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戦場の幻花

作者: つづら川
掲載日:2025/12/12

本作『戦場の幻花』は、三国志という歴史の大河に流れる“名もなき一兵士”の物語を描きたい、という思いから生まれました。


 三国志といえば豪傑や智将が輝く世界ですが、その影には、国や家族を守ろうと懸命に戦った無数の人々がいます。本作の主人公・リュウカは、そんな名も知られぬ兵士たちを象徴する存在として生まれました。


 彼女は女性であることを隠し、家族を守るために戦場へ立ちます。

 その選択は嘘と葛藤を伴い、決して誇れるものではありません。

 けれど、その嘘の奥には確かな“想い”がありました。


 ――守りたい。

 ――生きて帰りたい。

 ――自分の力で未来を変えたい。


 その想いこそが、リュウカを強くし、仲間を導き、やがて本当の自分を受け入れる力につながっていきます。


 この物語を通して、誰かのために立ち上がる勇気や、自分の弱さを認めながら進む強さを少しでも感じてもらえたなら幸いです。

第一章 隠された名で戦う者


 戦乱が続く魏の北部、黄河沿いの小さな村に、リュウカという娘がいた。鍛冶場を営む家に生まれた彼女は、幼い頃から火花の散る音と鉄の匂いの中で育った。大きくなるにつれ、父の手伝いで槍の穂を磨き、兄の剣を研ぎ、男たちに混じって力仕事をすることも少なくなかった。


 しかしある年、頼りにしていた兄が疫病に倒れ、長く床に伏すようになってしまった。父母は兄の看病に追われる間、村では呉軍の進軍が近いとの噂が広まり、人々は怯えの色を浮かべ始めた。


 その不安を現実に変えたのが、村にやってきた徴兵隊だった。青い甲冑を身につけた徴兵官たちは、村の広場で淡々と名簿を読み上げ、戦に出られる者を探していく。


 兄の名が呼ばれたとき、よろめくようにして立ち上がった母を、リュウカはそっと支えた。兄は歩くこともできないのに戦へ出られるわけがない。


 ――ならば、自分が行くしかない。


 リュウカはその場で髪を高く結い、顔にかかった煤を指で拭った。父に借りた黒い頭巾を深くかぶり、男物の上衣を少しきつく締めると、徴兵官の前へ進み出た。


 名を告げるとき、心の中で静かに呟く。


(兄の代わり。家族を守るため。だから……私は今日から“劉華”)


 こうして彼女は男の名を名簿に刻み、戦場へと旅立った。


第二章 戦いの後の静けさ


 軍営での生活は予想をはるかに超えた厳しさだった。重い鎧は肩を圧迫し、歩くだけで汗が噴き出す。鍛冶場で鍛えた腕力があったとはいえ、男の兵と同じ量の荷物を背負うのは容易ではなかった。


 だが、リュウカには一つだけ自信があった。槍だ。


 鍛冶屋で毎日扱ってきた金属の重さ、柄のしなり、攻撃と防御のタイミング――それらは彼女の身体にしっかり染みついている。訓練で槍を握れば、兵たちの視線が自然と集まった。


「劉華、お前の槍は無駄がないな」


 そう言って肩を叩くのは、若き隊長・張統だった。筋骨逞しい兵士たちの中でも目を引く大柄な男で、豪快な笑いと鋭い判断力を併せもつ武将である。


 張統に褒められるたび、リュウカの胸には誇らしさと後ろめたさが同時に混じった。


(私は……嘘をついている)


