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1.プロローグ



君は何処にいるのだろう

君は何時でもそこに居る

君を何時までも見つめていたい

振り返る先に君は居ない


この熱い肌が喜びに震え

この醒めた瞳が悲しみに戸惑う

灼熱の太陽の下君を探そう

蒼い月の下君を忘れよう

闇の月が戻らぬように

            ♪


ラジオから流れる歌声に手が止まる (珍しいな)


プロロ・・・プロロ・・・(あ、電話だ)

「はい。桃山損害保険事務所です。」


「ただいまー」

「社長ー、青柳さんから自動車の事故報告上がってますよー」

「おー、分かった」

「机の上に契約書と車検証置いときますからお願いしますね」

「はいはい。上がり遅くしたな。すまんな。」

「大丈夫ですよ。昨日の安部さんの事故現場どうでした?」

「お互いの意見が食い違うけど、どう見ても五分五分だろうな」

「そうですか。それじゃお先に失礼します」

「はいご苦労さん」


会社の裏手にある駐車場の隅に愛車ミニクーパーが止まっている。

止まっていないと困るのだけど、見る度に嬉しくなる。

黒地に白のラインが正面中央から3分の1運転席側にフロントからバックへ向かって1本、天井はチェッカーフラッグにペイントされている。

購入して2年も経つけど見る度に顔が緩むほど大好きな車だ。

購入金額も目が回る程だったけど(メルセデスが販売店ってのが敷居を高く感じさせるのよね)、3年間徒歩と自転車で通い貯金したお金を頭金にして(残りはカーローン組みました)無理なく購入する事が出来ました。

中古車って手も考えたのですが、ミニの中古で自分の理想の色やペイントって車はまず無いですね。それに年式もかなり古く走行距離もワンメーター或いは2メーター回ってるのが殆どなのが現状でした。ミニのオーナーは結構長く乗る人が多いのは知ってたけどここまでかと感心した中古車巡りでした(多分私もその一人になると思うんだ)。それにある程度妥協しても結構割高になってしまいます。それなら新車で自分の思い通りの車の方がどれだけ愛着が湧く事か!でも契約書にサインする時はドキドキものでしたね。ははは

先にちらりと触れましたが、徒歩でも自転車でも通える距離の会社です。因みに車で10分と云う近距離で車通勤しております。ごめんなさい。(誰に?)

言い訳ですが田舎町はバスも1時間に1本それも隣町行き、電車や地下鉄は有りません。冬には雪も降りますので自転車は使えません。町内の移動に車は欠かせない足となっているんです。それに道路も空いてますから車を使うのに面倒だと思う事は少ないですね。

そんな事がちらりと頭を翳めたけど、殆ど無意識の思考。人って何かしら考えてるから。


車に乗り込みエンジンをかける。ブンといい音。数秒後に朝に聞いていたCDが途中から再生される。(そう言えばあの曲がラジオから流れるなんて珍しいな)そんな事を考えながら隣町のレンタルショップへ向かって車を走らせた。(DVD返さなきゃ)


私は大木小梅、29歳 独身です。

地方の田舎町の小さな保険会社に勤めています。

もちろん実家通いで、この町から余り出た事がありません。高校は隣町の高校だったけど早く働きたかったので地元に就職しました。今の所恋人はおりません。友達ならそこそこおります。ええ地元ですから。これと言って不平不満も余り有りません。強いて言えば今向かっているレンタルショップのDVDとCDの少なさに文句を言いたい位ですかね。田舎だからしょうがないんですけど。まあ この町が特別好きな訳でも無いし、嫌いな訳でもありません。普通です。


「いらっしゃいませー って 梅か」大層な口を利くのは高校の同級生の菊ちゃんである。

「はい 返却ね」先週借りた5枚のDVDをカウンターの上に載せる。

「新しいのはまだ入らんな。入り次第メールする」そう言いながらカウンターの中で漫画本を読んでいる。

「うん 頼むねー」そう言って私は店を出ようとする、と

「梅?もう帰るんか」とやっぱり漫画本から視線はずれていない。

「本、溜まったから、そっち片す」じゃ、と片手を上げて店から出て行く。

ショップ入口脇の外窓がガラッと勢いよく開いて菊ちゃんが顔を出す。

「来週末空けておけよ」

「来週?何」

「兄貴来るって、連絡来た」

来週だったかと思い「分かった」とだけ返事をして車に乗り込んだ。


菊ちゃんこと小沢菊千代君はレンタルショップのオーナー。元はお父さんのお店だったのを譲り受けたそうだ。お父さんは他に本屋を2軒持っており今でもバリバリ仕事をこなしている。菊ちゃんは昨年お嫁さんを貰って新婚真っ只中。その菊ちゃんにはお兄さんがおり今は東京で働いている。


菊ちゃんのお兄さん、椿さんは音楽のプロデューサーをしておりその世界では有名人らしい。業界の話は全然分らないので本当の所は分からないけど。でもそれはあくまでも表の顔。

私が馴染みのある顔は裏の顔の方でしょうか。

彼は、嫌、彼女はゲイでありゲイバーを2軒、ホストバーを1軒経営する経営者でもある。私の所に遊びに来る時は殆どが裏の顔(素顔)で訪れるので表の顔をチラリと見ると別人かと思ってしまう。

