビニュースと同じと思うことにしています。


本日の目玉の話題は、南の庭の啄木鳥夫婦の話です。

昨日、もずの巣に子供を産みつけたらしいって。

その上、もともとあったもずの卵を落とし、卵の数を一緒にするんですって。


でも、そもそもの卵の大きさって二周りくらいに違うんですよ。

だから生まれてみたら、勿論随分大きい雛。毛色も全然もずとは違うんです。

それなのに、なんでわからないのかしらねえって、

ピッピキピッピキとかしましく言ってます。


もずは意外に目が悪いから、自分の子供と取り替えられてもわからないんですって。

でも、他の鳥達はちょっとみたら解るそうです。


そうか、もずは近眼なのかもしれない。


でも他の鳥も解っているなら、教えてあげればいいのに、

噂話だけなんて、鳥の世界も世知辛い世の中なんですね。






ふうっと息を吐き、大きく深呼吸をして、ぱっちりと目を開けます。



おはようございます。



よっと元気よく体を起こします。


そうすると、実に、なんの問題も無く体が動きます。

どこも痛まない元気な私の体。

最近、腰も痛ければ、肩こりも酷かったんですが、

すべて完治してます。



ああ、元気って素晴らしい。


窓の外の鳥さんのおしゃべりにも笑って返せそうなくらい、

私は今絶好調です。


るんるんでベッドから降りて、壁の鏡を早速見ます。


おお、懐かしい私の顔です。


斑の斑点も、あざも傷も腫れもない、もとの私の顔です。

鼻は低いし、普通顔ですが、今はそれがワンダホーです。


うーん、神様、いい仕事してます。


あ、でも、癒しって何度も受けると効きが悪くなるって言ってたよね。

そうなると、今のバージョンアップ版から更に上に上がったら、

最後はオーケストラかなあ。


あれは人数がいるんですよね。

ちょっと聞いてみたい気もしますが、

あんまり神様に迷惑かけちゃいけないよね。


そう、ちょっと反省しよう。

それで、あんまり怪我しないように……出来るかな。

それに関しては自信はこれぽっちも無いです。




照さんや、どう思う?



あの塔の事件以来、照は昼間でも寝たり起きたりと忙しいです。


あの時、怒りすぎたからねえ。

やっぱり、無理しちゃったのかなあ。

照は子供に見えて実は、おばあさん体質なのかもねえ。



(誰がおばあさんなのよ)


あ、照、おはよう。起きれる?


(今日は久しぶりに気分がいいの)


だってあれ、力使いすぎだったからねえ。

よくわからないけど、どどーんって水柱を出すとか大変だったかも。

照、力使いすぎたら老けるかもしれないよ。

よぼよぼでも可愛いかもだけど、無理しないでね。



(老けるって、セイレーンは年は取らないわよ

 能力に応じて、一番力がみなぎっている時期の姿を維持するのよ)



え、不老不死?


(不老長寿ね。

 まあ人間の寿命よりは随分長いけどね)



本当に、今日は久しぶりに照は饒舌だ。

ここのところの照の返事は、そうねとか、ふーんとかしかなかった。


今日は、実際に体調がいいのだろう。

そうしたら、なんだか顔が見たくなったし、

私のこの治った顔を見せたくなった。


ねえ、もし元気なら、ちょっとだけ顔見れる?



(……いいわよ)



すうっと腕輪から光がのびて腕輪から光がキラキラと煌き、

少しずつ光が集まっていきます。


時々輪の中から声がするものの、実体化は本当に久しぶりだ。


今度こそ、髪編み遊びをしたいなあ。


いつも、恥ずかしがってさせてくれないんだよね。

編みこみとか、リボンを巻き込むとか、いろいろしたいのに。


うん?

なんだか、キラキラの量が少ないですね?


きらきらの光を見ていたら、あっという間にキラキラタイムが終わってしまいました。

その上、本来なら目の前に居るはずの照の姿がどこにもありません。


照、いったいどこ?


