塔の細工。
100話目です。
なんとなく、達成感に涙してます。
本当は、切りのいいところで100話にしたかったのですが……。
迷いもなく真っ直ぐに走っていくステファンの姿を、
ハインツは呆然と見送っていた。
「ハインツよ、お前さんはそれでいいのかの。」
ポルク爺さんの言葉が、真っ白になったままの思考をぐらぐらと揺らす。
それでも、反射的に体がポルクに向き直る。
下を向くと、子供の頃からよく見かけた厳しい目の輝きに見合った。
ポルク爺さんは、自分やゼノ達の幼き頃からの師であった。
学ぶことの楽しさ、厳しさ、そして、人生の先達としての助言を
あらゆることで教えられた。
自身の父や母よりも信頼し、且つ頼っている存在であった。
絶大なる信頼を寄せるわが師の言葉が、視線が、
何かを、雪のように心に降り積もらせ、圧し掛かる重さを増していく。
「知っておったんじゃろう、全てを。
今のまま、全てを隠したまま、彼女を手放すのか。」
手放す。彼女を。
その言葉を、その未来を、思うだけで胸がきりきりと痛む。
知らす知らずに自身の手を握りこむ。
自由に息さえも出来ない錯覚を覚える。
「彼女が、望まぬことはしないと誓ったのです。
私は、彼女と約束したのです。」
だから、出来ないと否定の意味を兼ねた言葉を返す。
胸の中の空気を、一緒に吐き出した気がしたが、
一向に軽くならない。
「ふむ。」
ポルク爺さんの声が、どこかで聞こえたかと思うと、
バッチーン。
自分の背中付近から音がして、とたんに、背中が強烈に熱くなった。
ポルク爺さんに叩かれたのだ。
この強烈な音から察するに、紅葉型の手形がくっきりとついているに違いない。
何年ぶりだろうか。
子供の頃にはよく叩かれた。
頬や耳を引っ張られ、背中や尻を叩かれ、頭を殴られた。
悪いこと、不十分なこと、不義理なことをしたら、
必ず、痛みとともにくる我が師の愛のムチだ。
「しっかりせい。 ハインツ。
お前は、もう子供ではないんじゃぞ。
お前は、守るべき家族を持つ大人ではないのか。
その家族を守らずして、どうして国を守れようか。」
そうだ。
その通りだ。今の自分は分別ある大人で、あの頃とは違う。
下を向いていた顔を、ぐっと前に向ける。
だけど、今、自分が塔に行ってどうなるというのだ。
ここで待っていても、同じことではないのか。
そんな考えが、ハインツの頭によぎる。
それが、行動の枷になる。
正面を向いていた顔が、また下に降りる。
握り締めていた手のひらから、ふっと力が抜ける。
そんなハインツの行動に、苛立ちをあらわにしたポルクが、
一段と大きな声で、ハインツに怒鳴りあげた。
「お前は、このままでいいのか。
このまま、全てを隠したまま、
永遠の別れとなっても、後悔はしないというのか。」
永遠の別れ。
その言葉に体が拒絶反応を起こす。
全身の毛穴が開く。
歯と歯が噛み合わず、カチカチと音を立てる。
そして、頭が考えるより先に、体が動いた。
真っ直ぐに、部屋を飛び出していた。
そう、子供の頃、なにも考えないで走っていた時のように。
やっと動き出した不肖の弟子の後姿に、大きくポルクは息をついた。
「ふう。 世話の焼ける弟子ばかりじゃの。
しかし、塔か。 また、厄介なところに入り込んだものじゃの。」
影のように後ろで控えていたセザンが、
ポルクの言葉に軽く苦笑した。
「苦言を、ありがとうございました。
先生には、私どもはいつも感謝しております。」
「あれは、わが親友の忘れ形見でもあるからの。
それにしても、不器用なところは、そっくりじゃ。
すこしは、妻君の方に似ればよかったのにのう。
そうは、思わんか、セザン。」
セザンは、いつもの笑みを浮かべて、言葉を濁した。
「どれ、ワシも行くとするか。
全ての理に歴史あり、今が変革の時。とゆうたのは、創世記じゃったか。