それでもって「おばちゃん」でもある。

毎回来る度にお見合い相手を持ち込んでは、ダメ出しをして連れ帰って行くのである。


私の事を妹の様に可愛がってくれているのは大変嬉しいんだが度が過ぎる。小さい頃から親同士が同級生と言う事もあり親戚以上に交流が多いものだから余計だろう。それでも、今思っても昔から椿から受ける愛情は過多だったと思う。今でも私の存在自体が椿をゲイに向かわせたと確信しているのだ。


コンビニに立ち寄り夕食用のお弁当とデザートを買い込む。本当なら外食をするつもりだったけど気分が落ち込んだので、とっとと家に帰る事にした。



「ただいまー」と自分でカギを開けて玄関を開ける。

自宅通いではあるけど一人暮らしの私は、そのままずんずん居間へ行きカーテンを引いてから電気を付ける。そのまま台所へ向かい冷蔵庫を開けてコンビニの袋ごと押し込めて置く。台所から出て自分の部屋へ向かおうと振り向いた所に『留守番メッセージ』の赤いランプが点灯している電話に気が付いた。


「んー 先に着替えよう」独り言を口にしながら二階の自室へと、ジャケットのボタンを外しながら居間を出て行く。基本、会社の制服を着て出社しているので帰ってきたら即、部屋着(パジャマとも言う)に着替える。なので会社帰りの寄り道や買い物も全て制服で済ます。私服は・・・悩むので嫌いなのだ。


会社の制服はジャケット+ベスト+ワイシャツ+スカートと言う基本のスタイル。

ジャケットとベストは黒地に細いピンクとグレーのチェック柄(遠くからだと黒にしか見えない)、スカートは無地で台形型(タイトスカートは動きずらいので却下)。

季節に合わせて自由に組み合わせ可。ワイシャツは柄物で無ければ何でもオッケーで、夏になれば半袖のポロシャツも着用する。制服の素材も伸縮性のある生地なので、本当に着やすく動きやすいのだ。

友人曰く、「会社の制服で出勤する事自体、女を捨てている」なのだとか。


脱いだ制服を片手に持ち、階段を下りて洗面所の洗濯機へ放り込む。(丸洗い出来るのも嬉しい所)

そのまま台所へ行き『留守電』の再生ボタンを押して冷蔵庫から発泡酒を取り出し、プシュ!と開けて半分程を一気飲み。

「ぷはぁー!生き返るよー!」何処のおっさんだ。どこぞの単身赴任のおっさんを想像してしまう行動に自嘲の笑み。


ピー 「小梅、元気か。こっちは皆元気だ。今年の冬休みは遊びに来るんだぞ。また電話する」 ピー 「小梅ちゃん!明日にでも一緒に暮らしましょう。冬休みなんて言って無いで早く来てねー!」 ピー 「小梅~来週遊びに行くから宜しくね~」 サイセイヲシュウリョウイタシマス。ショウキョスルトキハイチヲ・・・・・。 プチ。


父・母・椿の順で再生された留守電を聞きながら食事中。

両親は4年前に海外転勤でテキサスへ。父は今までにも出張で何度も海外へ行っているけど、転勤となればラブラブおばか夫婦の事、一緒に行くのは目に見えていた。当然の様に私も一緒にと言う話になっていたらしいが即時却下した。

独り暮らしをしてみたかったから。それが第一の理由にして最大の理由だった。飛行機に乗るのも嫌だったからそれも理由の一つではある。

両親の愛を受けまくっていた私はその両親の愛をうざいと思うようになっており、とにかく離れたいと思って居た。ついでに椿の愛もうざいのですが。

その頃25歳にして反抗期を迎えていた私にとっては、これ以上無い転機と思っていた。


しかし、一人暮らしは大変だった。思ってた以上に大変で一人泣いた事も数知れず。これでアパートやマンションだったら違ったのだろうけど、田舎の一軒家。隣近所のお付き合いに町の行事、した事の無い家事全般に気が遠くなりそうだった。

でもそんな私を助けてくれたのは友人のさくらと椿の母上だった。


今でも思う。一人暮らしを始めて良かったと。ここに残って良かったと。

両親の有難味。

友人や知人の有難味。

人との接し方を本当の意味で学んだ(学んでいる)一人暮らし。


食べた物を片づけ、二本目の缶チュウハイを手に自分の部屋へと向かう。

部屋に入り、まずはラジオのスイッチオン。

続いて、パソコンのスイッチオン。


ラジオを聴きながら両親宛にパソコンからメールを送る。

明日は土曜日。

のんびり出来る筈の週末は、掃除で忙しくなりそうだ。







〈おはようございます。ハルオミです。今夜もミュージックステーションの時間が来ましたよ。皆さんからのリクエスト、お待ちしております。リクエストの宛先は番組ホームページhttp//・・・・・







うお。ミニクーパーが好きですねー。実際に乗ってるのは国産車ですが、何時かは乗りたいと思い書き始めた作品です。でも作品中には余り出てくる予定が無いのですが、タイトルにしてしまいました。

プロローグを数話、まとめて投稿します。楽しんで頂ければ嬉しいです。

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