第12話 メイク講座事件
翌週。
朝。
俺は自席でモニターを見ていた。
サーバ監視画面。
CPU正常。
メモリ正常。
ストレージ正常。
平和だった。
そのはずだった。
NIAが言う。
「マスター」
「なんだ」
「新規メール」
「読むな」
「既読にしました」
「勝手にするな」
メール件名。
【社内イベント】女性社員交流会 特別企画
嫌な予感しかしない。
クリック。
本文。
次回の女性社員交流会にて
「神代さんのメイク講座」を開催します。
簡単にできるメイクのコツを
ぜひご紹介ください。
……。
「NIA」
「はい」
「これは」
「講師依頼です」
「断れるか」
「既に社内掲示板に掲載されています」
終わった。
美咲が隣から顔を出した。
「先輩」
「なんだ」
「見ました?」
「見た」
「すごいですね」
「何が」
「社内講師ですよ」
「違う」
沙羅も来た。
「神代さん」
「なんだ」
「ポスター見た」
「ポスター?」
「うん」
嫌な言葉だった。
沙羅はスマホを見せた。
社内掲示板。
そこにあった。
女性社員交流会 特別企画
✨ プロ直伝!メイクのコツ ✨
講師
神代 凛(インフラ運用課)
「プロじゃない」
美咲が笑う。
「でも似合ってます」
「似合うな」
「やめろ」
NIAが言う。
「マスター」
「なんだ」
「参加予定者」
「見るな」
「現在42名です」
「多い」
「増加傾向です」
なぜだ。
俺はインフラエンジニアだ。
美容系YouTuberではない。
◇
昼。
会議室。
女性社員交流会。
そして。
ホワイトボードの前。
俺が立っていた。
なぜこうなった。
席。
女性社員。
満席。
50人くらいいる。
美咲が最前列。
沙羅もいる。
総務が言う。
「それでは本日の特別企画です!」
拍手。
やめろ。
「インフラ運用課の神代さんによる」
拍手。
「簡単メイク講座です!」
大拍手。
逃げたい。
NIAが言う。
「マスター」
「なんだ」
「逃走成功率4%」
「低すぎる」
仕方ない。
俺はホワイトボードを見た。
マーカー。
書く。
眉
会議室が静かになる。
「メイクで一番重要なのは」
俺は言った。
「眉です」
ざわつく。
女性社員が頷く。
「顔の印象の7割は眉で決まる」
美咲が小声で言う。
「なんでそんな詳しいんですか」
「ライブ」
「便利な言葉ですねそれ」
俺は続けた。
「まず」
ホワイトボードに描く。
眉。
「丸顔なら角度をつける」
「面長なら水平寄り」
「濃く描きすぎない」
女性社員がメモしている。
なぜだ。
沙羅が言う。
「神代さん」
「なんだ」
「普通に分かりやすい」
「仕事でも説明してるからな」
「なるほど」
総務の女性が言う。
「では実演もお願いできますか?」
「は?」
「モデルはこちらで」
美咲が手を挙げた。
「やります!」
「お前か」
「やってください先輩!」
「断る」
「お願いします!」
周囲。
「見たい!」
「ぜひ!」
「神代さんお願いします!」
包囲された。
NIAが言う。
「マスター」
「なんだ」
「詰みです」
美咲が前に座った。
「どうぞ」
「やるのか」
「はい」
仕方ない。
俺はペンシルを持った。
「動くな」
「はい」
眉を描く。
会議室が静まり返る。
数秒。
完成。
美咲が鏡を見る。
「え」
周囲も見る。
「すご」
「全然違う!」
「顔締まった!」
美咲が驚く。
「先輩」
「なんだ」
「うますぎません?」
「普通」
沙羅が言う。
「それ普通じゃない」
総務の女性が拍手した。
「素晴らしいです!」
全員拍手。
なぜだ。
その時。
会議室の扉が開いた。
男性社員。
営業。
「失礼します」
そして止まった。
室内を見る。
女性社員50人。
そして。
前でメイクしている俺。
営業は言った。
「……美容セミナーですか?」
沈黙。
美咲が笑い崩れた。
沙羅も肩を震わせている。
俺は言った。
「違う」
営業は頷いた。
「すみません」
「お邪魔しました」
扉を閉めた。
そして外から声。
「神代さんすげえ……」
終わった。
会社全体に広まった。
NIAが言う。
「マスター」
「なんだ」
「新規噂ログを確認」
「読むな」
「内容」
一拍。
神代さん、実は美容のプロ説
俺は天井を見た。
なぜだ。
なぜ俺は。
インフラエンジニアなのに。
社内美容講師になっているんだ。




