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29.上京




「小梅ー 忘れ物は無いー?」

「んー 沢山忘れてそー」

「何よそれ」

「だって、私の愛車が持って行けないなんて!辛いよー」

「一カ月でしょう。帰ってきたら沢山乗ればいいのよ」

「住もうかな」

「それは止めて。臭いから」


今日から一カ月間、東京へ行って来る事になった。

「プラムボックス」のアルバムが出来上がったので、音楽会社との正式契約の為である。

全ての事は椿に任せきりなのだが、契約だけは来て欲しいとの事で、約一カ月マンスリーマンションに滞在する。

本当なら秘密で作成するはずだったアルバムなのだが、春臣さんが行方不明の為に完全な秘密には出来なかったらしい。

私自身はメディアに出る事は無いが、この先東京での音楽活動をする為の場所探しも必要だと言われ、物件探しも兼ての東京行きとなった。


椿の車に荷物を積み込み、手伝ってくれたさくらにお礼を言う。

「ありがとう。これ先行でプレゼント」

「なによー・・・!小梅の?」

「うん。出来たてのCD」

「ありがとう!直ぐ聞きたいー!」

「恥ずかしいから、後にして」


「じゃー行くよ」

「いってきまーす」

「いってらっしゃーい」

三人三様で手を振って、東京へ向かって走り出した。



東京までは高速道路を使って約三時間の道程だ。

ましてや椿と二人、何も話さない訳が無い。

「痩せたな」

「少しね、体調崩したから」

「毎日死ぬほど食わしてやるよ」

「それは勘弁してくれ。何事も程々で丁度良いんだよ」

「・・・ブレスレットはして無いのか」

「うん。無くしちゃったんだ」

「そうか・・・ハルさんも行方不明で連絡が取れないしな」

「そうだね。機械には触らないから大丈夫だと思うよ」

「なあ小梅、ハルさんから連絡は無いのか」

「桜坂さんから私に連絡は来ないと思うけどな」

「携帯電話を貰ったんだろう」

「貰ったけど壊れちゃったもの、無理なんじゃないかな」

「・・・何かあったのか」

「・・・何も無いよ」

段々と雰囲気が悪くなる車の中、外の景色が変わり始めた。


田んぼや畑が続いた景色が、段々と街並みに変わり、商店街に変わり、ビルの立ち並ぶ大きな都市に入って行った。ビルとビルの間を高速道路が交差する様子に唖然としたが、どの道路も渋滞して車が詰まっている光景に笑ってしまった。

さっきまで携帯電話をハンズフリーにして冬樹さんと話していた椿が私を見て首を傾げた。

「あれ、渋滞して車が詰まっているのを見たら、おもちゃ屋でミニ駐車場のキットに並べられたミニカーを思い出したんだ」

椿も窓の外を眺めて、ふふっと笑った。

「よくおもちゃ屋に遊びに行ったよな」

「行ったねー。あの頃は何だっけ・・・たまごっちだったっけ?」

「ホワイトのレアが欲しかったよなー」

「結局買わなかったんだっけ?」

「嫌、買ったんだ。お前に内緒で水色を買ったんだよ」

「あーずるいな」

「しょうがないだろう、あの頃のお前は何でも触って直ぐに壊してたんだぞ」

「あーそれでも何だか悔しいな」

「・・・お前、少し変わったな」

「・・・そう?」


都心のマンションの駐車場に入り、エレベーター前に車を止める。

丁度エレベーターが降りて来た所で、エレベーターが開くと冬樹さんが乗っていた。

「グッドタイミングだな」

そう言いながら、台車を押して降りて来た。

台車の上に持って来た荷物を全て積み、椿が車を駐車して戻って来る。

三人でエレベーターに乗り込むと、冬樹さんが最上階のボタンを押した。

「最上階ですか」

「ここしか空いて無くてね。凄く広いし景色も最高だよ」


月が近くに見えるかな。


ドアはカードキーで開けて、やたらに広い玄関に靴を脱ぐ。私の薄汚れた白いスニーカーが場違いな感じに鎮座している。

椿と冬樹さんもスニーカーだけど、どこぞの有名ブランドっぽくておしゃれに見える。

真っ白いふわふわのスリッパに足を入れて、向かった先はリビングである。

「おー どこぞのモデルルームだよ」

「好きに使ってね」

「うーん。触れない気がするけどな」

「触らなきゃ生活出来ないぞ」

「家賃、高そう」

「会社持ちだから気にするな」


でっかいソファにでっかいテレビ。

広いキッチンに広いお風呂。

やっぱりベッドもでかかった。


角部屋なので東南の方向が全面ガラスである。

下を覗いて見たけど、薄暗くなっていて何も見えない。


「僕ら、まだ仕事が残ってるから帰るよ」

「うん。ありがとうね」

「冷蔵庫の中に色々入れて置いたから、適当に食べろな」

「作ってくれたの?嬉しいけど、過保護過ぎだし」

「五月蠅い。嫌なら食うな」

「嫌、食べるし」

「明日は昼過ぎに迎えに来るから、それまで寝ていろよ」

「はーい」


椿達が行った後、直ぐに冷蔵庫を開けて見る。

タッパの容器が隙間なく詰まっていた。

そして一番手前には、大好きな椿お手製プリンがどんぶりの中でぷるぷるしていた。

丁度三時だし、おやつだと思って、外を眺めながらプリンどんぶりを食べた。

そのままずーっと眺めていたら、日が傾き始めオレンジ色の夕焼けが一面に広がった。

日が完全に沈む頃には道路の街灯が付き、車のライトが光りながら流れて行く。

ビルの所々にも明かりが付き、仕事をしている人の影が少し見える気がする。

でも、それらが美しいと感じなかった。

まして、高層マンションの最上階から見下ろす形では、どうにも不自然過ぎた。


離宮の庭が、とても懐かしい。


リモコンのスイッチで窓のカーテンが自動で閉められた。

凄いなーと感心していたら、そのリモコンでお風呂のお湯も張れると気が付き、早速自動お湯張りのスイッチを押した。

夜になってもお腹の中がプリンで満たされた状態だったので、お湯に浸かり、頭と体を洗った。

後は、する事も無いので早々にベッドに潜り込んで寝る事にした。


黒ちゃんは連れて来なかった。愛車のミニとお留守番していると言われてしまい、しぶしぶ家に残して来た。

やっぱり連れてくれば良かったなと思うけど、黒ちゃんも慣れたあの部屋が居心地が良いのだろう。


さて、これから一か月、東京巡りを楽しみましょう。








たまごっち。懐かしいですね。私は黄色いたまごっちを持っていました。何度天国へ召された事か。(笑)

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