表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男なのにOL扱いされるエンジニアの日常  作者: 江戸川竜也


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/33

第11話 女子会潜入

 昼。


 会議室A。


 普段は打ち合わせに使われるそこは、今日に限って妙に華やかだった。


 テーブルの上には紙コップの紅茶。

 小さな焼き菓子。

 よくわからない花柄の紙ナプキン。


 入口には立て札。


女性社員交流会


 ……帰りたい。


「マスター」


 NIAだ。


「なんだ」


「会場到着を確認しました」


「確認するな」


「現在の精神状態は」


「読むな」


「逃走率72%です」


「高いな」


「正常です」


 正常ではない。


 俺は会議室の前で立ち尽くしていた。


 その時だった。


「神代さん」


 横から声。


 高城沙羅だった。


 その隣に、美咲もいる。


「来たんですね!」


「来たくなかった」


「でも来ましたよね」


「総務に名指しされたからな」


 美咲は楽しそうに笑った。


「先輩、今日すごいですね」


「何が」


「完全に女子会メンバーです」


「違う」


 沙羅が普通に頷く。


「うん。馴染んでる」


「馴染みたくない」


「大丈夫」


「何が」


「神代さんなら」


「その根拠を聞いてる」


 逃げ道がないまま、俺は二人に挟まれて会議室に入った。


     ◇


「では、皆さんご自由にご歓談ください」


 総務の女性がにこやかに言った。


 拍手。


 俺は拍手しなかった。


 だが、美咲が横で小さく肘をつついてきたので、仕方なく二回だけ叩いた。


「先輩、ノリ悪いです」


「当然だろ」


「女子会ですよ?」


「だからだよ」


 席に着く。


 左に沙羅。

 右に美咲。


 完全に逃げ道がない。


 向かいには、営業部っぽい女性二人と、人事の女性がいた。


 全員がこちらを見る。


 嫌な予感しかしない。


「神代さんって、インフラ運用の方ですよね?」


「はい」


「すごいですねえ。女性でインフラって珍しくないですか?」


 来た。


「男です」


 一瞬、沈黙。


 だが営業部の女性は、ふわっと笑った。


「またまた」


「いや本当に」


「神代さん、そういう冗談言うんですね」


「冗談じゃない」


 美咲が俯いた。


 肩が震えている。


 笑っている。


「結城」


「はい」


「笑うな」


「無理です」


 沙羅は紅茶を飲みながら言った。


「神代さん、それここで言っても逆効果だと思う」


「なんで」


「だって可愛いし」


「やめろ」


 人事の女性が身を乗り出した。


「髪も綺麗ですよね。美容室どこですか?」


「普通のところ」


「え、絶対ちゃんとしてるやつです!」


「してない」


「スキンケア何使ってます?」


「普通の」


「絶対嘘です!」


 なんでだ。


 なぜ女扱いされた上に、美容質問コーナーが始まるんだ。


 NIAが言う。


「マスター」


「なんだ」


「女性コミュニティへの自然融和を確認しました」


「確認するな」


「適応率91%です」


「高すぎる」


 美咲が面白そうにこちらを見る。


「先輩、答えてあげたらいいじゃないですか」


「知らん」


「でもメイク詳しいんですよね?」


 営業部の女性が反応した。


「えっ、メイクもされるんですか?」


「違う」


「ライブの時だけ」


 言ってから、しまったと思った。


「ライブ?」


「え?」


「神代さん、バンドやってるんですか?」


 美咲が元気に手を上げた。


「そうなんです! 先輩、ボーカルなんですよ!」


「おい」


「しかも歌うまいです!」


「まだ歌ってないだろ」


「でもうまそうです!」


 理屈が雑だ。


 人事の女性がきらきらした目で言った。


「じゃあ、ステージメイクとかご自分で?」


「まあ」


「すごい!」


「いや普通」


「アイラインとか引けるんですか?」


「一応」


「えっ、見たい!」


「見せない」


 営業部の女性が言う。


「神代さん、女子力高すぎません?」


「その言葉をやめろ」


 沙羅が小さく笑った。


「私も前から思ってた」


「お前まで乗るな」


「だって事実だし」


「事実じゃない」


「でも、私より詳しそう」


「それはお前が雑なだけだろ」


「失礼」


 その時だった。


 総務の女性が前に出てきた。


「せっかくなので、簡単な自己紹介と、最近気になっていることを一人ずつお話ししませんか?」


 地獄の追加ルールが来た。


 順番に自己紹介が始まる。


 営業部。

 人事。

 経理。


 そして、俺の番が回ってきた。


「では、神代さんお願いします」


 全員の視線が集まる。


 帰りたい。


「神代凛です。インフラ運用課です」


「はい」


「男です」


 一拍。


 美咲が吹き出した。


 数人もつられて笑った。


 総務の女性まで困ったように笑う。


「神代さん、面白いですね」


「面白くない」


 沙羅が小声で言う。


「もうそういう芸だと思われてるよ」


「最悪だな」


「最近気になっていることは?」


 俺は少し考えた。


「サーバのディスク残量です」


 沈黙。


 そして、美咲が腹を抱えた。


「先輩それ女子会で言うことじゃないです!」


「本当に気になってることだからな」


 営業部の女性も笑っていた。


「神代さん、仕事人間なんですね」


「まあ」


「かっこいいですね」


「初めてこの会でまともな評価を聞いた気がする」


 少し空気がやわらぐ。


 その流れで雑談が再開された。


 気づけば、俺はなぜか営業部の女性の眉メイク相談を受けていた。


「丸顔なら、眉は少し角度つけた方が締まります」


「へえー!」


「でも描きすぎると強く見えるから、パウダー薄めで」


「神代さん、めちゃくちゃ詳しい……!」


「ライブで覚えただけ」


「それでもすごいです!」


 横で美咲が、じーっと俺を見ていた。


「なんだ」


「先輩」


「何」


「普通に女子会で無双してます」


「してない」


「してます」


 沙羅も頷く。


「してるね」


「お前ら敵か」


 その時。


 総務の女性が、にこやかに言った。


「神代さん」


「はい」


「次回の交流会、メイクのちょっとしたコツを話してもらえませんか?」


 会議室が静まった。


 俺も止まった。


「……は?」


「神代さん、お詳しそうなので」


「いや」


「ぜひ」


「いや」


 美咲が、ぱあっと顔を輝かせた。


「いいじゃないですか先輩!」


「よくない」


「絶対見たいです!」


「お前は黙れ」


 沙羅が普通に追撃した。


「私も聞きたい」


「裏切るな」


 総務の女性はにこやかなまま、メモを取っていた。


「では来月、神代さんミニ講師で」


「決定するな」


 NIAが静かに言った。


「マスター」


「なんだ」


「新規イベントを確認しました」


「やめろ」


「次回」


 一拍。


「メイク講座事件です」


 ……。


 俺は天井を見上げた。


 どうやら女子会に潜入した結果、

 次は講師として呼ばれるらしい。


 本当に、

 どうしてこうなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