(ここよ。)


後ろの方から声がしたので、ばっと振り返ってみたけれど、

そこにはいません。

今のは、空耳ですか?


(……鏡を見て)


鏡ですか?何故に?

でもまあ、もとの顔に戻った今、鏡などなんのそのですよ。


鏡の前に立ちました。

もちろん、さっき見た同じ私ですね。

違うのは、私の左の肩の上にちょんと、リスのような、鼠のような、

手のひらサイズの照が。 

左肩にちょこんと立ってました。


は?


「照さん、縮んだ?」


(言わないで!縮んでないわ!!

 うっ、やっと大きくなったのに、元通りどころか、こんなに小さく……)


照の声が一段とか細く小さくなっていきます。

下を向いて小さく俯いている照は体をぷるぷると震わせています。

今の照のサイズは約10cm程の背丈です。

容姿は先日あった14,5歳のままだけど、見事に縮んでます。


「あ、ごめん、縮んでないよね。

 見事に縮小されてます、かな」


(同じよ!)


私のピンクのナイトキャップに顔を押し付けるようにして、

体をプルプルと震わせていた。



「照」


(なによ)


「照さんや」


(だから、何)


「可愛い。すっごく最高に可愛い」


私の瞳が鏡で見ても物凄く輝いているのが解るでしょうか?

うふふふふ。

このサイズの照ってば、怒っても脹れても可愛い癒しですね。


(は?)


「照ってば、小さくなれたんだね。

 これってば手乗りサイズ?

 いいよね、肩に照乗り」


(照乗りってなによ。

 私をリスかなにかの小動物と同じにしないでよ)


「肩が不満なら、頭の上とかでもいいよ。

 でも、話するんだったら、膝の上とかがいいかな」



以前は同じくらいの身長だったのにと、照はぶちぶちと言ってます。

そのまま、肩から降りて目の前のテーブルに降り立ちました。

私も、照と目線を合わせるため、ベッドに座ります。


それにしても一週間でこんなに小さくなるなんて、照に何があったのでしょうか?

それとも、あの時、力を使いすぎたせい。


(そうね、多分、力を使った反動がきているんだと思うの)


反動かあ。

交通事故の後遺症みたいなものかな。


「リスサイズは、照にとって、体がおかしいとか、

 不調のサインなの?」

 

うん。ここは、重要です。

もし、照が大変なら、力をなるべく使わないようにしないといけないしね。


(リスサイズって言わないで。

 いいえ、不調とか、体調が悪いとかではないわ。

 それに、力を使いすぎたから存在が減るとかではないのよ。

 今は、わざとこの…形になっているの)


わざとですか?

何故に?


「そっか、よかった。

 体が苦しいとか、痛いとか、気持ち悪いとかではないんだよね」


(ええ、そうよ。

 それよりも、今、力がそう、なんだか以前よりも増えているのよ)

 

へ?


「力が増えているのに、ミニ変換なの?」


(……変換っていうのも嫌。

 力が急激に増えているから、全く安定してないのよ。

 なれないから、力のコントロールが出来ないの。

 だから、力の放出を出来るだけ抑えているの)


変換もだめかあ、なかなか厳しいね。


「じゃあ、力が安定するまではそのまま、うーん、ミニミニ変身ということ?」


(……うう。 もうミニでいいわ。

 そうね、安定するまでは、この形態を続けるわ。

 力と波動が無事に安定したら、元のサイズになっても大丈夫だし。

 それに、力が増えた分これからもっと大きな力を使えるようになるわ)


ミニ照はもしかして、エコサイズなのかな?


