act 4.堕天使 [Angel or Devil]
闇に堕ちた
―天使。
「誰……?」
「誰、か……あんたこそ誰だよ?」
少年は苛立ったような口調で、吐き捨てるように言った。
隣に座り込む、狼のような魔物は牙を見せて唸っている。
しかし、思ったよりも小さく、子犬程度の大きさである。
「コイツ、腹減ってんだよなぁ……」
「だから……なんですかね?」
グレイは、威圧感を持った力強い口調で聞き返す。
グレイは右腕に、左手を支えるように重ねる。辺りの空気中に目に見えるほどの大きな閃光が蠢き、一点、グレイの右腕に集まる。刃を形成するかのように、光は形を変えた。
「知ってます? 僕も鎖術師なんすよ」
「ハハ。その程度の鎖術じゃあ……ざっと階級は、クラスDってとこか?」
少年は笑いながら、グレイの右腕を見てつぶやく。
「甘く見られたもんスねぇ……これでもクラスBっスよ」
紅い光で造られた剣を突き立て、グレイは軽快な足取りでフットワークを踏む。
次の瞬間、凄まじいスピードで少年の後ろへまで移動した。
「ふぅん。なかなかだね。でも―」
―まだまだ。
「うおっと!」
グレイは少年が腕を一振りしただけで、払い落とされた。
「何っ!?」
「それより……僕はそこの女に興味があるんだ」
少年は顔色一つ変えずに、圧倒的な力を見せつけて言った。
「僕らの仲間にならない?」
「ハァ? 私はね…他人の関係を壊すあんた達がだいっきらいなの!」
時雨は、少年を睨んで言い放った。
「そうか、残念だなぁ。行け……ルーガス」
少年は隣の小さな狼に手から放たれる、黒い光を浴びせる。
見る見るうちに、ルーガスと呼ばれた狼は身体を変化させ、巨大な猛獣に姿を変えた。
「"鎖迅龍槍"(サジンリュウソウ)!!」
時雨の左腕から、青白く輝く鎖が伸びる。
その鎖は一本の槍のように、鋭く形を変えた。
「さぁ、行くよ」時雨が槍を振り回し、ルーガスの腹部を一突きする。
先端の刃を引き抜くと、右足で蹴りを入れ、叩きつける。
「なかなかやるねぇ……さすがSクラスだな」
「へぇ……結構、調べてきてるのね」
時雨は不適に笑みを浮かべながら、浮遊する少年に槍を突き立てる。
「おや?そこの君……まだ、生きてたんだ」
少年は地に伏せるグレイがゆっくり動き出したのを確認し、つぶやく。
「グレイ…!!」
(まぁ、いいや。楽しみは後にとっておこう……)
細い紫色の閃光は鎖のように形どられ、ゆっくりとグレイに絡み付く。
……"紫色闇鎖"……!