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14.無月




「ごめんなさい、あに様」

「謝る相手が違うであろう。水仙」

「小梅様。申し訳御座いませんでした」

「はい。分かりました」


私の部屋に現れた綺麗な女性と、一緒に寝ていた可愛い少女は同一人物だった。

私が幾ら少女と一緒に寝ていたと言っても信じてくれる訳が無かったのは、彼女が私よりも年上で私よりもふくよかである為だろう。顔が小さく色が白いので、寝顔だけを見た私には少女にしか映らなかった。

まぁしかし、お化粧をした後と前とでは偉い違いに驚かされてしまったのだが。

私を眠らせてこちらの世界に連れて来たが、私が何時まで経っても起きないのでそのまま一緒に寝てしまったと言う事らしい。

起きる訳が無いのだよ。昨夜は一睡もしていないのだから。


しかし・・・何と言うか・・・絢爛豪華だねえ。

朱塗りの柱に金の鳳凰飾り、天井も朱塗りの格子が嵌め込まれている。壁紙は鳳凰舞う桐唐草文様とかってやつだと思われるが、白地に青い模様なので格式を感じる品の良さが伺える。執務用の机は使い込んだ朱塗り、調度品も同様の物が置かれ重圧感が有る。

今座っている椅子も背が高く深く座れる長椅子で、壁紙と同様の柄に優美に縁どられた背面と脚はこれも朱塗りだ。この長椅子がエル字型に二脚、一人掛けが三脚、中央にはガラスのテーブルが有る。


私の斜め前に座る水仙さんは、ハルオミさんの妹だと紹介された。すでに結婚しており隣の町の富豪へ嫁いでいるが、旦那さんが長期出張中で不在の為、遊びに来ていたと言う話だ。彼女は薄い若草色に蓮の花があしらわれた着物を着ている。帯は無地の朱色。黒くて長い髪は耳の下で一つに結ばれ前に垂らしている。足元は朱色の足袋を履いている。

私の横、つまりは隣に座っているハルオミさんは、ジーンズにTシャツでその上に黒いジャケットを着ている。足元は黒地に白のドットの靴下。

この二人は、雰囲気的にこの部屋と違和感が無いのだが、私は「I LOVE TEXAS」と大きなロゴ入りTシャツ(母のお土産)に膝下までのハーフパンツと言う部屋着で素足である。何と言うか情けなくて居心地が悪い。


居心地が悪いのは他にも理由が有る。

兄妹、二人とも何も話さず黙っているのだ。

私は部外者だよね?

「あの、別に問題無ければ帰っても良いでしょうか」

てか、帰りたい。自分の部屋へ。帰れるのであればなのだが。

二人同時に私の方に顔を向け、やや困った顔をして兄妹で見つめ合っている。

「悪いのだが、直ぐには帰る事が出来ない」

「本当に、申し訳ございません」


【無月】だから帰れない。

この世界では一年の内の三週間だけ月が出ない。

その月が無い三週間が含まれる月を【無月】―むつきーと呼ぶという。

それが今日から始まるのだと教えられた。

確かに昨夜は細い月が出ていたのを覚えている。ほたるを見ながら細い月も綺麗だなと思って見惚れていたのだ。


この世界の魔力は月の力に関係しており、無月の期間は魔力が減退する。

テレポートを行使するにはパラメーターが60以上必要なのだが、この期間でそれだけの魔力を持つ者が居ないという。

ハルオミさんは何処からか、小さい黒い箱を取り出し手の上に置いた。

それは黒ちゃんの小型版で、パラメーター表示は30の値で止まっている。


「あに様が渡された携帯電話の持ち主とお話がしたかっただけですの。その日の内にお帰しするつもりでしたのに、私の考えが浅はかで御座いました」

項垂れる姿に何と言って良いのか分からない。だって三週間は長いのだ。

でも、今更足掻いてもしょうがないのも分かっているし・・・しょうが無いのだ。

「しょうがないよ。お布団が気持ちよくて寝過ぎた私も問題だしね。桜都見物でもしてみるかな」

「お仕事にも差し障りがございましたでしょうね」

「その心配はいらぬ。仕事はしておらぬからな」

「え?何で知ってるの?」

笑っていて何も答えてくれない。

ああ、そうか、黒ちゃんから聞いて知っているんだ。

「無月の間は私が小梅様をお守り致します」

「えー守るなんて大げさだよ。放っておいて良いからさ」

「そうは行かないのだ。小梅は私の傍に置こう」

「では、お忙しい時は私がお世話致します」

「そうだな。頼むぞ」


話がまるで見えない。

桜都という所はそれ程物騒なのか?何が居るんだ?何があるんだ?

