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11.打上




ジリリリリ・・・ジリリリリ・・・ジリリ パチと止める。

全然寝たりない、でも仕事に行かなきゃ。

昨日はシャワーも入って無いから、まずはシャワーに入って目を覚まそう。

体を動かしているうちに段々目も体も覚めてくる。

何時もより少し遅い出勤だが、それでもまだ余裕がある。

玄関に出て靴を履き、車の鍵を手に取ると「いってらっしゃい」の声が掛かる。

振り返ると眠そうなハルオミさんが立って居た。

「はい。行って来ます」


本日の仕事は週に一度の保険会社への送金日。金額の確認や契約書の確認に領収書との照らし合わせ。毎週の事ながら面倒な作業だ。もう少し簡潔に出来ないかと思ってみたが、この作業も最後かと思うと念入りに確認してみたりする。

午後からは奥さんも会社に顔を出して元気な姿を見せてくれた。明日からは普通通り出勤すると言い、延ばしてしまった退社を気にしているようだ。

それなら、明日一杯でお暇させてもらう旨を告げて了承してもらう。

本日も無事に定時で終了し、自宅へと帰路に着いた。


車を隣の空き地に止めてドアを開けるとお肉の焼ける香ばしい匂いと騒がしい声が聞こえる。今夜は野外でバーベキューかと思わず笑顔になる。そう言えば去年の花火がまだ残っていたのを思い出し、皆でするのも悪くないなと考えながら自分の部屋へ向かった。


着替えを済ませ、部屋の窓を開ける。その真下で宴会が始まっている。

「ただいまー」

皆が一斉に「お帰りー」と上を見て笑っている。

竹さんは仕事が有るから帰ったようだ。それ以外の三人に加えて楓さんとさくらが参加している。

「早く降りて来いよー。肉がいい頃だぞー!」

「今行くー!」


降りて行くと早々にさくらに抱きつかれた。

「本当だ!電気が来ないよ!」と半泣きだ。だろ?と言いながら椿も抱きついてくる。

「小梅ちゃん、乾杯しよう」と言って目の前にジョッキが現れた。

楓さんの実家は酒屋さん。生ビールのサーバーにタンク、氷にジョッキグラスと全てが揃っている。

「凄いや!」

「では、皆が揃った所で、乾杯―――!」

「「「「「乾杯―――!」」」」」


飲んで食べて笑って昔話に花が咲き、これからの未来に夢を託してまた飲んだ。

野外活動もそろそろ終盤かなと思い、地面にロウソクを置いて火を点け、横に半分水を入れたバケツを用意する。

「おっ!花火!」

皆がそれぞれ好きな花火を持って火をつけ始めると、色取り取りの煙が立ち上る。

椅子に座ってただ見ているハルオミさんに気が付いた。

「桜坂さん?もしかして初めて?」

「・・・そう。見るのも初めて」


一緒にしゃがんで手に持った花火をロウソクに近づける。火が付いたらロウソクから離し、点火を確かめて人の居ない所へ移動する。私のしている事を確認しながら、真剣な顔で花火に取り組んでいる。その花火の先からシューと音を立てながらキラキラと光る輝きに驚きながらも楽しそうに笑っている姿はとても可愛い。

あっという間に終わってしまう花火につまらなそうな顔をして見せ、まだ有るよと言って差し出すと素直に喜ぶ。楽しそうに花火をするハルオミさんに胸がきゅっと音を立てた気がした。


明日は早番だと言う楓さんとさくらは先に帰った。

残った四人で丸くなって、最後に残った線香花火をそれぞれ見つめて居る。

「今回作成した楽曲さ、CDにしようかと思ってる」

「そうだろうと思ったよ」

「いい出来に仕上がったよな。アナログも味が有って良かった」

「ふーん」

「何だよ、そのふーんって」

「だって、聞いてないから分かんないもん」

「出来たら一番に送るよ」

「四人の秘密さ」

「嫌、五人だろう。竹さんを忘れるな」

「そうだった」

ふふふと皆で笑ったら、線香花火の玉がぽとりと落ちた。


家の中に入り、縁側でまた飲み始めた。

ハルオミさんに聞きたい事が有るのだけど、この雰囲気ではどうにも話しかけずらい。

それに男三人がとても仲が良くて、話に水を差すのも憚られる気がする。どうやら全てを秘密でCDを作成する相談らしい。このままこの雰囲気を楽しむのも悪くないな。


体が痛くて目が覚めた。どうやらあのまま寝てしまったらしい。

目を開けるとそこは別世界・・・では無いけれど、誰かの胸が有る。頭を上にずらして見るが良く見えない。肩に回された、と言うか腕枕の形になっているその腕には黒いブレスが見えた。

「!げっ!ハルオミさん?」

「・・・んー、まだ早いよ」そう言って、私を抱き寄せおでこにちゅうをした。

「!!!」寝ぼけている。完全に寝ぼけている。

そーっと腕を離し、すり抜ける。テーブルを挟んで反対には椿と冬樹さんが仲良く寝ていた。


時計を見るとそろそろ出勤しなければならない時間だった。

慌てて洗面所へ向かい歯と顔を洗う。簡単に化粧をして制服に着替えて飛び出した。

最終日に遅刻は流石に後味が悪いと思うのだ。

何とか三分前に会社に辿り着き、掃除を始めた。


今日一日は穏やかに過ぎ、定時を迎えた。

「小梅ちゃん、今までご苦労様でした。これ、少しだけど餞別ね」

社長が差し出したのは、グリルサイトウの御食事券二万円分だ。

「ありがとうございます」

「小梅ちゃん、ありがとうね。たまには遊びに来てちょうだいね」

奥さんは少し泣きそうな顔をしている。

「今まで使って下さって、本当にありがとうございました」

最後は笑顔で帰るのが一番だと思っている。

だから笑顔で挨拶をして会社を出た。


家に帰り、玄関前の何時もの場所に車を止める。

裏口に回り、植木鉢の下から鍵を取り出す。

家に入ると、メモが一枚。


「掃除洗濯済。帰ったら裏の洗濯物を取り込んでくれ。

 楽しかった。また来る!」



自分の部屋の戸に張り紙が一枚。


「起動方法―――

 解除方法―――

 停止方法―――

 警報システムー

 ・・・・・・・・

 ・・・・・・・・」


全て図解入りの張り紙をはがし、慌てて部屋へ飛び込んで黒ちゃんを手にする。

ハルオミさん、私が聞きたかった事を知ってたんだ。


「えーっと、左端から右端でそのまま斜め下で・・・・・・・・」

黒ちゃんの画面が青白く光り出した。よしっ!

「小梅はん!お久しゅうございますなー」

「黒ちゃん、お帰りなさい」

「まったく、先生は何を考えておるんか分かりまへんわ」

「あははは まあ、そう言わないでね?操作方法ちゃんと教えてくれたよ」

「ほーあの面倒くさがりの先生がですか?雨降りまっせ」

黒ちゃんの愚痴は留まる所を知らない勢いで続いている。変な関西弁も懐かしく感じて、適当に相槌を打ちながら操作方法の紙を眺めている。

結構、色々と使える電子機器らしい。

最後まで見ていると、関係のない一文に目が止まる。


今週金曜・午後8時・縁側にて 春臣


春臣ってこう書くんだ。

さっと頬が染まるのを自覚しながら、少しだけ苦しくなる胸を抑えた。








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