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23.毒薬




「秋乃様は現関白の態勢に変わられてから、半年程で「影」をお辞めになりました。その後を引き継いだのが私です。私は前関白様の頃より城内で働き、影達の補佐を行っておりましたので、適任だったのでしょう」


秋乃様は前関白に傾倒していたため、その考えから脱出する事が出来ないでいた。

「影」でありながら、関白に物申し、大臣達を罵る姿は辛辣過ぎた。

それを何時も庇っていたのが大臣の若様だったのである。

城内の「影」達を取りまとめていた椚も、秋乃様の逸脱した行動に何度か苦言を言っていたが、聞く耳を持たなくなっていた秋乃様に、遂には城内からの撤退を申しつけたのである。


若様は行き場の無くした秋乃様を婚姻と言う形を取ってお屋敷に住まわせ、前関白(姉様)の菩提を弔う役割をお与えくださった。亡き者を弔うのは家族や親族とされている慣わしが根強く、それ以外の人は弔い人になれない事が多い。

それからの秋乃様は大変落ち着かれ、若様と仲睦まじくおられることが増えて行った。

そんなある日、秋乃様の元に一通の文が届き、それから数日後に知り合いに会いに行くと言って出かけて行った。

その日の夕方近く、裏玄関で庭木の手入れをしていた者が玄関先で下駄の音が聞こえたので、誰かお出かけなのかと思い其方を見れば人が倒れている姿が目に入った。


倒れていたのは秋乃様で、毒を飲まれたとの医師の見立てたがされた。

内臓の洗浄が行われたが、既に体中が毒に侵されており、後一時も持たないと言われた頃に若様が駆けつけられた。

その後、若様が秋乃様を看取られ、姉様と同じ寺の片隅に埋葬した。


若様は秋乃様がお出かけになる時は普通に歩いて行かれ、戻る時には突然玄関にテレポートして来たのを不思議がられていた。秋乃様に届いたと云う文も見つからず、誰からの文なのか誰も知らなかった。なので秋乃様が使ったテレポートの軌跡を追って、真相を究明しようとされたが何も分からず、自害だったのかそれとも他の誰かが関わっていたのか不明のままとなっている。


それから二年が経った時に、若様は突然大政大臣の座を辞任しこの離宮で暮らすようになられた。此処では小さい頃より好きだった機械いじりに没頭し、数々の便利な物を作られた。その代表となるのが、「ラジオアイソトープシリーズ」である。

先日見た、小さいカードを読み込んで動画を再生する機能が評判で、持っていない人は居ないと言う程の定番になっている。元々あった記憶媒体はガム一粒と同じ大きさで、動画や画像を記録するメモリはとても大きかったが値段も高額である。

安値で買え、五分程度の動画の再生に特化し、カードの半分の大きさのスティックタイプにした事によって、名刺の様な使われ方が流行り人気になった様である。

今では柄物、写真等と見た目もカラフルで、定番の商品となっている。


大臣を辞任してから一年程経った時、誰にも何も言わずに突然姿を消した日があった。

仕えている者達に何も言わずに出かける事が無かった方だったので、皆で心配していたが次の日には戻られていた。皆が何処へ行かれていたのかを聞いても、笑うだけで答えは返って来なかった。

その日を境に頻繁に出かける事が多くなり、一月も経たない或る日、自分は旅に出るから暫く戻らない、皆も本宅へ戻るようにと言い残し姿を消した。


初めのうちは心配していたが、携帯電話もメールも通じているので直ぐに何時もの日々に戻って行った。


「毎年、新しい年を祝う日にはお戻りになられておりますので、それ程心配はされておりませんでした。しかし、この度は急なお戻りと【無月】と言う特別な時でしたので小梅様も警護させて頂きました」

