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27.東京




翌日の昼過ぎ、庭を掃く音で目が覚めた。

「おはようございます」

久しぶりに見る花梨さんの笑顔である。

「おはようございます。私も手伝いますね」

脇に置いてあった麻袋を手に取り、掃き集めた紅梅の花びらを袋に詰めて行く。

詰め終わった麻袋三袋を脇に寄せ、一息付いた時にお腹の虫が鳴った。

「グーッ・・・・キュルルル・・・」

随分と盛大に鳴ったモノだと感心して、お腹を摩って笑ってしまった。

「お食事が用意されておりますので、お茶と共にお持ちします」

困った顔をしながら、さっさと台所へと消えて行った花梨さんは、あっという間に大きなお盆に沢山の小皿を載せて戻って来た。


「小梅様、お痩せになりましたね」

「そうですかね? ああ、夜桜が美しくて晩酌をしておりましたから」

「お一人で、ですか?」

「いえ、藤森のおじいさんと一緒です」

「まったく! 藤森様はお酒が好きですから心配はしていたのですが」

「楽しかったですよ。花梨さんも一度お誘いすれば良かったですね」

「私が居たら、小言ばかりで楽しく無かったと思いますよ」

「あははは それはそれで見て見たかった」


私の心配をする花梨さんの方こそ、少し痩せた様に見えた。

「今夜は、私がご一緒致します」

「それは、仕事としてですか?」

「違います。本日はお休みを頂きましたので、こちらへ参りました」

「それは嬉しいですね」

「私では話し相手にもなりませんが、ご用が有ればお言い付け下さい」

「言い付けですか。言ったら必ずしてくれますかね」

「はい。どの様な事でも」

「・・・花梨さんは家へお帰り下さい」

「・・・小梅様、それは」

「家で、子供が待っていますよ。椚さんにそっくりな男の子がお母さんに会いたがっております。今日はお母様のお誕生日なのでしょう?お花のプレゼントを用意してますよ」


「あ・・・あの、小梅様は、先がお分かりになるのですか」

「はい」

「では、桜都での事は知っていて何もおっしゃらなかったと」

「はい」

「何故、その様に落ち着いていらっしゃるのですか」

「私にはこれから起こる事を変えられません。只見ているだけです」

「小梅様!それでは余りにお辛くありませんか!」

「花梨さん。今日はありがとうございました。お会い出来て本当に嬉しかったです」

「・・・小梅様・・・」

「今夜は一人にさせて下さい。【闇の月】を戻す儀式がありますから、静かな方が良いのですよ」

「・・・私はご一緒出来無いのですね」

「ごめんなさい」

「・・・では、明日、明朝参ります。その時には私の言う事を聞いて下さい」

「・・・分かりました」



花梨さんが車で帰る所を見送り、今夜の為に早目にお風呂に入る。

花梨さんが用意してくれたお風呂は、昨夜の紅梅の花びらで埋め尽くされていた。

「花梨さんらしいな」

嬉しくて、楽しみながらお風呂に浸かり、少々逆上せてしまった。

寝室へ行き、今日最後の着物を選ぶ。

黒地に青い蝶の刺繍が舞っている着物を選ぶ。帯は青い帯、足袋も青と決めていた。

今日は半襟にも気を遣い、水色の半襟が付いた襦袢を選んでみた。

鏡の中の自分は少年の様で、青白くやはり痩せたのだと実感する。



「うさうさ、暗くなって来たから結界を張っておいてくれる?」

「ああ、分かった」

流石に今夜は、藤森のおじいさんや婚約者さんが一緒では困るのだ。

そう言えば、婚約者さんの名前を聞かなかったと思い出す。敢えて聞かなかったのだが、やっぱり聞いておいた方が良かったかな、等と今更な事を考えている。


私が桜都に来たのは、うさうさに呼ばれたからで、それ以外はおまけの様な物だ。

水仙さんは気が付いて居ない様だけど、春臣さんの部屋を掃除していた水仙さんにうさうさが呼びかけ、私を連れに来たと言う事は本人の口から聞いたから間違い無い。

その時一緒にいた春臣さんも驚いていたっけ。

