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8.魔力






ハルオミさんはポケットからピンク色の丸い輪を取り出し、私の左手を優しく取って嵌めてくれた。

「これは蓄電式の電気除去アーム。これで日常生活に不自由は無くなるよ」

「えっ?本当ですか?」

左腕を持ち上げてまじまじと見て見るそれは、一見平たいラバーゴムのブレスレットに見えるが、部屋の照明に反射してキラキラと光っている。反対の手で触ってみるとプラスチックでもガラスでも無く、もう少し硬質な素材の様に感じる。それなのに柔らかく腕に沿う感じは何とも違和感がある。

ハルオミさんが自分の左腕を上げて、同じ物、と言って見せてくれたのは黒いブレスレットだった。


足元に置いていた黒ちゃんを持ち上げ、先程とは少し違う指先でなぞると青い棒線が一本表示される。

「手のひらに載せてみて」

左手を出すとその上に黒ちゃんを置いて画面を見ている。私も一緒に何が起こるのかと思い見つめる。横に一本の青い線をなぞるように、左側から白い線に塗り替えられて行く。何処まで行くのかと思って見ていたら、100までの目盛の77で止まった。

「やっぱり強いんだね」

「?強い?何が?」

目盛がリセットされ、今度はハルオミさんの手のひらの上に置かれる。白い線は端の100まで伸び青い線を全て塗り替えた。

「これが俺の力。女性の最高値は68までしか見た事が無いから凄いよね」

「・・・もしかして、魔力とかってやつですか」

「そう。でもこっちの世界では使わない方が良い力だね」

「・・・魔力ですか・・・」


黙ってしまった私の手を優しく握ってくれるハルオミさん。

「色々、大変だったね」

「・・・らじおすいっちおん・・・」

ラジオがパチと言う音を出して、音楽を流し始める。

「・・・でんきおふ・・・」

間接照明しか付けていない部屋の明かりが落ちる。

「自分の力を少しは分かっていたんだね」


膝を抱えて顔を埋めて動けない。

これが魔力なら私は欲しくなかった。

おとぎ話やファンタジー小説の中の魔法に憧れたのに、自分の持つ魔力が恐ろしくてならない。

電気系の物には殆ど触れられない。触れれば壊れてしまうから。だから触れないで操作する事を考えた。考えたら考えただけで操作出来るようになっていた。

そんな自分が恐ろしくて超有名病院で精密検査を受けたりした。原因が知りたかったからと原因が有れば自分を納得させられると思ったから。

でも生憎と健康体で、何も病気と断定される事は無かった。あの時は絶望感と虚脱感で自分を押さえる事が出来なくて、酷い失態を起こしてしまった。


「小梅ちゃん」

顔を上げられない私を、後ろから包み込む様に抱きしめてくれる人が居る。

私の左腕を手に取り「見てごらん」と暗に顔を上げる事を強要している。

「あ・・」ピンク色のブレスレットがピカピカと光っている。部屋の電気を落としたから余計にはっきりと見える。それは祖父の家で見た、お盆の時に仏壇の脇でくるくる回っている灯篭を思い出す。

「放電した力をこれが蓄えている時に起こる現象なんだよ」

「・・・うっ・・えっ・・・っ・・」

ハルオミさんがあんまり優しくて、我慢していた涙が止まらなくなり嗚咽まで付随してしまった。そんな私を見兼ねたのか「もっと早くに見つけてあげたかった。ごめん」と言ってさっきより少しきつめに抱き込んでくれていた。



起きなきゃ・・・

もうお昼も近いし、目が覚めてから随分立つ。

昨夜は何時寝たのか、どうやって布団に入ったのか、ハルオミさんが何時帰ったのか全然覚えていない。多分、あのまま眠ってしまったんだろうなぁー。ハルオミさんに布団に寝かせて貰ったんだろうなぁー。・・・少し・・・恥ずかしいと思う。

ピンク色のブレスを見ながら、本当なのか試してみたくなった。


台所へ行き、コーヒーメーカーの蓋を外す。フィルターをセットして粉を五杯入れて蓋をする。脇のタンクに水をMAXの位置まで入れる。さて、中央下にあるスイッチを入れるが・・・何事も無くコーヒーの香りが立ち始めた。

たまたまかもしれない。


部屋へ戻って着替える。財布を手に部屋を出ようとしたが、ラジオの隣に置いた黒ちゃんを見てしまう。ラジオを付けているが黒い箱のままで何もしゃべらないのだ。

「黒ちゃん、買い物に行ってくるね」

何となく、声を掛けてから戸を閉めた。


玄関まで来て靴を履き、下駄箱の上に置いてある車の鍵を手にした時に声を掛けられた。

「出かけるの?」

振り返ると其処にはハルオミさんが立っていた。

「!んあ、はい。コーヒー豆とか食材とか少し仕入れて来ようと思って」

「一緒に行くよ。ちょっと待ってて」

「えっ・・・あ・・・」

行っちゃった。どうしよう。うー緊張するなぁ。ジャラジャラと車の鍵を手の中で弄ぶ。

直ぐに戻って来たハルオミさんは何だか楽しそうだ。


ミニに乗って隣町のスーパーへと向かう中、助手席に座っているハルオミさんに昨日の事を謝罪する。

「本当にすみませんでした。泣き疲れて寝るとは恥ずかしい事をしてしまって」

「ふふふ。可愛かったよ」

「はっ!なんと?えーっ!」

意味不明な返答をしてしまう。多分顔も赤いと思うが、運転中で良かった。


日曜日のスーパーは大変混んでいる。

選択のミスとまでは言わないけれど、ハルオミさんと一緒に来たのは間違いだった。

物凄く目立っている。男前の隣に少年の様な自分が手を繋いで買い物しているのだから当然だ。他人の思い描く自分達の関係は大体想像出来る。帽子くらい被ってくれば良かったと心底思う。ハルオミさんも繋いだ手を離すつもりは無いみたいで、何を考えているのか分からず居心地が悪くなるばかりだ。


帰りの車の中は少し居心地が悪かったけど、ハルオミさんも口数が少なかったのでちょっと安心だった。

家に着くと見覚えのある軽トラックが止まっており、玄関の半分を占領するダンボール箱には沢山の野菜が詰め込まれている。ただいまの掛け声と共に台所に入って行くと、椿と一緒に松子おばさんがお茶を飲んで居る所だった。








ファンタジーと設定しておきながら、さっぱり異世界に行けません。どうしたもんかと思っておりますが、もう少しだけ現実世界でお付き合い願います。

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