「そうでしたか。詳しい事も知らずにのんびりしておりました。今までありがとうございます」

「いえ、最後までお仕え出来ません事を残念に思います」

「今は藤乃さんが心配です。私はのんびりしておりますのでお気使い無く」

「御用が有る時は、藤森様に言付けを申して下さい」

「分かりました。では、おやすみない」

「おやすみないませ」

それが最後の言葉となった。



寝室へ行くと、やはり大きなベッドが置いてあり、その枕元にはうさうさが鎮座していた。

「誰にも何も言わぬのか」

「言ってもどうにもならないよ。かえって不安にさせる」

「そうか」

「うん。心配は要らないよ」

うさうさを抱いて、布団へ潜り込む。頭まですっぽりと。

左手をうさうさの左目に置き、そのまま眠りについた。


明日からは静かな時間を過ごせると思っていたのだが、思わぬ珍客に楽しみが増えて行った。

朝目覚めると、足元が何やら重い。

もぞもぞと足を動かすと、ポンポンと何かがぶつかる感覚がする。

布団から顔を出して足元を見ると、猫が尻尾を振りながらこちらを見ているのに出くわした。

ハルオミさんのお屋敷で最初の頃に見たサバトラの猫にそっくりだった。

「君の寝床だったのかな」

半身を起して猫の喉元を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らして気持ちよさそうに目を細めている。暫くの間、猫とじゃれて遊んでいたが、外からの人の声に耳を立て、ベッドから降りて何処かへ行ってしまった。

「ご飯の時間だったのかな」

自分も朝食を食べ、庭を眺めた後に散歩に出かけた。


小高い丘の上には大きな木が数本立ち木陰を作っていた。木陰の下ではうさぎが草や花を食べている最中だったらしく、近づく私に耳を立てて警戒する。

「ごめんね」と一言詫びて、別の道を歩き出す。

その先には、今度は泉が有り、鹿の家族が水を飲んでいる最中だった。

彼らも水を飲むのを止めて警戒し、こちらをじっと見つめている。

「ごめんね」と詫びて、来た道を戻る事にした。

離宮まで戻る道では何故か女性が数人待っており、またあのカードを手渡された。

今は読み取りの機械が無いから困るのだが、有っても見ないだろうから処分に困った。


お昼を過ぎた時、そう言えばこの離宮を探検して無いなと思い立ち、明日からの遊び道具を探す感じで探検を始めた。

屋根の高い作りなのだが上に上る階段は無く、五部屋を有する平屋造りの構造である。

ベッドが有る寝室は一部屋、机や本が有る書斎が一部屋、食事をする為の円卓と椅子が五客有る食堂が一部屋、後の二部屋は十畳の畳敷きで何もなく客間の様子であった。

「明日は取り合えず書斎で読書かな」

書斎には意外と多くの本が有ったので、少し興味が引かれていた。

一度、庭に出て離宮をぐるりと見回してみる。

「あーれ?」

屋根の直ぐ下に小さい小窓が二つ、並んで見える。

その下に有る部屋は寝室なのだが、寝ている部屋に階段らしき物は無かった筈だ。


寝室に入ってみる。

天井を見てみるが、屋根裏へ上る為の梯子も無いし扉も無い。

何か仕掛けが有るのかと考えて見るが、ベッドと箪笥しか無い部屋である。

「むー」

ベッドに腰掛けて庭を見る、と有る事に気が付いた。

此方から見ると、障子が五枚有る。

でも庭から見た時は四枚だったと思う。

庭からの日差しを受けて白くなっている障子が四枚。

その右隣に日差しを受けずに黒っぽいままの障子が一枚。


近づいて見るが、他の障子と変わった所は無い。

取っ手に指先を入れて、左、右と力を掛けてみるがどちらにも開かない。

「違ったか」

左手を障子に当てて軽く押し、溜息一つを吐こうとした時音が鳴った。

「カチ」

障子がスーっと下へ吸い込まれる様に降りて行き、目の前に階段が現れたのである。

「ビンゴ」


階段は木の階段で、昔、じいちゃんの家の屋根裏部屋へ続く隠し階段と似た作りに見えた。

少しだけ急な角度の階段を上って行く。時々ギシギシと鳴る音が懐かしく感じる。

階段を上った先には、日の光がたっぷり当たった研究室があった。







連休前にまとめて投稿しました。楽しんで頂ければ幸いです。

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