第5話 サーバ障害、凛無双
インフラエンジニアの仕事には、平和な時間がある。
だが、それは長く続かない。
ある日突然、終わる。
たとえば――
ピーピーピーピー!!
警告音。
監視モニターが赤く染まる。
俺はコーヒーを飲みながら画面を見た。
「……来たか」
隣で美咲が固まる。
「え、え、え!?」
「落ちた」
「何が!?」
「本番サーバ」
「ええええ!?」
監視画面には大きく表示されている。
CRITICAL ERROR
美咲が慌てて立ち上がる。
「どうするんですか!?どうするんですか!?」
「落ち着け」
「無理です!!」
NIAが冷静に言う。
「マスター。メインサーバ応答停止を確認しました」
「見ればわかる」
「副系サーバも応答不安定」
「……」
俺はキーボードを叩く。
ssh main-server
接続。
ログを見る。
数秒後。
「原因わかった」
「早い!」
「ディスク」
「ディスク?」
「容量」
ログにははっきり書かれている。
Disk Full
美咲が目を見開く。
「えっ……それだけ?」
「それだけ」
「そんなことでサーバ止まるんですか!?」
「止まる」
俺はコマンドを打つ。
df -h
予想通り。
100%。
ログファイルが肥大化している。
NIAが言う。
「ログファイルが異常増加しています」
「見ればわかる」
俺はログディレクトリを見る。
原因はすぐ見つかった。
あるアプリがエラーを吐き続けている。
ログが無限に増えている。
「なるほど」
「どうします!?」
俺はキーボードを叩いた。
rm biglog.log
削除。
そして。
systemctl restart service
再起動。
数秒。
監視画面。
赤。
赤。
赤。
そして。
緑。
美咲が叫ぶ。
「戻った!!」
アラートが消える。
フロアに静けさが戻る。
俺はコーヒーを飲んだ。
「終わり」
「終わり!?」
「うん」
「5分ですよ!?」
「まあ」
NIAが言う。
「障害対応時間、4分32秒」
「ログ取るな」
「記録しました」
その時だった。
背後から声がする。
「神代さん」
振り向く。
高城沙羅だった。
「今の障害」
「はい」
「あなたが直したの?」
「たぶん」
沙羅は少し笑った。
「相変わらず早いね」
「ログがわかりやすかった」
美咲が興奮している。
「先輩すごいです!!」
「普通」
「普通じゃないです!!」
沙羅も頷く。
「インフラはね」
「はい」
「こういう時に強い人が一番頼れる」
美咲がキラキラした目で俺を見る。
「先輩ってすごい人だったんですね」
「普通」
「普通じゃないです!」
その時、スマホが震えた。
NIAからメッセージ。
《マスター評価更新》
社内評価:上昇
「分析するな」
「ログ保存しました」
美咲はまだ興奮している。
「私もあんな風にサーバ直せるようになりますか?」
「なる」
「ほんとですか!?」
「慣れ」
美咲は頷いた。
「先輩」
「ん」
「私、先輩みたいなエンジニアになりたいです」
俺は少し困った。
「やめとけ」
「え?」
「この仕事」
「はい」
「トラブルしかない」
NIAが静かに言う。
「しかしマスター」
「なんだ」
「あなたはトラブル時の方が生き生きしています」
「否定できない」
美咲が笑った。
「先輩、かっこいいです」
「言うな」
その時。
社内チャットが鳴った。
三崎からだった。
「神代さん、さっきの障害直しました?」
俺は返信した。
「はい」
数秒後。
「さすがですね」
美咲がニヤニヤしている。
「先輩」
「なんだ」
「モテてますよ」
「違う」
NIAが言った。
「マスター」
「なんだ」
「OLモードに加え」
「うん」
「エンジニア能力も高評価です」
「分析やめろ」
「保存しました」
どうやら俺の平穏な日常は、
今日も少しずつ騒がしくなっていくらしい。




