3、少年兵たちの犠牲と「猟犬の飼い主」の称号
大公国軍の兵士たちは、極度の疲労と補給の不足に苦しみながらも、驚くべき粘り強さで抵抗を続けた。彼らは、帝国の騎士を数多く撃破し、帝国軍に大きな人的損害を与えたが、それはもはや戦況を変える力はなかった。帝国軍は、損害を無視し、次々と新たな騎士と歩兵とを投入し続けたからである。
「槍を構えろ。槍衾を作れ!」
ルイーズが声を張る。偵察、陽動、奇襲を担ってきた少年少女たちが今では前線を維持する主戦力となっている。戦列を組み、槍衾を形成して帝国の騎士隊の襲撃を食い止める。その両翼から大公国の誇る弓兵が騎士たちを狙う。
効果的な戦術だが、帝国の騎士隊が雪煙を上げて突っ込むたびに少年少女たちは一人、また一人と後方へ送られていく。今日もヴァルターの隣の少年が負傷し、プシロフィトンへ送られた。
ルイーゼの的確な指揮で、少年少女たちが迷いもなく倒れていく……。ルイーゼは彼らが自分を聖母だと信じれば信じるほど、自分はは彼らを地獄へ追い込む死神になっていくのを感じていた。
帝国軍を一メートル進ませぬために、一秒を稼ぐために、大公国の明日を担うはずの少年少女たちは泥にまみれて散っていく。
ルイーズは、少年少女たちを利用していたつもりだったが、その中の一人、ヴァルターに、いつの間にか自分の理想を投影していた。
帝国の突撃をルイーゼの部隊が撃退したあと、エキノキマエラ子爵が直々に出迎えてくれた。
「ルイーゼ卿、貴公の教え子たちが貴重な三日間を稼いでくれた。認めざるを得ないな。貴公は引率のお姉さんではなく、最高の猟犬の飼い主だ」
そして、残り少ない少年少女を見渡した。
「そして、君たちは、立派な大公国の盾だ」
その称賛は、ルイーゼには呪詛のように聞こえた。
スコリアの戦いは、大公国の勇気と犠牲を象徴するものであったが、その代償はあまりにも大きかった。大公国の防御線は徐々に削り取られ、スコリアの主要な陣地は一つ、また一つと帝国軍の手に落ちていった。




