第6話 ナンパ事件
仕事が終わった帰り道。
駅前のコンビニでコーヒーを買って、歩いていた。
平和な夜だ。
サーバも落ちていない。
新人もトラブルを起こしていない。
つまり――
珍しく、静かな日だった。
俺は信号待ちをしていた。
すると、後ろから声がする。
「ねえ」
振り向く。
男が二人。
大学生くらい。
「今一人?」
……。
俺は少し考えた。
「一人だけど」
「だよね!」
男は笑った。
「よかったらさ、飲みに行かない?」
……。
NIAがイヤホンから言う。
「マスター」
「言うな」
「ナンパです」
「わかってる」
男は続ける。
「かわいいしさ」
「かわいくない」
「いや絶対かわいいって」
俺は深く息を吐いた。
「男」
男二人は一瞬止まった。
そして笑う。
「またまた」
「本当」
「いやいや」
「本当」
「冗談うまいね」
「冗談じゃない」
NIAが言う。
「マスター」
「なんだ」
「この状況は統計的に三回目です」
「ログ取るな」
その時だった。
「……凛?」
聞き慣れた声。
振り向く。
「悠斗」
そこにいたのは
黒川悠斗
大学時代の友人だ。
「何してんの?」
「ナンパされてる」
「は?」
悠斗は男二人を見る。
そして俺を見る。
そして、吹き出した。
「お前またかよ!」
「笑うな」
男たちは困惑している。
「知り合い?」
悠斗は笑いながら言う。
「そいつ?」
「うん」
「男だよ」
沈黙。
「……え?」
男二人は俺を見た。
俺も見返した。
「男」
数秒。
男A
「……マジ?」
「マジ」
男B
「……声」
「手術」
男A
「……え」
男B
「……」
そして二人は同時に言った。
「ごめんなさい!」
ダッシュで逃げた。
静かになった。
悠斗はまだ笑っている。
「はははは!」
「笑うな」
「いや無理だろ!」
「三回目」
「何が」
「今月」
「多すぎるだろ」
NIAが言う。
「マスター」
「なんだ」
「現在のナンパ発生率は平均より高いです」
「統計出すな」
悠斗は俺をじっと見た。
「にしても」
「何」
「お前」
「何」
「マジでOLみたいだな」
「違う」
「いや完全にOL」
「違う」
「スーツだし」
「仕事帰り」
「髪型も」
「普通」
「顔も」
「言うな」
悠斗は笑う。
「会社どうなってんの?」
「OL扱い」
「やばすぎる」
NIAが言う。
「マスター」
「なんだ」
「本日も女性扱いイベントが発生しました」
「記録するな」
「保存しました」
悠斗は肩を叩いた。
「なあ」
「何」
「今度飲もうぜ」
「いいけど」
「そのOL話もっと聞きたい」
「ネタじゃない」
悠斗は笑った。
「いや」
「何」
「お前の人生」
「うん」
「普通にコメディだろ」
……否定できない。