「そのミニ照だと、力はいらないの?」


(……ええ、ほんの少しだから、問題ないわ。)


「そっかあ、でもよかった。

 照、久しぶり。会えて嬉しい」


(ええ、私も顔が見れて嬉しいわ)


さっきまで苦々しげに、自分の体を見渡していた照の顔は久しぶりの笑顔。

ああ、それにしても小さい照、可愛いわあ。


「小さくても照は照だよ。

 頭撫でていい?」


(嫌よ、次に会う時は元に戻っているわ、絶対よ。

 力と波動が安定したら、また成長するはずなのよ。

 まあ、今はまだこの通り、力の制御も不安定だけど。

 いずれ、メイを完璧に守って見せるから、任せておいて。

 あんなことは、二度と嫌。

 神様に頼るんじゃなくて、私に頼りなさいって言うようになってみせるわ)


キラキラと金の目を輝かせ、長い小さな金の睫毛を瞬かせ、

ぐっと細い腕の力拳で力説するその姿が、

思わず見ほれてしまいそうに素敵可愛いです。


あの事件の時、私を守れなかったって、随分気に病んでいたからねえ。

照のせいじゃあないのに。

何度も気にしないでって言ったのに、照はずっと気にしてたんだね。



「照、カッコいい。素敵」


私が囃し立てるように言うと、

照は、うふふっと笑いながら肩から金の長い髪をさらりと払います。


その姿もミニチュアサイズなので、なんだか本当に微笑ましいわ。

でも、今のサイズなら、照の髪遊びは指がつりそうだ。

また、大きくなってからだなあ。



(メイ、今日家に帰るのでしょう。顔を洗ってきたら?

 したくはできているの?)


むっなんだか、照。

私を子供扱いしてませんか?


「まだだよ」


(早くしたくしたら。

 最後の半日は忙しいし、時間が無いって言ってたでしょ。

 邪魔になるし、私は眠いからもう腕輪の中で眠るわ)


え、もう?


「照、次はいつ起きる?」


(さあ、解らない。

 でも眠らないと力と波動が安定しないわ。

 このままだとなにかあったら暴走してしまう。

 だから、眠りが必要なの)


「そっか。 うん、わかった。

 お休み、照。 起きてくるのを楽しみに待ってるね」


(ええ。メイも顔が元に戻ってよかったわね。

 やっぱり、怪我してない顔がほっとするわ。

 起きたら、あの顔再来なんて冗談はやめてね)


「いや、冗談にならないから。

 言わないで」


(ふふ、またね

 時折、起きて様子を伺うわ)


