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31.帰省




プラムボックスのミニアルバムが爆発的に売れている。

五曲入りのアルバムから二曲がCMタイアップになっているからだろう。

そのCM商品も爆発的に売れていると言うのだから大変だ。一つは化粧品、もう一つは高級自動車なのだが、高級車がそんなに簡単に売れるのか?甚だ疑問だ。

因みに車のCMソングは鼓動である。


どうやら「謎のプラムボックスを探せ!」「プラムボックスウイルス」と言う見出しの週刊誌が出るほど私の事を知りたがっているらしい。

二十日前にCD発売とCMの放送開始がほぼ同時だった為、椿の会社の電話に問い合わせが相次ぎ昨日に至ってはパンクしたそうだ。

絶対に知られたくないとか、顔を見せたくないとか、そんな事を言ったつもりは無いが、まあ出来れば穏やかに過ごしたいとは思うのだ。

芸能界に入りたい訳では無いし。


最近はテレビを良く見る。

それもワイドショー番組を良く見ている。

連日自分の事が取り出たされているのだから凄く面白い。

男性説、女性説、しまいにはニューハーフとまで憶測されている。

とある女子高生がカラオケで私の歌を歌っていて、結構似ていた事から彼女がプラムボックスだと言われていたが、それも二・三日で終わってしまった。

結構可愛い子だったから、彼女でもいいかもー等と言っていたら椿に笑われてしまった。


大体どんなに探しても分かる筈が無いのだ。

録音したのが私の家だし、バンドも椿と竹さんと春臣さんなのだ。

もう一人の関係者である冬樹さんが、しゃべるはずも無し。

後知っているのは、友人のさくらと朱音さんの二人だけだが、どちらも椿からキツク言われているのでもう此方サイドの関係者となっている。


さてその朱音さんであるが、彼女との濃密な関係もそろそろ終盤を迎えつつある。

週の半分は私と一緒に過ごしており、この人、仕事はどうしたのかと心配していたら、次の映画が決まったのでそろそろ仕事を始めると言って来た。

前回の舞台の後は休養を兼ねた充電期間だったらしい。

「私と一緒に居て良かったのかしら」

「ええ、お蔭で楽しかったもの!」

「普通海外旅行とかするんじゃないの?女優さんってさ」

「英語じゃべれないから外国は嫌いよ」

「通訳連れて行けばいーじゃない」

「そんな知らない人連れて行っても楽しい訳無いじゃない」

「・・・それも、そうか」

「今度の映画は少し長いロケだから、暫く長期のお休みは取れないのよ」

「でもやりたかった作品なんでしょ?」

「ふふふ そうよ。この作品は凄く好きで、自分でもはまり役だと思うもの」

「確かにね。主人公より目立ちそうで心配だなー」

「あら、この役は目立って当たり前だから良いのよ」

「こりゃ、監督大変かもね」

二人で顔を見合わせて大笑いだ。

この映画では、一人の女性を殺した男性と共に逃避行をする女性役で出演する。ダブル主演の様な気がするが、あくまで私は脇だと言う朱音さんにやる気が漲っている。

後日談なのだが朱音さんはこの映画で、モントリオール映画祭で最優秀女優賞を獲得しており、日本映画祭でも受賞している。


「私もそろそろ自宅に帰るよ」

「東京の家は決まったの?」

「んー 何件かはピックアップしたけど、どれもピンと来なくて、後は椿に任せる事にした。結局さ立地条件とか部屋の改装とか椿が横で五月蠅いからもうどうでもいい感じ?かな」

