↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/1

魔法の歌

何の前触れもなく、姉が歌い出した。


それは、三十年近く前に私が即興でつけた、少しおかしなメロディだった。


すると妹が、まるで昨日も歌っていたかのように、その続きを歌い始める。


ふたりは顔を見合わせ、笑い転げた。


私はといえば、ところどころしか覚えていない。


作った本人より、聴いていたふたりの方が、よほど正確なのだ。


なんとも不思議で、嬉しい光景だった。


その姿を眺めながら、私は遠いあの日を思い出した。


---


あなたたちが小さかった頃。


私は、子育てで悩んだ記憶がほとんどありません。


それくらい、あなたたちはいつも「ふたり」で、仲睦まじく、自分たちだけの豊かな世界を作り上げていましたね。


子供部屋の扉をそっと開けると、ぬいぐるみやおもちゃを総動員して、あれこれ工夫しながら遊びに夢中になっていました。


その背中を眺めているだけで、私は幸せでした。


そんなあなたたちに、毎晩続けた約三年間。


私からのささやかな贈り物は、絵本の読み聞かせでした。


ただ物語を読むだけでは、なんだか物足りなくて。


登場人物によって声色を変えたり、絵本の中に出てくる「決まり文句」に、その場で思いついたメロディをつけたり。


即興の歌、妙ちきりんな節回し、私たちだけに通じる合言葉。


気がつけば、いくつもの「魔法の歌」が生まれていました。


絵本の中で歌う場面に、私が勝手につけたメロディです。


まさか、それをあなたたちが三十年近くも覚えていてくれるなんて、あの頃の私は想像もしていませんでした。


---


あれから、ずいぶん長い年月が流れました。


お姉ちゃんがお嫁に行く時、妹がどれほど寂しそうだったか、私は知っています。


小さな頃から、いつも一緒だったふたり。


それぞれの人生を歩き始めることは、嬉しくもあり、少し寂しくもあったのでしょう。


けれど今でも、たまに集まっては、あの頃と変わらず笑い合っていますね。


そんなあなたたちを見ていると、私は思うのです。


「私たちがいなくなっても、このふたりなら、きっと大丈夫」


私があなたたちに伝えられたことは、いったい何だったのでしょう。


勉強でも、世の中を上手に渡っていく方法でもなく。


もしかしたら、


「ふたりでいれば、なんでもない毎日がこんなに楽しくなる」


そんな、ささやかなことだったのかもしれません。


あの夜、何気なく口ずさんだメロディは、私が忘れかけていても、あなたたちの中で生き続けていました。


そして今では、ふたりだけで歌い、笑い合うことができます。


それが、何より嬉しいのです。


だから、これからも。


もし人生に少しだけ疲れた夜があったら、あの「決まり文句」を歌ってみて。


そこには、いつでも私がいます。


そして何より、あなたの隣には、世界でたった一人の、心強い味方がいます。


あなたたちがふたりで、笑いながら、それぞれの人生を歩いていくこと。


それが、私の人生の最高の答え合わせです。


愛を込めて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。