 だが、その嘘を必要とする状況がまだ続いていた。家族を守り、村を守るため。兄が寝たきりの今、自分が戦うしかなかった。


 そんな日々の中、魏と呉の間に大規模な戦が起きた。両軍が激しくぶつかり合い、戦場に立ちこめた煙の匂いは数日消えなかった。


 リュウカの隊は前線に立たされ、彼女は何度も危険な場面を乗り越えた。幸い大きな負傷者は少なく、張統の指揮が冴え、魏軍は辛くも勝利を手にする。


 その戦いが終わってから数日、軍営には珍しく静かな時間が流れた。焚き火の匂いと、鍋から立つ湯気。兵たちは傷を癒し、疲れた身体を休め、次の戦に備えていた。


 リュウカは、そんな平和の中でも心が落ち着かなかった。


 自分が偽りの名で戦っていること。

 仲間の信頼を裏切っているのではないかという不安。

 それでも前へ進むしかない現実。


 そして彼女は、その思いを抱えたまま、軍営近くの丘へと足を向けるようになった。


第三章 丘にて ―揺れる心と覚悟―


 夕刻、丘の上は柔らかい風が吹き抜けていた。遠くには軍営の灯が点々と揺れ、馬の鳴き声が小さく響く。


 リュウカは槍を土に突き立て、その横に腰を下ろした。肌をなでる風が、戦場の緊張を少しずつほどいていく。


(何度、嘘だと叫びたくなっただろう)


 胸に溜まった重い思いが、風に乗って溢れ出そうとする。


 戦友たちは皆、真剣に国を守ろうとしている。張統は彼女を信頼し、部下として指示を与える。彼らは自分を仲間として認めてくれている。


 しかしその信頼は、偽りの姿に向けられたもの。


(私は……卑怯なのかもしれない)


 その言葉が胸を刺す。けれど、同時にもう一つの思いが湧き上がる。


(それでも私は、守りたい。村も、家族も、仲間も)


 嘘をつき続ける罪悪感と、戦わなければ守れない現実。その間で揺れる心を、リュウカはしばらく黙って抱え続けた。


 やがて、低い声が背後から聞こえた。


「またここにいたのか、劉華」


「張統殿……」


 振り返ると、張統が腕を組んで立っていた。戦の疲れが残る顔だが、その目は優しかった。


「戦が終われば、不安になるものだ。お前ほどの腕を持つ兵ならなおさらだろう」


 リュウカはうつむき、膝の上で拳を握りしめた。


「私は……戦い続けるべきなのでしょうか」


「お前が決めることだ。しかし――」


 張統は丘から見える空を仰いだ。


「誰かを守りたいと願う者ほど強い。迷いがあってもいい。それは心が死んでいない証だ」


 リュウカは息を呑んだ。その言葉は彼女の心にまっすぐ刺さり、何かがほどけるように感じた。


「……私は、戦います。最後まで」


「それでよい」


 張統は微笑むと、肩を軽く叩いて軍営へ戻っていった。


 リュウカはその背を見送りながら、再び空を見上げた。先ほどまでの迷いが、風に吹かれて薄くなっていく。


(たとえ嘘を抱えていても、私は私の信じるものを守る)


 そう決意したその瞬間――彼女の物語は、思いがけない方向へ動き出すことになる。


第四章 露見 ―隠された真実が明らかになる日


 平穏な日々は長く続かなかった。呉軍が再び国境付近に兵を動かしたとの報が入り、魏の各地の部隊が戦の準備に追われることになる。


 そのさなか、思わずリュウカが息を呑む出来事が起きた。


 軍営の井戸のそばで水を汲んでいると、誤って誰かにぶつかられ、衣の結び目がほどけてしまったのだ。


「あっ――」


 胸当ての隙間から覗いた身体の線。その場にいた若い兵士が目を見開き、言葉を失った。


「り……劉華、お前……!」


 これまで慎重に隠していた秘密が、最も避けたい形で露見してしまった。


 兵士は慌てて走り出した。リュウカは追いかけることもできず、その場に立ち尽くした。


(終わった……)