「椿さんって結構面倒臭いよね?」

「まじ面倒なやつだよ」


そんな会話をしているのが、椿の経営するゲイバーの中である。

ここの従業員は二年前に会社の慰安旅行と称して、私の家に遊びに来た事がある。

だから皆顔見知りなのである。

「小梅っち!また美人になったわねっ」

「ママが一番美人だよ」

ちゅーと音を立ててほっぺに真っ赤なキスマークが貼り付けられる。

彼女達は少しくらいの電流には微動だにしない。逆に喜ぶのだから変人だ。

「きゃー久しぶりのビリビリだわぁー」

「でも本当の美人さんはこちらよね?」

「いえいえ、ママさんには敵いません」

「まっ!」

朱音さんのほっぺにも真っ赤なキスマークが張り付いた。

「きゃー!嬉しいー!」

何故?朱音さんが喜ぶのか分からないが、反対側からもピンクのキスマークが張り付いて凄い顔になっている。


朱音さんは基本が真面目人間なのである。

両親も芸能人で、朱音さんも小さい頃から芸能界で活躍している。

最初の頃は親の七光りと随分言われていたが、今では誰もそんな事を言う人が居ない大女優だ。

それだって本人の努力の賜物だと思う。

噂になる事は出来る限りしない、関わらない。その考えのせいで、夜遊びをした事も無いと言うのだ。

ロケ先のホテルのバーで出演者や監督達と飲む事はあっても、それ以上の二次会とか他の人の部屋へ行ってまで飲んだ事も無いと言う。


「それなら、私の知ってる店に行って見る?」

この一言がきっかけで夜の新宿へとやって来たのである。

でも初めての新宿でゲイバーってどうかと悩んではいたのだけど、私も他に知らないので連れて来てしまった。

朱音さんは大層楽しそうにしているし、店の子達も「深沢朱音」としてではなく普通にお客として扱ってくれている。

通して貰った席も奥のコーナー席で、他のお客さんからは死角になるので有難い。

お蔭でゆっくりと楽しむ事が出来た。

但し、私の曲が何度となく流れたのには気分的にとても疲れた気がする。


帰りは朱音さんの執事である十年後はロマンスグレーの紳士が迎えに来てくれた。

私をマンションへ送ってくれて、わざわざ車から降りて丁寧に私に挨拶をしてから帰って行った。



それから数日後、やっと自分の家に帰れる事になった。

椿は送って行くと言うのだが、その為にはあと三日は帰れない事になる。

椿が忙しいのは今に始まった事では無いので、無理して休みを取る必要も無いからと説得したのだ。

私ももう直ぐ三十路だし、そんなに過保護になられても困るのだ。


帰る日に椿から手渡されたのは新幹線のグリーン席の切符と、都銀の通帳と印鑑とキャッシュカードとお弁当だった。

私名義の通帳をぱらっと捲って驚いた。

見た事も無い驚愕の数字の羅列である。桁も桁外れに多い。

「毎月この通帳に振り込みになるからね」

「どーするのよ、これー?」

「小梅の契約料とかは別だよ?それは来月になるかな、連絡するけど」

「げーっ 何だか悪い事をした様な気になるよ」

「気にしなくていいさ。それぞれ分配した額だからね」

「皆で分配してもこの金額なのー?」

「そうだよ。これから増えるけど」

「増える?」

「そう。印税とかも加算される」

「・・・真面目に資産運用考えなきゃいけないな」



帰りはリュック一つで帰れるので身軽だった。

殆どの荷物は宅配便で送る事になっているので、必要な物だけで良い事が気分も楽にさせた。

平日のお昼前の新幹線だと言うのに半分程の席が埋まっている。

グリーン車には殆ど人が乗っておらず、老夫婦が二組並んで座っている他は私だけのようだった。

席に座ると、駅の本屋で買った文庫本を直ぐに読み始めた。朱音さんが出る映画の元になった作品である。物凄く興味が有るのだ。

新幹線が動いた事にも気づかず読んでいたので、車内の移動販売がやって来た時は少し吃驚する。本を一度休んで、お茶を購入する。折角、椿がお弁当を作ってくれたのだから忘れないうちに食べておこう。豪華な幕の内弁当にデザート付きだ。私の好きな寒天で作ったコーヒーゼリーに顔が綻ぶ。(椿、ありがとう)両手を合わせて合掌する。


弁当を食べ終え、二回目の車内販売さんからホットコーヒーを購入して読書に没頭する事約九十分。

ギーーーーっと言うブレーキ音と共に、前につんのめる様に車両が急停止した。







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