これも、理の一つと言う事じゃのう。
その変化を見逃しては損というものじゃからの。」
ポルクは、髭を整えるように優しくさすり、
ゆっくりと、王の部屋を出て行った。
残されたセザンは、その微笑を維持したまま、半分以上残った紅茶を片付け、
部屋の中に散乱し、雪崩を起こしていた書類の山を無言で片付け始めた。
そうして、誰の気配も感じられなくなってから、ポツリと呟いた。
「先代様と親友であられた先生にも、捻くれ具合が、
よく似ていらっしゃると私は思うのですがね。」
そうして、セザンは、楽しそうに微笑んだ。
********
ステファンが息を切らしながら必死で走って、北の塔に着いたとき、
そこで目に一番に入ったのは、表面がぼろぼろになって、
上半分が原型をとどめていない塔の入り口の扉。
そして、その前で嬉しそうに高笑いしている自分の同僚達。
一歩下がったところで、上を見上げているゼノ総長とロイド軍団長。
ステファンはその状況に、怒鳴りたいような、泣きたいような、
混ぜ混ぜの感情が、胸の一歩手前で止まっている気がした。
息を切らせたまま、総長の側に走り寄り、
ポルクから聞いたことを伝えるために、口を開いた。
「総長、扉を壊しては駄目です。
塔自体が、壊れるとポルクさんが…。」
「ああ、わかってる。
塔に、仕掛けが何かあるってのは。
何年、この城に出入りしてると思ってる。」
吐く息も惜しく、慌てて述べたステファンの言葉に、
その返された言葉は意外なもの。
ステファンと側にいたロイドは、大きく目を開いた。
「総長、どういうことですか?
塔が壊れるとは?」
軍団長であり、副官のロイドがゼノに詰め寄った。
「まあ、壊れるとまでは思わなかったけど、
この塔に何か仕掛けがあるってのは、昔から気がついてた。
鍵に、秘密があるだろうともな。
だから、こいつに確認に行かせたんだ。
おい、ステフ、鍵はあったか?」
「いえ、全ての鍵は塔の中です。」
ふうっと、大きなため息をゼノ総長は吐いた。
「だろうな。
どちらにしても、中の連中はここから出てくるしかない。
だから、中の連中に脅しの意味も兼ねて、扉を壊したんだ。
おかしなまねをしないようにな。
それに、壊したのは扉の表面と上半分だけだ。
扉の下半分は手付かずだ。 鍵の部分もな。
嫌な予感がしたんだよ、なんとなく。
まあ、とにかく、今から、扉の鍵の下の細工部分に、泥と石灰を流し込む。
それで、いくつかの仕掛けが止まるはずだ。……多分。」
「総長、そこまで考えておられたのですね。
なんとなくが、いつもながらさすがでございますな。
鍵の部分と下半分は壊すなといわれた時は、
こんな時に何を考えているのかと、頭を一瞬疑いましたよ。」
副官のロイドの言葉に、ゼノは微妙な笑い顔で頬を引きつらせた。
しかし、自分への反応も慣れたものなので、さほど気にせず、
すぐにゼノは、どこか手持ち無沙汰にしていた階段後方にいた部下達を振り返った。
「おい、お前ら、石灰と泥を用意しろ。
今すぐだ。 」
「ええ? 泥はともかく、石灰は、
こんな夜中にどこに取りに行けばいいんですか。」
「知らん。 急げ。」
ええっと悲鳴をあげている部下達に、ふうと小さなため息を付いて、
ロイドが言葉を繋いだ。
「確か西の裏門近くの小屋に、塀の修理用の石灰があったはずです。
そこの3人は、石灰の袋を取りにいけ。
残りの3人は、一階に降りて泥を作ってここまで運ぶ作業を。」
ロイドが手をパンと叩くと、指示があった部下達が、
わらわらと慌てて動き出した。
さすがに、この総長の下で長く副長を務めているだけある。
「それで、総長。
この扉に、石灰を流した後、こじ開けても
本当に、この塔は、大丈夫なのでしょうね。」
「あん? そんな事、俺が知るわけ無いだろ。