「うん」


私は起きたばかりなのですが、これから照は寝てしまいます。



照の姿が光の中に溶け込むように消えました。

私の腕の腕輪の中にちゃんと帰ったようです。

なんとなく、存在感があるのでわかるんですよ。


でも、ちょっとばかり残念です。

もっとお話したかった。


でも、寝たい人を無理に起こすのは、非情にも程があります。

自分がやって欲しくない行動ベスト10に入るかもしれない。


ああ、それにしても小さく可愛い照は最高でした。

大きくなっても小さくなっても、

照はいつでも私の目の保養保湿にうっとり万歳です。


あの小さい手乗りサイズの照をいつか写真に撮りたいなあ。

こんなときシャメの必要性を心から感じますね。


目の前の壁にかかった鏡に私の変な顔が映ってます。

はっと気がつきました。


こんなうっとり妄想時間を持っている時間は無いんです。


本日、午後一番でセランが迎えに来てくれることになっているんです。

急いで支度しなくっちゃいけない。


それに、皆にそれぞれお別れの挨拶しときたいし、お餞別も渡したい。


ちらっと机の上の籠に視線を向けます。


籠の中には、一週間かけて作った私の力作が入ってます。

昨日、一昨日とで大分渡してきたので、中身はほぼ半分になってます。

今日は残りを渡す予定なんです。



急がなくちゃ。

まずは、お風呂です。





********




本日はもう仕事をしなくてよいので、

朝からあちこちを渡り歩いてお餞別を渡してます。


私からのお餞別。

それは、ハンカチです。

一応、皆さんのイニシャルを刺繍で一文字入れてます。


船で覚えたことがここで役に立ってますね。

まあ、私に出来ることでお餞別ってこんなことしかないんですが。


裁判で私の証言が終わってすぐに、ティーダさんにお願いして、

あまっている薄手の余り布をいただきました。


それに、いろんな色の刺繍糸も。


それを毎日、仕事が終わった後に、ちくちくと縫っていたんです。

だから、毎日ちょっと寝不足気味でした。

お陰で、昨日なんか、指と爪の間にぐさって針で挿しちゃった。


あれは、壮絶に痛かった。

一気に眠気が覚めてしまいました。


でも、昨日の夜の癒し音楽のおかげで、指も痛くなくなったし、

毎日の寝不足で出来た隈も、無くなってます。


お肌も体も、生まれ変わったみたいにピッカピカです。



ハンカチは、色も柄も皆違うんだけど、

これは誰にとか、こっちはあの人に似合うとか考えるのはとっても楽しかった。


だから、すこしでも気に入って、

使ってもらえるとすっごく嬉しいなあって思います。



さっき、朝食の際にトムさんとローラさんにお餞別を渡しました。

二人には、おそろいの柄の刺繍糸の色違いです。

ちなみに柄は、牛柄です。


黒白のツートンカラーでトムさんは青で刺繍を、

ローラさんのは、ピンクの糸で刺繍しました。



二人ともにこやかに受け取ってくれました。


ネイシスさんやマーサさん、セザンさんにも渡しました。


ポルクお爺ちゃんやステファンさんたちには昨日、

ティーダさんにも受け取ってもらいました。


余りいい出来ではないかもしれませんが、

一生懸命刺繍したので、気に入って使ってくれるといいなあと思います。


これから、王様家族に渡しに行きます。


本日は、シオン坊ちゃん主催のお茶会をお昼前にすることになってるんです。

私に気を使ってくれたんですね。

王様と王妃様は、出来れば参加したいと言ってくれたそうです。


本当に、私は一月しか居なかった侍女見習いなのに、

王様のご家族は、義理堅い人たちばかりです。



と、言う事でオヤツの部屋に来ています。



目の前にシオン坊ちゃんとライディスさん、紫と王妃様が来てます。

マーサさんが、紅茶を入れてくれたので、

皆の前に紅茶カップを一客ずつ置きながら、ハンカチを一枚、一枚渡していきます。


まず、シオン坊ちゃんに、太陽と鶏が描いてあるハンカチを。

ライディスさんには、ケーキやクッキーの柄のハンカチを。

王妃様には、ひまわりの様な黄色の大輪の花の柄のハンカチを。

紫には、鷹と空と雲の柄のハンカチをそれぞれ渡しました。


「メイ、僕はなんで、鶏なの?」

「私は、本物を食べれる方がいいのですが」

「黄色の花ね。素敵だわ」

「うん。好きな柄だよ。有難うメイ」


と、まあそれぞれに満足いくコメントをいただきました。

王様には、王妃様のと色違いの紫のお花の柄です。

