夢は夢ではありませんでした。
明日は引越しです。
この船に、拾われた時に着てた服と、かばん。
レナードさんにもらったエプロンと手ぬぐい。
大事な私物はこれくらい。
引越し荷物はあっという間に準備できました。
それらを、空き箱に入れて、
毛布をかぶって早々に寝ることにした。
今日は久しぶりに、よく働いて、疲れました。
その上、レヴィ船長にも褒められたし。
気持ちよく、寝れそうです。
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芽衣子は今、夢の中です。
自覚はあります。
だって、周りに何も無い。
真っ白しろです。
あるのは、前に見える1本の道だけ。
これって私の前に道はある。とかの行だろうか。
私って悩むことあんまり無いから、特に道徳的なこと
とか言われても、わからないので、そもそも考えないし。
そもそも、夢って今まで見たこととか、覚えていたためしが無い。
それとも、悩んでないように見えて、実は悩んでいるのだろうか。
自分がわからなくなってきた。
とりあえず、前の道をてくてくとひたすら歩く。
歩いて歩いて。
いつまで歩くの?
そう、思ったときに、声がした。
「やっと、見つけたよ。芽衣子さん。」
上から声がしたような気がして、上を見た。
見たとたんに開いた口がさらに大きく開く。
お店が浮いている。
本屋さんが、浮いていました。
ぷかぷかというより、どどーんといった感じ。
もちろん看板は「龍宮堂古書店」。
「芽衣子さん、お話したいので、上ってきませんか?」
声がしたとたんに、私の前の道が本屋に向かって伸びていった。
うぉ、空中道路。
落ちないでしょうね。
一応、道の端を足で踏みしめてみる。
硬い、大丈夫そう。
本屋に続く空中に伸びた道路を、まっすぐにやや足早に歩いていく。
「落ちませんように、壊れませんように。」
呪文のように、つぶやきながら、せかせかと下を見ないで歩く。
本屋の前についた。
(ここを押してください。)
ドアの真ん中に自動ドアのスイッチがあった。
もちろん、押した。
懐かしい。
自動ドアだ。
左右に電動のドアが開き、中に入る。
中は入り口から、20畳くらいの部屋が一部屋。
でも、吹き抜け?になっているみたい。
高く、伸びた本棚が、壁一面を囲っていた。
上を見たけど、どこまで続いているのかわからない。
一体誰が、あんな上の方まで本を積んでいるだろう。
勝手に開いた口をそのままに、上を見ていると、
「ようこそ、とりあえず、こっちにこない?」
さきほど、声を聞いたとき、
あと本屋の看板見たときに
予測できた。
あの笑い狸男がいました。
狸男は、部屋の真ん中部分に備え付けられた、
革張りの応接セットに座っていました。
優雅に、コーヒーとか飲んでるし。
「芽衣子さんも、コーヒーでいいよね。」
夢の中でも、コーヒーの味ってわかるものなの?
「ああ、うん。とりあえず、説明面倒だから、先にいうけど。
これ、君の意識化に関与して、話してるから。
感覚とかは君の感覚ベースだから、美味しいと思うと美味しく感じるはずだよ。」
へぇ、便利。うん。美味しい。
とりあえず、コーヒー。
久しぶりですごく美味しい。
「時間があまりないので、話はじめるけど、いいよね。
芽衣子さん。君、考え無しにも程がないよ。
僕が箱渡したときに、怪しいって思ってたくせに。
なんで、いきなり開けちゃうの?」
いきなり、説教。
これ、私の夢なのに。
「説教ではなくて、苦言だよ。
確かに、持ってたら幸せになれるって言ったけど、
開けなければって、僕、言ったよね。
それに、怪しいと思ったら、本屋に来るものでしょう。
普通。」
言ったような、言われたようなって。
どこかの政治家のようです。
「現実逃避するんじゃない。
本屋に来てくれたら、正しい使い方、教えてあげたのに。」
使い方? 箱は開ける以外に何があると言うのだ。
「あの箱は、幸せを引き寄せるように出来てるんだよ。
幸せの運命の巡りをたぐりよせるお守り強力版。」
うそです。
「嘘じゃないよ。開けなければって言ったでしょ。
箱の裏にも書いてあったんだよ。
ほら。」
狸男の手に、あの例の箱の色違いがありました。
裏にははっきり、くっきり。
大きな黒い字で
(幸せになりたい方は、決して開けないでください。)
裏に書くな!
「今まで、いろんな人に渡してきたけど、
注意書き見ないで、箱あけたの、君だけだから。」
うううう。泣かす気ですか?
「それはそうと、芽衣子さん。君、自分が今いる世界は
異世界だって、気がついてる?」
は? 異世界? 異文化ではなく?
「そう、君がいた日本もなければ、世界もまったく違う。」
で、でも、宇宙人はいなかったけど。
「未知との遭遇ではないから。
君が跳ばされた世界は、日本からみたらまったくの異世界だよ。」
異世界。
「あ、ちなみに、今の芽衣子さんでは、元の世界には帰れないから。」
この夢、最悪。
早く、目冷めないかな。
「無理だね。それに、話は最後まで聞くものだよ。
今の芽衣子さんでは、って言ってるでしょ。」
では、何ヶ月かしたら帰れるってこと?