 その夜、張統に呼び出された。兵舎に入ると、彼はいつものように豪快ではなく、静かに彼女を見つめていた。


「リュウカ。お前の本当の姿について、聞かせてもらえるか」


 もう隠せない。リュウカは震える声で全てを語った。

兄の代わりに戦場へ出たこと。

家族を守るために名前を偽ったこと。

ずっと嘘をつき続けてきた罪悪感に苦しんでいたこと。


 張統は長い沈黙の末、深く息をついた。


「なるほど……お前にそんな事情があったとはな」


「処罰は……覚悟しております」


「処罰? 馬鹿者」


 張統は眉を上げた。


「お前は誰よりも国のことを考え、誰よりも仲間を守ってきた。それは嘘ではどうにもならぬ“本物”の力だ」


 リュウカは目を見開いた。


「それに、ここにいる兵たちは皆お前の実力を知っている。性別がどうした。戦場で必要なのは技と勇気だ」


 張統の言葉は、彼女の胸の奥にあった重石を一気に払い落とした。


「……私は、このまま……ここにいてよいのでしょうか」


「当たり前だ。だがこれからは堂々と胸を張れ。お前は“リュウカ”として戦えばいい」


 その瞬間、心の底にあった長い苦しみがふっと軽くなるのを、彼女は確かに感じた。


(私は……ようやく、本当の自分で戦える)


 こうしてリュウカは偽名を捨て、真の名を掲げて槍を握る覚悟を決めた。


 だが、その覚悟が試される日が、すぐそこまで迫っていた――。


第五章 本当の名で立つ朝


 リュウカの正体が明らかになってから数日、軍営の空気は思ったほど変わらなかった。

 最初こそ兵士たちは驚いていたが、それも束の間だった。彼らはすぐに槍を持ち、いつも通り訓練に戻っていく。


「劉華――じゃなかったな。これからはリュウカ殿と呼べばいいのか?」


 からかい混じりに声をかけてくる兵もいたが、その顔には軽蔑はなかった。むしろ親しみと尊敬が混ざっている。


 最も驚いたのは、他でもないリュウカ自身だった。


(……こんなにも、楽なんだ)


 肩にのしかかっていた重荷が外れたからか、槍を握る手が軽く感じた。張統は訓練中の彼女を横目に見て、深く頷いた。


「力が伸びているな、リュウカ。お前、本当はまだ隠していた力があったんじゃないか?」


「そうかもしれません。けれど、それは……ようやく自分で振れるようになっただけです」


 張統は満足げに笑った。


「ならば、その力を次の戦で見せてみろ。呉が大きく動いている。次は容易な戦にはならん」


 リュウカは頷き、槍の柄を強く握った。


(今度は、本当の私で戦う)


 その決意は、近づきつつある大戦に向けて、確かな炎となって胸に灯っていた。


第六章 呉軍、迫る


 呉軍が魏の北境へ大規模に進軍している――。


 その報が入ったのは、夜明け前のまだ薄暗い時間だった。斥候の兵が駆け込んでくると、軍営の中に緊張の気配が一気に広まった。


 ほどなくして張統が軍議を開き、地図の上に指を走らせる。


「敵将は呉の名将・甘凱かんがい。地形を巧妙に使う男だ。こちらの動きを読んで包囲を狙ってくる」


「うちの部隊はどう動くのですか?」

 リュウカが問うと、張統は真っ直ぐ彼女を見た。


「お前には前衛を任せる。槍兵を中心に、敵の先陣を食い止めつつ、突破口を作ってほしい」


 兵たちの視線が自然とリュウカへ向く。かつてなら居心地の悪さがあったかもしれない。しかしいま、彼女の胸に迷いはなかった。


「承知しました。必ず道を開いてみせます」


 その言葉に張統の唇がわずかに上がる。


「頼もしい。お前の采配に多くの兵が救われるだろう」


 軍議が終わると、リュウカは槍の穂先を整え、革紐を締め直した。鏡代わりに使う水面に映る自分は、もはや迷っていた頃の影とは違う。


(私は、私として戦う)


 風が彼女の頬を撃ち、日が昇り始める。

 新しい戦いが、刻一刻と近づいていた。


第七章 決戦の地・江南の原


 呉軍との戦場となったのは、川沿いの広い原だった。草原は朝霧に包まれ、遠くでは敵軍の赤い旗が揺れている。

 魏軍は整然と陣を組み、張統が前に立って叫ぶ。


「この地を荒らさせるな! 呉の侵攻をここで止める!」


 兵たちの士気は高く、繰り返される声が地面を震わせるようだった。


 リュウカは先陣の槍兵隊の中央に立ち、深く息を吸った。

 胸にあるのは不安ではなく、確固たる覚悟。


(私はもう誰の影にも隠れない)