口元まで出かかったのだけど、暫く滞在する間に分かるだろうと思い、今は黙って見ているのが良いだろうと噤んでおく。

隣の部屋へ続く襖が開き、食事の案内がされた。

丸い円卓に椅子が五脚。三人分の朝食が載せられているが、全てを食べる事が出来るだろうかと思う量の皿が並んでいた。


「美味しいー!」

結局全ての皿を空にしてしまった。

考えて見れば、昨日の朝起きて(寝てないけど)食事をする前に眠らされてそのまま今に至るのだから、丸一日食べていなかった事になる。お腹も減る訳さ。

水仙さんは隣で甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのだが、あまり食べていないようだ。

「水仙さん。食事をして下さい。ね?私は大丈夫です」

私のお茶を入れようとして立ち上がった水仙さんは、困った顔をして立ち竦んでいる。

「誰もお前を責めておらぬよ。ゆっくりと食事を致せ」

ハルオミさんの言葉に一つ頷き椅子に座り直して食事を始めた。


途中、ハルオミさんが退席する時、水仙さんが椅子の脇に立ち頭を垂れて見送った。

ハルオミさんはそんなに偉い人なのか?

聞いた話では元官僚だけど、今は隠居暮らしだと黒ちゃんが言ってたけど。

何だか、面倒な事に巻き込まれたのかなーと溜息を付いてしまった。


食事が終わると別の部屋へ案内された。

長い長い廊下を歩いて着いた先は、二十畳は有るかという広い部屋だった。

「こちらが小梅様のお部屋になります」

黒光りする太い柱に漆喰の壁、窓は大きくその向こうには広い庭が見える。

目の前には螺鈿―らでんーの机と同じ椅子。奥の方には黒い織りの大きなソファセットが鎮座している。

その奥へ手招きされ「こちらへ」と勧められた先には襖があり、開いた場所は寝室となっていた。

真ん中に在るのは天蓋付きのベッド。それも洋風では無く王朝風で、黒塗りの丸い四本の支柱、それをぐるりと囲む様に黒地に青い蝶の刺繍が散っているカーテン、その内側には水色のレースのカーテンが見て取れる。


後ろで襖の閉じる音がする。

「小梅さま、お召し物を替えさせて頂きます」

ベッドの枕側両サイドの戸が全て開けられた。そこはクローゼットになっており沢山の着物が入っている。

「お好きなものをお選び下さい」

「好きな物と言われても・・・・・分かりませんので・・・」

「それでは、私がお選び致します」

水仙さんは始めから決めていた様子で着物やら帯やらを取り出している。


「これにお着替え下さい」

と手渡されたのは白い着物、肌襦袢と云った類の物だと思う。しかし絹なのだろう、さらさらしていて胸元が落ち着かない。

「あの、肌着とかって有りませんかね」

「肌着ですか・・・素肌に直接着るものは、これなど如何でしょうか」

手渡されたのはブイネックのランニングシャツである。

多分だけど、誤解されたままなのだろうか。

でもまぁ、無いよりは良いかと思い着用する。存外ぴったりとして落ち着く。

「着替えられましたら、こちらへ来て下さいませ」

言われるまま水仙さんの所へ行くと、手際よく着物を着せてもらい、椅子に掛けて足袋まで履かせてくれた。


「あに様。お連れ致しました」

「入れ」

障子が開いた先には、和服姿が凛々しいハルオミさんが待っていた。








昨日は中秋の名月でしたね。家からはまん丸いお月様がくっきりと見えました。なんだか、先日亡くなった猫が飛び跳ねて遊んでいる姿が思い浮かんでしまいました。もうすでにうさぎとお友達か?と突っ込みたくなりましたが、あの子なら然も有りなんって気がしてしまいます。

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