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4.訪問




月曜日からは怒涛の様に忙しい毎日になった。

「桃山損害保険事務所」は自動車保険と傷害保険を扱っている会社である。

今週は月の末の週であり、満期の書類に加え新規加入と事故報告が相次いで飛び込み、社長と私だけの会社はてんてこ舞いとなった。本当なら社長の奥様も一緒に働いているのだが、車との接触事故に遭い腕を骨折したため入院中である。


「小梅ちゃん、そろそろ上がっていいぞ」

時計を見ると午後9時を少しだけ過ぎていた。

「はーい。後一軒だけ電話したら上がります」


木曜日の夜10時近くに帰宅し(コンビニで甘い甘いスイーツを購入)、真っ直ぐ自分の部屋へと向かう。

ラジオのスイッチをオンにして、ベッドへ転がる。

「えろー疲れてはりますなあ」

「・・・・・」

「小梅はん、起きてシャワーだけでも浴びてきなはれ」

「・・・うん。そうする」

のそりと起き上がり、コンビニの袋を片手に部屋を出ようとしたら

「小梅はん、着替え持ちましたか?」

「ぷっ・・・あははは!何だかママが居るみたいだよ」


月曜日から毎日残業で帰りが遅く、黒ちゃんと話をする時間が少しずつ短くなっていた。最初こそ話を聞いているのかと少し不貞腐れる事もあったけど、今では日に日に口数の減ってきた私を気遣ってくれる。昨日辺りからは朝の目覚ましで起きれない私を変な関西弁で起こしてくれる。仕舞にはさっきの会話である。

スイーツを冷やすって事は頭にあったけど、着替えの事は本当に忘れていた。

締め切りの仕事も今日までで、社長と二人難とか乗り切った。明日からは又何時もの時間に帰れるだろう。早めに帰宅して黒ちゃんと遊ぶのも悪くないかな。


濡れた頭をタオルで拭きながらちょっとした疑問を投げてみる。

「黒ちゃん。本当に見えないの?」

「カメラ機能が付いて無いって前にも言いましたやろ」

「それは聞いたけど、まるで見えている様に話すから再度確認したのよ」

「音、ですわな。戸の開け閉め、ベッドへ倒れ込む音。後は声の陰影言うんですかな、元気な時は張りがありますけど、疲れてはる時はくぐもった声になりますさかい」

「へー、それって凄いね」

「当たり前ですわ!わたしを誰だと思っておりますねん!ラジオアイソトープ05様ですねん!只の機械だと思おとったら怪我しますでえー。最初の01はおしゃべりも出来へん只の箱でしたけど、その後改良を繰り返し・・・・・・・・・・・・


こうなったらしゃべらせておいた方が良いみたいです。日頃のストレス発散みたいな物でしょうね。

冷やしておいた甘いスイーツを堪能しつつ、冷たい麦茶を飲むのが至福の時です。

食べ終わって、洗面所へ歯を磨きに降りて、戻って来てもまだ講演会が続いています。

一応目覚まし時計をセットして布団の中へ潜り込みます。

黒ちゃんの講演会も04号機まで進んでいる様ですが、殆ど聞く事も無く眠りの世界へと旅立ちました。


ピピピ・・・ピピピ・・・ピピピ・・・パチ。

目覚まし設定間違ったかな・・だってさっき寝たばっかり・・・と思いながらスイッチをオフにする。

オフにしたままの態勢で意識が遠くなりかけた所へ、変な関西弁が襲って来た。

「小梅はーん。おはようさんです。朝どすえー」

「・・・やっぱり朝か。おはよう黒ちゃん」


下へ降りて行き、台所でパンと牛乳を頂き洗面所で歯磨き洗顔を済ませる。

部屋へ戻り黒ちゃんのおしゃべりに付き合いつつ、簡単メイク・着替えを済ませる。

「黒ちゃん。今日は早く帰れるからね」

「ほんまでっか!待っとりますわー」

「うん。じゃ、行ってきます」

「はい。行ってらっしゃい」

ラジオのスイッチを切ると、黒ちゃんの笑顔の顔文字も一緒に消えた。


黒ちゃんの要望により、夜はラジオを付けっぱなしにしている。私が帰宅してから翌朝家を出るまでが黒ちゃんの自由時間になった。日中は情報量が多すぎて疲れるから休むと言ってくれたので一安心。ラジオの24時間稼働は個人的に不安だし、電気代の心配もある。

それで夜、夜中に何をしているのか聞いてみたら、主に情報収集と先生や友人との連絡のやり取りをしているらしい。後、私の寝言を聞いては突っ込みを入れるのも楽しいのだとか。



定時に仕事を終え、家に帰る途中でコンビニに立ち寄り缶チュウハイ二本と発泡酒一本を購入する。後はそのまま真っ直ぐ自宅へと帰路に着く。ラジオから流れる新しい曲を聴きながら、今夜はお気に入りのCDを聴こうと頭の中で選曲をする。



自宅へ着くと家の前に大型の車が一台止まっているのを見て有る事を思い出す。

「椿、もう来たのかー」

家の隣が空地になっているので、一先ず其処へ車を止める。

「小梅!」と言いながら駆け寄り、車から降りて鍵を掛けている私に抱き着いて来る。

「早かったんだね」

「一時間位前に着いたんだ。今日も仕事だって事忘れてた」


玄関を開けて地下のブースへ降りて行く。

電気を付けエアコンのスイッチを入れて玄関へ戻り、椿に声を掛けて自分の部屋へ向かう。その前に冷蔵庫にアルコールを入れるのを忘れない。

部屋へ入ると直ぐにラジオのスイッチをオンにする。

「小梅はん、お帰りやす」ニコニコマークが踊っている。

「ただいま。あのさ、黒ちゃんごめんねーお客さん来たんだよ」

「そうですか。仕方がありまへんなー」

「このままにして行くから、遊んでてよね」

「助かりますわ。ちょっと調べたい事もあるし、わては大丈夫でっせ!」

漫才のような会話をしながら、普段着に着替えて下へ降りて行く。



椿の他に男性が二人。一人は椿の彼氏である冬樹さん。もう一人は初めて見る人だ。

その三人はまだ玄関先に止めた車から機材と楽器を降ろしている。

その様子を眺めながらやっぱり皆美人さんだなと思う。類は友を呼ぶのかな。

椿本人が極上の美人なのでそう思ってしまう。

165cmと男性にしては少し小柄で痩せ形。色は白くリスの様にくりっとした大きな目と真っ直ぐ通った鼻筋に薄目だか形の良い唇。胸元まである長い髪はウエーブが掛った栗色。何処から見ても女性にしか見えない。

彼氏の冬樹さんは175cmに少し欠ける位だが均整のとれた体をしている。太くも無く細くも無く・・・少し前の表現だけど細マッチョタイプ。黒く日に焼けている肌に彫りの深い顔立ちは異国を思わせる。父親がアラブ系のハーフと教えられて納得した。


秋が近いとは言えまだ残暑の残る夕方は、体を動かすと汗が拭き出すほどまだ暑い。

冷たいお茶でも、と思ったけど止めておく。多分生ビールを美味しく飲む為に汗を流して動いていると思うから。男の考える事は良く分からない。


彼がふと手を止めて空を見つめている。

なんだろう?と思いながら窓から顔を出して覗いて見る。

何も見えないな。

彼が私の顔をじっと見ているのに気が付く。

照れくさかったのでぺこりとお辞儀をして部屋へ戻った。







連続投稿はここまでとなります。次話、来週から投稿します。

楽しんで頂ければ幸いです。

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