「前進!」


 張統の声とともに槍兵隊が走り出す。リュウカの視線の先には、呉軍の先鋒が迫っていた。

 彼らは楯を構え、密集してこちらへ突進してくる。


 リュウカは槍を上げ、叫んだ。


「中央、半歩下がって! 左右は一歩踏み込み、敵の楯の隙を狙う!」


 彼女の声に反応し、兵たちの動きが瞬時に整う。

 敵との距離が縮まる。

 衝突寸前――


「今だ、押し返せ!」


 槍の先が敵の防具を弾き、密集陣形が揺らぐ。リュウカはさらに前へ踏み出し、周囲の兵の動きを見ながら次の指示を飛ばす。


「左翼、陣を斜めに! 右は後退して角度を作れ! 敵の流れを切る!」


 まるで風を読むかのような采配だった。


 兵たちは彼女の声に従い、敵の突進を受け流しつつ、逆に呉軍の中央へ楔のように入り込んでいく。

 呉軍が混乱しかけた瞬間、張統の本隊がその隙を突いた。


「よくやったぞ、リュウカ!」


 張統の声が遠くから聞こえ、リュウカは息を整えた。


(これが……本当の力)


 リュウカの胸には熱いものが流れ始めていた。


第八章 呉軍将・甘凱の策略


 しかし、呉軍は容易には崩れなかった。


 甘凱は山沿いの急坂に兵を潜ませ、魏軍の進軍を挟み撃ちにするという策をとっていた。地形を巧みに使ったその動きに、魏軍の一部隊が孤立しかける。


「張統殿、右翼が押されています!」


「急ぎ援軍を――」


 張統が動こうとしたとき、リュウカが一歩前に進んだ。


「私に行かせてください。槍兵隊なら、あの地形でも動けます」


「……危険だぞ」


「承知しています。ですが、あそこが崩れれば軍全体が危うい」


 張統は短い沈黙の後、頷いた。


「行け。だが絶対に死ぬな。お前の槍が必要だ」


 リュウカは力強く頷き、槍兵を引き連れて坂へ向かった。


 山道は狭く、敵の伏兵が三方向から攻め込んでくる。

 だがリュウカは落ち着いていた。


(この狭さを逆に利用する)


 彼女は指を山道の先に向けた。


「隊列を細く! 前後の間隔を詰めすぎないように!」


 伏兵が飛び出してくる。

 兵が驚いたその瞬間――


「一歩下がって、槍を低く構え!」


 呉兵が足を止めたところに一斉突撃。

 狭さゆえ敵は思うように動けず、魏軍の槍がその動きを封じた。


 味方の援軍が到着するころには、山道は魏軍が制していた。


「リュウカ殿、見事です!」


 兵たちの歓声。それを聞きながら、リュウカは遠くの本陣を見つめた。


(甘凱……まだ何か仕掛けてくる)


