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春 ――桜吹雪とともに、なにかが起こった。

作者: 来田千斗
掲載日:2026/03/21

 ゴウ、と桜吹雪。桜の花弁が、顔にはりつく。桜のカーペットは、どこまでも続いているように見える。


 見え……る……⁉


 桜の花弁のすきまから顔をのぞかす、アスファルトが眼前に迫ってくる。桜のカーペットは、近くで見れば紙切れ同然だった。


――額の痛みにうめきながら、起き上がる。辺りは真暗、ただいくつかの星が輝くのみ。手の平から花弁がはがれ落ちる触感がした。


「やあ、目覚めたか」


 どこからか、声が聞こえた。低いような、高いような。小さいような、大きいような。耳元から聞こえるようにも、どこか遠くから発せられているにも感じられる、声だった。


「閑かだ、そう感じないか?」


 どこか遠くで、川が流れる音がきこえた。自分の呼吸音が、こんなにも閑かにきこえるのは、いつ以来だろうか。


 急に、寒さを覚えた。春の夜は、冷える。


「あなたは、だれですか?」


 答えは、なかった。家へ帰ろう、そう思って足をふみだす。二、三歩進んで、桜の幹にぶつかった。ライトが必要だ、そう思ってポケットをさぐり、スマホを探す。手の平にふれるものはなく。


「落したかな?」


 しゃがみこみ、辺りを手でさぐる。なにか、固い、暖かいものに触れた。スマホにしては随分と分厚くて、丸っこくて……そして、鱗のような感触がした。


 ぞっ、とした。なにか得体のしれないものが、そこにはいた。


 一目散に逃げた。なぜだか無事に、街灯のあるところまで走り切れた。


「はあ、はあ、はあ」


あ。


 自分の手を見ると、鱗のようなものがぎっしりとあった。

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