「何ヶ月は無理だとおもうけど、あることを達成したら
帰れるように手続きしてあげる。
ちゃんと、説明しなかった、僕の不手際もあるしね。」
あること?
「君が開けた赤い箱の中身を取り戻すこと。
君がこの世界に来たときに、この世界に飛び散ってしまったから、
それを集めて、赤い箱に戻したら、帰れるよ。」
中身?白い煙でしたけど?
「煙の他に、あったんだよ。
宝玉が5つ。
君が、開けたとき、5つの宝玉が反応を起こして、
時空がゆがんで、煙を出したんだ。
もともと、宝玉はこちらの世界の神々のものだからね。
こちらに帰ろうとして、時空をゆがめたんだよ。」
神さまの宝玉なの?何でそれが箱に入ってるの?
「あれは、君の世界の神様に頼んで、こちらの神様が
作った、幸福を送るための装置、だったんだよ。」
なに、それ?
「こちらの神様はまだ、年若で、沢山のエネルギーをつくる
為の力が足りないんだ。
でも、エネルギーが足りないと、ここの世界の機能が停止してしまう。
だから、力を十分に持っていた、君のとこの神様達に力を
分けてもらうことになったんだ。
それで、出来たのが、あの箱。
君の世界で誰かが、幸福を感じると、箱の中の宝玉を通じて、
良い波動のエネルギーをこちらの世界がもらうことができるんだ。
君の世界の良い波動のエネルギーは、この世界の潤滑油の役目を
しているんだ。」
神様、活動してたんですね。
「人を介してもらうことになったのは、その力が
一番力強く、こちらとあちらの世界に介入しても混乱を起こさない
波動のエネルギーだからだよ。」
ふぅん。そうなんだ。
「あの宝玉を作るのに、こちらの神々が500年近くかかったんだ。
代わりのものは、出来ないよ。
少なくても、君の寿命のうちではね。」
ちっちょっと、待って。
「だから、君が帰りたければ、5つの宝玉を見つけるしかないんだよ。」
無茶です。宝玉って見たこともないし、
大体、どうやって見つければいいのよ。
「うん、だから、これ、渡しとくね。」
芽衣子の手の上に真っ白な玉。
コーラ飴くらいの大きさの真っ白な玉。
「宝玉はもともと、幸せの気持ちを呼び込むために作られた
形の無いものなんだ。 だから、この世界の誰かの心の中に
入っているはずだよ。 その人を見つけて、願いをかなえてあげれば、
宝玉はエネルギーを満たして、この玉に吸収される。
この玉は、この世界での、あの赤い箱と同じ役目をするんだよ。」
願いをかなえる?私が?
神様の仕事でしょ。
なんで、私ができるの?
「こちらの神様は、力が人々の生活圏まで及ばないんだ。
そのうえ、この白い玉は君の世界の神様からの借り物なんだ。
だから、あちらの世界とつながりのある君しか、つかえない。」
借り物?
「幸福玉って言うらしい。
5つの幸福は5つの色で表され、
この玉に吸収されるとき、
その色を残すんだ。
こう、縦に5色の色がつくはずだよ。」
アシカショーで見たボールのようですね。
「では、がんばってね。」
待って、肝心な事忘れてないか?
どうやって宝玉持っている人探すの?
どうやって願いをかなえるの?
教えていって!
「そうだった。
君には、こちらの神様の精一杯の加護と、
宝玉に出会うための運をつけるよ。」
と、いうのは?
「加護は龍宮から海の加護、天空から風と雨の加護、
地愛神から地生物の加護、光闇神から癒しの加護。
この世界の四神の巳柱からの加護。」
ほう、かっこいいけど、どういったもの?
「海で死なない、空で死なない、地で死なない、
ケガをしても他の人より治りがはやい。」
なんか、しょぼい?
「失礼だね。でも、こちらの神は干渉力が殆ど使えないんだから
しょうがないだろ。 まあ、加護がつくからには、
いろいろ便利なこともあるかもしれないし、ないかも知れない。」
どっち?
「試してみれば。
僕も知らないし。
あと、この玉を肌身離さないように。
首から掛けておくといいよ。」
あと、誰が宝玉持ってるってわかるの?
「宝玉もっている人間のそばに行くと、その白い玉が
反応して、熱くなるはずだ。 多分。」
多分って、なんで?
「使ったこと無いんだから、わからないんだよ。
あ、芽衣子さんは基本、年とらないから。」
玉手箱は不老長寿の箱!
「宝玉を集めるのに、いつまでかかるかわからないからね。
芽衣子さんに、やさしい神様からのプレゼントだよ。
それに、選んじゃったら、元に戻るけど、それまでは
お客様だしね。」
いつまで、掛かるかわからない。
ぐさってくるよ。
心をえぐっているような気がします。
なんか、いやな言葉を最後に聞いた気がするけど、
心の傷に気が散って、正直どっちらけです。
「じゃあ、頑張ってね。
時々、見てるから。
困ってそうなら、時々、こうやって夢に干渉するから。
あとは、自力で解決してね。」
えっまるなげ?
「あと、僕は狸男ではないからね。
龍宮の宮の管理者の一人で、春海といいます。
春ちゃんとかでもいいよ。
芽衣子さん。」
そういって、狸男、もとい、春海の姿がだんだん、
薄れていった。
ああ、目が覚めるんだ。
そう、感じた。




