表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/41

40.背中




ああ、ここは桜都だっけ。

目覚めた視線の先には庭が見える。

新しく増築された寝室の窓からは、緑豊かな離宮の庭が眺める事が出来る。

何時だろう。

気持ち良く目覚めた筈が、頭は朦朧とし、体は怠い。

其れもその筈、昨夜は頭と体と心がばらばらに反応した夜だった。

春臣さんの香りに包まれるのはとても安心出来る。

痛みも忘れる程の優しさに翻弄されたが、それがとても幸せだった。

彼を信じて、自分の道を歩もう。

何時か桜都と日本を繋ぐ道が閉じたとしても、悔いの無い様にしたいと思う。



彼の腕からそっと抜け出し、お風呂へと足音を忍ばせる。

此処の建物の作りは大体同じだと思うから、入口脇の奥まった戸を開けて見る。

やはり其処はお風呂だったのだが、何故か露天風呂と言う物が目の前を占領していた。

「これなら一緒に入れる」

「うわっ!」

後ろから羽交い絞めにされ、耳元で囁かれて吃驚する。

「一緒なんて恥ずかしいだろう!」

「・・・何を今更」

確かに、今更と言われれば今更なんだけど。

彼は私にお構い無しにお風呂へ入って行く。

「あっ!?」

彼の後ろ姿から目が離せなかった。


彼の背を追う様に、結局一緒にお風呂に入る。

お湯の上には桜の花びらが散っていた。

もう一度、明るい所で彼の背中を確認したい。

「・・・あの、後ろを向いて背中を見せてくれますか」

「?・・・こうか?」

やはり彼の背中には金色の龍が居た。

私が夢で見ていた、顔の無い龍である。

「龍の尻尾だ」

「ああ、気にするな。もう痛みも無い」

「私が夢で見ていた龍は春臣さんの背中だったんだ」


「これか?」

「うん。これだった」

「そうか」

私を迎えに来るのは火の化身の龍では無く、あの炎から守ってくれる春臣さんだったのだ。

物凄く勘違いをしていたんだ。

私は自分の死期を見ていたのでは無かったのだ。


「春臣さん、ありがとう」

心からの笑顔を向ける事が出来た。


その笑顔が仇となった。

本日二度目のお風呂である。

どれだけ熱めのお湯に入っても、体中の赤い斑点が消える事は無かった。

「春臣さんの馬鹿!」


もうお昼を過ぎており、お腹が悲鳴を上げて「グゥ」と鳴った。

急いで食堂へ行くと、其処には春臣さんと花梨さんが楽しそうに話している。

「花梨さん!」

「小梅様!ご無事で何よりです」

「花梨さんに会って謝りたかったんだ。あの時は本当にごめんなさい」

ぺこりと頭を下げて、少し経ってから恐る恐る頭を上げる。

「本当に、困った方です。もう二度とあのような嘘を付く事はなさいません様に」

「はい「グゥ」」

「ふふふ、お食事にしましょう」

花梨さんと春臣さんに笑われてしまった。



今夜は月を呼ぶと言う春臣さんは、居間の障子を全て開けて、居間のテーブルの上に盆と杯を用意した。

ソファーの上にはうさうさも連れて来た。

月が昇るまでは時間がある。

聞きたかった事を聞いてみる。

「蒼い月の歌詞は誰が書いたの?」

「ああ・・・あれは俺の姉が書いた歌だ」

「お姉さんが、そうなんだ」

「俺じゃ無いって良く分かったな」

「ふふふ 何となくね、違う気がしたんだ」

あの歌詞は、誰かをとても切なく思う歌詞だから、春臣さんが書いたとは思えなかった。

彼が秋乃さんを思って書いた歌にしては、余りにも切ないし、どちらかと言えば女性っぽい歌詞だと思っていた。

もしかして・・・あの二人のどちらかの思いでは無いかと思っていたのだけど、まさかお姉さんの方だったとは。

何だか切ない。


月が昇り杯の中に月が沈んで暫くすると、テーブルの前がキラキラと光り出し、その光の中から可愛い女性が現れた。

「久しぶりじゃのう」

「うえっ? うさうさ?」

「随分な挨拶じゃのう」

「偉いべっぴんさん!」

「褒めてくれたので許してやるぞ」

目の前の女性は身長こそ小さいが(約140センチ位)真っ黒な髪を後ろに結い、目元が凛々しく赤い唇が妖艶だ。

「よく戻って来てくれた」

「それは春臣さんのお蔭だよ」

「この者がしたのは当たり前の事じゃ。小梅が自分の意志で此処におる事に感謝しているのじゃよ」

春臣さんの片方の眉毛がキュッと持ち上がる。

「うさうさ、今夜は帰れ」

「ほー我にその様な事を言うのか?」

二人が本気では無い口喧嘩を始めている。

その光景が前に見た夢を思い出させていた。

「ねえ、うさうさ、私に預けた力って本当に無くなったのかな」

「・・・ゼロでは無いであろう。二十年以上もそなたの身に在った物じゃ。僅かではあるが残ると思う」

「やっぱりそうなんだ。でも、殆ど見たり感じたりしないから大丈夫だよ」

「そうか」

「なあ、何で此処と向こうの道が繋がっているのか知っているか」

「・・・梅の木じゃ」

「「梅の木?」」


この庭で芽を出した梅の幼木が二本有った。

その内の一本が離れの庭に植えられ、もう一本は日本の家の庭に植えられている。


「あの梅の木にはわらわの力が宿っておる。だからこの地と小梅の地を繋いでおるのだろう」

「もしかして、あの梅の木って、あの桜の木の根元から出てきたの?」

「・・・そうだ」

「あそこには、うさうさの目を沈めたお酒を捨てたの。飲むにはゴミが浮いてたし、台所に流すのも悪い気がして、梅の花を咲かせてくれた桜の木に感謝の気持ちでね」

「やはりな、だからわらわの力が宿ったのだろう」

「・・・うさうさって凄いんだね」

「当たり前であろうが。これからは二本の梅の木を大切に育てるのじゃぞ」

「うん。大切にするよ」

「そうだな」

夜明け近くまで三人で語らい、酒を酌み交わした。

そろそろお開きと言う時、春臣さんが水差しを持って来た。

「これを返すのを忘れる所だった」

「それは返さずとも良い。そのまま置いておけ。必要な時には水が満ちる」

「・・・分かった。大切にする」

「うさうさ、ありがとう」

「また飲もうぞ」

夜明けと共にうさうさは帰って行った。

その言葉通り、毎月一度はうさうさが遊びに来るようになるのであった。

それに加え、年に一度、【無月】の期間は此処で過ごす事になる。

【無月】は短くなる事も無く、今まで通り二十日間月が昇らない。

人々が混乱しない様にとの配慮と、月の化身が思いの外、大酒飲みだった為だと思われる。




離れの寝室にはガラス張りのチェストが一つ置いて在る。

その中には小梅の両親の写真や椿やさくらの写真と共に、うさぎのぬいぐるみとガラスの水差しが大切に仕舞われている。




ラジオとミニクーパーのお話はこれで終話となります。タイトルの意味が若干不明ではありますが許して下さいませ。明日、エピローグとして十年後のお話を一つ追加させて頂きます。宜しければお楽しみ下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