王妃様に預けました。


どこかで使ってくれるといいなあって思います。


セザンさんのクッキーをお茶請けにマーサさんの紅茶を飲みます。

この黄金の組み合わせは、忘れられない王城の一コマです。






********






そうして、午後になり、馬車が一台つきました。

私は王様ご家族と一緒に、その部屋でセランのお迎えを待ってました。


この部屋は、一番最初に王城に来た時に通された部屋です。

まだ一月しかたってないのに酷く懐かしいです。


そうして、扉が開き、セザンさんが、セランとカースを伴って、

入ってきました。


「メイ、元気だったか?」

「ああ、怪我も大分よくなったのですね。」


私は満面の笑みで二人を迎え、駆け寄りました。


「はい。もう、元気いっぱいです。

 これなら、帰っても皆の迷惑にならないですよ。」


セランは、相変わらずの癖で、私の髪をくしゃくしゃにして嬉しそうに笑ってます。


「そうか、元気になったなら、それでいい。」


カースは、セランの手をはたいて、私の髪を元に戻すべく、

ゆっくりと手で梳いて撫でてくれました。


「あんまり元気すぎるのも困りますね。

 メイは、病み上がりなのですから、出来れば大人しくしてください。」


ああ、はい。

やっぱりこれはカースですね。

でも、手つきは壊れ物を触るかの様に優しいのです。


思わず顔がにやけてしまいます。



「さて、両人とも席についてくれないか。

 私から今後のことについて話したいのだが。」


王様の低い声が、私のにやけ時間をぴたっと止めました。


二人は真剣な顔で頷き、王様に示されたソファに座りました。

私は、二人の真ん中にすぽっと座ります。


「まず、セラン・ファーガスランドル、今回は貴方の娘には多大なる世話になった。

 私も、私の家族も、わが国もだ。

 それに対して、心から礼と感謝を、そして、我が失態を謝罪したい」


王様が、椅子に座ったまま深く頭を下げた。

それに、右手を左の胸にあてる最上級の敬礼の姿勢をしたままでだ。

それに対して、セランやカースをはじめ、王様の家族もびっくりしてた。


セランは顔を硬くしたままで、なにやら困ってる。

カースは、王様に頭を上げてもらうべく言葉を放つ。


「王よ。頭を上げてください。

 私達は国民の義務を果たしただけです」


私は、うんうんと一緒になって頷いていた。


「それで、彼女には私と国から、褒美を用意した。

 受け取ってもらえると嬉しいのだが」


「メイに褒美でしょうか?」


一体なんでしょう。

トムさんのオヤツセットとかだったら最高に嬉しいのですが。


「まず、国からだが、彼女には慰労年金を用意した。

 毎日にするとわずかだが、何かあったときに困ることはない金額だ。

 それを、彼女が成人した後に受け取れるようにした」


「年金ですか?」


「ああ、本来なら国の仕事についているものが退職後に受け取るものだが、

 今回は褒賞として、こちらを用意した」


ふうーん。

成人したら受け取れるお小遣いってことですね。

お年玉大人版ですね。


「つまり、国への功労者としての身分を用意したと言う事ですね」


「ああ、そうだ。

 そして、私からはランスーリンの名前を保証人に刻もう」


は?


「メイの保証人には、私どもが既に記載されていますが」


「ああ、知っておる。

 だが、セラン医師をはじめ、レヴィウス船長もカース副船長も、

 一年の半分以上船に乗るのだろう。

 その間の保証人は、医師会館のビシンだけでは、どうも心もとない」


「しかし、王が保証人となると……」


「なに、彼女はどうも世間一般の常識がないというか、

 騙されやすい気質をしているようなのでな。

 保険は多いほうがよかろう」


「なるほど、それならば納得です」


セラン、そんなに簡単に納得しないでください。

あ、シオン坊ちゃんも紫も王妃様まで、なんで頷いているんですか。


「その意味は、我々が海に出ている間、この王城でメイを預かると言う事ですか」


カースは眉を顰めながら、真っ直ぐに王様を見ています。


え?そうなんですか?


「マーサが教えた礼儀作法も大分板についてきた。

 これならば、いつでも侍女として王城で働けると言っている。

 折角の技術を腐らせるのは惜しいとは思っている」


あら、褒められている?


「メイを見張る為に、仕事先を押さえたということですか」


見張る?なんで?


