表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第4部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/109

第29話(裏)

――来ると分かっていた


 黒鋼は、分岐点の手前で馬を止めていた。

 谷から吹き上げる風が、外套の裾を揺らす。


「……来たか」


 声は低く、確信に満ちていた。

 桜花は、来る。

 間に合わなかった場所を背負ったままでも、必ず来る。


     ◇


 副官が、遠眼鏡を下ろす。


「桜花将、前に出ています。

 主力は後方。

 剣を抜く様子はありません」


「だろうな」


 黒鋼は、短く頷いた。


 ここは、斬り合う前に立ち合う場所。

 剣より先に、覚悟がぶつかる。


「彼女は、

 “見せて守る”つもりだ」


 それは、挑発ではない。

 逃げ道を自分から塞ぐ行為だ。


     ◇


 黒鋼は、馬を進めた。

 速度は一定。

 急がない。

 だが、止まらない。


「全軍、距離を保て」


 副官が一瞬、躊躇う。


「……ここで衝突すれば、

 市も避難路も巻き込まれます」


「分かっている」


 黒鋼は、はっきり言った。


「だからこそ、

 ここでは斬らない」


     ◇


 前方に、桜花の姿が見えた。

 外套を正し、剣に手を触れていない。


 人の目がある。

 逃げる者の目。

 託す者の目。


「……重いな」


 黒鋼は、心の中で呟いた。


 ここで踏み込めば、

 戦は簡単になる。

 だが、簡単な戦は、

 次に必ず歪みを残す。


     ◇


 黒鋼は、馬を降りた。


 将が、馬を降りる。

 それは、退く合図ではない。


 ここに立つという意思表示だ。


「桜花」


 名を呼ぶ。

 距離はまだあるが、声は届く。


「お前は、

 それでも来た」


 それは、責めでも称賛でもない。

 事実の確認だ。


     ◇


 黒鋼は、歩みを止めない。


「俺は、

 切れる場所を切った」


 言葉を選ぶ。

 人の前で、逃げない言葉を。


「だが――

 切れない場所からは、退いた」


 市を切らなかった。

 守る覚悟を、先に示されたからだ。


     ◇


 副官が、低く囁く。


「……このまま膠着しますか」


「しない」


 黒鋼は即答した。


「桜花は、

 ここで“止まる”ために来たんじゃない」


 彼女は、

 次の選択を引き受けに来た。


     ◇


 黒鋼は、桜花を見据える。


「……それでも来た、か」


 口元が、わずかに緩む。


「ならば、

 俺も――

 それでも行く」


 守るか。

 通すか。

 切るか。


 どれも、もう軽くはない。


     ◇


 黒鋼は、静かに命じた。


「別働隊、待機解除。

 だが、

 一線は越えるな」


 副官が息を呑む。


「……圧だけを、かけるのですか」


「そうだ」


 黒鋼は、前を見たまま言う。


「桜花は、

 ここで剣を抜かない」


 ならば、

 剣を抜かせる理由を作る。


     ◇


 風が、強く吹いた。

 避難路に立つ人々の衣が揺れる。


 黒鋼は、低く呟いた。


「……来ると分かっていて、

 それでも来た女だ」


 ならば、

 ここから先は、

 **互いに“分かった上で進む戦”**になる。


 雷は、もう遠くない。


 この場所で落ちるか、

 あるいは――

 この場所を越えた先で落ちるか。


 黒鋼は、その答えを

 桜花と同じ地平で待っていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


この物語は、派手な展開よりも

「選んだこと」と「選ばなかったこと」

その両方に残る重さを描いています。


全部は守れない。

だからこそ、何を守るかを選ばなければならない。

その覚悟が、戦の形を変えていく――

そんな戦記を書いています。


田舎のおっさんが、

自分なりに人生を振り返りながら書いている物語ですが、

少しでも何か残るものがあれば嬉しいです。


次も、表と裏、両方から続きを書いていきます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