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男なのにOL扱いされるエンジニアの日常  作者: 江戸川竜也


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第4話 OLモード、初発動

 インフラエンジニアの仕事は、基本的に裏方だ。


 何も起きなければ誰にも気づかれない。

 何か起きれば全員から怒られる。


 つまり――


「神代先輩!」


 隣から元気な声が飛んできた。


 結城美咲。


 新人エンジニアだ。


「これ、ログインできません!」


 画面を見る。


 社内管理サーバだ。


「権限エラー」


「え?」


「アクセス権限ない」


「ええ!?」


 美咲が慌てる。


「でも先輩、これ今日の研修で使うサーバですよね?」


「そう」


「じゃあどうするんですか?」


 俺はため息をついた。


「権限もらう」


「誰からですか?」


「情シス」


 この会社では、権限管理は情報システム部が握っている。


 つまり。


「三崎さんか……」


「三崎?」


 美咲が首をかしげた。


「情シスの人」


「怖い人ですか?」


「真面目な人」


「つまり怖い人ですね」


「まあ」


 俺は立ち上がった。


「行くか」


「はい!」


     ◇


 情報システム部は一つ下の階にある。


 扉を開けると、静かなフロアだった。


 その奥にいる。


 眼鏡をかけた男。


 三崎恒一。


「三崎さん」


 声をかけると、彼は顔を上げた。


「ああ、神代さん」


 そして、少し微笑む。


「どうしました?」


「社内管理サーバのアクセス権限」


「誰のです?」


「新人」


 三崎は結城を見る。


「新人さんですか」


「結城美咲です!」


 元気に頭を下げる。


 三崎は頷いた。


 そして、キーボードを叩きながら言う。


「そのサーバは管理権限が必要なので」


「うん」


「今は出せません」


「え」


 美咲が固まる。


「でも研修で使うんですよ?」


「申請手続きが必要です」


 典型的な情シス回答だ。


 俺は少し考えた。


 そして、NIAの声がイヤホンから聞こえる。


「マスター」


「なんだ」


「OLモードを推奨します」


「……やりたくない」


「成功率82%」


「統計出すな」


「先輩?」


 美咲が不思議そうに見る。


 俺は深く息を吸った。


 仕方ない。


 仕事だ。


 俺は三崎に向き直った。


「三崎さん」


「はい」


 少しだけ声のトーンを落とす。


 営業っぽい柔らかい声。


「今日の研修、これがないと進まないんです」


「……」


「新人の教育なので」


「……」


「できれば、今日だけでも権限出してもらえませんか?」


 三崎は止まった。


 キーボードの手も止まった。


 数秒沈黙。


 そして。


「……わかりました」


「え」


 美咲が驚く。


「今回だけですよ」


「ありがとうございます」


 三崎は少し照れたように笑った。


「神代さんに頼まれたら断れませんよ」


 ……。


 数分後。


 権限は普通に発行された。


     ◇


 廊下を歩きながら、美咲が俺を見る。


「先輩」


「ん」


「ズルくないですか」


「何が」


「今の」


「何」


「絶対、女の人の頼み方でしたよね」


「違う」


「絶対そうです」


 俺はため息をついた。


「仕事だ」


「でも三崎さんめちゃくちゃ弱かったですよ」


「そうか?」


「完全に落ちてました」


「落ちてない」


 スマホが震えた。


 NIAのメッセージ。


《OLモード成功率:87%》


「ログ取るな」


「記録しました」


 美咲が笑った。


「先輩、それ武器ですよ」


「武器じゃない」


「でも強い」


「二度とやりたくない」


 その時だった。


 背後から声がした。


「神代さん」


 振り向く。


 三崎だった。


「はい?」


 三崎は少し真剣な顔をして言った。


「困ったことがあったら、いつでも言ってください」


 美咲が小声で言う。


「ほら」


「ほらじゃない」


 三崎は続けた。


「神代さんの頼みなら、できるだけ対応します」


 俺は天井を見上げた。


 NIAが淡々と言う。


「マスター。新しい交渉パターンが確立しました」


「消せ」


「保存しました」


 ……どうやら俺は、また面倒なスキルを手に入れてしまったらしい。

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