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2.プロローグ




「・・・・・め、うめ、こ・う・め!!!」

バサッ と言う音と共に、私の暖かい分身が何処かへ飛んで行った。

「プリーズカムバック、マイフトン」

夏も終わり、そろそろ秋を迎えるこの頃は、朝晩めっぽう涼しくなって来た。

「いーかげんに起きなさいよ!もう昼過ぎてるってば!」

昨夜、いやいや今朝まで起きてたからまだ眠いんだよねー。

「んー 起きる、起きるよ、 お願い寝かせて」

お布団の中は天国だと思う。

「・・・梅、何か忘れてない?」

「・・・ワット?」

「・・・・・」

「・・・! すみません、今すぐ着替えますので、下でお待ち下さいませ」

がばりと起き上がり、ベッドの上に正座し両手を着いて頭を布団に押し着けて謝る。

「珈琲入れといてあげるから早く下りてくるんだよ」

ふふふ と不敵な笑いを携えながら部屋を出て行くさくらにサンキューと言って飛び起きた。


さくらは高校の友人。高校を卒業後、都会の理容専門学校へ進学し卒業して直ぐに帰ってきた。地元の美容室に勤め、経験を積み腕の良い理容師になったのだけど、先輩達の妬みや嫌がらせに対して何も言えない店主に業を煮やし、三行半を叩きつけて店を出てきたと言う強者である。独り立ちも考えたようだけど、その頃丁度私が一人暮らしを始めたばかりで、なんだかんだと大変面倒を掛けてしまい、独り立ちを後回しにさせてしまったのである。


「楓さんは?仕事?」下へ降り、さくらからコーヒーを貰う。

「夜勤明けで寝てる。今夜は部署の飲み会だから泊まって来いって言ってくれた」

「相変わらず優しいよねー羨ましいなー」

楓さんとはさくらの旦那さん。さくらが三年前に頼まれて始めた仕事(高齢者の施設やホームを回って洗髪やカットをする)それがとても自分の性格に合っていたらしく、何軒かの施設と契約を結んで仕事としている。その施設で仕事中に火災報知器が作動し、消防車が来て大変な騒ぎになった事があった。その時の消防士の一人が楓さんで、きびきびとお年寄りを誘導するさくらに惚れたのだとか。さくらの方も楓さんには好印象だったらしく、お付き合いはスムーズに進んで一年後には結婚となった。楓さんは頭が良い人で、めちゃくちゃ男前である。

さくらがモデル並みのスタイルと顔を持っているので、二人で歩くと見惚れますよ。


「今度の週末に来るの?椿さん」

「んー 来るってさ」

昨夜、さくらにもメールをしておいたのだ。

(時間があれば、家の掃除を手伝ってくれませんか?椿が襲撃予定です)

「実家へ行かない所が椿さんよね。菊ちゃん夫婦に遠慮してるのかな」

「ううん。椿母から私の家に行くようにと言われてるみたい」

「あー見合い相手連れてね」うふふふと笑ってます。

「本当に勘弁して欲しいよね」とコーヒーのお替りを入れながら溜息を付いた。


その後30分程お互いの近況報告をして、家の中の掃除を始めた。

私は基本、自分が使う所しか掃除をしておりません。

客間の窓を開け、掃き掃除、拭き掃除。

押入れから寝具を出して、日に当て、日が落ちる前に取り込む。

これを3部屋分こなす。大抵2・3人で来る事が多いからだ。

一人でするには大変なので、毎度さくらに手伝ってもらっている。


日も傾きかけた頃、大体の掃除が終わった。それぞれの部屋の押入れの戸は開けたままにしておき、その前に取り込んだ布団を重ねて置く。布団に顔を埋めるとお日様の匂いがして眠りの世界へと引き込まれそうになるが、またさくらに何を言われるかと思い当り布団から離れておく。

ふと、空のはずの押入れの中に何かが有るのを見つける。

「・・・ん? 何だろ・・」手に取って見たのは黒い箱。大体石鹸位の大きさで、一つの広い面は液晶画面の様につるつるしていて、その面の隣り合わせた小さな面(両側)には小さな穴が沢山開いている。それ以外の面は何も無く、スイッチもボタンも何も無い。

