第22話の裏
――黒鋼は、崩れた後を見ている
谷の中に、静寂が戻りつつあった。
完全な静けさではない。
鉄が触れ合う音、荒い呼吸、抑えきれない呻き。
それらが混じり合った、戦の“後”の音だ。
黒鋼は馬上で動かなかった。
剣も抜かない。
声も荒げない。
ただ、谷の中央を見ている。
「……
それは敗北の宣告ではない。
事実の確認だった。
耐えていた隊列の中央。
わずかな判断のズレ。
桜花は、そこだけを切り取って雷を落とした。
殺しすぎない。
深追いしない。
だが、“耐え続ける構造”だけを壊した。
「見事だ、桜花」
副官が息を詰めて近づく。
「隊列は立て直しつつありますが……
兵の動きに、明らかな遅れが出ています」
「当然だ」
黒鋼は静かに言った。
「雷は、肉体より先に、
“判断”を焼く」
◇
黒鋼は、ゆっくりと視線を動かした。
前線。
中央。
戻る
全体は、まだ崩れていない。
だが──
“同じ速度で動ける”状態ではなくなった。
「
悪徳
「はい。
斬り合いを続ければ、
今夜はもっと血が流れていたはずです」
「そ
黒
「彼女は、“一度落として”、
次の局面へ進ませる気だ」
耐え続ける戦場は壊した。
だが、殲滅はしていない。
つまり──
まだ、戦わせる気だ。
◇
黒
"完了
副官
「
「……」
「
黒
「戦場を、こちらから捨てる」
悪徳
「桜花は、
ここを“雷が落ちた場所”として記憶させたい。
ならば──」
黒鋼は、はっきりと言った。
「
◇
命令は、驚くほど静かに実行された。
焚き火は消され、
負傷者は最優先で移動。
隊列は、再び“細く”整えられる。
逃げるようには見せない。
追わせるようにも見せない。
ただ、いなくなる。
◇
黒鋼は、谷を出る直前、振り返った。
霧の向こう。
崖上の暗闇。
そこに、桜花がいると分かっている。
「……
低い
「だが、落ちた場所に、
いつまでも立っている必要はない」
桜花は、この“雷が落ちた事実”をもって、
次の戦場を作ろうとする。
ならば──
黒鋼は、そこを与えない。
◇
谷を離れた軍は、
夜明け前の尾根に再集結した。
空は白み始めている。
兵たちの顔には疲労がある。
だが
「
黒鋼
「今夜、我々は負けていない。
だが──
勝利」
静かに、言葉を続ける。
「だから、次は勝つ。
桜花が、
「
選択
◇
副官
「
黒
「退路と補給、
その両方が交わる場所だ」
桜花は、戦場を動かす女。
ならば、動かさざるを得ない地点を用意する。
「桜花。
お前は雷を落とした。
次は──」
黒鋼の瞳に、鋭い光が宿る。
「雷を落とさねば、負ける局面だ」
夜明けの空に、雲が裂ける。
谷は、すでに背後だった。
第四部は、
ついに「互いが逃げられない一点」へと
歩みを進め始めている。