開けてみないとわからん。」
わかっていたけれど、どこまでも行き当たりばったりなゼノの言葉に、
ロイドの眉間に大きな縦皺が入る。
「それで塔が壊れたら、どうするんですか。
王妃様や、侍女は確実に死ぬでしょうし、
犯人達の証言も得られず、親玉は逃してしまいます。
わかっておられますか。 総長。」
ロイドの眉間の皺の数が増えた。
ゼノは、ロイドの側に寄り、先程とは打って変わったほどの小さな声で、
耳元で話し出した。
「わかってる。
だが、犯人達が出てくるのを、唯待つのでは、
王妃達の身の安全は図れない。
なにしろ、今回の件では、どう考えても王妃は無関係ではないからな。」
ロイドも、合わせるように小声になる。
「王妃が、情報流出の手助けをしていたと言うのですか?」
「犯人達の職種を見直してみろ。国の機密を持ち出して、
アトス信教を通して隣国にという流れならば、その役割から察するに、
侍従長と侍女だけでは不可能なことまで、沢山あるはずだ。
だが、王妃が味方、もしくは、傍観に徹していたというのならば、可能だろう。」
「王妃がこの国を裏切っていたと。」
「さあな。
だけど、奴らの狙いは王妃の命かもしれないってことだ。
だけど、ここまで脅しておけば、自分の命を守る為に、
王妃を人質にと考えるのが妥当だ。」
横で聞いていたステファンが、二人に同じく小さな声で意見した。
「侍女はどうなるのです。」
「うん? 侍女か。まあ、残念だが、無事にというなら難しいところだ。
侍女というのは、今度、裁判で証言する子だろう。
奴らにとって利用価値はこれっぽっちもないだろうな。
むしろ、殺しておくほうが有益と考えるかもしれん。」
ゼノは、左の頬の傷に手をやって軽く引っかいた。
「そんな。 父上、彼女をなんとか助けてください。
彼女は、兄の大事な人なのですよ。」
ステファンは、声が高くなりそうなのをぐっと押さえ、
ゼノに詰め寄った。
「は? 誰の? お前のじゃないのか?」
「違いますよ、レヴィウス兄上の大事な人なのです。
くれぐれもよろしくと頼まれているのです。」
「レヴィウス船長の大事な人ですか。
総長、どうしますか。」
ゼノは赤褐色の髪をかき乱しながら、軽く唸った。
「どうもこうも、しようがねえだろ。
彼女の運がいいことを、どっかの神にでも祈れ。
とりあえず俺達は、今、出来ることをする。」
投げ捨てるかのように、いい放つゼノの後ろから、
たった今、息せき切ってやってきたばかりの王がそこに居た。
「運とは、祈るとはどういうことだ。
王妃は無事では帰って来ないとそういうことなのか。」
王の大きな声が、周囲をざわめかした。
ゼノとロイドがその王の様子に眉を寄せた。
「ハインツ、お前、どうして、変なとこしか聞いてないんだ。
彼女とは、王妃のことじゃない。」
その言葉に、王はちょっとだけ肩を撫で下ろした。
「そ、そうか。
私の勘違いであったか。
騒がせたな。」
周囲が、王の言葉に、安堵したように、ざわつきを収めた。
ゼノが、王の側に立ち耳元で小さな声で話した。
「一緒にいた侍女の事だ。 王妃のことじゃない。」
王が眉間に眉を寄せた。
「侍女とはもしかして、例の侍女か。」
「ああ、そうだ。
裁判で、教会が人身売買に関わっていると証言する予定の子だ。
多分、犯人達に遭遇して捕まっているはずだ。
あいつらにとっては、生きていてもらっては困る人間であることは
間違いないからな。」
「なるほど。」
そこまで話を聞いてから、王は、
納得したようで小さく息を吐いた。
「わかったら下がってろ。
これから、多分、荒療治になる。
警備の兵と一緒に大人しく後ろで見ていてくれ。
ここの連中は、正直、王の警備まで気が回らんだろうから。
お前はしっかり、自分で自分を守ってくれ。」