「何だろう? テレビ? ラジオ? でもスイッチ無いし、電池入れる所も無いな」


「梅―、終わった?」全部の窓を閉めて私の所へ来たさくら。

「忘れ物かな・・・前来た時の」と黒い箱を見せて見る。

「何だろうね。来週聞いてみたらいいよ」そう言って、返して寄越す。

「だね。シャワー浴びてご飯食べに行こうか」

「賛成!竹さん所に行こうよ」

「あー お腹空いた!」


先にシャワーを使うようにさくらに言い、私は自分の部屋へ着替えを取りに行く。

黒い箱はキャビネット上のラジオの隣に置いて、着替えを持って下へ降りて行く。

戸を閉めようとした時に 〈ジジ・・・〉と音がした様に思い、部屋の中を覗き込むが何も変わった事は無い。気のせいかな、と思いパタンと静かに戸を閉めた。

その後、黒い箱のつるつるした画面が青く光り、数度点滅した後すーっと消えた。




「やっぱり先輩のご飯は最高に美味しいですね!」ワインを片手にとてもご機嫌なさくらである。

「さくらちゃん、嬉しい事言ってくれるねー」竹さんコト斉藤吉竹さんは高校の先輩で、グリルサイトウの二代目だ。この町では一番の評判のお店で、隣町からもお客さんが噂を聞きつけて来るのだとか。今はお父さんと二人で切り盛りしている。

「本当に美味しいんだからこれ以上の賛辞が思い浮かばないよ」

私とさくらの頭をぐりぐり撫でて嬉しそうに厨房に帰って行く。

「私さ、先輩の事、好きだったんだよねー」

「んー 知ってるよー」

「やっぱり知ってたか」

くすくすと笑いながら、思い出話で盛り上がりつつ、さくらのワインも空になったのを確認して帰る事にした。

「ご馳走様でした」酔ったさくらは先に車に押し込んでおき、会計に戻って支払をする。

「いつもありがとうな」笑ってレジを打つ竹さんから、明日の朝ごはん用サンドイッチを頂き感謝する。

「こっちこそ!いつもありがとうですよ」そう言って、奥のお父さんにも会釈をして店を後にする。戸が閉まる間際に奥の方から「またおいで」と聞こえてきて、思い切り手を振って車に乗り込んだ。今日はさくらへの感謝を込めて運転手と決めている。


家に付く頃にはさくらは熟睡モードに入り込み、何とか起こして家の鍵を出してもらい、ふらふらする足元を気にしつつ私のベッドへ転がす。家の鍵はさくらと椿母に渡してある。4年前に。本当にお世話になっているのだ。(未だに面倒を掛けている自分に情けなさが押し寄せるけど)



床の上に布団を敷き、ラジオのスイッチをオンにしてボリュームを小さく絞る。

一時間後にはオフになるようタイマーもセットしておいた。遅くに起きた割に、結構体力を消耗した一日嫌半日だったと思い布団に潜り込んで目を瞑る。

うとうととし始めた頃、何だかやけにラジオが五月蠅く鳴っている気がする。

おかしーなー、ボリューム絞ったはず・・・・・

「あんさん、ちょっとあんさん、起きておくれやす、もーそこの嬢ちゃんって」

「!!!?」がばっと起き上がり、ラジオに目を向けるけどラジオからは静かな曲が小さな音で流れてる。 と、その横にある黒い箱が青白く光っているのに目を奪われる。

「やーっと起きてくれはったわ。ホントどないしよ思うとったんよ」

「・・・・・・・・・・」

凄い勢いで起き上がり、ラジオのスイッチをオフにする。

「嬢ちゃん!スイッチ切らんとい   」


スイッチに手を掛けたまま暫く動かないでいた。青い光も再び付く気配が無い。

どっと疲れが押し寄せ布団へ潜り込む。日干しをしたからお日様の匂いがまだ残っている。


あー 疲れたせいで関西弁が聞こえたよ。







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