表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第4部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/109

第35話(裏)

――引き受けた重さ


 黒鋼は、丘の上で馬を止めていた。

 橋も、水源も、すでに視界の外だ。


 背後では、部隊が静かに再編されている。

 号令はない。

 剣も、抜かれていない。


「……終わったな」


 副官が、慎重に応じる。


「はい。

 水源の保持を解除。

 橋からも完全に離脱しました」


「そうか」


 短く答える。

 それ以上の確認は要らなかった。


     ◇


 精算は、確かに終わった。

 だが――


 黒鋼は、勝ったわけでも、

 得をしたわけでもないことを、

 誰よりも理解している。


「……取らなかった」


 取れた。

 踏み込めた。

 勝敗をつけることもできた。


 それでも、取らなかった。


     ◇


 副官が、言葉を選ぶ。


「将。

 今回の判断は……

 軍としては、難しい説明になります」


「分かっている」


 黒鋼は、視線を前に向けたまま答えた。


 勝てる局面で勝たなかった。

 圧をかけて、解いた。


 それは、

 数字では説明しにくい選択だ。


     ◇


 黒鋼は、外套を直した。


「だからこそ、

 俺が引き受ける」


 副官が、息を呑む。


「……責任を、ですか」


「そうだ」


 黒鋼は、即答した。


「この精算は、

 俺の名前で終わらせた」


     ◇


 兵に残るのは、

 疑問かもしれない。

 戸惑いかもしれない。


 だが、

 それを背負うのが将だ。


「戦わなかった結果は、

 後から必ず問われる」


 黒鋼は、静かに続ける。


「その問いに答えるのは、

 剣じゃない」


     ◇


 黒鋼は、ふと立ち止まり、

 遠くの空を見上げた。


 雷は鳴っていない。

 だが、雲はまだ厚い。


「……桜花」


 名を呼ぶ。

 声は、低く、確かだ。


「お前は、

 終わらせるために剣を抜いた」


 そして、

 振らなかった。


「だから俺は、

 終わらせるために退いた」


     ◇


 それは、逃げではない。

 譲歩でもない。


 選択の結果だ。


     ◇


 副官が、静かに言う。


「次は……

 どうなさいますか」


 黒鋼は、すぐには答えなかった。


 精算のあとには、

 必ず“余白”が生まれる。


 その余白を、

 どう使うかで、

 次の戦の意味が決まる。


     ◇


 黒鋼は、ゆっくりと口を開いた。


「次は、

 もっと分かりやすい戦になる」


 副官が、眉を上げる。


「……分かりやすい、とは」


「逃げ場がない戦だ」


 黒鋼は、淡々と告げる。


「今回みたいな精算は、

 二度は使えない」


     ◇


 黒鋼は、馬に乗った。


「行くぞ」


 その声に、迷いはない。


 引き受けた重さは、

 この先、必ず形になる。


 精算を終えた将として、

 次は、

 逃げられない戦場へ向かう。


 それが、

 選択を引き受けた者の、

 次の責任だからだ。


 黒鋼は、前を見据えた。


 戦は終わった。

 だが――

 重さは、ここからだ。

いつも読んでくださって、ありがとうございます。


ここ最近は、

「守る」「切る」「選ぶ」

そんな話が続いています。


書いている側としても、

簡単な答えは出せないまま進んでいますが、

だからこそ、この形で書いています。


田舎のおっさんの戦記ですが、

もう少しだけ、お付き合いください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