男装だけど着物を着れたのは嬉しい事だったし、茶屋町を歩くのも楽しかった。

いろんな動物にも会ったし、沢山の花を楽しむ事も出来た。やっぱり一番なのは昨夜の桜の木に咲いた紅梅だろうな。

家に帰ったら小説でも書いてみようかな。くすくす



まだ月が昇るには早いので、屋根裏の研究室へ向かう。

ここには旧式のパソコンが置いてあり、それには沢山の機械が繋がれている。

初めはどれが何かさっぱり分からなかったが、使っている内にいろいろと知り得た情報もあった。


春臣さんの日記、とまでは行かないが不思議な体験をした時のメモが残っていた。

まず、一つ目は私がこの地に飛ばされて来た時の事なので説明はしないが、もう一つ驚いた事を発見した。

六年前に、春臣さんが日本の東京に飛ばされている。

それも東京のJR地下通路で、山手線の上り通路付近に飛ばされた様だ。

その時、JR構内は停電により真っ暗で、パニックになった人達の波に押されて何処か分からない出口へ行ったらしい。

JR職員の誘導で辿り着いた先は、丸の内の出口で背の高いビル群と広い道路に驚いた様だ。丸の内は割と新しい街並みなので綺麗なのだが、寂しい感じがする。(私だけかな)


春臣さんが飛ばされた時間が夜だった為、着物姿では大層目立つ筈だが、あの停電の中では余り騒がれずに済んだらしい。

訳も分からずその辺をとにかく歩き、道路の至る所にある案内板を見つけては自分の位置を確認していた。そこで覚えたのが、「東京」「銀座」「吉野家」らしい。

結構な時間を歩いたので、玄関の開いていたビルのフロアにあった椅子に座って休んでいると、声を掛けられた。

「君、スカウトされたの?」

そのビルは、今在籍して仕事をしている音楽会社で、声を掛けたのは社長だった。

スカウトの意味が分からなかったらしいが、取り合えず「はい」と返事をした彼も大した物だ。

会社としてはビジュアル系で売り出したかったらしいが本人が嫌がったので断念。しかし、最先端の技術力を持っている彼に羨望の眼差しが降り注ぎ、技術者として働く事になった。(これは後日談だ)


その日は、何度もカメラの前に立たせらてカメラテストをしていた様だ。

「うんざり」と言う太文字のメモを見て、思わず大笑いしてしまう。

その後、休憩と食事を貰い、部屋に一人だったのを良い事に外へ出て行った。

少し歩くと銀杏の葉が沢山落ちていたと書いてあったので、多分秋だったのだろう。

少し肌寒いが気持ちが良いと感じているらしい。

そのまま散歩を楽しみ、東京駅へ戻って来たのは夕方近くだった。

自分が居た場所を見て見たくて駅の中へ入ろうとしたが、まだ復旧されておらず駅前の広場へ行った。

其処では若者たちがギターを弾きながら歌を歌っていた。

それを遠巻きに見ていた時に、「カチカチ」と音がし周りの明かりが付きだした。

その明かりを見ていたら、この部屋に戻っていたと書いてある。


「謎の東京駅大停電」

の文字が思い出される。

六年前、私が東京へ自分の体の検診で行った帰りに引き起こした大停電だ。

検査結果に異常が無く、普通に健康体だった自分に落ち込んだ時の事だった。

今から思えば何て不謹慎な考えだったかと思うが、あの時は何かの原因が欲しかったのだから仕方が無い。

検査結果の紙を握りしめたまま向かった駅の改札口。

切符だけを機械に通せば良かったのに、アホになっていた私は素通りしてしまい、機械に阻まれてしまった。

とっさの事に対応出来なかった私は、思い切り両手を改札の機械に置いてしまったのである。

「ボン!」と言う大きな音と共に真っ暗闇になってしまったのだった。

あの時は多分、蓄電していた電池がマックス状態で、それを全て放出したような感じだった。

悪い事をしたなと凄く反省したけれど、自分も帰れなくなってしまったので、駅近くのビジネスホテルに泊まり、翌日の復旧する夕方まで映画をみたりして過ごしたのだった。


「やっぱり道が出来てたんだねー」







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