「我々は彼女を疑ってはいない。

 だが、彼女も王妃も命を狙われた事件は、まだ記憶に新しい。

 彼らの狙いは、彼女かもしれない疑いはまだある。

 そして、だれも知らない毒の解毒効果を知っていたと言う事で、

 ポルクが彼女に興味深深なのだ。

 何をどこまで知っているのかと、面白そうに画策していた。

 ポルクに気に入られた以上、彼女は逃げられまいよ。

 それに、王城はいつでも人手不足だ。

 信頼できる使える人間は貴重なのだ」


えーと。

ポルクお爺ちゃんに気に入られたから、逃げられないんですか。

そ、そうですか。

私は、王城に逆戻り予定なのですか。


ハンカチ、必要なかったんでしょうか。ちょっとがっくり。


「それは、強制ということですか」


「今、貴方達も言ったであろう、国民の義務だと。

 その延長と思ってくれてかまわない」


二人の顔が、苦いものを食べたかの様にゆがみます。

これ謝罪でも感謝でもない気がしますが。


「あ、あの、レヴィ船長や皆がこの街に帰ってきているときは、

 私は、家に帰ってもいいのでしょうか?」


「ああ、君がそのつもりなら、かまわない。

 王妃も、シオンも紫も君を気に入ってるし、

 なんなら、二人のうちどちらかと結婚して、

 私の家族の一員になってくれてもかまわないがね」


はい?


「それは、お断りいたします」


セランが一刀両断に断った。


「せっかく会えた娘をこんなに早々に手放す気はありません」


セランが私の肩に手を回して、ぐっと肩を引き寄せます。


「それに、本人の意思を無視してはならないのでは」


カースが厳しい目で王様を睨んでます。

カースも私の腰にしっかり手を回してカースのぎゅっと引き寄せました。


私は、今、二人に挟まれて最中あんこ状態ですね。

痛くはありませんが、二人の分厚い胸板に挟まれてなかなか苦しいです。


「なに、将来の話だ。 まだまだ先の話だ。

 シオンも紫もまだまだ成人には時間が掛かる。

 だが、ポルクはもし二人の嫁が駄目なら、ポルクの孫の嫁にと画策する予定らしいぞ」


誰ですか?ポルク爺さんの孫って。

知りませんよ。


「軍部から王城警護に来ているヨークだ。

 あれはいい男だぞ」


はい?

ポルクお爺ちゃんと、あの人のいいヨークさんがご親戚?

ありえない組み合わせですね。

 

というか、私の意志はまるっと無視ですか?


「ですから、本人の意思を尊重してくださいと言っているでしょう」


カースは、私をぎゅっと抱き寄せたままで、にっこりと笑いました。

目はちっとも笑ってませんけどね。



「ああそれから、マーサもネイシスもまだまだ彼女には教え足らないと

 口々に申しておったのでな。 これからの教育もかねて、

 宿題を出したいと言っておった」


今、聞き捨てならないことを聞いた気がします。


「あの、それは、えーっと、どのようなものなのでしょうか」


「おお、マーサ。こちらに」


王様の横に進み出てきたマーサさんは、にっこり笑って分厚い本を1冊、

私の前の机に置きました。


「これは、世間一般にいう、淑女の常識学事典というものです。

 メイさんは、言葉使いから始まって態度など、

 ところどころありえないことをする傾向があります。

 これからは、王の保証および、国の功労者という身分になるのですから、

 他人に後ろ指を指される行動は謹んで貰わねばなりません。

 これは、この国の女性ならば成人するまでに読破する最低限の教養です。

 こちらを次までに、最低でも三読してきてくださいね」


3独? 3度九? 三読? 目の前がくらくらしてきました。

あの分厚い本で殴られたような気がします。

あれ、大学受験の参考書よりも太いですよ。


「正直、一月ではまだまだ、全然足りませんの。

 メイさんが、しっかり女性らしさと言うものを身に着けていくことに、

 私は、これからの人生を掛けたいと思っております。

 私の最後の弟子ですわね。

 しっかりと教えますので、心してくださいまし」


いままでのマーサさんの教育が走馬灯のように蘇ります。

あの苦しかった日々が、もっと続くのですか?


「マーサの弟子になりたいものは、それこそ大勢いるのだ。

 いままでに何度も彼女に打診したが、すべて断られておる。

 その中で選ばれたメイさんは、確実に将来有望だと私どもは踏んでいる」


マーサさんの言葉に、目の焦点が合わなくなり、

王様の言葉で、私はとうとう机の上に頭を打ちつけた。

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