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34.後悔




「どれだけ探しても、離宮への道は閉じておりますぞ。諦めなされ」


月が昇る少し前、離宮へ急いで来たのだが、林の様に立ち並ぶ木々に遮られ道が全て閉じていた。離宮の上部が見えているのに其処へ行けないのは苦痛だった。

椚が全ての道や林の隙間を進もうとしても、木々が邪魔をし進まない。

いくら前へ前へ進んでいても離宮へ全く近づけなかった。


そんな二人の元へ藤森のじいさんがやって来た。

「藤森のじいさんか。何時から閉じている」

「もう一時も前でしょうか。私が何時もの様に遊びにお伺いしようと思った時には閉じておりましたからのう」

「何処からも入れぬか」

「無理で御座いましょうなあ、月の結界は強大ですからなあ」

「・・・うさぎか」

「若様、少しこちらでお休み下され」

そう言って、藤森のじいさんの家へ連れて行かれた。

其処には数年ぶりに見る先客が居た。


「元気そうだな」

「女に刺されたのか」

「幽霊にな」

「ふっ 相変わらずだな」


「今日の月は、まあるくて美しいですなあ」

藤森のじいさんの言葉に皆で美しい月を眺めた。



月が沈み、結界が消えた早朝に皆で離宮へと向かった。

其処には誰もおらず、庭先の廊下に盆が二つ並んで置いて在るだけだった。

「小梅様は帰られたのですかな」

「そうだろうな」

「またお会いしたいですなあ」

「何時でも会えるさ」

「そうでしょうか・・・」


ふと、じいさんの言葉に不安を覚えテレポートを実行する。

「!」

「?」

「!」

おかしい。テレポートが出来ない。

嫌、違う。

本家の屋敷にも飛べる、茶屋の奥座敷にも飛べる、離宮へも飛べる。

しかし、日本へ飛べない。

「何故だあ!」

力の限り日本への小梅への思いを込めるが、一歩も動く事が無かった。

「若!これ以上はいけません!」

見ると、椚が俺の脇腹を手ぬぐいで押さえている。そこに血が滲んでいた。


俺はそのまま離宮で療養する事になった。


実際に床から動けなかったのは二日だけである。

月が戻ったお蔭で魔力も戻り、怪我の治りも早かった。

しかし気持ちを持ち直すにはまだ日が足りず、自分の今までの行いに落ち込み、情けなさに押しつぶされそうだった。

そんなある日、花梨が椚に連れられて寝室へ入って来た。

「若、花梨が小梅殿と最後に会い話したそうです。お聞き頂けますか」

「・・・確か、休みを取っていたのでは無かったか」

「はい。お休みを頂き小梅様の御傍にと思いこちらへ参りました」

「・・・そうだったか」


「小梅は元気だったか」

「はい。少し・・・お痩せになられておりましたが、変わらずお元気でした」

「そうか・・・しかし、何故花梨は帰ったのだ?」

「小梅様に帰る様にと、子供が待っているから帰って欲しいと言われました」

「子供の事を話していたのか」

「いいえ、話しておりません。まして私の生まれた日だと言う事もお教えした事は御座いません」

「・・・?」

「小梅様は夢見で御座います。夢で先の事を知っておられるご様子でした」

「夢見だと!?」

「子供が母の誕生日を祝う為に花を用意して待っているから帰ってあげてくれと言われました。半信半疑でしたが家へ帰ると、小梅様が申された通り、子供が花を持って待っておりました」

「・・・・・」

「それに、夢見かとお聞きしましたらそうだと。今までの事も全てが知っていた事だと笑っておられました」

「・・・まじか・・」


ベッドの床の上で胡坐をかき思案する。

もう今は落ち込んでいない。逆に少し憤慨している。

小梅は何故何も言わないのだ。俺にもう少し相談するなり、意見するなりすれば良い物を。

それだけ俺が頼りなかったと言う事だろうか。そうかもしれない。他の女にうつつをぬかし、小梅を一人離宮に閉じ込めていたのだ。

「何も変えられない」そう思う事が今までも有ったのだろう。

そんな心を知らずに俺は小梅に何をしてやれたんだろう。


今までも何度か鳴らした携帯電話をもう一度小梅宛てに鳴らして見る。

繋がらずに音声ガイダンスが流れる。

もう一度鳴らして見る。

「・・・?」

何処かで微かに音がしている。

ガイダンスが流れると微かな音も消える。

もう一度鳴らす。

それを何度か繰り返すうちに天井の方から聞こえる事が分かった。

其処は俺の研究室だ。


隠し戸を開けて二階へ向かう。

其処は久しぶりに入った部屋だったが、空気の淀みも無く埃も無かった。

乱雑だった机の上はある程度片づけられており、其処には白い携帯電話とピンク色のブレスレット、その横には旧式の灰色の動画カードが置いてあった。


カードには丸い文字で「春臣さんへ」と書かれていた。

その文字は彼女の家の冷蔵庫に張られていたメモ書きの文字と同じだった。



「ごめんね?」

動画カードを再生させると、最初に発せられた言葉は謝っているのだが顔が笑っている。

自分の力に付いて語られているが、今はその殆どが無くなって来ていると言っていた。

何時も一緒の時には手を繋いだりと体を触れ合わせていたから、心読みを閉ざすのに苦労したとも言っていた。落としかけられた事も気がついており、それは止めた方が良いと苦言まで述べている。

それと六年前に俺が日本へ飛んだのは自分の所為で有る事も語られていた。

それはラジオ05から聞いていたので知っている。

何より気になるのは、桜都と日本を繋ぐ道が閉ざされるであろうと言う事だった。

あの月の欠片が飛ばされたのが道を作る始まりであるから、月の欠片が戻れば道も閉じるだろうと言う話だった。


そんな話は聞いていない。

あのうさぎ、俺にかなりの隠し事をしていたに違いない。

今夜、うさぎを呼び出してみよう。


久しぶりに見る小梅の顔はやや細くはなっているが変わらず微笑んでいる。

誰の事も恨んで居ないのだろうか。

最初から全てを諦めている微笑みなのかもしれない。

今更だが思い返してみれば、行きたくないとか行かない方が良いとか言った後は確かに余り良い事が無かった様に思う。

あの着物が嫌いだと言ったのは俺に危険が有ると知らせたかったのだろう。

結局は小梅が見た通りになったのだろうな。

「変えられない」と言うのはそういう事なのか。


この研究室で椅子に座ったままに話す小梅の画像はかなり粗い。

多分画像の鮮明度を上げずに録画したのだろう。

まったく下手くそだ。

もっと綺麗に映った小梅が見たいと切実に思いながら、何度も再生しては眺めていた。










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