その言葉に王は苦笑して、頷いた。
「わかった。 よろしく頼む。」
そういって渡り廊下の踊り場まで下がった。
ロイドが、何人かの警備の兵を王の横と後ろに配置した。
渡り廊下の壊されかけた扉の前では、
大きな盥の中に、次々と運ばれた石灰と泥と水が入れられ、
大きな木のヘラのようなもので混ぜられて、
濃い灰色をしたどろどろの重い液体を作り上げていた。
「総長、用意できました。」
部下の言葉に大きく頷いて、次の作業の命令を下す。
「よし。 それを壁の細工に塗りこめ。
細工が動かないように、念入りにな。
あと、所々の螺子の組あわせのところには楔を差し込め。
その辺の木切れでかまわん。 水気で膨らむはずだ。」
部下の中で手先の器用なものが数人がかりで、泥石灰を塗りこんでいく。
おおよそ塗り終えたところで、ゼノの命令で数人が、
力任せに扉をゆっくりと引っ張った。
ギギギギ、ゴゴッゴ、ガガガ、ズズ、バキ。
扉がゆっくりと開いた。
全開までとはいかないが、何人かが通れるくらいが開いていた。
何事も無い塔の様子に、全員の顔が安堵でほっと緩んだ。
「やったぜ、さすが総長だ。
それに、さすがの俺達だ。
あとは、あいつ等犯人を捕まえるだけだな。」
大きな声で調子に乗ったワポルが、扉の前でがはがはと笑いながら、
開いた扉をぽんぽんと叩いた。
そのいかにもの軽い衝撃で、先程まであれほど重かった扉がいきなり動いた。
「あ?」
ずるっとワポルの体が、扉に寄りかかるように滑り、
全開まで、扉が一気に開いた。
ドガン。
扉が、渡り廊下の壁に打ち付けられた。
その時、塔自体から、今までに無いほどの軋んだ音が響き始めた。
そして、ガラガラガラガラと大きな鎖が廻りながらどこかに落ちていく音が、
そこにいる誰しもに聞こえていた。
そして、皆の心の声の代弁者がそこで語る。
「危ないの。 塔が潰れるのも、もうじきかもしれんの。」
いつの間にか来ていたポルク爺さんの言葉に、静まり返った。
ポルク爺さんは、そのまま、ぽてぽてとゆっくりと歩いて、
塔の入り口から中に足を踏み入れた。
そうして、皆が黙って見守っている中で、塔の螺旋階段の中央の柱に手を添えた。
「考え方としては、ゼノ坊のやり方は悪くない。
だが、扉部分の塗りこみだけでは不十分じゃの。」
柱の下の方を、左手で軽くさすりながら、
右側の手で、人差し指を立てて、くいくいっとゼノを呼び寄せた。
「この辺じゃの。
ツルハシか何かで、お前の頭くらいの大きさの穴を開けろ。
そして、下に向かって、ありったけの石灰と泥を落とせ。
そうしたら、もしかしたら、もしかするかもしれんの。」
ポルク爺さんの提案で、新たに直径30cmくらいの穴が柱に開けられた。
そして、次々に作られた泥と石灰の液体が、ドサドサと上から落とされた。
泥を落としていた人員の一人が、ふとした興味を覚え、
穴の中を覘こうとしたが、ポルクの言で小さく悲鳴をあげた。
「覗くと、お前さんの頭も落ちるかも知れんのう。
文献では、この塔の仕掛けを作る過程において、
覗いた者の首は全て、仕掛けに首を刈られたとあるからのう。」
自分の首が飛ぶ、ぞっとするような光景が脳裏に浮かんだ。
そこに居た人間は、ポルクの言葉に対して、
無意識に自身の首元に手を伸ばした。
緊張感があたりに漂う。
あらかた泥と石灰を落とし終わり、手元に泥や石灰が無くなった。
「よし、これでいいだろう。」
ゼノの合図で、泥を落とし終えた部下達が、ほっと一息をついた。
まだまだ、これからのことに不安は尽きないけれど、
ゼノの言う今出来る事が全て終わったと言う事だろう。
「まあ、これらは気休め程度にしかならんがの。」
ポルクの言葉で、周囲の解けた空気が、またもや緊張に包まれる。
「それはさておき、次は、
