act 3.黒い空 [Darkness Sky]
沈みかけた
―太陽。
翌日、予告通りに二時、つまり五限目の授業まではこれといっておかしなことはなかった。
(さぁて……ここからが本番ね)
時雨は目を凝らしながら周りをキョロキョロと見回す。
「どぉしたの、時雨?」
「えっ?」
突然、顔をのぞき込むように見てきた彼女は莉緒だった。
「あっ、莉緒…」
「スッゴい怖い顔してたよ……」
時雨は少し頬を赤らめ、恥ずかしそうに言った。
「ホント?」
「大丈夫。時雨可愛いから、そのくらいじゃ変な顔にならないよ!!」
「もう、からかわないでよっ」
莉緒はそんな時雨の様子を見て、楽しそうに笑っている。
(莉緒……か。狙われないでね)「さぁて、着替えだぁ」
「着替え?」
莉緒の言葉に時雨が聞き返すと、彼女はキョトンとした顔で囁く。
「体育でしょ?」
「あっ、そっか」
そうして、2人は他の女子と共に、離れにある更衣室に向かった。
「前から思ってたんだけど、このジャージダサいよね」
「どこもそんなもんじゃない?」
時雨は周りのみんなが着用している、暗い赤一色の体操着を見てつぶやく。
「今日マラソンだってさ」
「……マジッ?」
そう言うと、その女子は不機嫌そうな顔をして、ため息をつきながら更衣室を出ていった。
それに続くように、数人の女子が部屋を出ていく。
時雨もそれに混ざって駆けていった。
「はぁ……ま、だ?」
莉緒は息が荒い。
先ほどから校庭を走らされて、かれこれ15分はたったろうか。
「ガンバっ!」
時雨は莉緒の姿を見つけ、声をかける。
「う……ん…」
とは言っても、時雨は真剣にマラソンをしているほど余裕はなかった。
常に周りを警戒しながら、走り回る。
グレイが監視しているとはいえ、不安なのは事実だった。
時計に目をやる。
時間はまさに二時から二分前。
(来る……!)
空に歪みが現れた。
裂けるように、空に縦のラインが入る。
その直線からは、紫色の鈍く、かつ重い輝きが放たれる。
(何……、一体じゃないの!?)
開かれた空の裂け目からは、ゆっくりと降下してくる2つの影が見えた。
「先生、少し気分が……」
「そうか、少し休んでろ」
「はい」
時雨は体育の担当教師に告げると、隙を見て、裂け目の方向へ向かった。
「ハーイ、時雨ちゃぁん?」
「グレイ……! あいつら二体なの!?」
呑気に駆け寄ってくるグレイに、時雨は焦りを見せる面もちで訊ねる。
「ハイ。というか――下級鎖牙が一体。最上級鎖牙一体。です」
「最上級……?」
そんな会話の最中、ちょうど裂け目の辺りへ着いた頃。
「おや、お出ましですかねぇ?」
黒いバンダナを頭に巻いた少年が、睨むような目で二人を見ていた。