 戦はまだ終わっていなかった。


第九章 本陣を守れ


 甘凱は最後の策をとっていた。

 魏軍の本陣へ向けて、精鋭部隊を川沿いから回り込ませてきたのだ。


 張統のもとに緊急の報せが届く。


「敵の別働隊が本陣に迫っています!」


 張統は天を仰いだ。


「甘凱め……最後にそこを狙ってきたか!」


 本陣が崩れれば、魏軍の士気は大きく落ちる。

 リュウカは迷わず叫んだ。


「私が行きます。槍兵隊を連れて!」


「お前が行けば前線が薄くなる!」


「前線は持ちこたえられます。今、最も危険なのは本陣です。そこを守らなければ全てが崩れます!」


 張統は歯を食いしばった。


 そして――


「……行け。リュウカに任せる!」


「はい!」


 彼女は槍を掲げ、本陣へ駆け出した。


第十章 風を破る槍


 本陣に迫る呉軍の別働隊は、少数精鋭ながら統率がとれており、魏軍の守備兵では押し返すのが難しい状況だった。


 リュウカは地形を一瞬で理解し、風向きを見て声を上げる。


「川風がこちらに吹いています! 砂利を巻き上げて視界を奪う! 槍隊、半円陣を組んで前へ!」


 兵たちが地面を蹴り、風が砂を巻き込む。

 呉の精鋭は目を細め、一瞬動きが鈍った。


 そのわずかな隙に――


「槍、突き出せ!!」


 魏軍の半円陣が敵の突進を受け流し、逆に呉軍の中心を崩していく。

 リュウカは叫び続けた。


「押し切れ! 敵の足を止めるな!」


 声が、兵たちを動かす。

 槍の波が風とともに前へ押し出され、ついに呉軍の別働隊は退き始めた。


 背後で本陣の将校が叫ぶ。


「退いたぞ! リュウカ殿が守ってくれた!」


 兵たちは歓声を上げ、リュウカはようやく息を吐いた。


(これで……崩れない)


 その瞬間、遠くで大きな陣笛が響いた。

 張統の本隊が呉軍を押し返し、ついに甘凱の軍は撤退を始めたのだ。


第十一章 勝利の空の下で


 夕日が原を赤く染める頃、呉軍は完全に退却し、魏軍の勝利が確定した。


 兵士たちは次々と声を上げ、仲間の肩を叩き合う。

 リュウカの元にも多くの兵が駆け寄ってきた。


「リュウカ将軍、前線も本陣もあなたのお陰です!」


「あなたの声があったから、俺たちは動けた!」


 その言葉に、リュウカの胸に温かいものが広がった。

 今までは偽りの名の陰に隠れていた自分。

 けれど今は、胸を張って仲間と立てる。


 張統が近づいてきた。


「よくやったな、リュウカ」


「張統殿こそ……」


「いや、最後に呉軍を退けたのはお前だ。これほど誇れる戦いはない」


 そう言って彼は空を見上げた。


「お前の名は、今日から魏の兵の間に語り継がれるだろう。“風槍のリュウカ”としてな」


「……私の名で、ですか」


「ああ。偽名ではない、お前自身の名だ」


 リュウカは顔を上げ、澄んだ夕空を見つめた。

 戦いは終わり、風が静かに吹き抜ける。

 その風は、彼女が背負ってきた重荷を運び去ったかのようだった。


(私はようやく……私として生きられる)


 彼女は槍をそっと握りしめ、ゆっくりと目を閉じた。


最終章 新たな道へ


 数日後、戦いの報告が本国へ届けられると、リュウカの名は正式に魏の将として記録されることになった。


 戦場での功績、そして部隊を率いて本陣を守った采配。

 そのすべてが認められた形だった。


「これからも共に戦ってくれるな、リュウカ」


 張統が問うと、リュウカは深く頷いた。


「はい。私はこの国を守りたい。皆さんとともに」


 張統は満足げに笑う。


「では、これからはもっと重い任務を任せるぞ。覚悟しておけ」


「望むところです」


 二人は軍営の丘へ歩いていく。

 かつてリュウカが一人で葛藤していた場所。

 今は、少し違って見えた。


 風が草原を揺らし、遠くに広がる空はどこまでも高く青い。


 リュウカはその空に向かって微笑んだ。


(私はもう隠れない。

 私の名で、私の力で、守りたいものを守る)


 彼女の物語はここで一度幕を閉じる。

 しかし“風槍のリュウカ”の名は、戦乱の世に確かに刻まれ、これからも新たな戦場で語られていくことになる――。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 本作はフィクションですが、リュウカの選んだ道や葛藤、そして成長は、どの時代の誰にとっても共通する“生き方の物語”として描きました。


 リュウカは嘘をついたまま戦い続けることを望んでいたわけではありません。

 本心では「本当の自分で認められたい」という願いを抱え続けていました。

 それが露見し、迷いや恐れが解け、真の名で槍を握る瞬間――彼女の人生は大きく動き出しました。


 どれほどの困難があっても、誰かが手を差し伸べ、あなたを信じてくれる時がある。

 そして、偽ることなく立てたとき、人は想像以上の強さを発揮できる。


 そのことを、リュウカの物語から感じ取ってもらえたなら嬉しく思います。


 もし希望があれば、リュウカの続編や、張統たち周囲の人物に焦点を当てた外伝なども書けます。

 また違った形の三国志小説にも挑戦してみたいと思っています。


 ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

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