犯人達との交渉に臨まなければいけませんね。」
ロイドの言葉で、気持ちをいささか切り替えて、
ゼノをはじめとする年配の部下達が、ロイドの周りに集まった。
今回は、勿論、軍部の得意とする人海戦術は使えない。
なにしろ、いつ塔が壊れるか予測できない。
塔の上にあるもう一つの扉を壊した時、
どのぐらい塔が崩壊をとどめるのか、わからないからだ。
塔の内部に入るのは危険だと判断され、大勢で中に入るのを避け、
交渉役以外を残して、残りは外で犯人達を待つことになった。
誰が中に入るのかと相談中、珍しくステファンがごねた。
「お願いです。 俺を交渉役として、中に入れてください。」
いつになく必死な形相だが、ゼノは首を縦に振らない。
なぜなら、交渉役は年配で、侍従長と面識がなく、
交渉ごとに慣れた人間の方がいいと判断していたからだ。
侍従長は、長年、この城にいて、人を動かすのに長けている。
明らかに若く、面識があり、挑発に乗りそうな若者である
ステファンは交渉役に、ふさわしくない。
いつもならば、すぐに理解を示す、自慢の息子が、
今回に限って一歩も引かない。
そんなステファンに、ゼノが頭をかき唸りをあげそうになった時、
大きな風がゴオッと吹いた。
周りの木々が、その風で押されて枝が折れる音がした。
上からとも下からとも思える風に、巻き上げられた砂が、木々から飛んできた落ち葉、
枯れ枝や埃が、その場にいる全ての人間の周りに舞い踊った。
全員が、一様に、反射的に目を閉じる。
時間にしてわずかな間だが、誰もが認識しない時間が存在した。
そして、目を開けたとき、
長い紐の付いた何かの包みが、渡り廊下の上に鎮座していた。
夜目にもはっきりと、そこにある。
目を擦ってみたが、変わらずそこにある。
今、目の前にあるものが、夢でも幻でもないと認識できた。
「お、おい、何だ、あれ。
どっから、来たんだ?」
比較的近くにいたワポルが、恐る恐る近づき、足先でちょんちょんと触るが、
勿論動かない。
ふうっと、大きな息を吐いて近寄る。
そのワポルの様子を見ていたステファンが、はっと気がついた。
「まて、ワポル。 それは、俺が。」
足早に駆けて、ワポルの手におさまる前に、自分の手にさらう様に納める。
そうして、手の上にあるのは、見覚えのある赤い魚の手ぬぐいの柄。
メイが、嬉しそうに荷物を入れて腕にぶら下げていた布の柄だ。
と言う事は、これは、間違いなくメイからのもの。
つまりは、塔のどこからか、ここに落とされたもの。
慌てて、袋をあけて、目を見張った。
中には、メイが持っていた2本の鍵。
外から入れないで右往左往していた自分達を見て、
上からどうにかして投げたのだと、
包みについていた、ぼろぼろの紐で推測できた。
どこからかと見上げるが、木が葉が途中で邪魔をして見えない。
「おい、ステフ。 それは、何だったんだ。」
ゼノとロイドが近づいてきて、ステファンの手の中の物を確認して、
驚きで目を丸くした。
「どっから来たんだ。その鍵は。」
「多分、塔の上から投げたのでしょう。
さすが、メイは、兄上の大事な方ということですね。」
上と言われて、ゼノ達は塔の上部を見上げた。
その一瞬の隙に、手ぬぐいと鍵をぐっと握り締めて、
ステファンは、誰の制止をも聞かず、真っ直ぐに塔の階段を駆け上がった。
これで、上の鍵は間違いなくあけることが出来る。
メイが、助けを待っている。
これは、この鍵は、俺に当ててくれたもの。
手の中にある手ぬぐいの赤い魚の柄が、ステファンに確信を持たせる。
今、行く。
待っててください。
ステファンは、心の中でメイに呼びかけながら、螺旋階段を登っていった。
ゼノの指示が続けてあり、やや遅れながらも、その後をワポルら5人の部下が
追いかけて、塔の螺旋階段を登っていった。




