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ただの俺の話  作者: lucky


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7/8

リスポーン

2019年5月、俺は看護師を辞めた、、、

 鬱病は治っていなかった。試験の結果を受けて喜びに浸ったがすぐに死にたくなった。厄介な病気だ。薬を飲み始めれば途端に容量を守らなくなる。喜びの感情があってもすぐに気分は底に落ちる。ゴールの見えない暗い峠道を一人で走っている気分だった。ただ看護師を辞めるきっかけになったような出来事があった。

 俺は治療のため拘束されている患者の手を握っていた。手を握っていれば暴れなかったからだ。治療のために拘束する理由はよく理解している。それでもベッドに縛り付けるのは嫌だった。患者の手を握ってこう言った。

「本当にすまないと思っています。自分もこのようなことはしたくないです。だから、、、もう少しここで手を握っていてもいいですか?」

どう行動すべきだったのかはわからないが俺にとっては正解だと思った。患者は笑みを浮かべて小さな声で話した。

「あなただけだ。私に寄り添ってくれるのは、、、ありがとう。」

とても嬉しかった。医療行為と安全のために拘束されている患者から感謝されたことはなかったから。スタっスタっと通路から足音が聴こえる。苦手な先輩の歩き方だ。足を少し擦りながら歩くからすぐにわかる。通路の方を見てみると苦手な先輩と目が合った。

「ちょっといい?」

俺に話しかける。何か用だろうか?自分の仕事は終わっているし申し送りも終わっている。俺は先輩のところへ行き話を聴く。

「なにしてんの?そんな事していないで早く帰ったら?」

がっかりした。自分の行っていることが否定されているような言い方だった。患者からも感謝の気持ちを伝えられているのになぜ、”そんな事”と言われなければならないのだろうか。自分はこんな先輩になりたくないと思った。業務的なことしか考えられなくなるような看護師にはなりたくない。黙って病院から帰った。

 今思うとっていう観点で話すと先輩は新人である俺に残業などをさせたくなくて声をかけてきたのではないかと考えている。大体の場合、悪気があって誰かに声を掛ける事って少ないと思う。先輩は俺に残業をさせたくなかっただけかもしれない。一人で業務をさせたくなかっただけかもしれない。でもこの時は勝手に決めつけていた。

 帰り道、俺はイライラしていたし落ち込んでいた。車を運転しているとドラッグストアが見えた。気づいた時にはウイスキーとエナジードリンク、風邪薬、市販の安眠剤を買っていた。俺が馬鹿なのか、鬱病君が頑張っているのか、せっかく看護師になったのにたった1つの出来事で、前に戻るのか?そう前に戻すんだ。

 家に帰り、シャワーを浴びてソファーに座りウイスキーとエナジードリンクを混ぜた特製カクテルを作り匂いを嗅ぐ。いい匂いだ。薬を口の中に入れて特製カクテルで流し込む。安眠剤はもちろんすべて飲んだ。風邪薬はそこまで飲まなかったかな。全部で20錠くらいだったと思う。

 ボーっとする。この薬は初めてだ。落ちる感覚じゃない。暗い。まるで伽藍堂にいるような、、、大きい寺の中で目隠しされているような。誰もいない。しばらくすると魂が抜けていった。もう夜だ。どこへ行こうか。精神体なら壁なんて意味がない。俺は家の壁をすり抜けて庭へ行き、星が浮かぶ空を見上げる。やっぱり空を飛ぶのが一番だ。上にも下にも星が輝く。夜は綺麗だ。満天の星空と汚くて綺麗な星空どちらも好きだが汚いほうには月がないからそこだけ残念かな。かなりの時間、星を眺めていた。すると体がすごいスピードで動き始める。どこへ連れていかれるのか、自分ではコントロールが出来ない。ビューっと飛んでいき自分の本当の体に入っていった。どうやら薬の効果が切れたようだ。朦朧とする中、追加で薬を飲み特製カクテルも飲み干してベッドで寝ることにした。

 本当に幻覚だったのかわからないくらいリアルなんだ。体験していない人にはわからないかもしれないが本当に魂が身体から離れて抜け殻の自分を見つめることができる。いや、マジで滅茶苦茶リアルなんだって。

 今更ではあるが自分という人間は欠陥品である。人を助けたいという感情を持っていながら、災害で人が死なないかな?という感情ももっている。あるいは天災のような事で人が大勢死ぬことを望んで、そこで人を助けたいという感情なのかわからない。周りの友達には一貫性がある。ものづくりを仕事にしている友達は物を作る。道路を作る友達は道路を作る。看護師の友達は看護をする。そして俺は人を助けたいと望み、天災を望む。

 そんな夢を見ながら目を覚ました。もう午後15時だ。携帯には病院からの電話が何件もある。俺は無視した。親には仕事は休みで明日も休みだと噓をついておいた。テーブルの上には特製カクテルが残っている。それを飲む前に少し部屋の片づけをした。理由はない。ただ掃除をしたくなった。掃除をしているとあるお宝を見つけた。去年、心療内科で貰った安眠剤だ。

 FOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!!!!

 掃除を終わらせて特製カクテルで薬を飲む。キーーーーーーンという耳鳴りとともに金縛りが始まる。抵抗はしない。いずれ身体から魂が抜けていくのを知っているから。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 気がつくと丸一日経ち、ベッドで寝ていた。心が死にたい気持ちで溢れていた。自分の情けなさ、弱さ、身勝手さ、全てが希死念慮へと繋がり泣いていた。部屋の外で足音が聞こえる。変な幻覚や幻聴が始まるかと思ったが音の正体は母親だった。

「どうしたの?なんで部屋から出ないの?あの薬はなに?」

震える声で俺に話しかける。

・・・

「死にたいんだ。どうしようもなく死にたくなるんだ。」

と言うはずのなかった本音を母親に話した。母親は泣き崩れたが、俺にこう伝えた。

「生きているだけでいい。やっと産まれた男の子なんだから。」

そう俺に伝えて部屋を後にした。

 いい年して母親を泣かせるなんて親不孝もいいところだ。家族のことも考えず、自分勝手なことばかりしているという事をまた認識する事になった。

 薬はやめだ。看護師という環境からも離れよう。今度こそ自分を変えるんだ。心療内科にもしっかり通う。そう自分に言い聞かせて行動しようと思ったがうまくはいかなかった。

 2019年5月、看護師を辞めて鬱病の療養に専念することにした。念願の看護師になってたった1ヶ月の事だった。環境を変えれば少し良くなると思ったんだ。

 しかし、俺の心は弱い。死にたいという気持ちは消えなかった。


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