第8話 会社飲み会事件
金曜日。
インフラ運用課は珍しく静かだった。
障害もない。
アラートも鳴らない。
つまり――
定時で帰れる。
その時だった。
「神代さん」
声。
高城沙羅。
「今日空いてる?」
「空いてる」
「よかった」
沙羅は微笑んだ。
「今日は部署の飲み会」
「聞いてない」
「今決めた」
雑すぎる。
美咲が隣で手を上げた。
「私も行きます!」
「新人は強制参加」
「ですよね!」
数分後。
社内チャット。
『インフラ運用課 飲み会』
俺はため息をついた。
夜。
居酒屋。
インフラ運用課+情シスの合同飲み会。
席に座る。
そして。
「神代さん」
三崎が言う。
「こちらどうぞ」
指差した席。
そこは
女性席
……。
「三崎」
「はい」
「俺男」
「またまた」
美咲が爆笑している。
「先輩、もう諦めてください!」
「諦めない」
NIAが言う。
「マスター」
「なんだ」
「女性席着席率100%です」
「記録するな」
「保存しました」
結局。
俺は女性席に座らされた。
左。
沙羅。
右。
美咲。
向かい。
三崎。
乾杯。
「お疲れ様です!」
ビール。
数分後。
三崎が話しかけてくる。
「神代さん」
「はい」
「最近どうですか?」
「普通」
「仕事大変じゃないですか?」
「まあ」
三崎は少し真面目な顔をした。
「無理しないでください」
「してない」
「神代さんは」
「はい」
「女性なのにインフラやっててすごいと思います」
沈黙。
美咲が笑いをこらえている。
俺は言った。
「男」
「またまた」
この人は本当に信じない。
その時。
「凛!」
声。
悠斗だった。
「お前ここか!」
「来たのか」
「飲み会って聞いた」
悠斗は席を見た。
そして止まる。
女性席。
俺。
沙羅。
美咲。
三崎。
悠斗。
数秒。
悠斗。
「ははははは!!」
「笑うな」
「無理!」
悠斗は席に座る。
「完全にOLじゃん!」
「違う」
三崎が真面目に言う。
「黒川さん」
「はい」
「神代さんは優秀なエンジニアです」
「知ってる」
「ただ」
「はい」
「女性なのにすごい」
悠斗は吹き出した。
「違います」
「え?」
「そいつ男です」
沈黙。
三崎。
俺を見る。
悠斗を見る。
そして言った。
「冗談はやめてください」
悠斗。
「マジです」
三崎。
「神代さん」
「はい」
「この人何言ってるんですか?」
俺は言った。
「男」
三崎。
「またまた」
美咲が笑っている。
沙羅は普通に飲んでいる。
悠斗は腹を抱えている。
NIAが言った。
「マスター」
「なんだ」
「本日の女性認識イベント」
「言うな」
「現在7件目です」
「多すぎる」
悠斗は言った。
「なあ」
「何」
「お前」
「うん」
「この会社」
「うん」
「一生このネタ続くぞ」
……それは困る。




